鷲巣-Washizu- 宿命の闘牌   作:園咲

12 / 24
 大将戦の続きからです。今後も出張は度々入るので更新出来ない週が出てきます。その場合活動報告にて連絡します。


激流

(ぐっ…頭ハネだと…)

 

 東三局が終わった対局室はざわついていた。その中でゆみは驚愕を隠せなかった。まさか自分と同じことを考える輩がいるとは。しかもなんの偶然か同じタイミング。

 そのせいで清澄の加槓を読みきった会心の和了は認められずに終わってしまった。だが…とゆみは下家に座る清澄宮永咲に視線を移す。やはり目に見えて動揺しているようだ。これでゆみの目論見通りしばらくはおとなしくなってくれるだろう。

 この点については結果的によかったといえる。

 

(こいつら…今のを狙ってやったのか!?理解できないって!)

 

 華菜もその例外には漏れず、今の和了に困惑せざるを得なかった。

 そもそも槍槓など狙って和了る役ではない。まれに多面待ちなどで偶然起こる程度だ。しかしこの2人の和了系は両方とも好形の待ちを捨てての嵌2ソウ。故に偶然とは思えなかった。自分には到底真似出来ないだろう。

 

(でもでも!華菜ちゃんは負けられないし!それにここまで手が入っていない訳じゃない…いけるはずだし!)

 

大将戦前半戦東四局 親・鶴賀学園 ドラ・{七}

南家 清澄   129300

西家 龍門渕  119400

北家 風越女子  72200

東家 鶴賀学園  79100

 

(さあ…親番だ。ここで稼がなければ…)

 

 ゆみにとってはようやく回ってきた親番。トップとの差は広がり5万点を超えている。出来ることなら連荘をして差を縮めたいところだ。それにはとにもかくにも配牌に尽きる。

 配牌は言うまでもなくその局の行方を決めるものである。字牌等が多く手が重ければ和了ることが困難になるし、逆に中張牌が多いなどの軽い配牌なら早々に張ることができるだろう。こればかりは人の手ではどうする事も出来ず、神に祈るしかない。最もそんな常識を覆す者も少ないながらもいるのだが。

 そしてこの局ゆみには後者である軽い手が入ってきた。

 

ゆみ配牌

{赤五六六七3569②③④⑦中中} 打 {9}

 

(よし!これなら…)

 

 序盤に中を鳴ければ理想的だ。ドラも2枚ある。中を対子落とししてタンピン三色に向かう手もなくはないがここは確実に上がりたい。とりあえず不要牌である9索を切りどちらにでも対応できるように構える。

 

「リーチだ…」

 

鷲巣捨牌

{北119横西}

 

 しかし五巡目、無情にも卓に供託の千点棒が投げ込まれる。声の発生源は鷲巣。先程の和了で波に乗りかけている事を証明するかのような早々のリーチ宣言。

 

(早すぎる…)

 

ゆみ手牌

{赤五六七2356②③④} 副露 {中横中中} ツモ {白} 打 {白}

 

 一方のゆみ、中を一鳴きしたものの雀頭が定まらずテンパイにはこぎつけていない。 しかし有効牌は非常に多く、そこそこ打点も見込めるイーシャンテンなのだが…それ以上に鷲巣が早すぎた。

 こちらもテンパイしたいところだったが残念ながら無駄ヅモ。ゆみはツモ切りするしかなかった。

 

「ツモ」

 

 そして一発ツモこそなかったものの、二巡後鷲巣はあっさりと和了牌を引いてきた。鷲巣は一色に染まった手牌を晒す。残念ながらゆみはたった今テンパったところで一手遅れだった。

 

鷲巣手牌

{一一一二三三四五六七八九九} ツモ {四}

 

(こんな浅い巡目でメンチン!?高め九蓮宝燈じゃないか…)

 

 一四九萬待ちの高め九蓮宝燈。しかも捨牌がほぼ手出し。つまり自然とこの形にたどり着いた事に他ならない。恵まれた配牌からすいすいっと有効牌が入り、和了った経験はあるにはあるがここまでの打点となると珍しい。

