ULTRASEVEN AX ~太正櫻と赤き血潮の戦士~   作:???second

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1-2 彼の名は

帝劇の地下で、謎の少年の目覚めを見届けた後の米田たちは…。

「それで!一体誰なんですの、この殿方は!」

支配人室にて、すみれの怒鳴り声が響く。今ここには、米田とすみれ・マリア・アイリス、そして最後に例の少年がいた。

「あ~すみれ、そう騒ぐな。せっかくの花型女優の顔にしわがよるぞ」

米田があまりの剣幕で詰め寄ってくるすみれに、適当なことを言って話を流そうとするが、すみれはその程度で怯むどころか、寧ろ腹の立つことをいわれて余計にいきり立ってしまう。

「誤魔化さないでくださいまし!」

「すみれ、落ち着きなさい。米田支配人のお話を聞きましょう」

どうも、偶然にも少年の裸を見せられたのが恥ずかしかったのか、それとも変なものを見せるなと腹を立てているのか…いや、恐らく両方だろう。とにかくそのせいで興奮気味のすみれは治まる様子がない。マリアが背後から彼女の両肩を掴んで押し黙るように言うと、今度は自分が米田に質問する。

「それで、支配人。彼は一体何者なのですか?地下であなたがあの少年に向けた口ぶりと、彼があのカプセルで眠りについていたところからすると、米田支配人にとって重要な人物であることは想像に難しくありません。ですが、ゆえに普通とは思えません。ご説明をお願いします」

マリアの目もどこか迫力を孕んだものとなっている。自分にも知らされないままだったのが、何か不満だったようにも見受けられる。

「そ、そうだな…お前らにはまだ話していないままだったが、いずれ話すつもりでいたんだ」

ふぅ…と呼吸を整え、米田は少年が何者なのかを告げた。

 

「あいつはな…俺の養子だ」

 

「「え?」」

 

 

 

えええええええええええええええええ!?

 

 

直後に、支配人室にいる女性陣たちからの驚きの声が上がった。

 

 

その後、米田からの説明ではこうだ。

少年の名前は、『米田ジン』。米田はジンの実の両親とは昔ながらの友人であったのだが、海外への渡航中に起きたとある海難事故で亡くなったジンの実の両親に代わり、自分が養子として引き取って育てたのだという。

元々米田は、花組の知るところでは現時点でも独身で、一度も結婚したことがない。

かつては軍人だったらしいが、現在は前線を退いていて、結婚をしないままこの帝劇の支配人の仕事をしている。なのにいきなり、養子とはいえ子供がいるだなんて、周囲を驚かせて当然といえよう。

