つま先立ちのアクトレス ~ Story of Eli   作:Kohya S.

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18. ふたりの距離 (1)

 次の土曜日。絵里はカローデンで待った。

 

 服装にはさんざん悩んだものの、スカート部分がふわりとふくらんだ、膝上丈のオフホワイトのワンピースを選んだ。それに薄手のブルーグレーのテーラードジャケットを羽織り、袖をくるりとまくる。耳には二度目のパーティで贈られた青い石のイヤリングを付けた。

 

 店の前に見覚えのある白い高級車が止まった。絵里は会計を済ませて店を出た。

 黒田が運転席から降りてきて絵里に挨拶する。

「おはよう、絢瀬君。いや、絵里。助手席にどうぞ」

 彼はすこし芝居がかった身振りで助手席のドアを開けた。

「あ、ありがとう」

 黒田が自分で運転して迎えに来たのはこれが初めてだと絵里は気付いた。

 

 絵里が乗ると黒田は車を出した。

 絵里は運転席の黒田をちらっと眺める。今日はスーツではなく、ペールブルーのシャツにネイビーのジャケット、それにグレーのパンツだった。ネクタイはしておらず、シャツの一番上のボタンを外している。

 スーツじゃないのも、初めてかも、と思う。電話のときにも思ったけど、やっぱりカジュアルなパーティなのかしら……。

 

 黒田はまっすぐに前を見て黙って運転していた。いつもの饒舌(じょうぜつ)さは影をひそめていた。

 

「……ねえ、今日はどんなパーティなの」

 信号待ちで止まったタイミングで絵里は聞いてみる。黒田はやはり絵里とは視線を合わせずに答えた。

「……今日は、パーティじゃない」

「それじゃ……食事会とか?」

「食事会でもないよ……」

 信号が青に変わり車はふたたび走り出す。

「今日は一日、私に付き合ってほしいんだ……。ふたりだけでね」

「え、それって……」

 まるでデートみたいじゃない、と絵里は思う。

「今まで無理を聞いてもらったし、いろいろ迷惑をかけたからね。せめてもの罪滅ぼしだよ」

 

 迷惑って……岡本さんのことかしら、それともお酒に酔って自宅まで送っていったこと? 絵里は疑問に思う。ただ、いずれにしても――嫌な思い出ではなく、むしろ黒田に親近感を抱くきっかけになったように絵里は感じていた。

 

「……嫌かね?」

 黒田は一瞬だけ絵里を見た。その顔には微笑にくわえて――かすかな不安が浮かんでいるような気がした。

「別に、嫌じゃないわよ。ちょっと驚いただけ。……仕方ないわね」

「ありがとう」

 黒田はふたたび絵里を見て笑った。

 

 絵里は窓の外を眺めた。

 

 どうしてこんなことをする羽目になったのかしら……。もう、私って、お人よしよね。

 

 冷静に考えれば付き合わせているのは彼のほうで――罪滅ぼしにもならないのだが、それでも絵里は嬉しかった。黒田の心遣いが嬉しいのか、彼と一緒にいられるのが嬉しいのか――もちろん、前者のほうよね、と絵里は自分にいい聞かせた。

 

「……どこか行きたいところはあるかい?」

 黒田がたずねる。

「急にいわれても、思いつかないわよ」

「それじゃ、任せてもらおうかな」

 絵里はうなずいた。

 

 車はすぐに首都高速に乗った。十分ほど走ると視界が開け左手に優美な吊り橋が見えてきた。防音壁の向こうには青い水面が広がっている。車はその橋を通っていった。

 行き先って、もしかして……と絵里は思う。

 

 橋を渡り終えて一般道に降りた。大きなビルや商業施設が余裕を持って立ち並ぶ街並みを抜けて行く。

 

「ねえ、ここって……」

 有名なデートスポットよね、といおうとして口ごもる。それをいったら今日はデートだと認めてしまうような気がした。

「ん?」

「……まずはどこへ行くの?」

「そうだな……。ショッピングは、後回しにして……遊園地か、博物館か。絵里はどうかな」

「どっちでもいいわよ」

「それじゃ、私の趣味で行くか」

 

