ULTRASEVEN AX ~太正櫻と赤き血潮の戦士~   作:???second

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ゴッドイーターの方と交代制で行こうかと思います。向こうの方はまだ話の流れが思いついていないので、まずはサクラ対戦のほうで話ができているほうから登校していこうかと思います。
最も、新たに追記・修正とかの可能性もありますのでご了承ください。


第参話 新隊長、大神一郎 / 3-1 敵の名は黒之巣会

暗き闇に満ちた空洞の奥、蝋燭の炎のみで照らされたその最深部に、玉座のような石造りの椅子が設置されていた。

「出でよ…黒之巣死天王」

年老いた老人の掠れきった声が聞こえると、闇の中からボゥッと青白い火の玉が発生し、江戸時代以前のような髪と赤い和服を着込んだ妖艶な女性となった。

「『紅のミロク』、ここに」

ミロクと名乗った女性に続いて、今度は小さな人影が岩を飛び越えながらミロクの隣に降り立つ。

「『蒼き刹那』、ここに」

その人影の正体は、長屋で叉丹と共にいたあの少年だった。それに続き、岩をチェーンソーで切り裂きながら、銀色の肌を持つ筋肉隆々の巨漢が姿を現す。

「『白銀の羅刹』ここに!」

そして最後に…この男が闇の中から歩きながら現れた。

「『黒き叉丹』ここに」

「「「「我ら黒之巣死天王、『天海』様の命により…推参」」」」

四人揃ったところで、彼らは玉座に向けて跪く。すると、玉座に大きな火の玉が発生し、不気味な老人の姿となって姿を現した。

 

「我が名は……『天海』。

 

『黒之巣会』総帥にして、真の日之本の支配者なり…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

第参話 新隊長、大神一郎

 

 

 

 

 

 

 

「新隊長、ですか?」

支配人室にて集められた花組のメンバーとジンは、米田とあやめからそのような通達を受けた。

「マリアさんでは、司令たちは不足だと仰るのですか?」

「その通りよ、すみれ。前回の戦いなんだけど…正直三人とも、なんともいえない結果だったわ」

「「「…」」」

上官であるあやめからの指摘に、さくら・すみれ・マリアの表情が沈む。自分たちは脇侍の群れならまだしも、あの巨大な降魔を相手に全く歯が立たなかった。そしてそれ以前に、長屋も被害状況が凄まじく、賢人機関の長屋の人々を軽視した開発計画を、結果的に手助けしただけになった。

自分たちの尻拭いをしたのは、未知なる存在であるあの赤い巨人。帝都を守らなければならない立場なのに、結果的に彼の活躍で守られてしまったこともまた、帝国華撃団としての存在意義を問われてしまう問題だった。

「でも、それでマリアさんを隊長から下ろすなんて、まるでマリアさん一人に責任を押し付けているみたいです…。あたしがもっとしっかりしていれば…」

自分がまだ新人で経験不足。仕方がないが、戦場ではそうも言ってられない。さくらは自分の責任が大きいことを主張するが、直後にあやめが厳しく言い放った。

「自惚れないで、さくら。あなた一人だけが頑張っても何の解決にもならないわ。

今回あなたたちが結果を上げられなかった最大の原因は、チームワークの欠如よ」

「あやめさんの言うとおりよ。

それに新隊長については、私も納得している。私は指示を出すより、下された命令に従う方がやり易い。隊長職からの降格もやむをえないわ。あなたたちをまとめることができていなかったから、前回のようなザマになった…それだけのことよ」

マリアも自分が隊長の座から降りることに異論そのものはなかった。それを聞いて、さくらはますます自分の認識の甘さを思い知る。

「ですが司令、マリアさんに代わる隊長を立てるのはいいのですが、その人物がマリアさんよりも力不足だったらどうするおつもりですの?」

すみれが、最もだと思わされる問いを米田に突きつける。確かに、新たな隊長がマリアの指揮官としての腕前と戦闘能力を超えるだけの人材でなかったら本末転倒だ。

「もちろん考えている。お前らは女同士で個性も強い。故にぶつかりやすいところもある。それがお前らのいいところだとは思ってる。だからよ…今度の隊長は…今度の隊長はお前らを一つにできる触媒となれる奴でないといけねぇ。そこでだ…」

