鷲巣-Washizu- 宿命の闘牌   作:園咲

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…よし。こっそり投稿だ。


全国編
上京


「また来たぞー!皇都だ!トウキョウだー!」

「こ、衣。まだ駅前だから静かにしないと…」

「全く!我が龍門渕が東京に降り立ったというのに!マスコミは何処にもいませんの!?」

「…来るわきゃねえだろ。さっさとホテル行こうぜ。荷物が肩に食い込んで痛いんだよ」

「あっち…」

 

 八月も中旬に差し掛かりインターハイを目前に控えたある日。昨年に引き続き長野県代表の座を勝ち取った龍門渕高校の部員達が東京駅に姿を見せた。駅を抜けた途端に都会特有の熱気に襲われるが、それも何処か心地よく感じる。

 ハギヨシの運転で直接ホテルまで向かってもよかったのだが、それでは目立つことができないと透華の鶴の一声により電車を使用しての移動となったのである。

 その透華は当てが外れマスコミはいないのかと忙しなく辺りを見渡し、その様子に純は呆れ、智紀はやはり我関せずとタブレット端末を操作している。これも龍門渕ではお馴染みの光景となっていた。

 そして衣は車内が新鮮だったのか落ち着く様子はなく、駅に着くや否や再び大舞台で強者と麻雀を打つことができることに喜びを噛み締めていた。通行人の何とも言えない視線に気づいた一が慌てて止めに入る。

 

(…東京…か)

 

 さて龍門渕のニューフェイスである鷲巣は珍しく感慨に更けていた。太平洋戦争での敗戦後経営コンサルタント会社共生を立ち上げ、拠点を置き生涯の大半を過ごしただけあって思い入れはある。鷲巣麻雀を行う為の隠れ蓑としていた屋敷があった武蔵野市周辺も栄えているのだろうか。と柄にもないことを考えていた。

 

「…そうですわね。取り敢えずホテルに向かいましょうか。ハギヨシ!」

「はい透華お嬢様。お車はあちらです」

 

 ようやく諦めた透華がため息交じりにハギヨシが手際よく手配していたタクシーに向かう。この抜け目がない辺り伊達に龍門渕家の執事をこなしていないということであろう。そんなこんなで龍門渕高校のインターハイはいまいち噛み合わないまま幕を開けたのであった。

 

「ここが私たちの泊まるホテルですわ!勿論大会期間中はずっと抑えてますわ」

「…えぇー…」

「いやおかしいだろ。普通のホテルや旅館でいいじゃんかよ」

「…」

 

 タクシーを走らせること約十分。タクシーは目的地である宿泊ホテルへと到着した。したのだが…そこはどう見ても高校生が部活で泊まるにはそぐわない見上げる程高くそびえ立つ超高級ホテルであった。正面入り口には他と比較しても一際目立つ大きな歓迎看板が掲げられており、かなり恥ずかしい。透華曰く昨年の夏から今年、そして来年まで予約していたとのこと。立地も都内新宿とだけあって一泊幾らするのか想像もできない。しかし透華との付き合いが長い一同は今更そんなこといってもしかたないと足早にホテルに向かうのであった。

 だがその後しばらくして県予選決勝で戦い、四校合同強化合宿を行った清澄、風越女子、鶴賀学園も東京に到着したという連絡が透華に入り、それを聞きつけた衣、そして鷲巣の要望でそちらに向かうことになる。合同合宿にて清澄の原村和を始め、個人戦代表の福路美穂子、宮永咲らと交流を持った衣はインターハイまで充実した日々を過ごすのであった。

 

***

 

『こーことすこやんのふくよかすこやかインハイレディオー!

さあ今週もスーパーアナウンサー福与恒子と現在はクラブチームに所属しています小鍛冶プロがお届けします!注目のインハイは明日開会式そして運命の抽選を迎えます!まずは地方大会を勝ち上がってきた精鋭48校が一堂に会す団体戦。頂に立つのはどの高校なのかー!

早速ですが今大会の注目校は何処ですか!?』

『こーこちゃん最初から飛ばしすぎ…それに団体戦は52校だよ』

『えっ!?マジで!?トーナメント48校じゃないの?』

『この説明去年もしたはずなんだけど…出場校が多い北海道、東京、神奈川、大阪と愛知からは2校ずつ出場してるんだよ』

『なるほどー。…で、注目校は!?』

『流された!?…じゃあシード校から…大本命は第一シードの西東京代表白糸台だね。先鋒から大将までほとんど隙が無いよ。歴代のインハイでも今年の白糸台は指折りの強さなんじゃないかな』

『20年前のインハイで優勝したアラフォー小鍛冶プロにそこまで言わせるって相当だね!』

『いや10年前だよ!アラサーだからね!何回目なのこのくだり!…こほん!第二シードの千里山も打倒白糸台に向け猛特訓を重ねてきたというし、新鋭にして異質の永水女子に留学生部隊に個人3位の辻垣内選手擁する臨海女子とシード校はやはり強豪揃いですね…』