        ・

 

 車は広い道をしばらく走り、全面ガラス張りの奇妙な建物の地下へ入っていった。駐車場に車を止める。

 

「来たことあるかい?」

 エレベータを待ちながら黒田が聞いた。

「いえ、ないわ」

「それはよかった。……一応、先端技術の博物館、ってことでね。一度、来てみたかったんだ」

 ちょっと子供っぽいところもあるのね、と絵里はくすりと笑った。

 

 一階の券売機でチケットを買う。絵里はお金を払うといったものの黒田は笑って手を振った。

 エスカレータで上層階に上がるとそこが展示室になっていた。

 

 幸い館内はそれほど混んでいなかった。

 配管がむき出しの館内は白やシルバーが基調のシンプルな展示とあいまって、いかにも未来的な雰囲気をかもしだしていた。

 まず目に入ったのは吹き抜けにぶら下がっている巨大な地球儀だった。表面には陸と海、それに雲が映し出され、刻々と変化している。

 

「すごいわね、これ」

「ああ、全面ディスプレイになってるそうだよ」

 

 それぞれの展示は触って試せるようになっていて――絵里は黒田そっちのけで見てまわった。

 ロボットの展示を見て、いつか歌って踊れるロボットアイドル、なんてのも出るのかしらね、と思う。

 

 一角には、銀のレールがジェットコースターのように複雑に組み合わせられた、巨大な装置があって、球が縦横に走り回っていた。

 こんなパズルというか、おもちゃがあったわね、と思う。

「これはなんなの?」

「インターネットのモデルだな。私なんかはおなじみだが……。あの塔みたいなのがルータだな。データを振り分けるんだ」

 

 走り回る白と黒の玉を見ていると不思議に飽きない。絵里はしばらく見入っていた。

 

「……がちゃがちゃ、うるさいわね。本物もこんななの?」

 黒田は吹き出した。

「そんなわけがあるか。本物はちかちか光ってるだけさ」

 なによ、笑わなくてもいいじゃない……。

「いや、すまない」

 絵里がふくれっ面をすると黒田はあわててあやまった。ただその目は依然として笑っていた。

 

 もうひとつ上の階に上がると、そこには宇宙や生命に関する展示が並んでいた。絵里は授業もこんな感じならいいのに、と思う。

 実物大の宇宙ステーションや深海調査船、ロケットエンジン――これは本物らしい――に黒田は興味をひかれているようだった。

 やっぱり子供みたいね。絵里は笑みを浮かべた。

 

 展示室から出て休憩スペースの椅子に座る。

 

「ねえ、隆司(たかし)さん。こんなの見て、面白かったの? 子供だましじゃない?」

 絵里は純粋に疑問に思って聞いてみた。

「いや、面白かったよ。それは、中身は知ってることも多いさ……でも、こういう見せ方もあるのか、ってね。参考になるよ。……絵里はどうだった?」

「私? 私は……楽しかったけど」

 自分も子供っぽいと思われちゃうかしら。絵里はそう思って小声になる。

「そうか、それはよかった。……私は、なによりそういう君を見ているのが、いちばん楽しかったかな」

 黒田はそういって絵里を見つめ、笑った。

 

 もう、そういうところは相変わらずなんだから……。絵里は恥ずかしくなって顔をそむけた。

 

「さて……ん、もう昼か……。お昼はなににするかい?」

「なんでもいいわ……といいたいところだけど、せっかくだから……。たしか、近くに有名なパンケーキのお店があったと思うのよね。どうかしら」

「いいとも」

 黒田はスマートフォンを取り出して調べている。さすがにそこまでは知らないようね、と思う。

 

 一階まで下りると、ミュージアムショップが絵里の目に入った。

「あの……ちょっとのぞいてきても、いいかしら?」

「ああ、いいよ」

 こういうところの、ちょっとチープなグッズとか、気になるのよね……。

 

 あれこれと見てまわる絵里を黒田は面白そうに眺めていた。やがて絵里はいくつかの品物を買って戻ってきた。

 

