GW!連休!
ということで1日早く投稿します。
出陣
いよいよ明日に控えた県予選のため鷲巣は龍門淵家に宿泊することになった。
衣は鷲巣が泊まることを心から喜び、当然のように麻雀を打つ流れとなったが流石に透華に止められ早めに就寝した。
翌日朝早く起き、衣たちと朝食を取ったあとハギヨシの運転で会場に向かった。
(余りの手際の良さに部下に欲しいと少し思った)
「おっ緊張でもしてんのか?」
会場へ向かう車内、目をつむり腕を組んでいる衣和緒に純が話しかけた。
「馬鹿を言うな。退屈さえしなければいいと思っていた」
「お前らしいな…しかしお前を満足となると…」
「まああまり期待はしていない。県予選など通過点だ」
「その通りですわ!」
「しー!衣が寝てるから…」
純と話していると透華が大声で会話に割り込んできた。
しかし余りの声に一が制止の声を掛ける。
衣はいつもより朝早く起きたので車の中でぐっすりと寝ていた。
「す、すいません…しかし通過点というのは同意ですわ。私たちの目標はあくまで全国優勝。こんなところで負けてはいられません。
「そうだね…慢心は良くないけど…」
「慢心ではありません。余裕ですわ」
「はいはい…そろそろ着くみたいだね。衣、起こすよ」
「いや…寝かせておきましょう。私たちはシードで午前中の試合はありませんし、何よりここまで気持ちよさそうに眠っているのですから」
そうこうしているうちに会場に着く。ちなみに衣はいまだ夢の中で、ハギヨシが会場にある仮眠室まで連れて行った。
鷲巣は面倒くさく感じ姿を消そうとしたが透華に見つかってしまう。
不貞腐れながら持ってきていた饅頭を歩きながら食べていた。
「衣和緒!はしたないですわよ。早く食べてしまいなさい。私たちは注目を浴びるのですから」
「む…」
透華の叱責に眉にしわを寄せる鷲巣だったが言っていることは間違っていないのでさっさと飲み込む。
透華を先頭に龍門渕高校一同は会場入りした。
「龍門渕が来たぞ…!」
「前年度県予選優勝校ー!」
「昨年の四天王は2年生になっても健在だ…」
(ふっふっふっ…目立っています…目立ってますわ!)
(相変わらずだな透華の奴)
(目立つの苦手なんだけどな…ボク)
(恥ずかしい…)
(うっとうしい)
瞬間一同を覆い尽くしたのは人混みとマスコミのカメラ。
鷲巣は思わず顔をしかめる。衣がマスコミを嫌う理由がよくわかるというものだ。目立ちたがり屋は透華だけであり他4人はマスコミを無視していた。
「天江がいないな」
「天江衣ですか?素人のような打ち筋だったじゃないですか」
さてそんなマスコミと話しているのは藤田靖子である。地元長野のチームに所属しているれっきとしたプロ雀士。今日は解説として呼ばれていた。
最もプロ麻雀煎餅カードでは外れ扱いされている駆け出しではあるが…
「素人…ね。いや…麻雀は時折常識では計り知れない打ち手が出てくる。
一昨年は西東京の宮永…去年は鹿児島の神代と天江衣…あと赤木がいたな。あいつだけは別格か」
「藤田プロは確か赤木と対局経験がありましたよね?」
藤田はそれを聞き渋い顔をする。あれほど追い詰められた対局もなかった。
雑誌の企画で対局する機会があった。通ると思った牌が当てられ、こちらがリーチしても危険牌を涼しい顔をして切ってくるが決して放銃せず大物手を張れば差し込みで潰された。職業柄数多くの雀士を見てきたが藤田はあれほど完璧な打ち回しは見たことがなかった。
そのまま独走を許しまともに麻雀を打たせてもらえなかった。
「そんな打ち手が今年も出てくるかも…」
そこで藤田が気づいた。いや気づかざるを得なかった。龍門渕の中にとてつもない奴がいる。
見覚えのない白髪の少女だ。去年姿を見なかったので恐らく1年生だろう。
「これは…荒れるな」
「どういうことですか?」
「…直に分かる」
マスコミからようやく開放された龍門渕一同は通路を歩きつつ会話していた。
「衣いつ起きてくるかな」
「まあ起きたところで今日の出番はありませんわね。私が飛ばしますから」
「あはは…」
