ULTRASEVEN AX ~太正櫻と赤き血潮の戦士~   作:???second

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どうでもいい話ですが、華撃団の出撃シーンは、ウルトラシリーズにも負けてないと思います。


3-6 勝利をこの手に

「く…!!」

その頃、赤い巨人…ジンは膝を突く。こちらの攻撃がまるで当たる気配がない。

いったいなぜだ。自分の『この姿のときの目』なら、霧にまぎれていようが水に溶け込んでいようが、敵の位置を見極めることができる。だというのに、なぜ敵の姿が見えない!?

未だ敵の姿も位置も確認できないために、どんな攻撃もすべてが空を切るだけでしかない。

(くそ、どうすればいい…)

解決策がまるで思いつかない。自分の失われた記憶の中に、こんな危機を打開できるだけの、今の自分が認識していない能力があれば、このタイミングで思い出しておきたいところ。しかしそんな都合のいいことが、記憶を失って始めての…『ウルトラアイ』なしで変身したときのように、何度も起こるわけがなかった。(※しかもウルトラアイなしで本能的かつ強引に変身した結果、自分は戦っているときの記憶が残らなかった)

だが、そのとき変化が起きた。ジンは肌にわずかな熱を感じ取った。その熱波が黒い霧とわずかに晴らしていき、周囲は真っ黒な景色から灰色に変わっていく。黒い霧が減少したことにより、上野公園の景色がさっきよりも見渡せるようになった。

すみれの炎を利用した技〈胡蝶の舞〉の効果が発動したのだ。

これだけ晴れれば、今度こそ敵の姿も…

「!?」

ジンは顔を上げて驚愕する。まだ霧が晴れきっていないが、赤い巨人形態のジンの視力ですでに上野公園全体を見渡すことは可能となっていた。なのに…

(敵の姿が…ない、だと…!?)

そこにいるはずの、敵の姿が影も形もなかったのだ。見えたのはぼろぼろの上野公園の敷地内と、そこにいる大神たち花組が乗っている光武の姿だけだった。

 

 

その予想外な事実は、大神たちにも知れ渡る。

「おかしい…なぜ敵の姿がどこにもない!?」

周囲をどれほど見渡しても、赤い巨人や自分たちに攻撃を仕掛けた犯人らしき存在を確認できない。

「赤い巨人は無事のようですわね」

一方で、霧の中から、今度はしっかり赤い巨人の姿を確認することができた。

「…グゥ…ッ」

だが、あの視界の悪い状況下で攻撃を受け続けていたせいで、体に痛々しい傷が刻み込まれていた。

「ひどい傷…これだけ傷を赤い巨人に手負わせたのに、敵はすでに逃げたんでしょうか…きゃあ!」

赤い巨人のひどい有様に、大神の隣に並ぼうとしたさくらが、突然足元からズボッ!と落ちた。彼女の悲鳴を聞いて、大神たちがいっせいに駆け寄る。

見ると、さくらの光武が、いつの間にか地面に空けられた穴にすっぽり入りかけていた。しかも穴の底は奥深くまで掘り返されており、まさに奈落の底へ通じる穴のようだ。

「さくら君、大丈夫かい?」

「は、はい…」

さくらはかろうじて穴のふちに手をかけたおかげで落下を免れていた。大神の手で引き上げられ、無事地上へ戻る。

「まったく、おっちょこちょいですのね」

「うぅ…」

やれやれといった様子ですみれが呆れたように呟く。言い返してやりたかったが、さくらもドジなところが目立つという自覚があるのでできなかった。

「この穴、もしや敵がこの中に逃げ込んだのか?」

大神は、さくらが落ちかけた穴を覗いて見る。しかしマリアの口から否定的な言葉が放たれる。

「いえ、どうやらそうとは限らないかもしれません」

彼女の視線は、別の方向を向いていた。その視線につられ、大神たちも周囲を見渡す。

そこには、さくらが落ちたような穴が他にも見られた。それもひとつだけじゃない。上野公園の敷地内にいくつも空けられていた。

「この穴はいったい…?」

 

疑問と疑惑を募らせる中、赤い巨人となっているジンもまた、このいくつも開けられた穴に首を傾げていた。

この穴は、おそらく黒い霧にまぎれて攻撃してきていた敵があけたものだ。地面に穴を開けてこちらを攻撃する…つまり、敵は…

「ッ!!」

そこでようやく気づいた。だが、気づくのが遅かった!