 

その直後に発表された米田の、新隊長選別に関する話は、女しかいない花組だからこその衝撃を、花組のメンバーたちに走らせた。

 

 

 

 

 

 

「今度の隊長は、男性…か」

光武を操縦するだけの高い霊力の持ち主を集めた結果、個性の強い女性だけの部隊となった花組。そんな彼女たちの力を一つにできる頼もしい男を隊長に任命する。

言うのは簡単だが、そう簡単に見つかるものじゃない。光武を動かせるくらいの高い霊力、それでいて花組の隊員たちをまとめることができる男、考えてみると理想が高い。

「奏組や月組にはいないんですか?」

「残念だけど、彼らに光武を操縦するだけの霊力を持っている子はいないの。自分たちが光武を動かせないことに、彼らも悔しがっていたわ」

帝劇には、花組以外の部隊に男性も含めた、または、男性のみで構成された部隊…月組と奏組がいる。彼らの中に該当者がいないのかとジンが訪ねたが、運転席のあやめが否定をいれた。

「そうですか…」

望んだ形で戦うことができない。どれ程悔しいものだろうか。もし自分に赤い巨人の力がなかったら…同じ思いを抱いていたのだろうか?

「それにしても、あらかじめ華撃団の部隊長をもぐりこませて、次の隊長さんを探すなんて…ちょっとあくどい感じがしますね」

自動車の後部座席より、ジンが助手席の米田に言う。

あの後、米田はあやめとジンの二人を連れて、後日海軍の演習場へ赴くことに決定された。今度の新隊長は、海軍にもぐりこませていた諜報部隊『月組』の隊長より、海軍の知り合いに適任者がいるという情報だった。

対する米田はにへっと笑っている。

「へへ、まぁそういうなよ。別に悪さをするためにやっているわけじゃねぇし、こういう仕事を請けている奴はカタギの中にもいるもんさ」

朗らかだが、全てをさらしているわけではない。食えない人、というべきかも知れない。

「ですが、笑っている場合ではありません。二度の戦いを、戦果を上げないままの結果終わらせてしまった…これ以上私たちを立ててくださっている花小路伯爵のためにも、何より帝都の人々のためにも、次は…」

「あぁ、分かっている」

あやめのその言葉を受け、米田は顔つきを、司令としての貫禄に溢れたものに変わった。

 

 

ここに来る前に、三人は帝国華撃団の支援者である花小路伯爵の屋敷を訪れていた。その間ジンは外で待っていたが、米田とあやめは伯爵の屋敷で会談を行った。

「帝都を守る者がこれではな…」

伯爵は今、映写機から再生されている花組の戦闘中の影像を見ていたが、やはり前回までの二度の戦いの結果について、難しい顔を浮かべざるを得なかった。

「賢人機関の連中から連絡があったよ。『我々は無能者共のために高い金を払っているのか』と」

賢人機関は花小路伯爵と同じく、帝国華撃団の支援者なのだが、軍事力ではなく霊力と言う、まゆつば臭いオカルト混じりの力で戦う米田たちの一派に難色を示していた。だが、米田たちの降魔戦争での活躍も無視できないと、花小路伯爵が説得したことでようやく資金援助を受けることができたのである。

