鷲巣-Washizu- 宿命の闘牌   作:園咲

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お待たせしました大将戦開始です。


牽制

 清澄高校大将宮永咲は勇みながら通路を歩き対局室へ向かっていた。

この決勝戦を勝てば全国出場が決まる。清澄の皆は頼もしくここまでトップでバトンを渡してくれた。

 咲にはどうしても全国に行きたい理由があった。

それは疎遠になってしまった姉、宮永照と再会し仲直りすること。照は団体戦二連覇中の全国ランキング一位の白糸台高校の先鋒を務めている。まず間違いなく予選を抜けてくるだろう。

 対局室の入口まで連れてきてくれた副将の和と別れを告げる。

 咲は2番目に対局室に着いたらしい。既に卓についていたのは猫耳が似合いそうな黒髪の少女。よろしく~と挨拶してきたのは風越の大将池田華菜だ。

卓上には4枚の牌。うち一枚、西がめくられている。咲は残った三枚のうち右側にある牌をめくり、見えたのは東。起家ということになる。

咲は池田の対面の席に座って残り2人を待つ。

 

(勝つ…モモのためにも…)

 

 そう意気込むのは咲に続いて姿を見せた鶴賀学園大将加治木ゆみ。

先程の副将戦で結果的に鶴賀学園は大きく失点し後退。ゆみとしても計算外のことであった。モモの唯一の弱点をあれだけ的確に突かれるとたまらない。

副将戦後しばらくして姿を見せたモモは泣いていた。ここまでチームが調子のよかっただけに水を差してしまった責任を感じていた。

ただただ謝り続けるモモに対してよく頑張った、相手がうまかったんだと励まし、その後必ずまくり切って優勝すると約束してしまった。

だから…負けられない。

 

(ラス親か…ついてるな)

 

 ゆみがめくったのは北。ラス親はいろいろと都合がいい。点数に関係なく上がることができ、飛び終了という例外を除けば逆転不可能という状況にはならない。

対局室には自分を含めて3人。既に座っているのは風越の池田、清澄の宮永のはず。となるとまだ来ていないのは龍門渕のようだ。

対局者について考えていたゆみだったが、それは強制的に遮断される。突然恐ろしい寒気がゆみを襲った。冷房も大して効いておらず寒くもないのに鳥肌が立つ。

 例えるなら心臓を冷えた両手で鷲掴みされたような悪寒。

 慌てて辺りを見渡すと咲が僅かに震えていた。どうやら彼女もなにかを感じ取ったらしい。対して池田は微動だにせずこちらを不思議そうな目で見つめている。何かあったのかと聞こえてくるような目だ。大物なのか、ただ鈍感なだけなのか判断に苦しむ。

 

「…儂が最後か。そんなに遅れたつもりはないが…」

 

(こいつが龍門渕の大将…か)

 

 いつの間にか白髪の少女が入ってきていた。

 恐らく悪寒の元凶がケタケタと笑いながら残された最後の椅子に座る。鷲巣は自動的に南家となった。

その嫌悪感は鷲巣が席に着く頃には収まったがゆみは嫌な予感が拭えず、本人は気がつかなかったが額には冷や汗がすっと流れていた。

 

(天江…逃げたな!そんな奴とは思わなかったし!)

 

 西家の風越池田華菜は雪辱に燃えていた。昨年天江衣に倍満を振り込んでしまい逆転負け。大会後しばらく部に泥を塗ってしまった…と華菜は自責の念にかられていた。

キャプテンこと福路美穂子がいなければ重みに耐えかね、退部してしまっていたかもしれない。今年は天江を倒しキャプテンを全国まで連れて行く。それがキャプテンに対する何よりの恩返しだと思っていた。

しかし蓋を開けてみれば肝心の天江衣は副将。大将には聞いたこともない1年生が入っていた。最初聞いたときは肩透かしを食らったような気分だった。しばらくして華菜は激昂した。

 

(清澄と龍門渕の1年坊!悪いが…大将戦は華菜ちゃんの大逆転と決まってるんだし!)