「うふふ、宇宙食、買っちゃったわ」

「昔からあるな、それ」

「あら、そうなの?」

「わくわくしながら食べて、たいしておいしくなくて、がっくりするんだ」

「……夢を奪わないでちょうだいよ」

 絵里はすこし怒ってみせる。

「すまないね。今は進化してるかもしれないぞ」

 黒田はそういいながらくっくと笑った。絵里もつられて笑い出した。

 

        ・

 

 ふたりは車に戻った。黒田は道をすこし戻り、また別の建物の地下駐車場に止めた。

 上層階へ上がり、連絡通路で隣の商業施設へ入る。

 

 土曜日のせいかかなりの人出だった。テナントはアパレルショップが多いようで、絵里は心惹かれたが――まっすぐ歩くよう努力した。

 黒田はときどき遅くなる絵里の歩調にあわせてくれているようだった。

 

 でも、あまりよそ見しちゃ、悪いわよね。

 

 目当ての店にはちょっとした行列ができていた。

「どうする、隆司さん?」

「君さえよければ、並べばいいさ」

「そうね……」

 

 絵里は並ぶことに決めた。黒田さん、並び慣れ、してないんじゃないかしら、などと思うが、彼も神妙な顔をして並んでいた。

 幸い十分程度で席は空き、頼んだオムレツとパンケーキは、並んだだけの価値はあった。

 

「おいしいわ」

「うん、思ったよりも甘くないな」

 ふたりでにっこりとほほ笑む。

 

 ……あれ、これって思いっきりデートじゃないかしら。ふとそんなことが頭をよぎったが、絵里は頭を振って考えないことにした。

 

 今回は絵里が強硬に主張して会計を支払った。

 

        ・

 

 黒田が案内してふたたび連絡通路を渡り、ふたりは隣の施設へと入った。

「ここにはなにがあるの?」

「屋内型アミューズメント施設……まあ、遊園地だな」

 あら、楽しそうじゃない。

 

 チケットは黒田が買った。あまり口を出すのも、と思ったので買うのは任せることにする。

 彼が「大人二枚で」というのが聞こえてきた。

 高校生料金もあるのに、と絵里は自分が大人だと認めてもらったような気がしたが――でも、たぶん、料金がどうとか、気にしてないだけよね、と思いなおす。

 

 施設のなかは全体的に照明が抑えられていた。ネオンのようなサイネージやアトラクションがまばゆく輝いている。おそらく壁や天井は黒く塗られているのだろう。

 中央は吹き抜けになっていて屋内ながらあまり狭さを感じさせなかった。

 小中学生や親子連れが数多くいたものの、カップルもそれに劣らず大勢あふれていた。

 

 絵里は遊園地に来るのは久しぶりだった。μ'sのメンバーとも行ったことはない。きらびやかな光と喧騒に包まれて、心躍るのを感じた。

 ちらっと隣を見ると黒田もまぶしそうな顔をしていた。

 

 一緒にいるのがこの人、っていうのは――その、どうなのかしら。それに、私を連れまわして、この人は嬉しいのかしら。今日何度目かになる疑問が頭をよぎった。

 

 一階は体感型のアトラクションが多いようだ。一番上の三階まで上がってから館内を見ていくことにした。

 

「えーと、これはなにかしら? 『暗闇の教会』?」

「ホラー系の3Dムービーかな」

「ごめん、私はパス……」

「……ん、ここは待ち時間が短そうだ。『ダークルーム』か。面白そうじゃないか」

「なんか不吉な名前なんだけど……」

「いわゆるお化け屋敷みたいだな」

「……ち、ちょっと子供っぽいから止めましょう」

 もう、どうしてそういうのばっかりなのよ……!