 そんなゆみの不幸中の幸いなのが、裏ドラに{北}が見えリーヅモ清一色ドラ1の倍満止まりだったことだろう。倍満に止まりという表現を使うのもどうかと思うが…裏ドラが乗って三倍満になってもおかしくなかった。それだけの気迫が今の鷲巣にはある。

 東三局の槍槓での和了も裏ドラが3枚乗り満貫以下の手が跳満に化けた。事ここに至りゆみは気づいた。

 

(清澄が怯んでくれれば打ちやすくなると思っていたが違う。この卓の最大の障害は清澄ではない…)

 

 鷲巣は思惑通りに事が進んだことに思わずにやける。これこそ鷲巣が考えた宮永咲の対策の一つである。ただ単純に咲に槓材が揃うまでに和了ってしまえばいい。言ってしまえば簡単だが、これが割と難しい。

 まず前提として素早く和了るには配牌に恵まれていなければならない。そして鳴きを加えなければならないだろう。だが鳴いた状態から高打点を狙うのは難しい。しかしそんなセオリーなどお構いなしに和了るのが鷲巣という怪物である。

 この鷲巣の倍満で龍門渕が先鋒戦以来のトップに立つ。そして東場が終了、南場へと移った。

 

南家 清澄   125300(ー4000)

西家 龍門渕  135400(+16000)

北家 風越女子  68200(ー4000)

東家 鶴賀学園  71100(ー8000)

 

大将戦前半戦南一局 親・清澄 ドラ・{6}

 

十四巡目

 

(やっとできた…さっきは槍槓されちゃったけど…)

 

咲手牌

{西西西西④④④赤⑤⑥2346} ツモ {5}

 

「カ…」

 

 この局は珍しく鳴きも殆ど入らないまま終盤を迎えていた。その中でようやく咲がイーシャンテンに漕ぎ着ける。咲が感じ取った今回の嶺上牌は7索。つまり嶺上開花で和了る準備が整ったということだ。咲は西を四枚晒し槍槓の心配がない暗槓をしようとしたが、その手は寸前のところで止まる。何やら不穏な雰囲気が不意に襲ったからだ。咲は反射的に上家のゆみの捨牌に目を向ける。

 

ゆみ捨牌

{④五②4⑨四}

{5⑧発七2東}

{③}

 

 隠す気のない国士無双の捨牌。萬子筒子索子と満遍なく切られている。暗槓は槍槓の心配がないといったが厳密にいえば間違っている。この大会では国士無双に限り暗槓での槍槓が認められている。

 それに場を見渡しても4枚切られているヤオチュウ牌が存在しない為、既に張っている可能性がある。振り込んでしまえば役満となり、32000点の大支出。トップ争いから大きく後退してしまうことになる。

 

(うっ…)

 

 咲の頭に先程の槍槓がよぎる。万一だが張っているかもしれない…振り込むかもしれない…と咲は幻想に囚われていた。少考した後、咲は暗槓をせず4筒を切った。いや暗槓()()()()()()というのが正しいかもしれない。この場面で西を暗槓しないという事はすなわちもう和了り目はない。勝負出来ないと考えオリを選択した。

 

(イーシャンテン変わらずか…)

 

ゆみ手牌

{一九九①①⑨9東南北白発中} ツモ {3} 打 {3}

 

 結論を先に言うとゆみはまだ張ってはいなかった。咲は親番での貴重な和了を逃したことになる。しかし決して咲の判断は間違ってはいない。この局面で役満に振り込むわけにはいかないし、余計なリスクを背負う必要もない。

 結局そのまま流局となる。

 

「テンパイ」

 

ゆみ手牌

{一九九①⑨19東南北白発中}

 

 テンパイを宣言し、手を倒したのは加治木ゆみ。他の3人は手を伏せる。咲は予想通りゆみが国士無双を張っていて振り込まなかったことに安堵の表情を浮かべる。親が流れてしまったがまだ龍門渕との点差はそう離れてはいない。それに次は龍門渕の親であり、ツモで親かぶりを食らわせることだってできる。