 

それぞれの思惑が交錯する中、親である清澄宮永がサイコロを回す。配牌も終わり大将戦が始まった。

 

大将戦前半戦東一局 親・清澄 ドラ・{4}

東家 清澄   126600

南家 龍門渕  116400

西家 風越女子  76000

北家 鶴賀学園  81000

 

『大将戦スタート!あと半荘2回で全国へ出場できるたった1校が決まります!清澄高校が逃げ切るのか、はたまた他3校がまくることになるのかー』

『個人的には龍門渕に注目だな。どんな打ち手なのか分からん。ああそうそう…他にも愉快な打ち手がいるな…』

 

 それはどういう事でしょう?と実況が聞き返そうとする。しかし藤田は対局の方に目を向けてしまったので聞くことができなかった。

あなた解説でしょ…と実況が心中で毒づく。ここまで解説中にカツ丼を食べたり、寝たりするのを我慢していたがこれが決め手となった。

来年は違う人を呼んでもらおう…と心に決めた瞬間だった。

 

七巡目

 

ゆみ手牌 

{234赤5678八八八⑥⑦⑧} ツモ {9}

 

(張った…打点も高い上に三面待ち)

 

 八萬切りでリーチをすれば高めでメンピン一通ドラ2の跳満。そしてなにより1、4、7索の三面待ち。ツモにも期待できる。

普段ならダマで放出を待つところだがこの点差である。前にでないと勝てないだろう。

 

「リーチ」 打 {八}

 

 加治木ゆみからのリーチ。トップを走っている宮永咲としては慎重に打たねばならないところだが…

その直後に咲はカンを宣言し、ツモってきた牌を加えて4枚3筒を晒す。その後咲は自山にある王牌の新ドラ表示牌をめくる。新ドラは6索となった。

これには華菜もゆみも困惑せざるを得なかった。

 

(カン…?ドラが1枚乗ったのはありがたいが…ツモられるのが怖くないのか?)

 

 普通他家のリーチ後に暗槓をするのはリスキーな事この上ない。上がられた場合、新ドラに合わせ裏ドラも増え相手の打点を引き上げることに直結する。

ましてや咲は親。ゆみにツモられでもしたら親かぶりを食らう。しかしこの東一局はゆみの思惑とは別にすぐに終わることとなる。

 

嶺上開花(リンシャンカイホー)ツモ」

 

咲手牌 

{一二三②④赤⑤⑥888} ツモ {②} 副露 {■③③■}

 

「3200オールです」

 

(…!)

嶺上開花(リンシャンカイホー)だと…)

(やはり…か)

 

 滅多に見ることのない嶺上開花での和了。3200オールというのも聞きなれない。せいぜい七対子くらいだろう。

この和了を受け、華菜とゆみは薄気味悪い思いをする。その表情から少なからず動揺が見られる。

 一方清澄の1回戦を直に見ていた鷲巣は咲にカンをされた時点で嶺上ツモで和了られることを予測していた。その対局でも宮永咲は嶺上開花を何度か決めていた。流石に偶然では片付けられないだろう。

 

東家 清澄   137200(+10600)

南家 龍門渕  113200(ー3200)

西家 風越女子  72800(ー3200)

北家 鶴賀学園  76800(ー4200)

 

大将戦前半戦東一局一本場 親・清澄 ドラ・{⑨}

 

「ツモ…500・1000は600・1100だ」

 

ゆみ手牌 

{4赤5八八⑥⑦⑧} ツモ {3} 副露 {横二三四 横⑧⑥⑦}

 

 続く東一局一本場はゆみが鳴きを駆使し、捨牌が二段目にもいかない五巡目にタンヤオドラ1をツモ和了った。

二度両面チーまでしての早和了。トップの清澄の親を流すためとはいえ若干急ぎすぎているとゆみ自身も自覚していた。

面前で打てばいくらでも高くなりそうな手であったのにあえて鳴いていった。それにはある事情があったからである。

 

鷲巣捨牌

{34⑧四一}

 

(龍門渕の捨牌が不気味すぎる…)

 

 序盤から中張牌のみを切っている。順当に考えたらチャンタ系かピンズの混一色…しかしゆみにはあの役満が頭をよぎった。考えすぎなのかもしれないが、万一ということもある。

よってこの局は打点ではなく早く和了ることだと決めたのだが…龍門渕に誘導されたのかもしれない。いささか強引な読みだったと少し後悔していた。

 

(迷いなく和了ってくるか。確か加治木といったか…なかなかに鋭い)

 

鷲巣手牌 

{一二九①⑨199東北白発中}

 

『龍門渕鷲巣、国士成就ならず!配牌から十種十牌だったんですが…惜しかったですね』

『イーシャンテンまで進んでいたな。清澄と風越は形になるまで時間のかかる重い手だった。鶴賀が全うに手を進めていれば先に和了れていたかもしれん』

 