正面から1人の女子高生がやって来た。恐らく何処かの選手だろう。なぜか涙目になっていたが…
すれ違った瞬間重い空気を感じる。鷲巣や衣が纏っているような強者の気配。
鷲巣を除いた4人に戦慄が走る。
「なんだ…あいつ」
「衣や衣和緒に似た空気を感じたよ…独特な」
「清澄の制服…」
「それじゃああいつが原村和か?全中王者の」
原村とは全中大会で優勝した今最も期待されている1年生だ。
そして透華が執着している選手でもある。
そんな透華なら原村の姿は知っているだろうと問いかける。しかしある一点が決定的に違っていた。
「いや…原村和はこう…胸のあたりに無駄な脂肪がある感じですわね…」
本人が聞いたら激昂するだろう判断理由である。
「ところで衣和緒は…うわ!」
「おまえ…女がしちゃいけない顔してるぞ…」
「猛獣みたい…」
さっきからだんまりの鷲巣を訝しんだのか一が鷲巣の方へ振り返り思わず小さい悲鳴をあげる。
鷲巣は元々つり目だが今は更に目をつりあげ口を三日月のように歪ませ、歯を覗かせていた。
その姿はまるで獲物を見つけた時のライオンのようである。
他校にもなかなかの打ち手がいるようだ。自分と当たるかは分からないが退屈はしなさそうだと思った鷲巣であった。
「まあそれはともかく先程言ったとおり私たちはシードですから午前中の試合はありません。一旦ここで解散としましょう。正午に集合ということで」
「それはいいが…何するつもりだ透華」
「勿論!清澄の試合を見に行くのですわ!原村和が本当に(のどっち)なのか確かめなければなりません」
「へいへい…俺らは適当にぶらつくか」
「そうだね」
「ちょっと!着いてこないのですか!?」
「そりゃそうだろ。興味もねえし何より目立つだろ」
「ぐっ…」
透華は当然皆で行くつもりだったので着いてくる気配がない純たちに叱責するが最もな理由を返され二の句が出ない。
「な…なら衣和緒!あなただけでも」
「なんで儂が…」
と言いかけたところでふと気が付く。先程の強者特有の空気を纏った少女。確か同じ清澄のはず。
ならば見て確かめるのも悪くはないと。
「よし…行こう」
「よく言いましたわ!」
こうして2人の目的は違うものの清澄の試合を観戦することになったのだった。
***
「ふ、藤田プロ!」
「…何があったんだ一体」
「こ、これ先程提出された龍門渕のオーダーなんですが…」
実況解説室に向かおうとしていた藤田を呼び止めたのはとある記者だった。
かなり焦っている様子だ。どうやら想定外の事態が発生したらしい。記者は1枚のオーダー表を手渡してきた。
「沢村がオーダーから外れ、天江が副将…か。そして大将は…」
昨年とオーダーを組み替えてきている。大将は聞いたことがない1年生だったが藤田には心当たりがあった。
あの白髪の少女で間違いないだろう。天江衣を副将に追いやるくらいだ。やはり相当打てるのだろう。
(龍門渕…昨年より相当強くなっていると見て間違いないな)
***
「衣和緒。これを着けなさい。変装用ですわ」
「いや…いい」
一方観戦室で席を取った透華と鷲巣。透華が着けている同じサングラスを渡されたが正直効果があるとは思えない。と言うより逆に目立つと思うのだが。
やはり何処かずれている透華。当然鷲巣は付けるのを拒む。
「そうですか。ああそろそろ始まるようですわね」
対局が始まった。試合は終始清澄ペースで先鋒、次鋒、中堅と進んでいったが鷲巣の目当ての少女は出てこず
また出てきた打ち手も個性的なのはいるがはっきり言って鷲巣の障害にはなりえないだろう。まあポジションが違うので絶対に当たらないが…
(さて、いよいよですわね!お手並み拝見といきましょうか)
副将戦。どうやら透華の目的の原村和が出てくるようだ。
全中王者ということもあり一気に観客が増えてやかましい。
しかし透華は中堅であり、副将である原村と団体戦で当たることはない。果たして気づいているのだろうか。
そしてその原村和は序盤こそ目立ったところはなかったもののミスのない打牌をし着実に点を稼いでいった。
(無駄のない打ち筋と最善の和了…やはり原村和はのどっちですわ!)
