異世界店『キツネノテブクロ』   作:子藤貝

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ある常連との交流

時間も空間も人が定義して形付けたものに過ぎない。

 

ならば、世界の本質はもっと別のものかもしれない。

 

「世界という枠組みからの脱却は、世界の再定義が必要不可欠なのかもしれないねぇ」

 

「そうですか。それよりもまず、この狭くなっている空間を整頓するなりして広げるべきでは?」

 

「いやだね。私は掃除が苦手なんだ」

 

戯言と嘘を吐くのだけは得意なくせに、と内心で悪態をつく店員の少女。仕方なく通路をふさいでいる邪魔な商品を脇へとどけ、掃き掃除を始めた。

 

「結構結構、給料分の仕事はしてもらわないとねぇ」

 

(こちらとしては、仕事のほとんどを私がやっている現状を何とかしてもらいたいものですが)

 

特異な店だが、給料はそこそこいいので彼女はそこに不満はない。ただ、この自堕落で虚言癖の駄目店主にもう少し働いてもらいたいと思っている。今のところ、仕事のほぼ全てをこなしているのは彼女一人なのである。

 

「また増えてる……」

 

この店にはとかく奇抜なものが多い。その中でも一等奇妙な代物が、目の前にある地蔵である。種類も大小も様々だが、週に一度は必ずといっていいほどいつの間にか鎮座しているのだ。しかも、放置するとなぜか増えるというわけのわからない共通項がある。

 

(重いから嫌いなんですよね、これ)

 

何よりも嫌いな理由は、石なだけあって相当に重いことである。とても少女一人で運べるものではない。が、そこはこの店を実質的に取り仕切る彼女。きちんと対策は持っている。従業員用のエプロンのポケットから、彼女は白い手袋を取り出した。

 

「よいしょっ……と」

 

手袋をはめ、地蔵を一息に持ち上げる。彼女の白い細腕からは想像もつかない光景であるが、これは今しがた身につけた手袋に起因する。一見すると普通の白手袋なのだが、装着すると手袋周辺に無重力空間を発生させ、触れた物体も同じ状態にする特殊な代物なのだ。

 

「『教授』もたまにはいい発明をするねぇ、大抵はガラクタ同然のものばかり作ってるが」

 

「チェルシーさん、でしたか? 『教授』にインスピレーションを与えたとかいう」

 

「『常連』の中でもとびきりの変人に目をつけられたのはかわいそうだったけどねぇ。まあ、結果的にいいものができたのならそれでいいと私は思うよ」

 

様々な世界に接続するだけあり、この店にはそこそこ『常連』がいたりする。彼らのいう『教授』もその一人で、癖の強い『常連』の中でも一際光る変人である。とにかく好奇心が強く実験好きで、周囲の者まで巻き込んで振り回すはた迷惑な人物である。

 

「そういえば最近は姿を見ませんね」

 

「忙しいらしいよ、なんでも所属してる組織が色々とやるらしい」

 

「騒がしくないのはいいことですね、私あの人嫌いですし」

 

「店員が客を選り好むんじゃないよ、静かでいいのは同意するが」

 

とかく、この少女は好き嫌いの激しい娘だと店主は思った。真面目で素直ないい子ではあるが、いかんせん歯に絹を着せなさ過ぎることに頭を痛めているのだ。

 

(まあ、育ってきた環境が環境だから仕方ないのかもしれないけどねぇ)

 

そしてその原因をつくったのが自分なのだから、彼はあまり強くは言えないのである。

 

 

 

 

 

「ふぅ、とりあえず一通り片付いたかな」

 

「お疲れ様、とりあえず休憩としよう」

 

「店長何もやってないじゃないですか……」

 

「私はここに鎮座してるのが仕事なんでねぇ」

 

時計を見れば、そろそろ昼時。小腹が空いてくるような時間帯である。

 

「ふむ、お昼は何がいいかな?」

 

「何でもいいです、食べられるものならば」

 

「何時も通り出前になるねぇそうなると」

 

この店主、意外にも料理ができる。が、よく言えば独特、悪く言えば余計な味付けを足す傾向にあるため当たり外れが激しすぎるのだ。よって、大抵の場合出前を取ることになっているのがこの店の昼である。