「お恥ずかしい限りです…」

あやめが会釈しながら詫びた。

「その詫びの一言で済む問題であればどれ程良かったか…」

花小路伯爵は顔を覆い隠しながら、ふぅ…とため息を漏らした。

「もしや、賢人機関から何か…?」

「うむ…今回の花組の戦果を聞いて、連中の多くが言ったよ。『この程度の戦果しか出せないのなら金の無駄だ』とな。不毛な議論は避けておきたかったのだがな…」

「連中は帝都の平和よりも、商売の方が大事みたいですな」

「その通りだ。君たちも知ってのとおり、降魔戦争の際に現れた、赤い巨人が再び姿を現したことは知っていよう?『あの巨人さえいれば、華撃団など不要だ』とも言っていたよ」

「……」

守られていることに胡坐を掻いているだけの身でありながら、今利用している盾が不良品なら、もっと利用度と安全性の高いものを求め、役に立たないものは切り捨てる。花小路伯爵と彼の考えに賛同している数少ない賢人たちを除いて、賢人機関の多くにそんな愚かな考えがたかり始めているのだ。

あの巨人のことを…米田が息子のように大切に思っている少年を、8年前に起きた降魔戦争の際は、降魔の一緒ではないかと疑っていたくせに、身勝手だ。それについては、米田とあやめは賢人機関への憤りを覚えていた。

「そのような考えでは、いずれ悪に利用され、切り捨てられるがオチだ。そうなってからでは遅い。だが、次こそ戦果を挙げなくては今度こそ帝国華撃団は解散、運がよくてもただの歌劇団としての活動となるやもしれん。

米田君、次の作戦…頼んだぞ」

「無論です、伯爵。あのときみたいになるのは…もうたくさんですからね。そのためにも、次の段階として、マリアに代わる新たな隊長を立てるつもりです」

「マリア君から交代だと?」

「ええ。これは私が発案したことなのですが…」

次にあやめの口から、「次は男性の隊長を立てる」と告げたときの伯爵はかなり驚かされ、屋敷を後にした時の米田はちょっとおかしかったと、語っていた。

 

 

 

「帝国華撃団が…解散…ッ」

ジンはそれを聞いて絶句し、そして納得のいかない表情を浮かべた。自分にとって、帝国華撃団は記憶を失った自分にとっての唯一の居場所なのだ。取り上げられたりしては、自分はどこにいけばいいのかわからなくなってしまう。

「心配すんな、ジン。んなことはさせねぇ。あそこはただの防衛組織じゃねぇ。俺たちにとって大切な『家』なんだ。敵ならまだ、軍人として譲歩できるところはあるが、政治家共の都合なんぞに潰されて溜まるかよ」

「ええ、全く持ってその通りです。帝劇の皆はまだ、これからなのだから。

真宮寺さんと、山崎少佐の願い…それを果たすまでは決して」

米田とあやめは、賢人機関の華撃団反対派の思惑通りに動く気はなかった。自分たちが帝国華撃団を結成した意味をなくす…そしてそれは、あの降魔戦争でなくした大切な人たちへの裏切りになってしまうのだから。

「…真宮寺…さん、山崎…さん…」

ジンは二人の名前を聞いて、不思議と懐かしい響きを覚えた。

「あら、何か思い出せた?」

「いえ、ただ…長屋で戦う直前に、僕はさくらに励ましてもらいました」

「さくらから?」

「はい。そのとき不思議な感じがしたんです。以前にも誰かから言われたような…そんな感じが」

…体が覚えているんだろうな、と米田は確信した。大方、俺たちの目の届かないところで一馬に励ましてもらっていたのだろう。あの頃のジンも、変身時の赤い姿と違って、まだ精神面において青さがあったのだから。

「米田さん、あやめさん…一馬さんと、山崎さんって…どんな人たちだったんですか?」

ジンは前座席のバックミラーに映っている二人の顔を見ながら尋ねた。さくらの父、真宮寺一馬と、米田とあやめ、そして一馬と知り合いらしい山崎という男。記憶を失った今、彼らの話を聞けば、それを思い出すきっかけになるかもしれない。