「もしかして……この手のもの、苦手かい?」

 黒田が目を輝かせる。

「そ、そんなことはないわよ。ただ、その、もうすこし、すかっとするようなのが、いいじゃない」

「はいはい」

 黒田は肩をすくめてみせた。

 

 なによ、もう、大人ぶっちゃって……。別に、お化けとか怖いわけじゃなくて……暗いのがちょっと苦手なだけなんだから……。

 

 最初に乗るのはライドアトラクションにした。大空を駆け抜けるムービーにあわせてライドが動くもので絵里は大いに楽しんだ。

 

 次に、さまざまな占いができるアトラクションに入る。

 希なら、なんていうかしら、と思う。こんないい加減なのダメやん、って文句いうかしら。いえ、希なら楽しんじゃいそうよね……。

 ただ遊園地だけあって恋人同士の相性占いが多く、必然的に黒田とやることになり――悪くない結果が出るのだった。

 

「ほう、なかなかいいじゃないか」にやりと笑う黒田。

「こういうところの占い、悪い結果なんて出るわけないじゃない」

「夢がないなあ、君は」

「ほっといてよ」

 

 下の階に下りる。

 ペアで協力するガンシューティングがあったので挑戦してみることにした。襲いかかってくるゾンビをサブマシンガンでなぎ倒すものだ。

「こういうの、久しぶりだな……」と黒田。

「それをいったら、私は初めてよ」

 

 おどろおどろしいオープニングムービーが終わり、絵里は銃を構えた。さっそく大勢のゾンビが押し寄せてきた。

 狙いを定めてトリガーを引くと、派手なリアクションとともに敵が次々と倒れていく。

「あれ、弾が出ないわ!」

「リロードだ、いったん指を離せ」

 黒田のいう通りにいったん撃つのを止めると、効果音とともに残弾が補充された。なるほどね。

 コツをつかむと絵里の快進撃が始まった。リズムに乗るように銃撃とリロードを繰り返し、ゾンビをなぎ倒していく。

 

 あら、もしかして私、才能あるのかしら。ちらっとそんなことを考えるが、絵里は気合いを入れて目の前の敵に集中した。

 

 かなりいいところまで行ったと思うのだが――初挑戦でクリアできるほど甘くはないらしい。途中でゲームオーバーになってしまった。

 ふたりの得点が表示される。

「驚いたな、君のほうがすいぶん高いぞ」

「まあ、こんなものよね」

 絵里は胸を張った。

 

 それから一階へ。

 ふたりで相談して珍しい形のライドに乗ることにする。それはふたり乗りの円筒状のボディをしており、操作にあわせて前後左右に揺れ、さらにときどきぐるっと一回転していた。

 どうやら未来の宇宙戦闘機という設定のようで、ひとりが操縦を、もうひとりが砲台を担当するらしい。

 同じものが四台、並んでいた。

 

『……おおっと、三号機、ヴァリアント、ここでシールド破損! チャージ完了まで動けません!』

 スタッフが実況して観客を盛り上げる。そのおかげで待ち時間も飽きなかった。

 

 客が交代するタイミングで黒田がいう。

「筐体を回転して疑似的なGを感じさせてるんだな。昔の体感ゲームと同じか。……しかし、宇宙空間だとこういうふうに、加速度がかかることはないはずなんだが……」

「もう、夢がないわね……」

「……さっき、同じことをいった気がするな」

「楽しまなきゃ損、ってことね」

 

 そうよね、隣が誰とか、どう思ってるとか、そういうのは……またあとでいいわ。

 

 しばらく待ちうちに順番が回ってきた。

「前回の才能からして、君は射撃を頼む」

「わかったわ」

 

『さあ、いよいよ搭乗です。一号機、レパルスのガンナーは、なんと金髪のお姉さんだ!』

 

 スタッフのアナウンスに、絵里は顔を赤らめながらも、なかばやけになって観客に向けて手を振った。ノリのいい何人かが口笛や拍手をあげた。

 

 ライドのわき、一段高くなった乗降用の台から乗り込む。スタッフが肩から落下防止の安全バーを下ろして確認した。

「さあ、いくわよ」と絵里。

「よし、その意気だ」

 

『Ready, Go!』

 

 掛け声とともにライドが動き出した。まるで本当に宇宙にいるような奇妙な浮遊感が体を包んだ。

「きゃっ!」

 絵里は小さく叫び声をあげた。

 黒田が試すように小刻みに操縦桿を動かすと、それにあわせてライドが傾いた。映像もシンクロして揺れる。

 警告音とともにスクリーンにアイコンが灯った。黒田がぐいっと操縦桿をひねる。

 

