つま先立ちのアクトレス ~ Story of Eli   作:Kohya S.

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20. エピローグ ~ ありふれた悲しみの果て

 黒田と別れた翌日の日曜、絵里は自宅で過ごした。幸いμ'sの練習は休みで――そもそもなにも手につかなかった。

 

 μ'sの活動休止が決まったあと、にこ、花陽、凛の三人は独自にアイドル活動を再開していた。

 絵里はそれには参加しなかったものの、いままでのけじめを付けるため、穂乃果に会うことにした。

 

 穂乃果の家の二階、彼女の自室。

 

 絵里はμ’sを活動休止にしようといい出したことを謝った。

「そ、そんなことないよ。ていうか、私がやめるっていったから……」

 穂乃果はすっかり恐縮していた。

 そんな穂乃果を目にして、絵里は以前から穂乃果に抱いていた想いを口にする。

 

「私ね、すごくしっかりしてて、いつも冷静に見えるっていわれるけど、本当はぜんぜんそんなことないの」

「絵里ちゃん……」

「いつも迷って、困って、泣き出しそうで……希に実際、恥ずかしいところ見られたこともあるのよ。でも、隠している。自分の弱いところを」

 絵里はいったん言葉を切った。目を落とす。

「私は穂乃果がうらやましい。素直に自分が思っている気持ちを、そのまま行動に起こせる姿が、すごいなって」

「そんなこと……」

 穂乃果はそれ以上、なにもいわなかった。

 

 絵里は穂乃果に手を差し伸べられたことを思い出す。あれがあったから私は変われた、と思う。μ’sに入ったからこそ黒田との関係も変化した、それもおそらく事実なのだろう。

 

 穂乃果が今、立ち止まっているとしても……もしかしたら、穂乃果はまた走り出すかもしれないわ。

 

「……でもね、私は穂乃果に、一番大切なものを教えてもらったの。変わることを恐れないで、突き進む勇気。私はあのとき、あなたの手に救われた」

 

 絵里はそれだけ伝えると穂乃果の家を辞した。

 帰り道、絵里は思う。

 

 もしも……穂乃果が復活するようなことがあれば……私は胸を張って、それに参加するわ。

 穂乃果がどうしてもやめるっていうなら……そのときは、希に声をかけようかしら。

 

        ・

 

 その翌日。絵里が予想していた通り穂乃果はやる気を取り戻した。それどころか留学直前だったことりを空港まで追いかけて、なかば強引に連れ戻したのだった。

 

 本当、穂乃果らしいわね、と絵里は思う。

 

 七人でやるはずだった講堂のライブは、急遽、九人に変更になった。真姫が編曲した九人版の「START::DASH!!」――学園祭のために練習していたもの――は大好評だった。

 

        ・

 

 それからしばらくして。

 第一回の「ラブライブ!」は大方の予想通りA-RISEの優勝で幕を閉じていたが、スクールアイドル人気に押されてか、早くも第二回が開催されることになった。

 

 穂乃果がラブライブに参加したくない、といいだす場面もあったが、それはまた独走して迷惑をかけたくない、という彼女の自制の結果で――結局、全員の後押しで穂乃果も決断し、μ'sはラブライブ出場を目指すことを決めたのだった。

 

        ・

 

 μ'sが第二回ラブライブに向けて再始動してから、しばらくあとの部室。

 

「あー、もう、最近、遅すぎるんです!」

 花陽がPCの前で嘆いていた。

「どうしたの、花陽?」

 絵里は聞いてみる。

「サイドグラム、第二回ラブライブが決まってから、ますます遅くなって……。これじゃ、スクールアイドルライフに支障が出ちゃいます……」

 花陽は涙目だった。

「あら、たいへんなのね」

「風の噂では、運営体制が変わったとか……。ネットでは批判の嵐です」

「……最近、また重くなったわよね。それに、広告も増えたし」とにこ。

 

 これは……まず間違いなく、隆司さんがいなくなったせいね……。

 

 絵里は彼のことを思い出して――懐かしくなり、くすりと笑った。あれ以来、黒田からの連絡はなく、一か月ほど経ったいま、ようやく思い出のひとつとして考えられるようになっていた。

 

「あー、絵里ちゃん、いま笑いました。花陽は本気なんですよ……しくしく」

「あ、ごめんなさい。そういうつもりじゃないの」

 絵里はあわててなだめる。

「……きっと、あとすこししたら、新しいサービスができるわよ。サイドグラムより、ずっとずっと、進化したサービスがね」

 絵里はウインクしてみせた。

 

 なお、数か月後、絵里の言葉は現実になり、「予言者ですか!」と花陽たちに尊敬されることになるのだった。

 

 また、絵里はときどき、音符モチーフのブローチを付けてお出かけした。希に「おそろいやね」といわれるのは嬉しくもあり恥ずかしくもあった。

 

 そして、亜里沙と一緒に食べた宇宙食は、やっぱりあまりおいしくなかった。




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