「…辛いことを思い出すことになるかもしれねぇぞ?」

米田はミラー越しに、ジンの顔を見ながら警告した。だが、それでもジンは聞く姿勢を無言のまま崩さなかった。記憶とは、自分の存在している証でもある。それを失うと無性に取り戻したくなるのだ。

前回の戦いでも強く警告されてなお折れなかったし、今更脅して見せても折れないだろう。そう思い、米田は話し始めた。

8年前を期に起きた、呪われた怪物たちとの戦い…『降魔戦争』の一部を。

「…優秀だったさ。正直、霊力も武においても…あいつらの方が俺たちより優れていた。俺は一馬を信頼していた。山崎の力も認めていた。あいつらがいなかったら、降魔戦争で生き残ることさえも難しかっただろうな」

「……」

「だが、俺たちはあの時光武も持っていなかった。己の武と霊力を武器に、降魔を相手に生身で戦うしかなかった。当然苦戦しちまったもんさ。何度死に掛けたか数え切れねぇ。それでもよく、一馬の頭を使った起点が大きく働いて、なんとか俺たちは降魔に襲われた人々を、軍の連中と連携しながら守ってきた。

だが、いくら高い霊力と有効な策を錬っても…圧倒的物量の前には無力だった。雑魚でも常人を越えた力を持つ上に数も圧倒的な降魔共に、俺たちは次第に後退させられていった」

話を聞いていく内に、ジンはなんとなく分かってきた。彼らは人々を守るために、もはや勝てないと分かっていても、自分に最期が訪れるまで戦い続けてきたのだ。きっと想像以上に過酷だったに違いない。

「けど、そんなときだったわ…あなたと出会ったのは」

「!」

ミラー越しに、あやめが自分を見てそう告げたとき、ジンは目を見開いた。もしここが帝劇だったら、ガタッ!と音を立てながら椅子から立ち上がっていたほどかもしれない。

「東京湾に降魔が現れたって聞いてな。俺たちはそこに向かって調査を行っていた。そこの海の上を航行していた船が降魔に襲われていたんだ。俺たちはその船の救援に向かった…」

「…あ、司令。そろそろ到着のようです」

しかし、このタイミングで話は一時中断となった。目的地である、海軍の演習場に到着するところだったからである。ジンはこの絶妙なタイミングでかよ…と現実を呪いたくなった。

「はは!そうむくれるなよ。俺たちは逃げねぇからよ」

ふてくされた子供のようにも見えたのか、米田はおかしくなって笑い飛ばした。

湾岸部に、一隻の海軍の軍艦が浮いていた。煙突を生やし、グレーに染まった船体はまるで、海の上に浮かぶ城のようにも見えてくる大きさだった。

(ここに新隊長が…)

今度の人は、海軍出身だというが、果たして…。

米田たちを乗せた車は軍艦を留めていた港の敷地内にて停車する。既に米田たちの出迎えのために、海軍の将校が数名ほど集まっていた。三人は車から降りて海軍将校たちに敬礼すると、向こう側もまた米田たちに対して敬礼を返した。

「出迎え、わざわざ悪いな」

「いえ、これも任務です、米田一基中将。寧ろこうして会うことができて光栄です。

日露戦争におけるあなたの武勇は、我々海軍の中でも有名ですので」

「にちろ戦争…?」

降魔戦争、とは違うのだろうかとジンは首を傾げる。それを察して、あやめがジンに説明を入れた。

「以前、私たちがいるこの大日本帝国と、ここから北西の方角にある大国『ロシア』は一度戦争になったことがあるの。米田司令はそこで指揮を執っておられていたわ。そのときの活躍が、陸海両方の軍で有名なのよ」

「よせやい。いくら戦争で活躍したってもな…」

米田はあやめの説明が聞こえていたのか、強く謙遜した様子だ。…いや、というよりも、謙遜とかなしに、自分に後ろめたい何かがあるから、その言葉を心から受け入れることができないように見えた気がした。