 咲の打ち筋は基本的に嶺上開花を軸としたツモり麻雀である。大明槓の責任払いという例外を除けば、狙った相手から直撃を取る機会は少ない。よって咲にとってまくりたい相手が親番の時こそがチャンスなのだ。ここは気を引き締めないと…と思い直した咲だった。

 

東家 清澄   124300(ー1000)

南家 龍門渕  134400(ー1000)

西家 風越女子  67200(ー1000)

北家 鶴賀学園  74100(+3000)

 

大将戦前半戦南二局 親・龍門渕 ドラ・{⑥}

 

鷲巣配牌

{一二九九6799⑨⑨⑨北発} ツモ {5}

 

『龍門渕鷲巣選手、親番で好配牌!既にイーシャンテンです!他家を突き放し、トップ独走となるでしょうかー』

『ドラはないが三暗刻、三色同刻が狙える。ツモがよければ四暗刻になるかもしれ…』

 

 藤田が言葉を詰まらせたのには訳がある。鷲巣の第一打が異質であったからだ。この手ならまず孤立牌の北や発辺りを切っていくだろう。だが鷲巣が選んだ牌は…

 

(親番だというのに随分と引け腰だな…小娘…)

 

 鷲巣は咲の打ち筋を見ていて物足りなさを感じていた。まるで全力を出しきれていないように見える。僅かながらも自分と打ち合えるかもしれないと思っていただけに残念だと思っていた。

 それというのも南一局、鷲巣はゆみの捨牌から早々に国士無双を狙っている事を察知していたが、あえて咲の出方を見ようと様子見に徹していた。しかし危険牌を引いたのか途中から国士無双に対して当たる心配のない中張牌の連打でのベタオリ。

 槓をする素振りを見せたことからよほど先程の槍槓を引きずっているようだ。鷲巣はここから7索を切り出していった。鷲巣にはこの手の最終系が見えている。

 

(いつまでももたついているようでは…儂が和了るぞっ…和了ってしまうぞっ…!)

 

七巡目

 

ゆみ手牌

{⑤⑥⑥3567四五六} 副露 {中中横中} ツモ {一}

 

(く…さっさと鷲巣の親を蹴りたい時に…)

 

 現状トップを走る龍門渕の親。ここで連荘などされたら取り返しのつかないことになる。ゆみは打点度外視で素早く手を作ろうとしていたが、ツモってきたのは全く手牌に絡まない一萬。比較的有効牌も多いイーシャンテンなのだが仕方がない。当然ツモ切りする…と同時に対面、つまり鷲巣からの声が響く。

 

「ポン…」

 

鷲巣手牌(他家視点)

{■■■■■■■■■■} 副露 {一横一一} 打 {二}  

 

 発声後鷲巣の手が無造作にゆみの切った一萬を拾う。同時に二萬を切り出した。この鳴きにゆみは何か違和感を覚える。ヤオチュウ牌のポンはタンヤオなどが消え、役は相当限られてくる。手の内を晒すような真似をなぜしたのか。

 この鳴きでまず考えられるのが白などを暗刻で抱え、ドラで打点を稼ぐいわゆる役牌バック。次点でトイトイだが…捨牌を見るに考えづらい。チャンタ系も考えられるが鳴いてまで作るメリットがない。ドラ暗刻ならまだ分からなくもないが今回のドラは6筒でありチャンタには絡まない。これもなさそうだ。…というより意味が分からない捨牌となっている。

 

(龍門渕の鷲巣…ここまでの和了を見るに打点が高い面前派だと思っていたが、何を企んでいる?)

 

鷲巣捨牌

{765北発6}

{二}

 

 手出しで5、6、7索の順子落とし。その後これも手出しで字牌を切っている。これではどういう手牌なのかが分からない。一萬鳴きで二萬が切られるという事は対子手である可能性が濃厚だが…と考えている最中ゆみは場全体の捨牌を見渡し、ある小さな異変に気づく。

 いつもなら自分の手牌に気を取られ気がつかなかったでだろうその異変。一回立ち止まって考えたからこそ気づくことができた。そしてそれはゆみにいくつかの可能性を提示するものとなった。

 

ゆみ捨牌

{東白西発②二}

 

華菜捨牌

{北北12⑧三}

 

