Dies irae ~Unlimited desire~   作:ROGOSS

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ただ一太刀

「はァぁぁぁ!」

 

「ふァぁぁぁ!」

 

 士郎とセイバーのエクスカリバーをあくまでも真っ向から受け止めようとするラインハルトは、ロンギヌスを構え迎撃態勢に入った。

 卿の活躍、見事だった! ゆえにここで散るがいい! 私の地獄(ヴァルハラ)で永劫にあがき続けよ!

 お前のふざけた理想何かぶち壊してやる! ラインハルト・ハイドリヒ! 引導を渡すのはこの俺だ!

 セイバーと士郎が左右に分かれ斬撃を叩き込む。槍一本しか持たぬラインハルトでは、同時に2本の剣を受け止めることは不可能だと思っていた。そこに士郎の隙が生まれた。

 

「なぁ……!」

 

 その続きを士郎は口にすることが出来なかった。ラインハルトは微笑を浮かべる。

 

「これが卿の限界、ということなだけだ。恥じることはない、ただそれだけなのだから」

 

 例えそれ贋作であろうとも、贋作が本物に劣るという道理はない。すなわち、士郎の投影したエクスカリバーも士郎の心象であるセイバーが使うエクスカリバーも最大の威力を持っている剣に間違いなかった。だが、根本が違うのだ。ここは士郎の心象風景、剣の丘であり同時にラインハルトの城の中である。

 黄金に骸が積み重なり、一つの生命体として生きる城はラインハルトを守るため独自に動くこともある。そして、その機能が今、この瞬間に発動したのだった。突如ラインハルトの背後から現れた髑髏は、その体を二本目のロンギヌスへと変えると士郎へ襲い掛かった。

 間に合わない……!

 トップスピードを維持していた士郎の目の前に、突然ロンギヌスが現れたことでラインハルトへの道は断たれた。防御の姿勢を取る間もなく士郎はロンギヌスへ正面から突っ込むことになる。

 

「ぐはっ!」

 

 背中まで貫いたロンギヌスは士郎の生命力を奪い去っていった。

 

『士郎!』

 

「私の相手は卿ではないのかね?」

 

『……!』

 

 士郎へ振り返ったはセイバーにラインハルトが静かに告げる。戦いの最中に敵に背を向けるなど言語道断。そんなことは騎士王である彼女が一番わかっていたはずだった。セイバーまでもがロンギヌスに貫かれ、ラインハルトは大した労力を使わずにこの難局を乗り切った。

 ラインハルトは最初から、隙などあるとは思っていなかった。一度たりとも優位に立ったとは思っていなかった。ゆえに、常に最悪の事態を考えている彼に死角は無く、むやみやたらに正面突破を狙うその瞬間を待ち続けていたのだった。

 

「まだ逝かぬか。さすがは、正義の味方と言ったところか」

 

「ラインハルト……ハイドリヒ……」

 

 声を出すのも億劫になるほど、体から生命力が抜かれていくのが自分でもわかった。 

 たとえ、コンマ数秒であっても勝ったと確信してしまった自分を士郎は恥じた。

 最強の好敵手との戦いに油断など不要。むしろ、油断こそが敗因となり得る。それを知っていながら士郎は油断した。そして今、命をかけて守ろうとした世界が崩れようとしていた。

 黄金の髑髏達は息を吹き返したかのように勢いを増し、士郎の英雄達を圧倒し始めていた。

 

「すまない……俺は……」

 

 取りこぼした。開いた指の隙間から生命(いのち)という名の泉が零れ落ちていく。だが、それを掬う方法、もとい救う方法など無い。

 だめだ……また守れない。どれだけ死力を尽くそうとも。無限の願いを俺は守れない。明日へ生きる人々を殺してしまう。

 ラインハルトがゆっくりと士郎へ近づいて行った。

 あと一突き。あと一突きで士郎の命が地獄(ヴァルハラ)へ堕ちることは確定したも当然だった。たとえ遥か遠き理想郷(アヴァロン)が発動したとしても、城の中である限り士郎の魂に逃げ場など無い。

 

『そんなところで諦めるような男だったのか? 私は』

 

「アーチャー……」

 

 

『同じく正義の味方を志しておきながら何という無様な姿』

 

「何とでも言ってくれ。でかい口を叩いておきながら、何もできなかった。俺はお前すら越えられなかった」

 

『……』

 

 頭の中に直接響いていた声が沈黙する。

 

『私との違いを教えよう』

 

「違い……?」

 

『そう。私はいつも孤独だった』

 

 どこまでも続く剣の丘に彼は一人で立ち続けた。

 

『だが、貴様はどうだ』

 

 何度も考える。もし、自分が一人でいる選択をしなかったら……誰かと共に夢へ歩む道を選んでいたら? 選択肢は何度もあった。あったが無視をし続けた。最初から持たなければ無くすことない。無くすことが恐ろしかった

 

『俺と貴様は違う。同じ衛宮士郎だとしても、源泉が同じものだとしても、生き方までは同じではない。なら、どうするか』

 

 なら、どうしたかったのか。手を借りたかった、素直に助けてと言いたかった。逃げてきたの自分だった。言い訳してきたのは自分だった。同じ衛宮士郎であるならば、自分とは違う歩みを見せてほしい、進んでほしい。例えそれが、どれほどの苦悩を与えたとしてもそれこそが生きている証なのだから

 

『叫べ! 貴様の思いを!』

 

 ラインハルトは、士郎に刺さるロンギヌスに手をかけた。

 さらに深く抉るように穿つ。それですむ話だ。

 

「さらばだ我が好敵手よ。卿もまた私の爪牙となるが良い」

 

「へ、へへへへ」

 

「何がおかしい?」

 

「おかしいね。おかしいさ」

 

 この男、気が狂ったか?

 だが、その目は英気に満ち溢れていた。絶望した者の顔ではなかった。

 ではなぜ……

 

「まさか……!」

 

「アーチャー!」

 

 士郎が叫ぶ。

 士郎の中から赤い服の男が浮かび上がる。その手には干将莫邪が握られていた。

 

「なぁ……!」

 

「その渇望を抱いたまま、溺死しろ!」

 

 干将莫邪がラインハルトを貫く。勝負は呆気ないほど、そして劇的に終わりを告げた。

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