「米田中将、そしてお二方もこちらへ」

将校のリーダー格の男が、米田たちを軍艦の方へ案内した。

『艦内の卒業候補生に告ぐ!本日新型兵器の実験を行う。候補生は1000、船首に集合せよ!』

ちょうど同じタイミングで、そのように艦の周辺に放送が流れた。

 

 

 

米田、あやめ、ジンの三人が訪れた海軍の港にて、大きな木製のコンテナがクレーンで下ろされた。その中身の部品は海軍の将校のほか、作業員たちによって甲板上に運ばれ、一斉に組立作業に入る。それからしばらく時間を置いた後、試作型光武の組み立てが完了し、集められた海軍の将校たちは実験に参加した。

「ここにいる海軍の方の中から、花組の新しい隊長を決めるんですね?」

ジンが組み立てられていく試作型光武を見ながら米田たちに尋ねた。

「そのために、よく海軍を動かせましたね」

今のあやめの口ぶりどおり、元々陸軍の人間である米田に、海軍を動かす権限はないが、今回は米田の思惑通りに海軍が動いてくれていた。あやめからの言葉に対し、米田は笑みを浮かべながら首を横に振った。

「俺にそんな力はねぇよ。神崎重工とは元々他の新兵器の共同実験の話があってな、その中に試作型の不具合から光武が紛れ込んでたのさ」

「不具合ですか…」

別に悪事を企んでいるわけではないが、わざと怪しさを感じるような言い回しをする米田にあやめは薄く微笑んだ。

「……」

その日はいい天気だった。まるでいいことがあるのでは?と思えるくらいに。

この日、さくらたち花組には休みが通達されている。彼女たちのせっかくのいい天気だから、街に繰り出してお出かけ日和を満喫している頃だろう。

だが、ジンはあまり晴れやかな顔を浮かべていなかった。地平線まで広がる海面を遠くまで眺めながらボーっとしていた。

「どうしたの?」

あやめがそれを見て、ジンに尋ねてくる。その声に我に帰り、ジンはあやめたちのほうを振り返る。

「いえ、その…前にもこんな感じの海が広がった日があったような気がしたんです。はっきりとはわからないんですが…」

それを聞いて、米田は思った。ジンは確かに記憶がない状態だが、それでもデジャヴという形で、体の方が過去の事を覚えているのだと。でなければ、赤い巨人変身しても、戦い方ごと記憶が吹き飛んでいる影響で、うまく戦うことができなかったことが考えられる。

「こんな感じの日だったな。お前が俺たちと会ったのも」

「ッ…!」

その一言にジンが反応を示した。

「あの日も今みたいに晴れた空でな、一馬と山崎、そしてあやめ君とともに船に乗って海上の降魔と戦っていた…」

ガシャン!!

そこまで米田が言いかけたところで、突然艦が大きく揺れだした。

「な!?」

前触れなしの異変に、ジンとあやめは動揺した。

「そうそう、こんな感じでいきなり船が揺れて………ってなんだぁ!?」

米田も一瞬気づくのが遅れたが、すぐにまたしても自分たちの周囲に異変が起きたことを察した。警報が、軍艦の船内中に響き渡る。

 

 

甲板上では、ちょうど光武の稼動実験を行っていたところだった。これを十分に動かせただけの霊力の持ち主の中で、特に隊長にふさわしい者を、花組の隊長に配属させる。これが米田の考えだった。

しかし、軍艦の船体が大きな衝撃を発生させたことで混乱が起き始めていた。

「何があったんだ!?」

試作光武に乗っていた若い将校が、試作光武の操縦席のハッチを開いて、実験を行っていたスタッフに尋ねる。

「恐らく、試作光武を稼動している動力パイプが外れたせいだ!」

「なんだって!?」

その若い将校は声を上げる。確か、この兵器(米田たち以外は、この兵器=試作光武の詳細を知らない)はこの艦の機関室と動力パイプを通して繋がっているはずだ。それが外れてしまったら、兵器に流し込まれているエネルギーが行き場を失って暴発してしまう。