咲捨牌

{北白②57}

 

 自分の手牌や捨牌も含めても殆(ほとん)ど老頭牌(ロウトウハイ)が場に見えない。老頭牌というのは2~8を除いた…つまり1、9の数牌のことである。対子しか出来ない字牌と違い順子は作れるものの、言うなれば端っこの牌。使いづらくタンヤオ等の邪魔にもなるため序盤から切られ易い牌と言える。

 これらの理由から七巡目で場にほぼ見えないのは少しおかしい。勿論山に眠っている可能性もある。しかしゆみは鷲巣の手に固まっていたとしたら…と最悪の場合を考える。まさかとは思うが、槍槓を頭ハネしたりした規格外のこいつならやりかねない。

 

(その場合の本命は役牌を抱えたトイトイ混老頭…あるいは…)

 

 いやまだ張ってはいないはずだ。それまでに自分が和了ってしまえばそれで終わり。鷲巣の手は水泡に化す。とにかく今は張ることだ…と思い直した。

 結論から言うとこのゆみの推理、殆ど的中していた。ただ一つ間違っていた事柄がある。それは…

 

鷲巣手牌

{九九九999⑦⑨⑨⑨} 副露 {一横一一} 

 

 鷲巣は既に張っている…高めトイトイ三暗刻三色同刻の親っパネ。変則78筒待ちとなる。

そして同巡に咲が鷲巣の安めの当たり牌8筒を切るが、鷲巣はこれを無視。何事もなかったかのように平然とした様子で次のツモ牌へ手を伸ばす。

 当然のこの和了見逃しの意図が掴めなかったのは…

 

***

 

「なんで龍門渕今の咲の8筒和了らないんですか?当たってますよね?」

 

 清澄高校の控え室で優希とじゃれあっている清澄高校男子部員の須賀京太郎だった。実はこの男麻雀を始めてから間もない為セオリーなどを知らない。ある意味場違いな男であった。

 

「当たってはいるわよ?でも8筒じゃ和了っても鳴き純チャンのみ。満貫にすら届かないわ。トップの親とは言えうまみがないのよ」

 

 対面のソファーに座る久が説明に入るが、和がそれに…と継ぎ足すように喋る。

 

「この手…一手挟むだけで爆発的に打点が上がります。私でも見逃しますね。高めの7筒なら和了りますが」

「あれか…私も和了ったことがないじぇ…ちなみに私なら7筒でも見逃すじょ」

 

 和と優希の言うことが理解出来ないのか右往左往する京太郎。そんな姿を横目で見つつ、久はテーブルの片隅に注いであった紅茶を口にするがすっかり冷め切っていた。

どうやらすっかり忘れてしまっていたらしい。そこまでこの対局に見入っているという事だ。

 

(笑い事じゃないわ…もし龍門渕にあの牌が入ってきたら…咲が振り込む可能性が高い…)

 

 久は自然と胸の前で手を組み祈るような姿勢を取る。どうか鷲巣がツモらないでくれ…と。この局が何事もなく無事に終わってくれ…と。心のどこかでは無駄な行為だと分かっていた。しかし今の久には神に祈る事くらいしか出来なかったのである。

 

(じゃからわしのセリフは…?)

 

 ありませんって。

 

***

 

 場所は戻って絶賛闘牌中の対局室。竹井久の祈りも虚しく鷲巣はツモ牌を盲牌し、思い通りの理想の牌を引いたことに口角が吊り上がる。やはり神は自分に味方しているようだ。

 

鷲巣手牌

{九九九999⑦⑨⑨⑨} 副露 {一横一一} ツモ {①}

 

(儂なら当然のツモ……イーピンっ…!)