「あんまりにも酷い事故でよ。そんときそいつもこん睡状態に陥ったんだ」

「それで、あのカプセルの中で回復のときを待たせていたのですね」

マリアが少し納得したように言った。

「でしたら、そうだったらそうだとあらかじめ仰ってくださってもよかったのではないですの?」

隠し事をされたことが癪だったのか、すみれが不服そうに言った。

「隠してて悪かったな。ちゃんと話すつもりだったが、きっかけがなかなかつかめなくてよ」

「このことは、カンナたちも知っているのですか?」

「いや、あいつらにも知らせていねぇ。知ってるのはここにいる全員と、『あやめ』君だけだ」

マリアからの問いに米田は首を横に振る。他にも何人か、彼女たちの仲間に当たる人物がいるようだ。

「あやめさんもご存知だったのですか!?」

一方で、自分が『ジン』と名を呼ばれた少年は、困惑した様子だった。

「『ジン』…?それが僕の、名前…?」

ジン…自分の名前らしき言葉を教えてもらったまではよかったのだが、それが自分の名前だという事さえも、少年は実感が沸いて来なかった。

「ジン、無理に思い出そうとすんな。頭に響いちまうぞ」

「支配人、もしかして彼は…」

マリアがジンを見ながら、一つの確信を抱く。さっき彼を始めてみたときもそうだったが、間違いないだろう。

「ああ…だろうな」

米田も、気を落とした様子で頷いた。あの米田をここまで落ち込ませる、それほどショックだったことが伺える。

「支配人、この殿方どうなされたというのです?」

すみれはジンの様子に困惑した様子を見せた。

「…見えない」

アイリスがジンを見て、答えを口にした。

「見えない?アイリス、わかりやすく言って頂戴」

「このおにいちゃんから…なんにも見えないの。何もかもが、すっぽり抜けている」

「やはり…」

マリアは納得したように呟いた。

「すみれ、彼には…記憶がないのよ」

「記憶がない…記憶喪失、ということですの?」

「ええ。アイリスもそう言ったのなら、間違いないわ」

記憶喪失、言葉で聞いたことくらいはあっても、実際にこうして発症した人間を見ることになるとは思わなかったことだろう。

「でも、記憶がないのなら、この帝劇におくよりも、病院に入院させておくべきだと思うのですが」

「いや、俺はこいつをこの帝劇に置いておきてぇ。俺は義理とはいえ、こいつの親父であることを決めたんだ。息子の面倒を見るのは、親として当然のことだ。お前らをこうしてこの帝劇においているようにな」

マリアからの勧めを断り、自分の固い決意を明かした米田の目に、ためらいも迷いもなかった。

だが、すみれが反対意見を出してきた。

「支配人、私たちは帝国歌劇団、つまりお客様に舞台を見てもらうための存在ですわ!マリアさんの仰るとおり、病院で診てもらうべきでなくて?」

すみれの言うとおりだ。いくら我が子が記憶喪失とはいえ、ここは医療機関ではなく劇場だ。専門医のいる病院で診てもらった方が、邪魔にならないし彼の回復だって早いはずだ。

しかし、米田は首を横にふり、決してこいつをここから引き離すつもりがないことを視線のみでアピールした。

「…てこでも動くつもりはないということですのね」

米田をここまで意固地にさせるこの少年。すみれとしても気になりはするものの、だからといって甘えさせるのもいかがなものだろうか。

「すみれ、いじわるいわないで助けてあげようよ。このおにいちゃん、本当に何も覚えていないんだよ?」

アイリスもすみれに一緒に助けてやろうと促してきて、少しため息を漏らしながらもすみれは降参した。

「…わかりましたわ。とりあえず帝劇に置くことには私も了承いたしましょう」

「すまねぇなみんな。でも、今のこいつはまっさらな子供のようなもんだ。仲良くしてやってくれ」

「……」

すみれは再びジンの顔を見る。

まぁ、これといって顔立ちがよいというか…不細工顔というわけでもなく、かといってハンサムといえるほどの顔ではない。普通だ。しかし記憶がないという症状からか、今の彼はまるで何も知らない無垢な子供のようにも見える。見た目は自分よりも少し年上くらいに見えるのに、演技にしては出来過ぎているものだ。

「えっと…あの、僕は…」

黙って話を聞いていたジンが、ここで口を開いてきた。

「そう固まんなよ。今聞いたとおりだがジン、お前は今日からこの帝劇で預かることになった」

「…いいん…ですか?ご迷惑じゃないんですか?」

少し弱々しい口調でジンが問う。確かに自分には、自ら引き取ってくれるという米田以外に身寄りがない。彼らに頼る以外に選択肢がないのだ。それでも、迷惑をかけることはよしとできない。

「迷惑なもんかよ。記憶を失う前のお前さんには、俺も世話になってたからな。今度は俺が助けてやりたいんだ」

米田はジンに、親戚のおじさんのような朗らかな笑みで言った。

「…わかりました。どの道どこにいけばいいのかなんてわからないし、ここに留まらせていただきます。お世話になります。えっと…」

そういえば名前をまだ聞いていなかったことにジンは気づいた。

「俺は米田一基。この大帝国劇場の支配人で、戸籍はお前の親父だ。本当の父親のつもりで接してかまわねぇぜ」

「あ、いや…いきなりそういわれても…」

米田が自分のことを父と思うように、というものの、記憶を失っていて周りの要素をどう受け止めるべきか戸惑いを覚えたままのジンにとって、すぐに米田を父と呼ぶことはためらいがあった。