悪い予想が当たったのか、さらに艦内で爆発が起き、煙が上がり始めた。ついに発火してしまったのだ。

「まずいぞ!早く避難を!」

近くにいた他の乗組員たちは、すぐに脱出を始めた。だがそんな中、ただ一人だけ、試作!光武に搭乗していた若い将校がそこに残っていた。

自分は、海軍士官学校にて主席の成績を得た。じきに卒業が認められている。自分もここで避難すれば、卒業前に事故死するということはなくなる。これからって時になにも危険なことに首を突っ込みすぎると、未来がないということだ。

だが…彼はそう思わなかった。体が勝手に動いたと思えるくらいに、彼はごく自然に試作光武に再搭乗、操作レバーとスイッチを押す。すると、試作光武は再び彼を操縦席の中に閉じ込め、……プシュー!!と煙を吹きながら動き出した。

「行くぞ…この船の皆は、俺が守る!」

 

 

 

「急いでください司令!ジン君も早く!」

艦が沈む危険を予測していたのは、米田たちも同様だった。あやめが二人に対して避難を強く呼びかける。

「くそ、俺も光武が使えさえすれば…」

悔しがる米田。彼もまた霊力こそ持っているものの、光武を動かせるほどの強さではなかった。

「米田さん…よし!こうなったら…」

そんな米田の気持ちを見て、ジンが懐に手をかける。赤い巨人の力を使えば、変身すればきっと、この艦の沈没を防ぐことができるはずだ。だが、ジンが胸ポケットに手を入れようとしたのを見たあやめが、彼の手を掴んでそれを止めた。

「ジン君、だめよ!」

「どうしてです!?」

なぜ止めたのか。ジンはそれを理解できなかった。この力で人を守れ、それを促したのは彼女なのに、なぜ止められたのかわからなかった。

「変身したあなたの噂は帝都中に知れ渡っているわ。そんなあなただからこそ迂闊に変身したら、それこそ混乱を招いてしまうわ!」

「ッ…!」

そこまで聞いて、ジンは理解した。自分は図らずも、帝都の人々からあらゆる注目を集めている。あるものは救世主、ある者はその逆を…。そんな立場の自分が変身した姿をホイホイと、これまでの戦いのように、力を振るうに値する敵がいない状態で晒してしまうと、あやめの言うとおりになる。

変身が許されないのなら、じゃあどうすればいいのだ!ジンは苛立ちを募らせる。

『あの時』みたいに変身して戦うことさえできれば…。

と、そのときだった。

「ぐ…!」

ジンの頭に、激しい頭痛が起こった。手すりに手をかけ、膝を着く彼を見て、米田が叫ぶ。

「おい、ジン!どうした!?」

「頭が…痛い…!!」

まるで固く鋭いハンマーで頭を殴りつけられたかのような激痛だった。米田の呼びかけも聞こえない、あやめの姿も認識できなくなる。

目の瞳孔が開いたそのとき、ドクン!という心臓の鼓動の音と共に、彼は見た。

 

海に浮かぶ船。そこに乗っている4人の人物…。

米田とあやめ、さくらの父一馬と、もう一人おぼろげに見覚えのある若い男。

彼らの船に、一体の大きな降魔らしき巨大生物が取り付こうとしていた。それを、赤い巨人が背後から必死に取り押さえながら引き剥がそうとする。

その怪物は醜くおぞましい姿をしていた。降魔よりも恐ろしさを垣間見てしまうくらいに。何せ、体中がまるでムンクの叫びのようだったのだから。

奴の巨大な体が動く度に、大きな波が起こり、船にいる4人を飲み込もうとする。その前に魔物が米田たちに向けて、彼らを捕まえようと体から触手を伸ばしてきた…!