 藤田が気になっていたのは鷲巣の様子だ。大物手を逃したというのに一切顔に出さず手牌を伏せた。プロでも役満手を安手で潰されると僅かに顔に出るものだが…藤田はまだ鷲巣という雀士を掴めずにいた。

 

東家 清澄   136100(ー1100)

南家 龍門渕  112600(ー600)

西家 風越女子  72200(ー600)

北家 鶴賀学園  79100(+2300)

 

大将戦前半戦東二局 親・龍門渕 ドラ・{⑧}

 

十巡目

 

(…!張った!それに高い!ツモれるかもしれないしリーチかけたいところだけどさ…ここは確実に和了っておきたいね!)

 

華菜手牌 

{三四赤五六七赤577⑤⑥⑦⑧⑧} ツモ {6} 打 {7}

 

 この局は南家である池田華菜に大きい勝負手が入った。ソーズの嵌張が埋まり絶好のテンパイ。二、五、八萬の三面待ち。この流れに乗っていつもの華菜ならリーチと打って出ただろう。

 だが華菜はダマを選択。リーチをせずともタンピンドラ4の跳満確定。高めで三色がついて倍満。華奈は和了率など考えるタイプではないがここはダマで和了を狙うのが最善だと考えたようだ。

 

咲手牌 

{78五六七八八八③⑤⑦⑧⑨} ツモ {④}

 

 同巡咲もテンパイ…しかし両面待ちにとる五、八萬はどちらも華菜の当たり牌。実況も含め誰もが振り込むと思っていた。

 

(私の次のツモは…)

 

「リーチ」 打 {7}

 

咲捨牌

{9西1一三白}

{①⑨4横7}

 

 咲は両面にとらず8索の単騎リーチを選択。8索は捨牌に2枚見えていて、つまり地獄単騎待ち。別に華菜の当たり牌を読んだわけではない。

 結果的にそうなっただけだ。それに咲には次巡和了ることが出来るという確信があった。しかしその直後咲にとって想定外の事態がおこる。

 

同巡

鷲巣手牌 

{二二二三四2467②③④④} ツモ {二}

 

(4枚目の二萬か…ちょうどいい。偶然条件も揃っておるしな…)

 

「カン」

(…!?)

(またリーチ後にカン!?って高めの筋が死んだし!)

 

 鷲巣は二萬を4枚晒してカンを宣言、嶺上牌へ手を伸ばす。これに慌てたのは咲と華菜。次順ツモるはずだった嶺上牌を掻っ攫われてしまった。

 華菜は華菜で高めの当たり牌が一気に4枚も消えてしまった。和了り目はまだ残っているとは言え辛い。

 そして新ドラ表示牌は一萬。つまりもろ乗りで親のドラ4確定。

 その後の鷲巣の嶺上ツモは8索。有効牌であり切るべき牌ではないが…なにを思ったのか手牌に入れることなくそのままツモ切った。

 

「ロ…ロンです!」

 

咲手牌 {8五六七八八八③④⑤⑦⑧⑨} ロン {8}

 

 その8索が咲の当たり牌。咲は露骨に安堵した様子で手牌を倒して晒した。裏ドラは六萬と中が見え、1枚乗ってリーチドラ2。5200となる。

鷲巣のこの局の目的は咲の和了系を見ることにあった。鷲巣は思い通りに事が運んでいることに思わずにやけつつ咲に点棒を支払う。

そしてこの局を裏側から見ていた実況室や観戦室では困惑が広がっていた。観戦室では鷲巣の打牌について野次る者さえいる。鷲巣の真の目的が分かった者は極々少数であった。

 

『ど…どういうことでしょうか…私には今の局鷲巣選手に少し違和感を感じたんですが』

『ああ…なるほどな』

 

 どうやら藤田は理解できたらしい。そしてこの困惑は各高校の控え室にも広がっていた。

せっかくの親番でドラ4が確定したというのに…まるで差し込んだようにも見えた。

 しかし差し込みは飛び寸前の相手に対してやったり、大物手を潰す為などにするものだ。この局面でトップの清澄に差し込む必要性を感じない。

 

「なんですのその打牌はー!」

「衣は分かったぞ…衣和緒の狙いが。まさかそんなことをするとは」

「どういうことですの衣!」

 