 

 鷲巣、ノータイムで7筒切り。つまり鷲巣の手、跳満どころではない。

 

鷲巣手牌

{九九九999①⑨⑨⑨} 副露 {一横一一}

 

『龍門渕鷲巣選手なんと1筒待ちの清老頭テンパイ!これを和了れば大きく差を広げることになります!』

『殆ど無駄ヅモなしでのテンパイ…配牌からの順子落としも結果的に見れば正解と言わざるを得ない。字牌から切っていたら風越に6索あたりを鳴かれてツモ順が変わっていただろう。まるで鷲巣に牌が吸い寄せられていくようだった』

『そんなオカルトな…』

 

 実況は笑っているが藤田は決して冗談で言ったわけではない。鷲巣には常人にはない何かを持っているように見える。そして見ただけで分かる運の良さ。

 この手を鷲巣が和了りでもしたら、一気に波…それも途方もない大波に乗るだろう。藤田は直感的に察していた。

 

(ここは合わせ打ちだし…) 打 {⑦}

 

 池田華菜は鷲巣に合わせて7筒切り。この7筒に下家であるゆみが反応する。鳴いてドラ切りでテンパイとなる。なるが…問題はドラが通るかどうか。ゆみの考えはあくまで想像の枠を出ない。鷲巣が平凡な役牌バックの可能性も十分ある。

 

(ここで怯んでいては…結局和了られてしまう)

 

「チー!」 

 

 ゆみは5筒6筒を晒してチー。捨牌にはドラである6筒が切られた。他家から見れば2副露してドラ切り。殆どテンパイを宣言しているようなものである。

そして図らずしもこのたった一つの鳴きがこの局の命運を決めることとなった。

 

(鳴いてドラ切り…テンパイか。じゃが…儂の方が早い)

 

 順番を迎えた鷲巣はツモ牌に手を伸ばす。鷲巣は盲牌をし、思わず顔を歪める。感じ取ったのは1筒ではなく隣の2筒。ツモれると殆ど確信していた鷲巣は内心荒れながらも顔には出さず2筒をツモ切りする。

 鷲巣の下家である華菜のツモは1筒。華菜の手牌には絡まない。華奈はまず捨牌に目を向ける。2筒は鷲巣が直前に切ったのを加え、既に3枚見えていてワンチャンス。

 

(見たところ問題なさそうだし…もう手牌に使えないだろうし)

 

 華奈はそのまま1筒をツモ切り。鷲巣は切られた1筒を見た瞬間、目をぎらつかせて手牌を勢いよくガラッ…と倒した。

 

「ロン…!」

 

鷲巣手牌

{九九九999①⑨⑨⑨} 副露 {一横一一} ロン {①}

 

(トイトイ…いや…チ…清老頭…?)

 

「ククク…48000て…」

 

 鷲巣は言いかけていた点数を止めざるを得なかった。対面から手牌の倒される音が聞こえたからだ。鷲巣は何事か…と視線を加治木ゆみの方へ向ける。ゆみは手牌を倒しつつ、少し疲弊した表情を浮かべていた。

 

「悪いな…その1筒、私も当たっている…中ドラ1。頭ハネだ」

 

ゆみ手牌

{①567四五六} 副露 {横⑦⑤⑥ 中中横中} ロン {①}

 

『会心の清老頭は本日2度目の頭ハネ!和了は認められません!残念ながら水泡と化しましたー!』

『私も役満が安い手で流されたことはあるが…あれは腹が立つな。思わず手牌を相手に投げつけそうになってしまったな…』

『完全にマナー違反じゃないですかそれ…』

『冗談だ冗談…』

 

(た…助かったし…)

 

 九死に一生を得た華菜は素早くゆみに千点棒2本を差し出す。一方和了ることができたゆみはその点棒を受け取る。安堵の様子は見られず、人知れず冷や汗を流していた。今の和了が余りにもスレスレだったことに気づいていたからだ。先程の池田華菜が切った1筒は確かツモ切り。これが意味するものは…

 

(私が鳴かなければツモられていた…清老頭を…)

 

 ゆみは知る由もないことだがあと一つ危なかった事項があった。それは顔を若干青くしている咲のみが理解していた。

 

咲手牌

{四①②③③③2388南南南}

 

 一見すると何の変哲もない手牌だが…咲が感じ取っていた次のツモは3筒。つまり槓材である。さて3筒を槓材とみなした咲が次に取る行動はなにか。答えは簡単、1筒2筒の辺張払いである。