「まぁ確かにすぐに親父と呼べといわれても、呼べるとは思えねぇ。そこは時間をかけてなんとかするっきゃねぇな。

そうだ、せっかくだからここにかすみ君たちも呼んできてくれ。ジンに自己紹介してやりてぇからな」

「了解しました。私が呼びに行きましょう」

マリアが、ここにはいないメンバーも呼びに一旦支配人室を後にする。

そしてほどなくして、ジンからみて少し年齢が上に見える女性二人とそばかすが特徴的な少女一人がマリアに連れてこられた。

見ず知らずの少年が支配人室にいるという状況に椿たちも困惑したが、妻子のいないはずの米田の口から、彼が養子であるなどの事情を告げられ、より一層驚愕したものである。

「高村椿です。帝劇の売店で売り子さんをやらせてもらってます」

「あたしは榊原由里。来賓用カウンターにいるわ。よろしくね」

「私は藤井かすみ、事務室にて勤務しております。困ったことがあったら、いつでも来てくださいね」

「マリア・タチバナよ。帝国歌劇団・花組のリーダーを勤めさせてもらってるわ」

「同じく、帝国歌劇団のアイリスです。この子は、熊のジャンポール。よろしくね、ジン♪」

「はじめまして、私はこの大帝国劇場のトップスタァ、神崎すみれですわ。以後、お見知りおきを」

一気に自己紹介され、ジンは少し混乱した。なんとか頭の中で整理し、顔と名前を覚えていこうと躍起になる。

「えっと…椿、ちゃんに…由里さん…かすみさん…アイリスちゃん…マリアさん…あと……『つ』みれ、さん?」

まだボーっとしてよく記憶しきれなかったのか、思わずジンはすみれの名前の一文字目を間違えて発音してしまう。

「す・み・れ!神崎すみれですわ!まったく、人の名前も覚えられないなんて、レディに対して失礼じゃありません事?」

名前を間違えられ、彼女…神崎すみれは憤慨した。しかし一方で、周囲の女性陣は米田も含め、笑いをこらえきれずに噴出してしまう。もちろん、すみれは「何を笑ってらっしゃるの!」と、より膨れっ面を晒したのは言うまでもない。

 

(…軍部の奴らにも、付け狙われねぇようにしねぇとな)

その一方で、米田は心の中であることを心に誓っていたのは誰も知らない…。

 

 

 

 

 

 

 

…オンキリキリバサラウンバッタ

 

 

 

 

 

オンキリキリバサラウンバッタ

 

 

 

 

オンキリキリバサラウンバッタ

 

 

 

 

 

 

オンキリキリバサラウンバッタ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オンキリキリバサラウンバッタ…」

暗がりの闇の中、一人の男がいた。

ほんの数本のろうそくの炎で照らされ、長い銀髪をなびかせながら、青い装束をまとうその男は、目の前の岩肌の地面に刻み込まれた大きな紋章の前で怪しげな呪文を唱え続けていた。

紋章の向こう側には、怪しい雰囲気を出している石碑が立っている。

その石には、漢字で何か文字が書かれているようだが、暗くてよく見えなかった。

彼が呪文を唱え続けていると、紋章に光が宿り始める。光が強まるごとに、石碑にヒビが入っていく。

やがて、石碑はダイナマイトでも仕掛けられていたように爆発を起こした。

粉々になった石碑の立っていた場所から、人影が見えた。青い装束の男はその人影に注目する。

現れたのは、ぼろぼろの服を着、年老いた姿をしていたが、奇怪かつ強大な邪気を放つ老人だった。

 

男は、ニヤリと口を曲げて不敵な笑みを浮かべた。

 

そして彼の背後に、一人二人…いや、何人もの、人の形を成していない影が集まっていた。まるで、その男に付き従うかのように。

 

 

 

 

この世界に…数年近くもの長きに渡る戦いの時代が訪れようとしていた。


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