『ではノーシード校じゃどうです?あるいは初出場校とかは?』

『春大会5位だった姫松、九州の古豪新道寺女子、兵庫の劔谷(つるぎだに)などが有力だけど…私としては長野の龍門渕を押したいかな』

『あっ私も知ってますよ!確か去年МVPを獲った天江衣選手が話題になりましたね…ってそりゃ強いに決まってるじゃん。なんでシードじゃないの?』

『龍門渕は春季大会には出てきてないからね。残している実績では姫松や永水女子には若干見劣りします』

『すこや…じゃない、小鍛冶プロは注目している選手はいますか?』

『やはり白糸台の大将赤木選手ですね。去年彗星の如く現れたインパクトは衝撃の一言でした』

『神域、千里眼、すこやん2世と異名も多いですね!ただならぬ風格を感じます!』

『待って!最後の聞いたことないよ!何すこやん2世って!?』

『いやーあっちこっちで言ってるんだけどねー。なかなか浸透しなくて…』

『なにやってるのこーこちゃん!』

 

「あっはっはっは!このラジオ最っ高!すこやん2世って!あっはっは!」

「おいうるさいぞ淡。さっさと風呂に入ってこい」

「…今いいところなんだからスミレー。」

「それでもだ。あと何回も言うが先輩と呼べ。全くなんでこいつと同室なんだ…」

 

 東京のとあるホテルの2人部屋。そこにはベットに寝っ転がりながら余程ツボに入ったのか大笑いする金髪のロングの少女とそれに心底鬱陶しそうな表情を浮かべる風呂上りであろうか、髪から湯気が立っている黒髪の少女。彼女たちこそ団体戦二連覇中の名門白糸台のレギュラーの一角一年生大星淡と三年生弘世菫である。だが最上級生で部長であるはずの弘世菫は大星淡に手を焼いていた。というのもこの大星淡という少女は麻雀の腕は確かなのだが少々生意気で可愛げのないところがある。

 これでも入学した時よりはマシになったのだが、素直に言うことを聞き懐いているのは自身より実力のある照と赤木のみである。

 

「…まあいいが。ちなみに大浴場は9時に男湯に切り替わるそうだ」

「…わわわ!それを早く言ってよスミレー!」

 

 えっ…と淡が壁に掛けられた時計を見ると既に8時40分を回っていた。このままラジオを聞いていたいが毎日毎日蒸し暑いこの夏に風呂に入りそびれたくはない。慌てて備え付けのバスタオルと着替えを抱え、バタバタと部屋を飛び出す淡。ダンと強く閉められるドアを見つつ菫は深い深いため息をついた。

 

『…門渕の鷲巣選手も気になる存在ですね』

『ほう。鷲巣選手…あまり聞かない名前ですね?』

『私の知る限りインターミドルには出てきてないはずです。機会があって地区予選決勝戦の牌譜を確認したんですが…とんでもないですよ』

 

(鷲巣…か)

 

 ふっとかかりっぱなしのラジオに耳を傾けると聞こえてきたのは鷲巣という選手の話題。龍門渕という有力校に加え天江衣を差し置いての大将抜擢ということもあり部室にて要注意選手として挙げた一人だ。

 打ち筋は何より豪腕で貪欲に大物手を狙っていく印象を受けた。では手が遅いのかというとそんなことはなく無駄ヅモもほとんどないまま牌を操っているかの如く最善手へと向かっていく。だが自分のポジションは次鋒であり龍門渕と当たれば打ち合うのは大将である赤木だ。

 

(あの時赤木が笑っているように見えたのは気のせいだろうか)

 

 資料をレギュラーメンバーに配った際、菫には赤木の口角が僅かに吊り上がったように見えたのである。滅多なことでは他の選手の牌譜も確認しない赤木が珍しく資料を眺めていた。まあ軽く目を通す程度であったが。知っている選手なのかと聞いたが上手くはぐらかされ結局詳しいことは聞けなかった。

 

(まあここで考えても仕方ない。明日の組み合わせを見て二回戦から対策を立てよう)

 

 4校中1校しか勝ち上がることのできない一回戦が免除されているのは大きなアドバンテージだ。二回戦からは上位2位までが勝ち上がれる為、見方を変えれば一回戦が最も厳しいともとれる。幸い時間の猶予はある。菫はまだ垂れ流されていたラジオの電源を落とし、机に後輩の戦略班からもらったデータを広げるのだった。

 

***

 

『南大阪姫松高校…38番!』

 

 翌日。開会式も無事に終わり、その直後に始まった運命の抽選会。一校一校の抽選に一喜一憂する選手たち。強豪校の抽選順ともなれば会場も大いに沸く。別のブロックに入ってくれてほっとする高校もあれば運悪く1回戦で当たることになってしまい思わず頭を抱える高校の姿もある。そして次の高校も要注目の高校だった。

 

『長野ー龍門渕高校』

 

