Dies irae ~Unlimited desire~   作:ROGOSS

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「これは……見事と称賛に値するでしょう。あなたも、このように大展開されている魔術を見るのは初めてでは? カイン」

 

「どうでもいい」

 

「つれないですね。私は感動しているのですよ」

 

「それがどうした聖餐杯。懺悔の用意はできているか」

 

「懺悔?」

 

 何が可笑しいのかヴァレリアは笑い始めた。その姿を櫻井は憎しみの目で見る。

 その間にも櫻井の周囲にあるものは、腐敗し続けていた。

 

「私が懺悔などすると思いますか?」

 

「どういう意味だ」

 

「懺悔とは神に許す行為にほかならない。許しを請う? 何故? 誰に? カイン、私はね60年前のあの日から、誰にも許してもらおうなどとは思っていませんよ」

 

「あなたが私を憎む気持ちはわかりますが、なんの感慨深さもありませんね。死者は行き過ぎた。本来死すべき時を無視してここまで生きてきた私たちが今更殺されようと……」

 

「それでもっ!」

 

 櫻井は叫ぶ。その姿をヴァレリアは冷ややかな笑みを浮かべて見ていた。

 ベアトリスを守ると決めていたのに、それを破らせたあなたを私は許さない。

 

「神なんかこの世界にいない」

 

「ほぉ、聖職者である私の前で言いますか」

 

「ふざけろよ、聖職者? 邪なる聖者なんて大層な名前持っているくせにどの口が言っているんだ。例え、神がいなくとも俺がお前を許さない!」

 

「ならば着なさいカイン。呪われた血よ」

 

「はァぁぁぁ」

 

 櫻井が偽槍を振るう。

 無駄なことを。私がどれほど強固なのかはあなたもよく知っているでしょうに。

 だが、ヴァレリアの考えに反し振り上げあられた鉄塊から下された攻撃により聖餐杯の体が弾け飛んだ。血を吐き立ち上がるヴァレリアを櫻井は黙って見つめていた。

 

「なぜだ……なぜ私が攻撃を受けた!」

 

「ここは士郎の世界だ。お前の知っている、ハイドリヒ卿が干渉できる世界じゃない!」

 

「なるほど……ある意味、衛宮さんが世界のルールを書き換えたということですね」

 

 ヴァレリアの体がグジュグジュと音をたて腐りはじめる。

 櫻井の一撃は、殴打によるダメージだけではなくその性質である腐敗による攻撃も与えていた。

 しかし、ヴァレリアに焦りの色はない。むしろ、今まで溜め込んでいたものを吐き出すかのように爆発のごとき狂笑をうかべた。

 

「はははははっ!」

 

「何がおかしい」

 

「いいえ、これは失礼。何もおかしいことなどありませんよ。私も思ってしまったのですよ。ほんの少し、あともう少し衛宮さんと出会えていたならば私も変われていたのではないかと」

 

「……」

 

 額から流れる血を手で拭う。

 あぁ、何十年ぶりでしょうか。血を流すなど……これこそが本来の肉体の痛みというものでしたね。

 

「彼のように、何者にも屈しず守る意思を固くも続けていれば私も……」

 

 ヴァレリアの独白を櫻井は黙ったまま聞いた。余計な口を挟むことは躊躇われた。

 

「逃げずに済んだのかもしれません。どうして気づかなかったのでしょうね。大切なものは目の前にあったというのに……」

 

「光ってるモノは、意外に見つけずらいというだけではないのですか」

 

「なるほど。一つ賢くなれましたよ。では、ここらで私たちの終幕としましょうか。お互いに槍を使うものとして」

 

 ラインハルトの肉体を持つがゆえに使える聖槍。だが、本来の持ち主が使うわけではないため、その力を十全に引き出せているわけではない。

 対して、一族の呪いの根源である聖槍の偽物。血や生まれという、どうしようもない枷で苦しめ続けていた。ゆえに、その呪いが深いほど力は本物と近くなった。

 

「私は……何度でもやり直しますよ!」

 

「ここで終わりだ!」

 

 二本の槍が交わる。お互いに防御を捨てた完全な攻撃態勢で臨んでいた。

 本物と贋作。どちらが勝つかを予想するのは、そう難しくない。だが、どちらも使い手を選ぶものだからこそ、拮抗していた。本物でありながら使い手が偽物である聖槍。偽物であるながら使い手が本物である偽槍。

 二本は引き合うように吸い込まれ、やがて大爆発を起こした。

 

「がはっ!」

 

 両者ともに膝をつく。

 先に倒れたのはヴァレリアだった。

 よろよろと立ち上がるながら櫻井はヴァレリアに槍を向ける。ヴァレリアは何かを悟ったような目で櫻井へ視線を向けた。

 

「なるほど。これが私の最後ですか」

 

「最後だ」

 

「自分の生まれ持ったものが憎くてたまらなかった。怖かった。ゆえに、人類最高のものを手に入れた。魂だろうが肉体だろうが何でも捨てました。しかし……カイン、あなたはお強いですね」

 

「今すぐ行きますよ。10の花を私が面倒を見るべきです」

 

 肉を貫く音が荒野に響いた。

 

「あぁ、ベアトリス……蛍……」

 

 士郎が走ってくるのが感じられた。

 すまない、士郎。僕はここまでだ……君にも穢れてほしくない…… 

 体中に力が入らなくなる。櫻井は静かに息を引き取った。




生存 

ラインハルト・ハイドリヒ
メルクリウス
衛宮士郎
ゲッツ・フォン・ベルリッヒン

死亡及び不明

ルサルカ・シュヴェーゲリン
ロート・シュピーネ
アンネ・リーゼロッテ
リザ・ブレンナー
櫻井戒
エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルク
ヴォルフガング・シュライバー
ベアトリス・キルヒアイゼン
ヴァレリア・トリファ
ヴィルヘルム・エーレンブルク
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