突然ジンの足元から、黒い霧にまぎれて攻撃を仕掛けていたあのハサミ付きの触手…いや、腕が伸びてきた。さっきと巻き付き方が全く異なっていた。体中に蛇のように巻きついて来て、最終的にハサミが彼の首を挟み込んだ。

「グ、ウゥ…!!」

ジンがさっきよりも締め付けてくるハサミ付きの腕の強烈な力に、膝を付いてしまう。それと同時に、地面から土しぶきが巻き起こり、巨大な一体の降魔が姿を現した。

 

「あれは…!!」

大神たちもその巨大な降魔を見て、目を見開いた。

耳の部分に、互いに反対側を向け続けている突起を生やし、目を持っていないような、代わりに降魔と同じ飢え切ったような涎まみれの牙と口を持ち、その体表もどす黒さを混じらせた紫色に染まっている。

こいつが、上野公園に新たな悲劇をもたらした正体『岩石魔獣デビルサドラ』である。

 

(くそ、そういうことか…!!)

デビルサドラの拘束に苦しめられ続けながら、ジンは気づいた。なぜ霧の中で奴がこちらに不意打ちを仕掛け続けながらも、こちらに現在地を悟られなかったのは。黒い霧は妖力を混じらせた霧のため、広範囲に充満させると、その中にまぎれた降魔や脇侍の位置を特定させない。帝劇のレーダーでも探知できないので黒い霧だけで十分だった。だが、赤い巨人のジンとなると、黒い霧だけでは姿を隠せない。敵はそれにあらかじめ気づいているかのように、『霧に隠れて攻撃していると見せかけて』、実際は地中に潜り、そこからジンや花組を強襲しつづけていたのである。

ジンが満身創痍であると判断したサドラはもはや姿を隠すまでもないと、自ら姿を見せて止めを刺しに来たのだ。

このままだとやられてしまう。そうなったら、今度こいつの牙は…大神たちや帝都の人々に向けられることが容易く考えられた。

(…そんなこと、させるか…!!)

 

 

「赤い巨人が…!!」

降魔戦争の頃、帝都を守っていたという赤い巨人。今その巨人に危機が訪れている。あの赤い巨人はもう限界だ。自分の最悪の状態を避けるために撤退するはずだ。そうなれば、あの怪物は帝都の方にも向かい、人々を蹂躙することだろう。そうなれば、帝都の人たちの盾は自分たちしか残らない。退くわけにいかないのだ。

大神は決意を固めて、改めて戦闘を続行しようと思った時、赤い巨人を見てはっとする。

赤い巨人が、自分が死ぬことを避けるためにいずれ撤退するのではと勘ぐっていたところがあった大神は少し驚いていた。赤い巨人は逃げる姿勢を全く見せていない。自分を捕まえているデビルサドラのハサミを生やしている腕を…逆に捕まえている。

(まさか、あいつ…)

自分がどれほど傷ついても、死ぬことになろうとも、決して退こうとはしていない。

大神は、赤い巨人の背中を見て悟った。あの赤い巨人は…自分たちさえも命を賭して守ろうとしているのだ。

「…みんな、聞いてくれ」

彼は花組の3人に向けて口を開いた。

「あの赤い巨人を…援護するぞ」

「え?」

その一言に、三人は目を丸くした。

「確かにあの巨人の正体はわからない。でも彼を見てみてくれ。」

三人も言われてみて赤い巨人を見上げる。捕まっている身でありながら、逆にあの降魔の腕を捕まえ逃がすまいと奮闘し続けている。

「この帝都は本来、俺たちが守らなければならない。だが、彼は俺たちさえも守ろうとしている。ならば、俺たちがとるべき行動はひとつしかない!」

大神の言葉に、三人は少しの間沈黙する。すると、さくら機が大神機の隣に並んだ。

「私も行きます」

「さくら君…!」

「あの巨人はお父様が戦っていた頃から、人々を守るために戦ってきた救世主だったと聞いています!それに私たちも大神さんが来る前に、彼に助けられた借りがあります」

彼女の言葉は、若干躊躇いがちだった二人を動かした。

「…そういえばそうでしたわね。思えば、私は二度も救われら身でありながら、一度も借りを返していませんでしたわ」

「悔しいですが、私たちだけでは敵を倒せないでしょう。ならば敵が姿を見せた今こそがチャンスです。

少尉、ここは一気に総攻撃を仕掛けましょう」

二人が、巨人の援護に関して、何かしらの反対意見を出すかもしれないと思っていたが、どうやら杞憂だった。さくらに続き、同意してくれた二人に感謝し、大神は命令を下した。