 その名前が響き渡った途端騒がしかった会場が水を打ったように静まり返り、檀上に上がる龍門渕透華に視線が集まる。当の透華はこの大きな会場の中、自分がいや自分だけが大勢に注目されていることにご満悦のようで顔が緩みにやけていた。

 体全体でひしひしと感じる昨年とはまるで違う注目度。昨年は6連覇中の風越女子を破っての出場とはいえ、その風越女子は長野県内では文句なしの強豪校だったが全国大会では目立った成績を残していない為特に目立つことはなかった。

 だがその中でシード校を差し置いて二回戦を1位抜けし、初出場ながらベスト8に入った。準決勝では惜しくも他家が飛ばされ負けてしまったが、続く決勝戦の前座である5位決定戦では圧勝し麻雀ファンの印象に残ったといえる。その後の春大会では中部大会を順調に勝ち進んだものの間も無く衣が体調を崩してしまい、迷うことなく棄権した。今ではその選択は正しかったと断言できる。

 今年もここに立てて本当に良かったと透華は感慨にふけりつつ抽選箱に右手を入れた。

 

「あー…ありゃいらんこと考えてるな…」

「だから絶対にくじを引くって譲らなかったんだね」

「…透華らしい」

「…ククッ」

 

 そんな透華の心中は龍門渕高校の部員達には微妙に誤解はあるものの筒抜けであった。鷲巣にまで呆れられていることを本人が知ったらさぞかし憤慨するだろうがそんなことはつゆ知らず透華は少し抽選箱を漁る素振りを見せ右手に飛び込んできた1枚の紙を引き、高らかに掲げた。

 

『長野龍門渕高校…33番!』

「…結構きついとこだな」

(…反対側か)

 

 その番号に会場内から大きな歓声が上がる。透華が掴み取ったのは先程くじを引いた姫松高校と同ブロックになる大会3日目対局室Bの33番。両校とも順当に勝ち上がれば2回戦で早くも顔を合わせることになる。そこに第三シードの永水女子も加わるとあっては2回戦屈指の好カードになること間違いなしだ。

 元来の目立ちたがり屋の透華の本能がこの番号、この組み合わせを呼び寄せたのか。満更ありえなくもない仮説に一番割を食う先鋒の純は渋い笑いを隠せない。どうやら楽に勝ち上がらせてはくれないようだ。

 そして鷲巣は反射的にトーナメント表の左上を見上げる。白糸台とはブロックが分かれ、当たるとすれば決勝戦ということになる。なるほど結構なことではないか。追いかけて追いかけてようやく見えたアカギとの再戦。それが2位以上でも実質勝ちとなる2回戦や準決勝では緊張感が薄れてしまう。決勝こそ最善の舞台なのである。絶好のところを引いてくれたと高揚感を覚えつつ鷲巣は席を立ち会場を後にした。

 その後も抽選が続き、遂に最後の空白が埋まりトーナメント表が完成した。高校麻雀のファンたちは自身の母校や応援している学校が何処まで勝ち上がれるか皮算用を始める。順当にシード校同士の決勝戦となるかそれともダークホースが現れ波乱が起きてしまうのか。明日から始まる夏の激闘に胸を躍らせるのであった。

 

***

 

 試合は3日目ということで龍門渕高校は暫く自由行動ということになった。座禅を組み瞑想をしたり、他校の対局を観戦し過去の牌譜を見ながら分析をしたり、清澄高校の面々が泊まっている旅館に入り浸ったり、無理矢理ハギヨシを従え東京観光をしつつ甘味処を何軒も訪れたりと各々性格にあった時間を過ごし、迎えた1回戦当日。

龍門渕高校は前評判通り…いやそれ以上の打ち回しで副将の衣にすら回すことなく試合を終わらせ真っ先に2回戦に名乗りを上げた。同時刻に行われていた姫松高校の試合も先鋒戦こそ大量失点して最下位に一時的に沈んだものの中堅にしてエースを張る愛宕洋榎がそれ以上に取り返し無事に2回戦進出を決めた。

 そしてもう1校は個人戦6位の銘苅擁する沖縄代表真嘉比(まかぴ)高校になるというのが大方の予想だったのだが、事前の雑誌や新聞などでは全くのノーマークであった初出場校である岩手代表宮守女子が不気味に勝ち進んできた。

 別名サバイバルとも呼ばれる1回戦が終わり早くも36校が姿を消し、ベスト16が出揃った。いよいよシード校が姿を見せる2回戦が幕を開ける。




 …10か月ですか。時間が立つのはハヤイナー…本当にごめんなさい。いろいろ忙しくてなかなか執筆期間が取れませんでした。
 今回独自設定があります。龍門渕高校の春大会と昨年の5位決定戦です。準決勝で負けた以上5位決定戦に出たはずなんですがその話がありません。春大会は出場しているのかさえ分かりません。なのでこの話では5位決定戦は圧勝。春大会は不出場ということでいきます。でないとシード校に選ばれかねないので…
 次話から2回戦の始まりです。なるべく早く書きますので期待はそこそこにお願いします。
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