 

「ピザでも頼むか」

 

「いいですね、シーフード食べたいです私」

 

「和風のピザも捨てがたいねぇ」

 

チラシを取り出し、何のピザにしようか決めようかと話し始めた時だった。

 

「ヘイ、ピザがどうしたって?」

 

正面の扉から、男の声が聞こえてきた。

 

「うわぁ、このタイミングで来るか……」

 

「あの人実は出待ちしてるんじゃないですかね……」

 

ヒソヒソと、互いに小声でそんなことを言う二人。一方で、男の方は怪訝な顔で二人を見ている。

 

「おい、何のナイショ話だ?」

 

「いやいや、なんでも」

 

「ええ、別に食い意地の張った三枚目だなんて店長は言ってませんから」

 

さらっと毒を吐きつつ責任を店長へとなすりつける少女。男は少し機嫌を損ねたらしく、少し渋面になると。

 

「オーケイ、蜂の巣にされたいようだな」

 

そう言って、腰のホルスターから2丁の拳銃を取り出す。

 

「おいやめろ、私の店を穴だらけにする気か」

 

自分が撃たれる心配よりも、店の損害を気にする店主。銃が抜かれているというのに、まるでそれが当たり前かのように振舞っていた。

 

「なら奢ってくれよ、最近は忙しくて満足にピザも食えねぇんだ」

 

「……驚いた、君が忙しいなんて今日はエイプリルフールだったかな?」

 

店長がそう呟くと、男は一瞬で距離を詰め、黒い銃身をまっすぐ店長の額へと向ける。その表情は笑顔だが、目が笑っていない。額には青筋が浮いているあたり、どうやら本気で怒らせてしまったらしい。

 

「面白いジョークだな、笑わせてくれた礼に額でタバコを吸わせてやろうか?」

 

「勘弁してくれ、私は嫌煙家なんだ」

 

「えっ、店長この前チュパチュパ吸ってたじゃないですか。それはもう乳飲み子のように」

 

「誤解を招く言い方はやめたまえ。あと、あれはタバコじゃなくてただの棒付きキャンディだよ」

 

話をややこしくする店員の少女に、店主は軽くげんこつを食らわせる。

 

「……暴力反対です」

 

涙目で訴えてくる店員を無視しつつ、脱線してしまった話を元に戻す。今のやり取りのせいか、男は先程までの怒りは霧散してしまったようだった。

 

「まあ、少しデリカシーにかけていたか。すまんね、私の戯れ言で怒らせてしまった」

 

「冗談でも笑えねぇよ。借金返すために最近はこき使われっぱなしだったんだぞこっちは」

 

「悪かったね、お詫びに今日は奢るよ」

 

「いいのか、割りとダメ元で聞いてたんだがな」

 

「一人増えたところで大して違いもないさ」

 

「大分違うと思いますけど。ピザって結構高いですよ」

 

頭を擦りつつ、少女がそう言う。この店は非常に特殊な場所であるにも関わらず、なぜか存続できているし仕入れもされている。人が来れば大抵は商品を購入してくれるので赤字にはなってはいないだろうが、それでも黒字かといえば微妙なところだ。

 

なにせ、買われる商品の値段の差が激しすぎて安定していないのである。安ければ100円ぽっちだが、高ければ億だってゆうに超える。はっきりいって滅茶苦茶な価格設定だ。給料は店の売上から出ているらしいが、それ以外は基本店主のポケットマネーとのこと。

 

「別に問題ないよ、金なら腐るほどあるからねぇ」

 

「毎回思うんですけど、店長のポケットマネーってどこから出てるんですか?」

 

「昔ここの商品を根こそぎ持ってくレベルで買ってった人がいてねぇ。未だに使い切れないぐらい余ってるんだよ」

 

「どこの王様ですかそれ……」

 

この店で働き始めてもう3年になる店員であったが、まさかの事実を知ることとなってしまった。どうもこの店主、そこらの小金持ちより裕福らしい。

 

「というか、今更思ったんだがな。どうやって出前頼むんだ? ここに来れるクレイジーな宅配サービスでもあるのか?」

 

男がふと疑問に思った、そもそも出前をどこへ頼むのかということ。

 