「よし…花組、攻撃を開始する!赤い巨人を援護せよ!!」

「「「了解!!!」」」

 

 

ジンは必死に踏ん張り続けていた。奴が自分を絞殺しようと、首に食い込もうとしているハサミに込める力を強めているのがわかる。だが逆にそこを利用してやろうと、ジンは自分の首を押さえているデビルサドラの左腕のハサミを、首の拘束を緩めさせながら捕まえた。

対するサドラはジンにまだ抵抗の意思があることを感じ、さらにハサミに込める力を強めていく。

奇妙な形の鍔迫り合いの中、ジンはサドラの姿を確認する。見れば見るほど、不気味で気持ちの悪い姿だ。悪意しかふりまいてくることしか脳がないことが見るからにわかる。悪意を振り撒く…そんなことが許されていいわけがない。こんな診にくい化け物なんかに…!

(皆を殺させてたまるか!)

ジンはサドラのハサミ掴む力をさらに高める。さっきと比べ、首にかかる力が緩み始めた。今のうちに!ジンは自分の首を引っ込めさせ、サドラのハサミからの拘束からようやく脱出した。

「っぅぐ…ゲホッ…!」

しかし、喉が苦しく、体に蓄積したダメージのせいで膝を着いてしまう。

そのとき、彼の額の縦長のエメラルドグリーンに輝くビームランプが、点滅を開始し始めていた。彼の活動限界を知らせているのだろうか。

そんなジンを見てサドラが近づいてきた。今度こそ止めを刺すつもりか。かなり消耗しているが迎撃するしかない。ふらつきつつも立ち上がろうとしたときだった。

「マリア、奴の足を頼む!」

大神の大きな声が、ジンの耳にも届いた。視線を傾けると、近づいてきたマリアの黒い光武の銃から、一発の弾丸が撃ち込まれた。

「スネグーラチカ!!」

彼女の霊力により、その弾丸は氷の礫となり、サドラの足にすべて着弾した。瞬間、サドラの足は見る見るうちに氷に覆われ、その足を地面に縫い付けてられてしまう。サドラは氷に覆われた足を動かすと、氷にひびが入り始める。やはりマリアが霊力という特別な力を持つ人間とはいえ、人間一人で食い止められる程度ではないようだ。だがマリアはすかさず、さっきと同じように霊力を込めた弾丸を続けて連射し続けた。被弾するたびに、さらに氷がサドラの足をひび割れごと覆い始めた。

だが、霊力とは消費が過ぎれば本人にも悪い影響を与えることは、霊力について詳しくないジンにもわかることだった。

(無茶だ!あんなに力を込めた攻撃を続けたら…)

そう思っていた時だった。

マリア機の前にさくら機が降り立ち、鞘にしまっていた刀に手を添えた。光武のボディ全体から桜色のオーラをほとばしらせた彼女は、足の氷を砕こうとしていたサドラに向けてカッと目を見開き、

「破邪剣征…」

鞘の中にしまっていた刀を頭上から振り下ろした。

 

「〈桜花放神〉!!!」

 

瞬間、さくらの刀から桜色の光線が飛び、サドラの動体に直撃した。

「!!」

さくらの必殺技を目の当たりにして、ジンは息をのんだ。17歳の少女が解き放ったものとは思えない威力であったことも驚きの理由だが、それ以上に彼には驚かされた理由があった。

(あの技は……!)