「絵里、右側、来るぞ」

 一気に加速してアイコンのほうへ近付いていく。視界に敵機が見えてきた。絵里は手元のスティックを操作して照準をあわせていく。照準の色が変わり射程に入ったことを示した。絵里はそれと同時にトリガーをひいた。

 青色の短い光条が効果音とともに大量に吐き出される。いくつかが敵機に吸い込まれていった。

 

『おおっと、二号機、被弾です!』

 

 襲いかかってくる真紅の光の矢を、黒田は加減速と急旋回を組み合わせてかわそうとする。

「宇宙空間だと、レーザーは目に見えないはずなんだが」

「そんなこといってる、場合じゃないでしょ!」

 

 何発か被弾したようでライドが小刻みに揺れた。そのあいだも絵里は敵機に砲火を浴びせ続けた。

 派手なエフェクトとともに敵の機体がひときわ輝いた。すぐにグレーアウトする。しばらく行動不能、ということらしい。

『一号機、まずは一ポイント獲得です!』と実況。

 

 私、なかなかやるじゃない。絵里は不敵に微笑む。

 

「よし、次に行くぞ」

「ええ」

 

 続いて緑の機体が近付いてきた。黒田はまっすぐに突っ込んでいく。射程に入ると同時に緑色の光条が大量に襲いかかってきた。

 黒田は操縦桿を大きく左右に動かした。ライドがシンクロしてぐるっと一回転する。絵里はその感覚に驚くとともに爽快感を覚えた。

 

『出ました、大技、ローリングスピン!』

 

 スクリーンでは絵里の機体は回転とともに横に大きくスライドし、敵の弾をすべてかわしていた。

 黒田は敵機の横をすり抜けると急減速して旋回し、うしろを取る。

「絵里、いまだ!」

 絵里はトリガーをひいてレーザーを放った。逃げようとする敵に照準をあわせ続ける。ほどなくしてその機体も炎に包まれた。

「やったわ!」

 絵里は思わず叫ぶ。

 

 四号機は強敵だった。

 何度もうしろを取ろうとするが、数発当てるのがやっとだった。いったん距離を取り、正面からぶつかりあう形になった。射程に入ってもかわさずに、両者ともに光の矢を撃ち続ける。

 シールドがダウンする寸前、黒田は機体をひねって敵の攻撃をかわそうとしたが、敵もさるもの、最後の数発が命中した。ライドが大きく揺れて、スクリーンが真っ赤に輝いた。

 

『おおっと、一号機、四号機、相打ちだ!』

 絵里の光条も敵機をとらえていたらしい。

『そしてここでタイムアップです!』

 

 ライドがゆっくりと元の角度に戻っていく。スクリーンにはスコアと順位が、下位からひとつずつ表示された。

 

『今回の結果は……一号機、レパルスの優勝です!』

 

 スタッフが安全バーを外してくれた。

 絵里は立ち上がりライドから台へと移る。今までの浮遊感が残っていたのか、硬い足元に戸惑いを覚え、絵里はふらついた。

「おっと」

 黒田がうしろから絵里の腰をささえた。

 

『皆さん、一号機のふたりに、どうぞ拍手を!』

 黒田は絵里の腰を抱くようにしながら、もう片方の手で観客の拍手にこたえた。絵里も片手を上げたが、腰に添えられた手から伝わる温かさに、つい意識がそれるのだった。

 すぐに黒田は手を離し、ふたりはフロアに降りた。

 

「いや、なかなか面白かったな」

 黒田はすこし上気した顔でいった。同じく高揚感に包まれながら、絵里はさきほど支えてもらったことから、気を取り直す。

「そうね。優勝、おめでとう」

「君の射撃のおかげだな」

「……隆司さんの腕がいいからよ、っていってほしいんでしょ」

「まあね」

「そういえば、あんな技、どこで知ったのよ?」

「いや、待ち時間のあいだにね。前の客がやるのを見てたんだ」

「なるほどね。ええ、隆司さんの腕のおかげよ。……ありがとう」

 絵里は優勝できたこと、支えてくれたこと、ふたつの想いをのせてそういった。

 

 黒田はそれを知ってか知らずか絵里に向けて微笑んだ。

 

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