「ああ、それは」

 

「私の世界で一旦受け取って、持ってくるんですよ」

 

曰く。彼女の世界にはこの店の扉に繋がる場所の住所があるので、そこで受け取るのだという。

 

「まあ、ようするに私の家(・・・)なんですけどね」

 

「自宅からすぐ出勤できるわけか、便利だな。俺なんか未だに正面から入らなきゃならねぇから苦労してるのによ」

 

「むしろ正面から力技で来れる人ってあなたぐらいだと思うんですけど」

 

「長年店主をやってるがね、無理矢理(・・・・)正面入り口に(・・・・・・)別の次元を(・・・・・)繋げる力技(・・・・・)をやってのけるのは、さすがに君ぐらいだねぇ」

 

そう言いつつ、チラシを『常連』の一人でもある男へと手渡す店主。

 

「まあ、とりあえず好きなものを選び給えよ、ダンテ」

 

 

 

 

 

「中々だったな、コーンが載ってる奴は何の冗談だと思ったが」

 

「美味しいじゃないですかコーン。私のところだと割とポピュラーですよ」

 

「少なくとも俺の知ってるピザにキャラメルポップコーンの素は載ってなかったがな」

 

そう言いながらも、最後の一切れを口に運ぶダンテ。日本のとうもろこしは甘いものがよく食されるが、海外ではそうでないものが多いのである。そのため、コーンの予想以上の甘さにダンテも驚いたのだ。

 

余談だが、海外のピザには基本的にコーンなんて乗っていない。日本の独自アレンジである。

 

「で、今日は何の用だい?」

 

話の本題に入るべく、そう切り込む店長。ダンテはピザの残りを口に押し込みながら話し始めた。

 

「いやな、さっき言ったがレディに借金で色々とどやされててな」

 

「それはいつものことだろう?」

 

「今回はトリッシュにもどやされてるからいつも通りじゃないぜ」

 

「あ、私知ってますよ。そういうの甲斐性無しっていうんですよね」

 

話の腰を折る店員にデコピンを食らわしつつ、話を続けるよう促す店主。店員が涙目で店主を睨んでいるが無視である。

 

「で、だ。最近は依頼もこなしてなんとか返済に当ててるんだがな。あと少しだけ足りない」

 

「世知辛いねぇ」

 

「そこでだ、この店でまた買い取ってもらおうかと考えたわけさ」

 

この店は来るのが難しいものの、買取価格が高い。加えて質をあまり問わないし、思わぬものに高額がつくことだってあるのだ。

 

「またかい、前もそれやって結局使い込んじゃったじゃないか」

 

「一応借金も返しきったぜ、その時はな」

 

威張って言うことじゃないだろうと溜息を吐きつつ、算盤を取り出す。これも『教授』が作成した代物で、その品が持つ価値を算出してくれる便利なものだ。数少ない『教授』の成功品の一つである。

 

「これなんだがな」

 

そう言って取り出したのは、一本の剣。一見するとただの骨董品でしかないが。

 

(この人が持ってくるものが普通なはずがない……)

 

以前も別のものを持ってきたことがあったが、それだって碌でもない代物であったのだ。まあ、この店主はそこを気に入ったのかごきげんに高値で買い取りをしたのだが。

 

「ふむ、見た目はただの剣のようだが……」

 

「ああ、気をつけろよ。そいつは眠ってる(・・・・)だけ(・・)だ」

 

ダンテがそう言うと同時に、剣が突如としてカタカタと音を出して揺れ始める。店主と店員はやはり何かあったかと思いつつ少しだけ距離を取った。

 

やがて、剣はいきなりその姿を変形させ、まるで鳥のような姿へと変貌を遂げた。しかしそれは一般的な鳥獣のそれではなく、禍々しく恐ろしい姿であった。剣のような鳥のような何かは、その両翼を広げると羽ばたかせることなく空中へ滑らかに飛び上がる。

 

「何なんですか、あれ」

 

「グラディウスとかいう名前の人工悪魔だ。悪魔を研究していた連中が生み出した代物さ」

 

どうやら、一応生命体ではあるらしい。が、まさか悪魔を持ってくるのは店員の少女でも予想外だった。何せダンテは、彼のいる世界において右に出るもののないデビルハンターなのだから。