 もちろん龍門渕高校も例外ではない。控え室で再び透華が喚いていた。その中で衣が鷲巣の目的を察していた。当然龍門渕一同が衣に詰め寄る。

衣は少し息苦しそうだったが落ち着いて説明に入った。

 

「う、うむ。つまり衣和緒は清澄の嶺上開花が偶然か必然かを見極めにいったのだ」

「…?」

「えーと…例えば…」

 

 その言葉だけでは理解できなかったらしい。透華を始め、一同の頭の上に?マークが浮かぶ。衣は簡単に例を上げることにした。それは東一局、咲が嶺上開花で和了った局である。

 

「東一局の清澄の和了系はこうだった」

 

咲手牌 

{一二三②④赤⑤⑥888} ツモ {②} 副露 {■③③■}

 

「これを見て透華はどう思う?」

「どうって…ナンセンスですわ!リーチが掛かっているというのに暗槓だなんて…」

 

 前述の通り他家のリーチ後の暗槓はリスキーである。それにこの形暗槓する前から好形で張っていた。

 

{一二三②③③③④赤⑤⑥888}

 

 1、2、4、7筒の四面待ち。十分ツモ和了に期待出来る。

しかしここでリーチをかけていたらその後ツモってきた3筒が待ちが変わるため暗槓出来ず、ツモ切りするしかなかった。

つまり近いうちに3筒をツモリ、カンをして2筒単騎を引いてくる確信があったのだろう。だがこれはあくまで想像だ。確実にとは言い切れない。

 

「確信を持つためにこの局で衣和緒は無理やり暗槓をしたんだ…と思う」

「はあ…」

 

 しかしこのまま鷲巣が和了ってしまえば咲の手を見ることは出来ない。なので差し込んででも和了らせる必要があった。

 

「それに次の清澄のツモは衣和緒の山だ。余り褒められた行為ではないが…恐らく()()だろう」

「覗く…?」

 

***

 

「よし!龍門渕から直撃だ!」

「咲ちゃん絶好調だじぇ!」

 

 清澄高校の控え室。ここでは唯一の男子部員、須賀京太郎と独特の語尾で話す先鋒、片岡優希がテレビを見つつ盛り上がっていた。

欲しかった龍門渕からの直撃で差がかなり広がった。しかしそれを遠目に見ていた中堅竹井久と副将原村和は素直に喜べずにいた。

どうにもここまでうまくいきすぎている。

 

「どう思う?和」

「今の局…明らかにおかしいです。わざと振り込んだようにも見えました」

 

 久は和に尋ねる。すると自分と同じ意見が返ってきた。

まずあの形からカンはしないだろう。あのカンは面子を潰していた。234の三色の可能性も潰している。そして8索切りも普通しない。

 まるで咲を値踏みしているかのような打牌だった。

 

(気をつけなさい咲…何か不吉な予感がするわ…)

 

(あれ…わしのセリフは…?)

 

ありません。

 

***

 

 対局室では衣の予測通り場の山を崩す際、鷲巣が次の咲のツモを覗き見る。{八}が転がった。

やはり先程の咲の手牌から考えるに暗槓出来る牌。鷲巣は確信を持った。咲は槓材がどこにあるのかを把握しており、嶺上牌が見えている…と。

 

(なるほど…確かにその力は強力だが…やはり小娘だ。まだまだ未熟…迂闊過ぎる)

 

 鷲巣から見れば咲は迂闊としかいいようがなかった。自身の力をこんなにも早く露呈してしまった。まだ女子高生なので仕方ないのだが。

特に東一局。あれがなければ鷲巣は確信とまではいかなかっただろう。分かってしまえばこっちのものだ。いくつか対策はある。

 

(なんだろう…この違和感は)

 

 咲は咲で違和感を感じていた。一番都合がいい龍門渕からの直撃をとり差は3万点を超え、安全圏といってもいいだろう。順調そのものだ。しかしなにやら嫌な予感がしていた。

 

北家 清澄   141300(+5200)

東家 龍門渕  107400(ー5200)

南家 風越女子  72200

西家 鶴賀学園  79100

 

大将戦前半戦東三局 親・風越 ドラ・{南}

七巡目

 

鷲巣手牌 

{三四五3赤56788③④⑤⑥} ツモ {8}

 

張った(テンパイ)か…待ちはよくないが問題ない…ここはリーチで…)

 

 リーチを掛けようとした鷲巣だったが、千点棒を取り出そうとしたその時手牌からある鼓動を感じ取る。リーチは待てという手牌からの声。

もっと高めが望めるのだろうか。しかしここからの手替わりなど赤ドラの入れ替えくらいだ。それを待つのは現実的ではないだろう。

 