 華菜が振り込まず自分にツモ番が回ってきていたならば、ほぼ確実に自分が振り込んでいただろう。そして席順で鷲巣の和了が認められる。親の役満48000点。余りに大きいダメージとなっていた。

 この確固たる事実が咲をさらに萎縮させることになってしまう。

 

(やってくれる…こうでなくては面白くない…)

 

 そしてこの手をものに出来なかった鷲巣。さぞかし荒れているのかと思ったが、ゆみに対して手応えを感じていた。思い返せばこの加治木ゆみ、なかなかにうまい麻雀を打ってくる。そしてなかなか感覚も優れている。鷲巣の興味が咲からゆみに移ろうとしていた。

 

(しかしその中ドラ1といい、ドラの6筒といい、役満を潰されたといい…あの時と共通点が多すぎる。ちっ…気に食わん)

 

 …訂正しよう。あの時の苦い記憶が蘇り、多少は堪えているようだ。

 

北家 清澄   124300

東家 龍門渕  134400

南家 風越女子  65200(ー2000)

西家 鶴賀学園  76100(+2000)

 

大将戦前半戦南三局 親・風越女子 ドラ・{北}

 

(とにもかくにも鷲巣の親は流せた…ここから稼がなくては…)

 

 ゆみが決意を新たに奮起する。しかしそれをあざ笑うかのように鷲巣から耳を疑う声が聞こえた。鷲巣の第一打である4索は捨牌に縦に切られず横向き。同時に卓上に千点棒が投げ込まれる。

 

「リーチ!」

 

鷲巣捨牌

{横4}

 

(ダブルリーチだと…さっき役満を蹴ったばかりじゃないか…)

 

 流れの話になるが大きな手を和了り損ねた後の配牌は一般的には落ちると言われている。デジタル派は真っ向から否定するだろうが。しかし鷲巣はそんな事知らないと言わんばかりに手を引き寄せてくる。

 華菜はこのダブリーを恐れたのか比較的安全な字牌を切っていく。

 

(振り込みが怖いのは分かるが…せめて鳴けるところを切って欲しいものだな…)

 

ゆみ配牌

{一三六七23669⑦南白白} ツモ {中}

 

(ここあたりか…)

 

 ゆみは孤立しており尚且つ他家が鳴きやすいであろう7筒を切る。しかし鳴きの宣言は聞こえてこない。咲は少考の後、鷲巣の唯一の現物である4索を切り出していった。ゆみにとって咲は下家であるため鳴くことは出来ない。

 

(く…まずい…鳴きが入らないまま鷲巣のツモ…)

 

 ゆみが危惧していた通り、鷲巣はツモ牌を切らず卓に軽く叩きつけ、手牌を倒す。そしてはっきりした声でツモったことを告げる。

 

鷲巣手牌

{二三三四四五12377北北} ツモ {北}

 

「裏が西…3枚乗って三倍満…」

 

(高い上に裏まで乗せてくるのか…)

 

 かっちり裏ドラも暗刻で乗せ、ダブリー一発ツモ北ドラ6。きっちり11翻で三倍満。早すぎる和了りにたまらないのは華菜。何も出来ずに三倍満の親かぶり。そんな馬鹿な話があるかと卓に突っ伏す。誰もがその気持ちが分かるため攻める者はいなかった。

 

西家 清澄   118300(ー6000)

北家 龍門渕  158400(+24000)

東家 風越女子  53200(ー12000)

南家 鶴賀学園  70100(ー6000)

 

「さあ南四局(オーラス)だ。鶴賀の。賽を振れ」

 

(くっ…このままでは飲み込まれるぞ…激流に…)

 

 鷲巣がペースを握ったまま前半戦南四局(オーラス)を迎える。他3校はどう対処していくか。そこが勝負の観点になっていた。




 南四局がやたらと長くなりそうなのでまた一旦ここで区切ります。
 出張や連日の残業で書く時間がなかなか確保できませんが、頑張って書きたいと思います。今回会話分中でツールを使いませんでした。どちらがよいのかメッセージにて教えてくれれば幸いです。
 お気に入り登録数がいつの間にか凄いことに…ありがとうございます!
追記・鷲巣の暗刻落としを順子落としに変更しました。
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