瞬時に、さくらの放った技の名前が浮かび、それは合致した。

…そうだ。自分はさくらが立った今使った技を見たことがあるのだ。おそらく、自分がまだ思い出しきれていない、『降魔戦争』の記憶。その時、さくらの父である真宮寺一馬が使っていたに違いない。だから通りで、驚くほどの懐かしさを覚えたのだ。

しかし、さくらの技がクリーンヒットしても、デビルサドラはいまだに倒れる気配がなかった。寧ろ邪魔立てされたことに怒り狂い、今度は標的をさくらに変えた。右腕のハサミを伸ばして彼女に攻撃を仕掛ける。

いけない!ジンはすぐ彼女を助けに向かおうとしたが、サドラの腕の速度の方が勝っていたために、間に合えなかった。そんな彼女の前に、さらに大神の光武が降り立ち、二本の刀を盾代わりにサドラのハサミを防御した。だが、光武と比べてもサドラのハサミの方が巨大。防ぐことはできても、大神が無傷というわけにいかなかった。

「ぐわ!!」

「大神さん!」

大神の光武はサドラのハサミの衝撃によってさくらの後ろに突き飛ばされる。彼の身を案じたさくらが声を上げたが、彼と入れ替わるようにすみれの光武が飛出し、サドラのハサミと繋がっている腕を突き刺し、地面に縫い付けた。

地面に腕を縫い付けられたサドラは醜い悲鳴を轟かせる。

このとき、すでに大神は立ち上がっていた。

「大神さん、大丈夫ですか!?」

「俺なら大丈夫だ!すみれ君と一緒に奴の腕を抑えててくれ!」

動揺している暇などない、遠まわしにその意思を伝え、さくらも頷いた後にようやくすみれにならって動き出す。すみれが長刀でサドラの腕を地面に縫いつけ動きを封じている。さくらも自分の刀を突き刺して地面により深く頑丈に縫い付けた。サドラがさらに痛みを覚えて悲鳴を漏らす。

「今だ…!」

大神は今こそ好機と見て駆け出す。ただ走っただけじゃない。彼はさくらとすみれが地面に縫い付けたデビルサドラの右腕の上を駆け出していた。

敵が近づいている。しかも右腕を引っ込めることができず、ただ接近を許してしまっている状況に、サドラは危機感を覚え回避に移ろうとする。しかし足はマリアの霊力弾によって凍らされ、右腕はさくらとすみれの二人に地面に貼り付けられた。だったら残った左腕で迎撃しようとするが、それもできなかった。赤い巨人…ジンがサドラの左腕を捕まえたまま接近し、左腕ごとサドラの胴体をも取り押さえた。

近づいてくる大神の光武のモノアイがこちらを見た時、ジンは感じた。ちょうどその時、光武の中に乗っている大神と視線が重なり、その大神が自分に頷く姿勢を見せていた。

俺たちがいるんだ、そう告げているように。

 

そのときの彼の脳裏に、ひとつの光景が浮び上がった。

 

軍服姿の米田、あやめ、さくらの父である一馬、山崎、そして…彼らと同じ装いを身にまとった、今と変わらない姿をした自分。目の前に自分たちよりも巨大な姿をした降魔を相手に、臆することなく対峙していた。

 

(そうだ…僕は、一人じゃなかった)

大神機が隣に立ったと同時に、ジンは悟った。

(あの時も、あの人たちと共に戦っていたんだ!この世界の平和のために!)

ジンはさらに、逃げようとするサドラを強い力で押さえつけた。

駆け出し続けた果てに、大神の光武は高く跳躍した。

「狼虎滅却…」

その二本の刀に、稲妻がほとばしる。すみれが炎、マリアが氷、そして大神は…自らの霊力で雷を発することができたのだ。

大神は高らかに叫びながら、自らの正義に込めた覚悟を、その一振りの斬撃に込めて解き放った。

 

「〈快刀乱麻〉ああああああああああああ!!!!」

 

ザシュ!!

