ULTRASEVEN AX ~太正櫻と赤き血潮の戦士~   作:???second

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お久しぶりです。まだこのあたりまでしか出来上がってませんが、新サクラ大戦が遂に発売!ということで、出来上がった分だけでも投稿させてもらいました。


第肆話 火食鳥-クワッサリー- /4ー1桐島カンナ

星の輝く真冬の夜の雪原。

マリアは、今よりやや若い姿でそこにいた。目の前に、丸いサングラスをかけた男性がいる。彼は手元に小さな小箱があり、それを開く。

開かれた箱の中で、名前を彫り込まれた綺麗な銀の指輪が光っていた。

「マリア…結婚しよう」

「隊長…」

隊長と呼んだその男性のプロポーズを受け入れ、マリアは彼と互いに抱きしめあった。真冬の冷たい風など感じないほどに、温かで幸せなぬくもりを感じながら。

 

 

しかし、それも長く続かなかった。

 

 

 

「マリ…ア…」

 

 

雪が溶け尽くすような灼熱の炎が、戦場となった雪の町で燃え盛る。

マリアを庇って銃撃を受け、隊長は愛するマリアの下へ向かおうとする。だが彼女に伸ばされた手は既に力がなく、届くことはなかった。

マリアがその手を急いで掴もうとするも、二人の間落ちた爆撃が、二人を容赦なく引き裂いた。

「!」

見開かれたマリアの目の前で、隊長は炎の中へ消えていく。彼のいた場所から、マリアの足元に向けて落ちたものがあった。それに目をやり、マリアは雪の中に埋もれたそれを拾い上げる。

自分がもらったものとはお揃いの、婚約指輪だった。

それに刻まれた、マリアの名前を確認したとき、マリアが愛した男を飲み込んでいた炎は、何も残すことなく鎮火した。

 

そう、何一つ…

 

 

 

 

 

隊長おおおおおおおおおおお!!!!

 

 

 

 

 

 

「は!?」

マリアは寝室のベッドから起き上がった。

額からは、まるで夏場の外にいたようなくらいに、酷い汗だくなっていた。

「また、あの夢を…」

彼女は顔を覆った。

もうずっと、見ていなかった。

帝国華撃団に入って以来、ずっと見ていなかった、過去のトラウマ。

なぜ今になって、またこんな夢を…

 

 

あぁ、そうか。この前の戦いで庇われてたから…

 

 

愛した男を失い、死んだようにさまよってきた。それをあの人…あやめが見つけて、自分に新しい道導をくれた。

 

もう見ないはずだと思っていた。しかし、先日の…

上野公園での戦闘で大神が自分を庇った時からまた見てしまうようになった。

 

あの時の…愛する男の最期を。

 

 

 

その日の舞台の演目は、シンデレラだった。

マリアが王子役。すみれが主演のシンデレラだ。

意地悪な継母と姉たちに日々いじめを受けながらも家事に勤しむ薄幸の少女が、ある日その美しい心と容姿に興味を惹かれた魔法使いに、魔法のドレスとかぼちゃの馬車を与えられ、参加した城の舞踏会にて王子に見初められダンスの相手をすることに。だが魔法は夜12時の鐘と共に消えてしまう制約。12時に迫ったことに気づいたシンデレラは元の水簿らしい姿を見せまいと、王子の制止を振り切り、城を飛び出して帰宅する。王子は、その時にシンデレラが落としたガラスの靴を頼りにシンデレラを探し、彼女の家でついにシンデレラを見つけ出し、二人は結ばれてハッピーエンド…皆も知っていると思うが、大筋の内容はこれだ。

今は物語の見せ所でもある、シンデレラと王子が舞踏会にてともにダンスを踊るシーンだ。

「私、夢でも見ているようです。こんなにも幸せな一時を過ごせるなんて…」

家族から虐げられているシンデレラ(すみれ)にとって、華やかなダンスホールで素敵な異性と共に語らいながら過ごす時間は、これまでの人生の中でも絶頂と言えるものだろう。それは、シンデレラという容姿と、それ以上に美しい心を持ち合わせた女性と出会えた王子もまた同じだ。