(どういうことだ…だがしかし…)

 

 ここはリーチを自重。打6筒で3、4索のテンパイにとった。鷲巣自身は理解しきれていなかったが手牌からの声に従う。 

 

『鷲巣選手リーチするような素振りを見せましたが…思いとどまったんでしょうか』

『高めで和了りたいんじゃないか…4索なら三色がついて満貫だからな』

 

 藤田が最もらしい事を言う。確かにこの手4索で和了れば、タンヤオ三色ドラ1と満貫。ダマで放出を待つのも正解だろう。しかしこの藤田の解説は実のところ全くの的外れであった。

 

「ポン」

 

 咲が対面の華菜から切られた2索をポン。鷲巣に再びツモが回ってくる。ツモ牌を盲牌した途端鷲巣は全てを理解した。

 

(カッカッカ…そういうことか…)

 

「リーチ…」 打 {5}

 

(赤切りリーチ!?)

 

鷲巣手牌 {三四五367888③④⑤■}

 

 ここで鷲巣今日始めてのリーチ。実況席からも何を引き入れてのリーチなのか、鷲巣の手に隠れよく見えない。なぜわざわざ三色を崩してリーチを掛けたのか藤田も解説しようがなかった。

 

同巡

ゆみ手牌 {南南南⑥⑦⑧1346} ツモ {5} 打 {南} 副露 {七横七七}

 

(南は…大丈夫か)

 

 ドラの南は序盤に1枚切られている。例外を除けば振り込むことはない。ゆみは{南}暗刻を切り崩し、役なしのテンパイに受けた。

 普段なら1を切るべきところだが、ゆみには試してみたい事があった。

 そして次巡咲は2索をツモる。槓材であり嶺上開花で和了れると確信していた。

 

「カン」

 

 咲は加槓を宣言し2索を晒す。嶺上ツモに手を伸ばそうとするがそれを阻むように卓上に槍が降り注ぐ。もちろんイメージである。ゆみは待っていたとばかりに自分の手牌を倒した。

 加槓された牌が当たり牌だった場合一つの役がつく。それは…

 

ゆみ手牌 

{南南⑥⑦⑧13456} ロン {2} 副露 {七横七七}

 

「その嶺上牌取る必要はない」

「え…?」

「…聞こえなかったか。槍槓だ。そのカン成立せず…「クックック…」…なに?」

「…お主こそ聞こえておらんかったようじゃの」

「それはどういう…!?」

 

 鷲巣からの声につられ、ゆみは鷲巣のほうを向く。そして手元を見てある事実に気づいた。

 

鷲巣手牌 

{三四五367888③④⑤1}

 

 鷲巣の手牌も倒れていた。今大会はダブロンは採用していない。つまりー

 

「頭ハネ…リーチ一発槍槓…裏3で跳満12000。その和了成立せず…カッカッカッ」

「その手で赤5索切りリーチだと…」

 

 鷲巣の手が裏ドラをめくる…当然のように7索が見えた。そしてゆみをからかうように口上を真似する鷲巣であった。

 

『なんと珍しいことが起こりましたー!槍槓のダブロン!上家である龍門渕鷲巣選手の和了のみ認められます!』

『2人とも狙っていたな。途轍もない対応力だ。高校生とは思えん』

 

 鷲巣はタンヤオ三色ドラ1を捨てて役なしリーチ。ゆみは自風のドラ暗刻を切り役なしテンパイにとったことになる。偶然ならそれまでだが明らかに狙っていた。自分にあれが出来るかと聞かれても難しいと言わざるを得ないだろう。

 藤田は思わず身震いする。ここまでレベルの高い打ち合いが地区予選で見られるとは思わなかった。

 

大将戦前半戦東三局終了時点

西家 清澄   129300(ー12000)

北家 龍門渕  119400(+12000)

東家 風越女子  72200

南家 鶴賀学園  79100

 

 

 この和了で清澄と龍門渕との差が1万点を切った。対局はまだまだ始まったばかり。一体この勝負はどこに向かうのだろうか。




衣先生による麻雀教室。基本的に大将戦では衣が解説役です。
すいません。来週は投稿出来そうにないです。短期出張が入ってしまって書けないので…
追記・最初の局に3筒が5枚ありましたのでゆみの手を修正しました。
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