 

「ぐ、うぅ…!!」

「しっかりしろ!深呼吸だ!」

米田はジンの肩を掴んで呼びかける。怪物の伸ばした触手が米田たちに迫る。そこで奇妙なビジョンは終わっていた。それによって米田たちの声と姿も再び認識できるようになっていた。

言われたとおり、ジンは深く深呼吸し、自らを落ち着かせた。

「大丈夫?」

「はい…ッ!痛…!」

心配するあやめに、もう痛みがひいたことを告げるも、直後にまた一瞬だけだが痛みが走る。さっきの激しい頭痛と共に浮かんできた奇妙なビジョンを見た影響だろうか。

「無理しないで。さ、こっちへ…」

あやめが自らの肩をジンに貸そうとした時だった。突然船首の方から煙を噴出しながら走り出す、試作光武の姿が米田たちの目に止まった。

「光武が動いている…!」

誰かが稼動に成功したということか!試作光武はそのまま、火事の現場に到着しそのまま燃える家の中に突入する消防士のごとく船内に突入した。

 

それから3分以内のことだった。火事が起きた艦の機関室に突っ込んだ試作光武によって、降りなかったはずの隔壁が閉められた。これによって、船の沈没は免れたことが伝わった。

 

 

 

 

「新隊長はひとまずこいつで決まりだな」

帝劇に戻った後、米田とあやめは、新たな隊長に、あの試作光武を動かした将校を抜擢することにした。

「まずはあいつが俺たちが求めているだけの男か、確かめる段階だな」

支配人用のデスクの上に乗せられた、新隊長の書類を眺めながら、米田は呟く。

「あの、支配人、さくらですけど入ってもよろしいですか?」

そこへ、支配人室の扉がノックされた。

「おう、さくらか。入ってこい」

その声で米田はさくらだとわかると、彼女の入室を許可する。失礼します、とさくらが入ってきた。

「何かご用ですか?」

「前に言っていた新隊長の件でな、今からそいつを迎えにいってやってくれ。

あやめ君か、ジンの奴に頼むつもりだったんだが、二人とも手を空けられなくてよ」

「そう言えばジンさん、戻ってきてから具合が悪そうでしたね」

先日の新隊長にふさわしい人物を探るための実験の日の後、ジンは激しい頭痛の後遺症で倒れてしまった。そんな彼をあやめが自ら介護に回っていたのである。今のジンには、正体を知った上で味方でいられるのは、あらかじめ彼を知っていた自分たちしかいないのだ。

「ジンさんの体調は大丈夫なのですか?」

「あやめ君は救護の経験もあるから心配ねえさ」

「それならいいんですけど、なんだか心配ですね…」

さくらは体調を崩してからのジンの様子を見ていない。一度彼に対して自分なりに励ましの言葉を送ったこともあって、なんとなく気がかりだったのだ。そんなさくらに、米田はニタッと笑ってきた。

「あ、あの、支配人…その笑みは…?」

なんとなく嫌な予感を感じたさくらは後ずさったが、そんな彼女を取り逃がすまいというかのように、米田が口を開いた。

「なんだぁさくら、あいつのことをそんなに気にしてくれてんのか?さては…」

その先は言わずとも理解したさくらは、顔を赤らめて必死に否定を入れた。

「な!?ち、違いますよ!!そんなんじゃありませんよ!あたし、まだあの人と会ったばかりでよく知らないのに…あ!!」

そこまで言いかけたところで、さくらはしまった!と自分の浅はかさを呪った。

「おいおい、さくら。俺は何も言ってないぜ?ましてや…『あいつに惚れたのか?』なんてなぁ」

「も…もう、支配人なんて知りません!」

やっぱり引っ掛けられたか。さくらはそれを悟り、米田に足して膨れっ面をあらわにした。さくらは見た目どおり純情なのだ。こういった手口の茶化しは好ましくない。

最も米田としては、さくらはまだ未熟なところがあるものの、ジンとそのような仲になっても文句はない。何せ一馬の娘と、自分の義理の息子という間柄なのだから。とはいえ、これはあくまで当人がちゃんと両思いになった場合の話だから口に出さなかった。