のどっち。ネット麻雀界最強との呼び声も高い。透華はこののどっちが原村和ではないかと感じていた。
中学時代からその片鱗は見えていたのだが、今日の対局を見て確信を持った。間違いない。
副将戦が終わり透華は用は終わったとばかりに立ち上がる。
「さあ行きますわよ。衣和緒」
「…いやもう少し見ていく」
「そうですか…なら先に行ってますわね」
透華は当然鷲巣と共に観戦室を去ろうとするが鷲巣はこの後の大将戦まで見るつもりだった。鷲巣は横目で少し先に居る清澄一同を確認すると先程の少女が観戦室を出て行く。自分と直接当たる大将なのだろう。実に都合がいい。透華はそれならと一足先に出て行った。
それからしばらくして…透華は龍門渕一同と合流していた。ようやく起きたのだろう衣とハギヨシもいた。
興奮しっぱなしで原村和がのどっちだったことを説明する。そんな透華の調子に押され気味の一同。
話が一段落したところで衣が透華に尋ねた。
「ところで衣和緒は?純たちが透華と一緒だと言っていたが」
「ああ…衣和緒ならまだ観戦していますわ。なんでもまだ見たいものがあるとか…」
「珍しいな…あいつが興味を持つなんて」
すると少し騒ぎが起きていた。なんでも原村和の後に出てきた清澄の大将が東福寺を飛ばして対局を終わらせたらしい。透華の記憶では他の3校もそこそこ点が残っていたはずなのだが。そして観戦を終えた鷲巣が帰ってきた。先程浮かべていた邪悪な笑みを浮かべている。
「衣和緒!」
「…ようやく起きたか衣。いやなに…なかなか面白いものが見れたのでな」
「清澄の5人目か」
純の問いかけに鷲巣は笑みで返す。どうやらかなり鷲巣の興味を引いたらしい。
一は清澄の大将に内心同情した。なにせ鷲巣は衣以上の人外だ。持ち前の豪運で高い手を張り、しかも早い。
東一局の四巡目で国士無双を振り込み飛ばされたのは恐らくもう忘れないだろう。
そして厄介なことに、衣と違い強さにムラがない。鷲巣が負ける姿が想像できなかった。
「じゃあもう時間ですし…食べに行きましょうか」
「わーい!衣はエビフライだ!午後から頑張るぞ!」
「そうだな」
こうして龍門渕一同は昼食を取りに食堂へと向かう。
ちなみに午後からの2回戦は透華が他校を飛ばし、衣及び鷲巣の出番はなかったことを付け加えておく。
***
そしてもう一つのシード校…風越女子も危なげなく決勝進出を決めていた。
「そう…龍門渕も勝ったのね…よかった」
「でも中堅戦で終わってしまって…結局大将は分からずじまいです」
名門風越女子のエースにしてキャプテン…福路美穂子は今後輩からの報告を聞いていた。
打倒龍門渕…王座奪還…それらを掲げた今大会だが不安材料があった。
龍門渕のオーダーが変わっているのである。
昨年МVPまでとった天江衣を副将にし、大将に新1年生を据えている。そしてこの1年生、これまで公式戦の出場がなく、まったくデータがない状態だった。
出来ることなら打ち筋を確認したかったのだが…
「どんな打ち手でも華菜なら負けないわ。証明しましょう…私たちが最強だということを」
***
(龍門渕…か)
こちらは同じく決勝進出を決めた清澄高校…部長であり中堅の竹井久は考えていた。
昼食の時腐れ縁の藤田靖子からの忠告があった。
龍門渕に気をつけろ…と。
(今更って感じね。元から強いんだし…私は全力で打つだけ)
***
(明日…間違いなく苦戦を強いられるな…)
決勝進出の最後の1校、鶴賀学園の部長…ではなく副部長の加治木ゆみは明日の勝機の薄さを理解していた。
チーム力はシード校には勿論、清澄にすら及ばないかもしれない。ここまでもギリギリで勝ち上がってきた。
しかし決勝進出で十分だなどとは露程も考えてはいなかった。
(勝機がないわけではない。勝つ…勝って全国に…)
***
それぞれの思惑がかかった決勝戦が幕を開ける。
「あれ…私が中堅という事は…」
「やっと気づいたか透華…原村和は副将だ。どうあがいても団体戦では戦えない。なかなか言い出せなくてな…」
「なっ…なんですってー!」
…やはり透華は気づいてなかったようだ。
衣は朝頑張って起きました。その後寝てしまいましたが…
鷲巣様は基本年上相手でも敬語は使いません。
アカギでの鷲巣様初登場時は電話越しに敬語使ってましたけど違和感しかありませんでしたよね。