職場での飲み会が多くなかなか書く時間がとれず、追い討ちに1回データがすべて消えて絶望仕掛けました。ただこの先が書きたいとなんとか仕上げました。…どうぞ。
「い…いきなり何を…」
鷲巣からの理不尽な要求に対して、一瞬思考が停止していたがしばらくしてゆみは戸惑いの声を上げる。
脈絡もなくチームメイトを貸せと言われて、どういう事か理解する方が無茶だろう。それを見た鷲巣は軽くため息を吐きつつ話し始めた。
「…少しあの小娘に興味が沸いてな。特にあの強運…儂にかかれば磨きがかかる…なに悪いようにはせん」
「…!」
どうやら自分の聞き間違えではなかったことにゆみは軽く頭を抱える。
それは彼女にとって到底聞き入れられないもの。考慮にも値しない。鷲巣の態度や余りにも一方的な言い分が気に食わないのもあるが、何よりも自分たちでは佳織を生かしきれていないと言われているようで少ししゃくに触った。
「…悪いがそれは「いいんじゃないかゆみちん」…蒲原!?」
「ワハハ…話し込んでるみたいだったから…」
当然断ろうとしたが、ゆみにとっては聞き慣れた間延びした声が遮った。その声はいつの間にか対局室に姿を見せていた鶴賀学園の部長である蒲原智美。
どうやらある程度話を聞いていたらしい蒲原は意外なことに鷲巣の提案に乗り気味であった。
「いやー佳織にはやっぱり経験が足りないからなー。いい機会じゃないか」
「だからといってだな…」
確かに蒲原の言うことも分かる。むしろゆみ自身もそのことについて話していたくらいだ。だからといってこの鷲巣に預けるのはリスクが高すぎる。
磨きをかけるというくらいだ。何をするのかは分からないが、最悪何度も対局して実力差に自信を失って個人戦に影響が出かねない。
「一応個人戦までには返して欲しいなー」
「…一週間…まぁ十分か」
「お…おい…」
話が早いと見た鷲巣は、ゆみを無視して蒲原と具体的な話をし始める。もしここに佳織がいれば全力で拒否するであろうが当の本人はこの場にいない為、止める者がいない。この場に居合わせなかったことは彼女にとってこの日初めての大きな不運であろう。ともかくこうして本人の承諾を得ないまま、話はとんとん拍子に進んでいった。
***
(あわわ…なんで…)
「ロン!16000だ佳織!」
「ぬ…間に合わなんだか…」
「お見事です衣様。佳織様も気を落とさずに…」
(私…ここにいるんだろう…)
その翌日。佳織は見知らぬ屋敷に招かれ、麻雀を打っていた。それ自体は麻雀部に所属している彼女にとっては珍しくもない。しかしここまで困惑しているのには確固たる理由がある。まずこの場になんの説明もなく連れてこられたことだ。
いつも通りの朝、いつも通りに学校に行くはずだった。しかし目の前に見たこともないような高級車が止まり、有無を言わせずに乗せられた。それだけで混乱するには十分だが、その車の中に天江衣がいた事が混乱に拍車をかける。
その衣は佳織に対しやれ麻雀は強いかだの、やれ友達になって欲しいだのと一時間程質問攻めにして屋敷に着く頃には佳織はクタクタとなっていた。
さらに卓を囲っているのが佳織にとって馴染み深い鶴賀学園のチームメイトではないからである。そしてその面子は余りに異様で凶悪だった。
先程車の中にいた天江衣と龍門渕高校大将の鷲巣衣和緒。既に各メディアから注目を浴びており、全国での活躍も期待されている。そして車の運転をしていたハギヨシと名乗った執事も人数合わせか卓についている。
一体なぜ自分はこのような状況におかれているのか。佳織は答えなど出るはずもない疑問を考え続けるのであった。
…ちなみにこの倍満振込みで3回連続3回目の飛び終了である。
***
「あの2人がいないと静かですわね…」
「そりゃ俺たちしかいないからな。…にしても透華、学校休ませてよかったのか?」
授業が終わり、龍門渕高校麻雀部室にはいつものように牌を打ち付ける音が響いている。だがここ最近では衣が鷲巣にじゃれあい、鷲巣がそれを訝しみながらも受け入れるという光景がよく見られた為、物寂しさを感じてしまう。
さて純は透華が他校生を巻き込んでの特打ちなどという無茶をあっさりと許したことを不思議に思っていた。ハギヨシをつけるという条件付きではあるがそれでも異例である。純が知っている透華の性格を考えればバッサリと切り捨ててもおかしくないはずなのだが…