観客たちは、二人の魅せるシーンに心惹かれ、静かにその名場面を楽しむ。

…が、長らく、そして良く花組の舞台を見ている客敵意をつまりコアなファンの中で、あることに気づいた者もいた。

「…なぁ、今日のマリアさん、顔が暗くないか?」

その言葉を隣にいる知人に、ある男性が呟いた。

彼の予想は、的を射抜いていた。

「…」

次は王子役であるマリアのセリフだった。だが、シンデレラの幸せに満ちた思いに対して、同じ気持ちを返さなければならない一場面なのに、マリアは何か思い詰めたような顔を浮かべたまま無言だった。

マリアの脳裏には、かつての幸せに満ちた記憶が甦っていた。

 

 

雪の降る夜の街の、誰もいない広場。街頭に照らされた彼女と、特徴的な丸いサングラスを着けた男性が、視線を合わせ、思いを交わし会わせながら、二人きりのダンスを踊る…

 

――――マリア

 

愛しい人が自分の名を、愛おしい思いを胸に呼ぶ。マリアは名を一度呼ばれる度に、更に幸せになっていく。

 

「…さん、マリアさん」

遠い場所から別の誰かが呼んでいるような、すみれの呼び掛けに、マリアは我に帰った。

「次はあなたのセリフでしてよ」

今はまだ舞台の真っ最中、集中を途切らせてしまうとは。

すぐにマリアは王子役として返しの変人をするのだが…

「あぁ、私も幸せだよ、すみれ」

シンデレラ、と呼ばなければならないのに、ここですみれの実名を言ってしまうミスを犯してしまった。

「す…すみれの花のような美しい君と踊れて幸せだ」

明らかにのどを詰まらせたような、動揺を表した口調。咄嗟に思い付いたアドリブのセリフで切り抜けたものの、マリアがらしくないミスを犯した事実は残ってしまった。

 

 

 

 

第肆話 火食鳥-クワッサリー-

 

 

 

 

「マリアが…台詞をミスした?かすみ君、それは本当なのかい?」

「ええ、由里から聞きました。日ごろから徹底したお稽古をなさっていたマリアさんにしては珍しいです。私がここで働いてから、初めてのことです。なんとかアドリブを利かせたことで、劇としては結果的に成功したと言えますけど…」

舞台終了後、客を見送った後、かすみから話を聞いたジンと大神は目を丸くした。

「信じられないな…まだ舞台に慣れていないさくらならまだしも」

「ジンさん、それどういう意味ですか?」

隣でも話を聞いていたさくらがじとっとジンを睨む。自分だって頑張ってるんだぞと言いたげな目線に突き刺され、ジンは慌ててすぐに話を戻させる。

「そ、そういえば確かに、マリアさん最近ため息が多かったな。どこか上の空って言うか。さっきも妙なこと言ってましたよね?」

ジンから視線を向けられ、大神は頷く。

「ああ、確かに…」

劇が始まる前に、大神も隊長として楽屋を訪れ、花組の一同のその日の顔を見ている。

「何か仰ってたんですか?」

「『昔の夢をよく見ることがありますか』…って聞かれたよ」

「昔の夢…」

『夢』という言葉に、ジンの頭の中に、水の中で眠っている自分が沈んでいくビジョンが再び浮かび上がる。

「それで、大神さんはなんて答えたんですか?」

「士官学校の頃の夢とかを見る時があるとか、家族や幼い頃の夢…そういったものを見るって答えたよ」

さくらの質問に、大神はそう答えた。

「でもマリアも一人の人間だ。人間である以上、誰にだって失敗はあるよ。失敗したことを責めるんじゃなくて、なぜそうなったのか考えて次に備えないと」

「そうですね。

大神さん、ごく頼りがいがありますね」

大神の、失敗に対する見解を聞いて、かすみは頼もしさを大神から感じ取った。

「でも、マリアさんって、人に悩みを打ち明けたりしない人ですから…こういう時にカンナさんがいてくれたら…」

「「カンナ?」」

聞き覚えのない名前に、三人は誰のことかと首をかしげる。そういえば、とかすみは気が付いた。

「三人はまだお会いしてませんでしたね。

桐島カンナさんは、マリアさんと同じく花組の初期メンバーの一人です。花組の中でもマリアさんと一番お付き合いが長いですから、きっと力になってくれると思うのですけど…」

 