「はは、悪かった悪かった。まぁそれより、新隊長は上野公園にいる。そいつを呼んだらお前も顔を見てやってくれ。

名前は…」

 

 

 

『大神一郎』だ。

 

 

 

 

 

黒之巣会の根城である、とある洞穴の最深部。

呼び出した部下たちに、総帥である天海はかなり機嫌が悪い様子を露にしていた。

「叉丹、貴様…あれはどういうことだ?」

「どう、とは?」

跪いたまま叉丹は天海に、何を尋ねてきたのかを問う。

「何をしらばっくれておるか。降魔と怪獣、異なる生命を合わせることで強力かつ無敵の駒を生み出せる…そう言っておったな?じゃが、あのザマは何じゃ!二度もあの得体の知れぬ赤い巨人の手にかけられるとは!貴様は児戯をするためにあのような技術を開発したのか!」

「…申し訳ありませぬ。天海様。ですが、あの赤い巨人は強敵です」

どうやら天海は、叉丹の手によって生み出されたデビルアロン、デビルテレスドンが赤い巨人に変身したジンに倒されたことを不服に思っているようだ。頭を下げ、主である天海に侘びを入れる叉丹だが、天海は聞き入れようとしない。

「黙れ!我ら黒之巣会が常に完全無敵でなければならん。敗北など許さん!」

そんな叉丹を、刹那は見下ろしながら嘲笑う。

「へ、無様だね…叉丹。僕だったらもっとうまく、あの帝国華撃団も赤い巨人も苦しめた果てに殺せるよ?」

「さすが兄者だ!兄者には、奴らに勝てる算段があるってことか?」

自信たっぷりに、見下し視線を積み隠さずに言い切る刹那に、羅刹は諌めるどころか煽った。兄者…この二人は見た目も性格も正反対だが兄弟なのだ。

「ほほぅ、刹那。そなたの奇策とはそれだけの自信を持てるほどのものかえ?」

ミロクが刹那に尋ねると、刹那はその手順の第1段階を伝えた。

「まぁね。けど、情報がまだ足りない。動くのは、奴ら帝国華撃団の情報を得る必要がある。

天海様、単に強力なだけの駒をぶつけても、これまでの叉丹の二の舞になるでしょう。だけど、この作戦のためには、さらにもう一体、叉丹の作った駒である魔獣をぶつける必要があります。その隙に僕が奴らの誰かに近づいて、弱点を探りましょう。すこし辛抱の必要がありますが、これも我ら黒之巣会の勝利のため。どうか…この蒼き刹那にお任せを」

天海も、次の戦いはあえて奴らに花を持たせる前提で行うことに、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべていた。

黒之巣会は絶対無敵、それを体現するために常に勝利を飾らなくてはならないのが天海のポリシーだ。だが、自分たちも敵をよく知らないのも事実だ。

「…ふん、最後に勝利するためというのならば、いいだろう。叉丹、お前の失態も不問にしてやる。その代わり、次の奴らとの戦に適任の駒を用意し、我々の『魔装機兵』の調整と急げ」

「御意…」

「ミロク、羅刹。貴様には『六破星降魔陣』に必要な楔を打ってもらう。そして、我らが真の根拠地の復活に邪魔な封印を解く準備を整えるのだ。

すでに最初の封印の石は刹那が壊しておいてある。さぁ、行くのだ!」

「「「はは!」」」

死天王たちはそれぞれ命令を受け、天海の前から去り始める。

そんな中、叉丹は頭の中で、作戦のためにどのように己のみを振るうかを考えていた。

(俺としたことが、『奴』を殺すことに集中し過ぎたか。だが…いずれ必ず…)

赤い巨人…ジンへの殺意を胸に、叉丹は動き出した。

 


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