「問題ナッシング!あの2人なら
「…一高校生がする事じゃねえな…」
「親バカもここまで来ると逆に感心しちゃうよ」
今回の特打ちのため鷲巣は衣にしばらく泊まりに来て欲しいと告げると、衣は大喜びし二つ返事で
元々衣のために全国や世界のどこかにいる衣と対抗できる者を探すために麻雀部を作り替えたのだ…。その衣が喜ぶなら多少のわがままでも何でも聞いてあげたい。それが保護者としての責務だと考えていた。かと言って他校にまで圧力をかけるのはやりすぎだろうが。透華の強引さを知り尽くしている純たちも若干引き気味である。
「ハギヨシもつけていますし…ええ心配などしていません」
「おっそれ高めだ。跳満で12000だな」
「私も。5800」
「なっ…」
無警戒にドラをツモ切りしてダブロンを食らい、絶句する透華。言葉ではそう言ってもやはり心配している透華であった。
***
「なあ衣和緒…佳織は本当にすごいのか?いや確かに稀に幾許か感じるが…」
「ふぇ…?だから何回も言ってるじゃないですかぁ!私なんて全然…」
衣の疑念は半荘を重ねる度に大きくなり、遂に言葉に出してしまったのは7回目の半荘が半ばに差し掛かった頃だった。
だがそれも仕方のないことで、衣はここまで佳織に対し全く強者の手応えを感じていないのだ。むしろ切り順は滅茶苦茶で、時折チョンボをしかけ、手つきもおぼつかない様子からただの初心者にしか見えなかった。
ここまでの順位も鷲巣が圧巻の打ち筋で1位、昼間でやや力の劣る衣が後を追う形で2位、そして場を荒らさないように振らずに打つハギヨシが3位をそれぞれキープ。となれば必然的に佳織はずっと最下位であり、和了りもないまま飛ばされ続けている。
そして佳織も佳織でこんな場違いな場所に連れてこられたのは何かの間違いだとずっと思っている。自分とこの2人には天と地ほどの差があり、到底敵うはずがないと今日散々に思い知らされた。
「いや…間違いない。手を開いてでも打てばその異常性に気づくだろうが…」
手牌を倒して見えるように打てば、どのようなツモや手順なのか丸わかりだがそれでは麻雀にならず、衣が納得しない。結局佳織が和了って手を晒してくれるのを待つしかないのだ。
「リ…リーチします…」
(ようやくか…儂を散々待たせおって…)
(…!…これはなかなかに…)
ようやくテンパった佳織が最早半泣きになりつつリーチをかけたのは次局の浅い巡目。この場の空気に押されているのか非常に小さい声である。その瞬間、凄まじい圧迫感が衣を襲う。それは鷲巣が度々纏う豪運の気に似たもの。鷲巣程ではないもののかなり強力。対してこちらの手はまだ仕上がっていない。鳴いてずらしたところで大した影響もないだろう。これは近いうちに和了るな…そう確信した衣だった。そして案の定、次巡佳織はツモ和了る。
「あ…ツモです。リーチ一発に…役牌が…あっすいません。裏ドラをめくらないと…」
「ははっ…なるほど…」
「…いえいえ…裏ドラをめくる必要はありませんよ」
「…えっ…?もしかして私また何かチョンボをして…」
手を伸ばして相変わらずの手つきで
そしてハギヨシは執事らしく佳織を優しく諭す。部屋には衣の乾いた笑い声が響き、状況が分かっていない佳織だけが右往左往していた。
佳織手牌
{24東東南南南西西西北北北} ツモ {3}
「…面白い!次に行くぞ佳織!」
「ぇ…えと…あの…そろそろ…」
「…ぬっ…もう昼餐の時刻か…ハギヨシ!」
「心得ております。この半荘が終わり次第、昼食に致しましょう」
「…ぁ…あの…その…」
「フフフ…狼狽せずともよいぞ!ハギヨシの作るご飯は絶品だからな!」
壁時計はとっくに正午を過ぎ、長針が下に傾きかける辺りだった。どうやら時間も忘れる程熱中してしまったようである。佳織はいつ帰らせてくれるのかを聞こうとしたが、衣は佳織がお腹が減ったのだと解釈してハギヨシに昼食を頼んだ。元々気の弱い佳織である…それ以降も幾度となく尋ねようとしたが結局聞くことができなかった。
こうして佳織にとって相当過酷な麻雀漬けの日々が刻々と続いていった。
***
日々は流れ、あっという間に個人戦当日を迎えた。長野県の個人戦は2日に渡って繰り広げられる。まず予選として北ブロックと南ブロックに別れての東風20回戦を行い、そのスコアの上位64名が翌日の本戦に駒を進め、半荘10回戦に挑む。そのうちの3位までに入れば、晴れて全国大会への出場権が与えられるというわけだ。