かすみはその先に関して説明できなかった。直後に次の公演のチケットを買い求めてきた客の応対に追われたからだ。

桐島カンナ。米田やあやめなら間違いなく知っているはずだ。そう思って、ジンはまず、支配人室にいる米田のもとへ向かう。

あやめはこの日、帝劇にはいなかった。話によると、花やしき支部にて、そちらに身を置いている別の花組隊員を呼び寄せるための手続きのために外出中とのことだ。今、マリアの憂いやカンナという人物について話を聞けるのは米田だけだ。

「おや、ジンさん。支配人に何か御用ですか?」

だが支配人室に来たところで、ジンは向かい側の廊下からやってきた奏組のルイスに呼び止められた。

「あ、ルイスさん?どうしたんです」

「ちょうどよかったです。舞台の修理に人手が欲しいからあなたを呼んでほしいと、先ほどすみれさんから頼まれました。

私も手伝いたいところなんですが、別件が多くてお手伝いができないので…」

「なるほど、それならすぐに行きます」

「助かります。こういったところでも花組のみなさんのお力添えになりたかったのですが…」

「ルイスさんたち奏組には、奏組の役割があります。奏組の任務は、花組のみんなの苦労を軽減してくれてますから」

奏組の役目は、花組が出るまでもない、弱い力の降魔を討伐すること。もし奏組がいなかったら、その分だけさくらたち花組の負担が大きくなる。小さい個体から、先日も現れた魔獣クラスのビッグサイズの個体も相手にしなければならないことを考えると、奏組はなくてはならない存在だ。

「ありがとう、ございます…」

ルイスは気を使われてしまったか、と気まずげな笑みを浮かべた。

「そういえば、マリアさんが台詞を間違えたってかすみさんから聞いたんですが…」

「あぁ、それは私も知っています。ちょうどその時、私たち奏組も演奏中でしたから、途中で誰かが台詞のミスを起こした、ということはすぐにわかります。私たちの間でも、マリアさんの完璧主義姿勢は知れ渡っていますから、正直驚いています。何かあったんでしょうか…」

奏組でもマリアがどんな人物なのか伝わっており、それだけにマリアの演劇中のミスは衝撃だったらしい。

この日も、街のとある場所に小型降魔が出たため、ルイスとはこの後すぐに別れた。

さて、舞台の修理の手伝いだったな。ジンは舞台の方へと向かうが、そこでガタン!と大きな物音を耳にした。

「!」

舞台の方から聞こえた。何かあったのだろうか。急いで駆け出していくと、舞台の太い柱が倒れかけ、それを大神が必死こいて倒れぬよう支えている姿が真っ先に見えた。他の花組の面々も集まっている。

「お兄ちゃんファイト!」

「少尉、決して放してはなりませんわよ!!」

「うぐぐぐぐ…お、重い…!!」

アイリスとすみれの応援も受けつつ気張る大神だが、既に限界が近そうだ。

「大神さん、もう少しだけ耐えてください!上からロープで釣り上げますから!」

「た、頼むぞ…さくらくん」

さくらが高台からロープを持って大神を助けようとするが、さくらが引っ掛けようとしたところで、ついに大神に限界が来てしまった。

「ぬうう…もう…だめ、だ…」

大神から力が抜けてしまい、柱が倒れだした。

「いけない!」

ジンはとっさに走り出した。せめて大神を柱の下から突き出さなければ。だが、あまりに重い柱の方が倒れる速度が速すぎた。

ジンが追いつく前に、重い柱が彼を押し潰して…

 

……と思っていた時期が皆にもありました。

 

ただ一人を除いて。

 

「おいおい、大丈夫かよ?隊長さんよ」

「へ?」

いつまでも衝撃が襲ってこず、聞きなれない声を耳にして大神は目を恐る恐る開け、ジンは足を止め、花組の面々はその声の主を目で追った。

長身の大神やマリアよりも高く、赤い髪に鉢巻を巻いて、日焼けした小麦色の肌、そして力強くも女らしさを失わない魅力を放つ女性が、大神を押しつぶそうとした柱を軽々と片手で支えていた。