 

サドラの顔をすれ違うさまのことだった。大神が地上へと落下し、上野公園の地面の上を転がる。

「大神さん!」「少尉!」

さくらたちが、彼の身を案じて駆け寄る。

「お、俺なら平気だ…それより」

大神は落下の衝撃で痛みを感じていたようだが、光武のおかげもあって大きな怪我に至っていなかったようだ。

しかし彼が気になるのは、サドラの状況だ。それに同調してさくらたちも頭上を見上げてデビルサドラを見やる。

「や、やったんですの…?」

次に、やはりまだ奴が平然としている、そんな嫌な予感が現実になってしまいそうなことを口にするすみれ。しかしそれを抜きにしても、本当にそうなる可能性もある。さくらとマリア、そして大神も…そしてジンも一度デビルサドラから距離を置いてじっと構えた。

しかし、それは杞憂に終わった。

大神によって首に刻まれた箇所から、デビルサドラの首が落ち、それに伴ってデビルサドラの体も崩れ落ちた。

「や、やった…!!」

大神の顔に、勝利の喜びが現れた。ついに成し遂げたのだ。ずっと長く、この国のため、平和のために戦うことを夢見ていた大神。かつて降魔戦争で人類を苦しめていたという驚異を、この手で討ち倒したのだ。

 

帝劇の司令室でも、大神のフィニッシュによって戦いが終わったことが映像越しに伝わっていた。

「やったぁ!!」「イェイ!!」

「すっごぉい!さすがお兄ちゃんかっこいい!!」

かすみ、由里、椿の三人が、降魔が倒れたのを見て思わず席を立ち、お互いにハイタッチを交し合った。アイリスも大神の活躍ぶりに黄色い声を出さずにいられなかった。

「へへ、大神の奴、やりやがったな」

米田もまた、満足げに笑っていた。海軍の卒業候補生の中から自分が見込んで抜擢した青年が、精神面も戦いにおいても自分が見込んだとおりの男だった。この男になら託せるかもしれない。帝都の未来と、ジンや花組の皆の事も…そんな期待が米田の中に確信めいた形で抱かれていた。

 

 

「やりましたね、大神さん!!」

「すばらしい一撃でしたわ、少尉!!」

さくらとすみれの二人も、大神のフィニッシュに強く感動を覚え、彼をほめたたえた。

「敵の気配もありません。今の奴が最後でしょう。少尉、お見事でした」

マリアも淡々とした感じではあったが、素直に大神の活躍を称えてくれた。そんな大神は、謙虚に首を横に振る。

「いや、俺だけの力じゃない。君たちと、そして…」

彼は後ろを振り返ると、そこにはボロボロになりながらも共に戦ってくれた、赤い巨人の姿があった。自分たちを見下ろす形で、彼は自分たち花組の姿をじっと見つめていた。

「赤い巨人、聞いてくれ!」

赤い巨人…ジンに、光武のハッチから顔を出した大神からの声が轟いた。

「なぜ君が降魔戦争の頃から、この帝都を守ってくれているのかはわからない。

だが、俺もこの国の軍人だ!俺にも…俺たちにも守らせてくれ!花組の舞台を見に来てくれる人たちをはじめとした、多くの帝都の人たちが、また彼女たちの舞台を見て笑顔になれる日を迎えられるように!!」

この国で生まれ育った男だから、皆の幸せな日常こそが大神の強く願う望み。だから、こうして帝国華撃団・花組隊長という立場は天職以上だった。しかし赤い巨人が復活を果たし、当初はモギリをやらされたときの絶望感。それは国を守りたいと願う自分が必要とされていないと思わせるに十分だった。でも、自分たちは共に戦い、勝利した。逆に赤い巨人の危機を自分たちが救い、敵を打倒した。自分たちもまだ捨てた者じゃない。強く自信を抱ける結果を出せた。

だが赤い巨人自身はどう思っているのだろう。所詮小さな人間だからと邪魔に思っているのでは?そんな不安がよぎっていた。

すると、赤い巨人は大神を見て、静かに頷いた。

ジンは感じ取っていた、自分がそうであるように、純粋に誰かを守りたいという大神の心を。

「ジュワ!!」

感謝の言葉の代わりに頷いて見せ、ジンは頭上を見上げ、花組の前から飛び去って行った。

「行ってしまったか…」

どうやら、同じ対等の存在として認めてくれたのだろうか。負けてられないな、同じ平和を守る者として、精進せねば。大神は固く誓った。

「ともあれ、これで一件落着ですわね」

すみれが一息つきながら言うと、さくらも後に続いて口を開いた。

「そうだ!皆さん、せっかくですから、ちょっとやってみたいことがあるんです!」

「やってみたいこと?」

マリアは眼を丸くする。

「勝利の決めポーズですよ!あたしたち勝ったんだ!って、みんなで掴んだ勝利を一緒に喜べるように!」

「き、決めポーズだって?」

思わぬさくらの発言に、大神たちは困惑するが、すみれが真っ先にさくらに同調してきた。

「そうですね…さくらさんにしてはなかなか悪くないですわ。舞台は常に締めまで華麗にこなすもの。ならばこのような戦場という名の舞台でも最後の締めをしなければ、帝劇トップスタァの名が泣きますわ。