さて龍門渕高校と鶴賀学園は共に北ブロック…つまり同会場での試合となる。ここで佳織と合流する約束になっている鶴賀学園麻雀部一同は、人に次ぐ人で溢れんばかりのロビーから少し離れたところで落ち着かない様子で待っていた。
その中でもゆみは特に心配している様でしきりに腕時計を確認する仕草が目立っている。
「まだ時間には余裕があるが…」
「そろそろ来るんじゃな…「智美ちゃん…?」ワハッ!?」
後ろから不意打ちのように声をかけられ、肩がびくつく蒲原。しかし聞き馴染みのある声であった。振り返ると目の下に少し隈を作っている佳織が涙をためて佳織に飛び込んできた。大分強く飛び込んだようで蒲原からは変な声が漏れる。
「ひどいよ智美ちゃん!私だけこんな…うぅ…」
「ま…まあまあ…」
同級生の津山睦月がなだめるが、泣きじゃくる佳織は暫く蒲原の胸に顔をうずめていた。その姿を見て流石に少しだけ罪悪感を感じる蒲原であった。
「ところで…向こうで何をやってきたんだ?」
「ずっと普通に麻雀をやってただけで…あっでも、変わった麻雀も打ちました。実験だとか何とか…牌がガラスで…」
「ガラス…?」
ようやく落ち着いた佳織にゆみがこの一週間のことを尋ねる。ここまで参っているということはこっ酷くやられてきたのだろうが、どういう特訓を受けてきたのかは純粋に興味があったのだ。効率の良い練習法なら自分たちの練習にも取り入れても面白いと思っていたが、佳織から返ってきたのはよくわからない言葉の羅列だった。
ガラスで作られた牌など聞いたことがないし、透けた牌で麻雀ができるとは思えないのだが。かつて鷲巣麻雀と呼ばれていたこの特殊な麻雀についての概要を詳しく知ることになるのはまだまだ先の話である。
***
鷲巣と衣は人ごみを避け、壁際のソファーに座っていた。衣の手には自販機で買ったオレンジジュースが握られている。
先日の団体戦で顔が売れ、また目立つ服装も相まって近くで取材していた新聞や雑誌記者が気づき話を聞こうとしていたものの、鷲巣や衣らが持つ特有の空気にあてられ近づくことが出来なかった。
「そういえば衣和緒…あの麻雀牌だが…」
「…あれか…あの麻雀は特別……
「衣和緒…?」
鷲巣が小さく呟いた声が一部分聞き取れなかった衣が振り返って驚く。衣ですら見たことがない表情を浮かべていたからだ。
それは言うなれば恍惚…その機会を渇望しきっているといった様子である。
(…ここまで衣和緒が所望する輩とは一体…)
鷲巣が再び相対する日は刻一刻と近付いている。
***
「さあ県予選個人戦を迎えました。解説は引き続き藤田プロです。よろしくお願いします」
「なんだ…衣と鷲巣は出ないのか…」
パンフレットを眺めていた藤田は明らかに落胆していた。あの2人がいない個人戦になるとは…楽しみが減ってしまった。となると全国出場は風越の福路、清澄の原村や宮永。あと龍門渕辺りが本命だろうか。
ただ前評判通りでも面白くない。誰かダークホースか現れないだろうか…などと藤田はぼんやりと考えていた。そしてその願いは予想以上の形になって叶うことになる。
それからまもなくして対局が始まった。各部屋で熱戦が繰り広げられている中、特にやることもない鷲巣と衣はモニター観戦もせず
東風20回戦が終了し、軒並み藤田の予想通りの面々が上位に食い込んでおり、他にも団体戦で活躍した選手の名前も目立っている。そしてなんと佳織も本戦進出に滑り込んでいた。
果たして全国行きのキップを手に入れるのは誰なのか…それは誰にも分からない。
次回から本戦に入ります。闘牌シーンも少し入ります。
個人戦ルール
対局中のルールは基本的に団体戦と変わらない。
25000点の30000点返し。オカウマ有り。(オカ)
一日目個人戦順位
1位 片岡優希 +436
2位 宮永咲 +312
3位 加治木ゆみ +307
4位 福路美穂子 +290
5位 龍門渕透華 +287
6位 原村和 +276
7位 井上純 +273
8位 竹井久 +269
9位 国広一 +266
10位 池田華菜 +264
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61位 妹尾佳織 +92
あ…あと新連載の方も始めましたのでよろしくです。