「そこのあんた、早くロープで上げてやんな」

「え?あ、はい!」

赤髪の女性に言われ、さくらはすぐさまロープを巻いて引っ張り上げる。とはいえ、大神でも支えきれないほどの重さ。すぐにジンも駆けつけ、彼女と一緒に柱をロープで引っ張り上げた。

「ふぅ…助かった」

「大丈夫ですか大神さん!」

さくらが、腰を下ろして一安心する大神のもとに駆け付ける。

「あれくらい片手で十分だろ。だらしねぇなぁ」

赤髪の女性はニカッと笑いながら大神を見下ろす。

「あ、あの…君は?」

降りてきたジンが、見覚えのない女性に何者かを問うと、彼女のもとにアイリスが人懐っこく駆け寄ってきた。

「カンナ!!」

「か、カンナさん…」

どこか引き気味ですみれも彼女の名を呼ぶ。

「カンナって…もしかして!」

かすみが言っていた。マリアには、同じ花組の最古参メンバーがいると。もしやこの女性が…すみれに目を向けると、やや気まずげにすみれは頷いた。

「え、ええ。彼女は桐島カンナ。一応…花組のメンバーですわ」

「一応ってなんだよ一応って。…まぁいいか。よう、ただいま!」

「おかえりカンナ!!」

「アイリス~!はは、前よりも背が伸びたんじゃないか?」

親戚と久しぶりの会合に喜ぶように、カンナはアイリスを抱き上げて高い高いした。高く持ち上げてもらってアイリスも喜んでいる。

「見ない間に、顔ぶれも増えていったな。あんたは確か…」

「俺は大神一郎。花組の隊長をやっているよ」

「へぇ、やっぱりあんたが隊長さんか。米田支配人から聞いてるぜ」

自己紹介をした大神に、カンナは手を伸ばして握手し、自分もまた自己紹介をする。

「聞いてると思うが、あたいは桐島カンナ、花組の隊員沖縄桐島流空手の二十八代目継承者よろしくな!んで…そっちのあんたらは…」

彼女は次に、さくらとジンの二人にも目を向ける。

「春に、花組に入隊しました真宮寺さくらです!よろしくお願いします、カンナさん!」

「おう、よろしくなさくら」

さくらとも握手を交わし合うと、カンナはすみれにニヤケ顔を向けてきた。

「ライバル登場ってわけだな。こいつはうかうかしてられねぇな、すみれ」

「ちょいと…どういう意味ですのカンナさん?私がこんなド新人に遅れるとでも?」

「へっへっへ…帝劇のトップすたぁなんて言えるのも今のうちかもしんないぜ?」

まだ入隊したての身であるさくらと比べられたのが不本意らしく、目を吊り上げるすみれに対し、カンナは挑発的な笑みを崩さない。

「ああもう、二人とも喧嘩しちゃダメだよ!」

「へへ、悪い悪い。すみれと話すのも久しぶりだからつい、な」

「ふん…」

二人の間に漂い出した な空気を不快に感じてか、アイリスが二人を咎める。ケタケタ笑うカンナに反して、すみれは面白くなさそうにそっぽを向いた。

「で、最後にあんたが…」

カンナは次に、ジンの方へと目を向ける。

「米田…ジンといいます」

「米田…!そっか、あんたが米田支配人の…」

同じ苗字ということもあり、彼女は目を丸くしながらジンを凝視する。

「意外だったぜ、まさか米田支配人に子供がいたなんてよ」

「養子ですけどね」

カンナにとっても、米田が実は子持ちだったという事実は驚きだったらしい。ジンは謙遜するように一言付け加えた。

「相変わらずね、カンナ。ずいぶん遅かったけど、無事に帰ってきてくれてよかったわ」

他の花組の会話を聞きつけてか、マリアが彼らのいる舞台へ来訪した。

「おぉ!マリアも久しぶりだな!いやぁ、実は沖縄から乗ってきた船が妙な事故を起こして沈没しちまってさ。帝都まで泳いできたんだ」

「「沖縄から泳いで!!?」」」

船の沈没に巻き込まれる。そんなことがあっては近くに別の船でも通りがからないかぎり、まず助からないはずだ。だというのに、彼女は沖縄から帝都までの長距離…大日本帝国の本州の半分近くの距離を泳いで渡ってきた。事実なら、もはや人間離れしているとしか思えない。