 

「面白そうだから一匹かっぱらってきてな、そのまま倉庫の奥に放置してたんだが、さすがにデビルハンターが悪魔を放置するってのもどうかと思ってな」

 

「いいねぇ、丁度こういうのがほしいなと思ってたところさぁ」

 

「おっ、なら額は上乗せしてくれるってことか?」

 

「それは詳しく査定してからだねぇ」

 

基本的な値段は算盤が弾きだしてくれるが、店主であるこの男が気に入ったならば、買取価格を上乗せしてくれることもある。ダンテがここへ時々やってきて買取査定を頼むのは、そういった魅力も大きかった。

 

「嬢ちゃん、頭下げてたほうがいいぜ」

 

「へっ?」

 

ダンテがそう言うと同時、突如グラディウスが剣へと再び変形し、切っ先を下に向けながらぐるぐると回転を始める。そして、勢いよく少女へと飛び込んできた。

 

「わひゃあ!?」

 

辛うじて頭を下げて回避に成功する。これでもこの店で働き始めてそれなりに経験を積んでいたため、今回はそれが功を奏したらしい。攻撃をかわされたグラディウスは、コンクリートでできた床に突き刺さっていた。

 

「活きがいいねぇ、これは更に上乗せしてもいいかもしれないなぁ」

 

一方、店主は想定していた以上の活きのよさに感心したらしく、買取価格を上乗せすることを示唆する。

 

「買い取ろうとしないでくださいよ! 店の商品にするにしても危なすぎます!」

 

「いーや、わたしが買い取ると決めた以上これは覆りませーん」

 

「この人はもう……! ダンテさんもこんなもの売りつけようとしないでください!」

 

「悪いがお嬢ちゃん、俺も借金の返済があるんだ」

 

世界最強のデビルハンターも、どうやら懐事情には敵わないらしい。

 

「というか、誰が買うんですかあんなの!」

 

「それはお客さん次第だろう。売れる売れないなんて商売じゃよくあることじゃないか」

 

普段碌でもないことしか言わないくせに、こういうところで正論を出してくるこの店主相手に最早何を言っても無駄だと悟った店員の少女はため息を吐き。

 

「……わかりました、ええもう分かりましたよ! そのかわり絶対に暴れださないようきちんと封印しておいてくださいね!?」

 

「その点は安心していいぜ。前に俺の店で暴れまわっていろいろぶっ壊しやがったんでな、厳しくしつけた(・・・・)から俺の名前を出すだけで大人しくなる」

 

そう言うと、ダンテは試しにお座りとグラディウスへ命令する。すると、再度飛び回っていたグラディウスは突如剣の形態へ戻ると、そのまま地面に落下してピクリとも動かなくなった。

 

「と、この通りってわけさ」

 

「うわぁ……」

 

奇抜な見た目とはいえ、仮にも悪魔である。それをあんな風に従順に手懐けるしつけなど、どんなものだというのか。それを考えるだけで、店員の少女は苦い顔になった。

 

「じゃあ、買い取りは決定するとして。上乗せ金について話そうか」

 

「ああ、頼むぜ」

 

 

 

 

 

結局、人工悪魔グラディウスは店主が買取金を大幅に上乗せした値段で取引されることとなった。しばらくは店の壁に掛けられていたのだが、『教授』が訪れた際に強く興味を惹かれたらしく、買って行った。その後どうなったのかまでは不明である。

 

余談だが、ダンテはあのあと借金を返しきれなかった。グラディウスを売った帰りに、行きつけの店で景気よくストロベリーサンデーを食べていたのだが、悪魔の襲撃によって金を全部燃やされてしまったらしい。

 

「そりゃないぜ、まったく」

 

結局、また依頼をこなすために東奔西走する日々に戻ってしまったのであった。

 

もう一つ、面白いこともあった。グラディウスを見たあの征竜たちの創造主である『常連』が、何か大きなインスピレーションを受けたらしく、グラディウスを模したカードを作成したらしい。

 

あくまで参考にした程度なので、コンセプトは意思を持つ武器という形に落ち着いたらしいが、その斬新なカード効果で話題を呼んだそうである。

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