マリアさんもそう思いませんこと?」

「え、ええ…」

いきなり話を吹っ掛けられたマリアも困惑し、返事が適当になる。

「で、でもポーズだなんて、いきなり…」

「大神さん、そんなの即興でも十分ですよ。ほら、同時に行きますよ」

まだ躊躇いがちの大神をさくらが、すみれがマリアを隣に立たせ、花組は一列に並ぶ。

そして、さくらが「せーの…」と言ってすぐ、同時に彼らは決めた。

 

「「「「勝利のポーズ、決め!」」」」

「き、決めぇ!!」

 

あまりの急な振りについていくことができなかったため、大神だけ出遅れてしまった。

「…ん?」

しかし彼らはあることに気づく。

ここには4人、現時点で光武に乗れる花組メンバーしかいないはず。だが…もう一人分声が多かった気がする。4人が、ちらっと周囲を見渡してみると…。

「や、やぁ」

いつの間にか、ジンが大神の後ろに立ってちゃっかり決めポーズに加わっていた。

「じ、ジンさん!いつからいらしてたんですか!?」

「なんかみんなで面白そうなことやってたの見つけたから、ちょっと驚かすつもりもあって…ダメだった?」

思わず驚きの声を上げてきたさくらに、ジンはもしかして邪魔になったのだろうかと不安を抱く。

「別にダメではないですけど…」

「せっかく勝利の余韻に浸ってたのに、ジンさんのおかげで微妙な空気になりましたわ。少尉も少尉で乗り遅れましたし」

「「えぇ~…」」

微妙な反応を返されたジンと大神の二人は肩を落とした。

「…ふふ…」

少し気が緩んでいるようにも見えて、どこか安心もする。そんな彼らにマリアは、人知れず笑みをこぼしていた。

戦闘中、大神が自分を庇い、仲間たちと助け合う姿を見るあまり、つい一瞬だけ昔のことを思い出したが、今の彼女はその時のことを覚えていなかった。

 

 

これが、帝都の救世主である赤い巨人と帝国華撃団花組。互いを深く知りえたとは言えない関係だが、ともに帝都を守る者同士が初めて協力し手にした初勝利であった。

 

 

 

しかし、これはまだ序章に過ぎない。彼らと黒之巣会の本格的な戦いはこの時から激化していくのだった。

 

 

「ふふふふふ…天海様、お喜びになってください」

その頃、デビルサドラをジンや花組にけしかけた刹那だが、黒之巣会のアジトに戻る最中、ずっと面白そうに笑っていた。

「心の弱い人間に付け入る…それが僕の力。おかげで一人、利用価値のある女を見つけましたよ」

自分の手駒が倒されたというのに、全く動揺していなかった。それどころか喜んでいる。まるで新しいおもちゃを見つけた子供の用に。だが、こいつの場合はそんなかわいい程度で済むことではない。なぜならこの刹那という少年は…何物にも勝りそうなほどの狡猾で残忍な心を持ち合わせているのだから。

「君のことが気に入ったよ。どんな感じでいたぶってあげようかなぁ。ねぇ…」

 

 

『火喰い鳥』のお姉さん?

 




次回予告!

僕と花組の初めての勝利によって、帝国華撃団は解散の危機を免れることができた。

そして頼もしい花組のメンバーが一人、僕らの元へやってくる。

けど、最近マリアさんの様子が妙におかしい。一体どうしたんだ?

そんな時、また新たな危機が僕らに降りかかる。

刹那…僕らはお前の卑劣な罠に屈したりしないぞ!



次回、第四話!

「〈火喰い鳥(クワッサリー)〉」

太正櫻に浪漫の嵐!



あなたはいいわね…辛い過去も、忘れているのだから

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