「方角も途中で分かんなくなってさ、たどり着くまで大変だったもんさ」

なのに後頭部を撫でながら大声で笑い飛ばすカンナ。

「そのまま海に永住して海賊王でもやってらっしゃればよかったのではなくて?」

「にゃんだとぉ?なんだってあたいが海賊王なんかにならなきゃいけねぇんだよ」

(海賊王…ねぇ…)

嫌味をふっかけるすみれと、それを受けて憤慨するカンナのやり取りを聞いて、なぜかジンの頭の中に麦わら帽子に赤いノースリーブを着たカンナの姿が浮かび上がる。

…なぜだろう。あまり違和感がない。いっそそれを題材にした新たな舞台でも見せられるのではないかとさえ思った。

「あ、そうそう、帰ってきた記念に飯、あたいの方で作っといたぜ。」

「わーい!カンナの料理久しぶり~!アイリス、ちょうどおなか減ってきた!」

カンナの手料理と聞いてアイリスがはしゃぎだす。彼女の反応から察するに、結構な腕前とみられる。

「沖縄料理と上海料理を組み合わせたスペシャルな奴だ。うまいぞー!」

楽しそうにいうカンナだが、すみれは話を聞いてぎょっとした。元々実家が神崎重工という財閥でもあるすみれ。料理に関しても口うるさいが、見識の幅もまた広い。それだけに、ヘビーな組み合わせを耳にしてげんなりとしている。

「へぇ、それは楽しみですね。僕は初めてだ」

「俺も上海料理とかは口にしたことがないな」

「あたしもちょっと興味ありますね。どんな料理かしら」

記憶がないせいか、ジンは逆にアイリスと同じ反応だった。そんな彼に同調した大神もまた興味を表している。

「ほ、本気ですのあなたたち…?」

普段なら知識不足(といってもさほど大したレベルではないが)な大神たちや、記憶のないジンを「まだまだ見識の幅が狭いですね」と一言嫌味を言うところだが、少しだけそんな彼らを、すみれはこの時ばかりは羨ましく感じた。

「本当に、相変わらずね」

カンナの性格をわかってか、ふぅ…とため息交じりにマリアは微笑していた。

 

 

 

 

米田は、屋根裏部屋に上がっていた。

帝劇の一番上にあるこの場所は華撃団専用の書庫としても機能しており、いくつもの古書を含めた本が棚に並べられている。

「ジンの奴、もっといい部屋を用意してやれるってのに…物好きなもんだぜ」

米田は、屋根裏部屋の一角にある、一か所の窓の前に取り囲むように張られた天幕を見る。その場所はジンが個室として利用している場所だが、個室とするにはどこか貧乏くさい印象だ。金持ち出身のすみれから見たらとても住みたいと思えるものでもないし、彼女でなくてももっといい部屋で過ごしたいと思うはずだ。それでもジンがここを選んだのは、『夜の星が一番よく見えるから』という意見からだった。彼は、夜の星を見るたびに不思議と懐かしい気持ちになる。

まぁあいつの部屋のことはいつでも考えられる。まずは調べものだ。そのために来たのだから。

米田は、目星のある古書を何十冊も棚から引っ張りだし、読み漁っていった。

 

 

太正6年、満鉄地獄。三つ葉重工による大量の軍需物資横流しが発覚した事件

旧幕府の重役の血筋でもある鈴木太平、倉場富三郎逮捕

翌年の太正7年。魔装機兵出現

魔装機兵は、怪蒸機の中でも恐るべき能力を持った機体である。

 

徳川幕府の残党が魔装機兵の製造に携わっていたのは間違いなかった。だが、まだわからない。それらを裏で糸を引いていたのが誰なのか。

 

米田は偶然にも一冊の本に目を止める。江戸時代の、かなり古い古書だ。

その見開かれたページに、覚えのあるものがあった。

「こ、こいつは…」

その古書のページにて描かれていたのは……

「こいつは…脇侍!?」

帝都にて幾度も事件を引き起こした怪蒸機。花見を行った上野公園でも暴れていた『脇侍』だった。

 

 




サクラ大戦本編では、シンデレラ役はさくらが引き受けてますが、こっちでは当初はすみれが担当…という形にさせています。後に元通りさくらに演じさせようとは思ってますが。

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