昨夜の事が気掛かりになり、黒葉は街を日傘をさし歩き回っていた
なにか手掛かりがあればと思ったけれどそう簡単に掴めるはずもない
『ねぇ、黒葉、聖王の巫女ってなんなのかな?』
「わからないわ、組織だって様付けしてるあたり信仰の対象かもしれない」
『私、そんなの知らないよ…どうして…』
「私は死から蘇った、何の対価も払わず蘇った奇跡はそれでも十分に調べる価値があるし、特異な一つの身体に二つの魂、変化も出来る」
『………』
「安心して、ちゃんと私と白葉は人間よ、能力者なんてこの世界には沢山いるもの、私達だけが特別なわけじゃないわ」
『黒葉は落ち着いてるんだね、私も見習わなきゃ』
「あら、私は貴方よ?同じ気持ちよ」
不安、それは二人の心を通じていて感じているもの
「…ダメね、情報源になりそうな埋葬機関も姿を見せないわ…」
裏で繋がってると考えてもよさそうね…
あの組織がこの街にいたこと事態不可解だもの
「もういっそのこと埋葬機関に殴り込みして吐かせようかしら」
もちろんそんなつもりもないし、出来ない事を言うなんて私も焼きが回ったわね
『あはは…黒葉がぼやくなんて珍しいね』
「ええ、手詰まりだもの、やれやれだわ」
諦めて帰宅路についた時だった、時間帯がちょうど理樹達が帰る時間帯だったのか生徒達がちらほらと見える、人気がない場所を歩いていると理樹を見つけた
だけど理樹だけじゃない、昨日の組織の制服を着た少女二人と一緒だ
「厄介ね、嗅ぎつけられたのかしら」
だとしたら潰さなくてはならない、理樹に危険を持ち込む存在は…
『く、黒葉、殺しちゃダメだよ…』
「わかってるわ」
不殺、それは生まれ変わって決めたこと、殺めてしまえば人間としていられなくなる、昔の狂人者とは違うのだから
どうせこのまま黙ってみてるつもりもなかったし、黒葉は堂々と理樹達の前に出た
「何をしてるのかしら」
「──!?あ、巫女様…の片割れかぁ」
オレンジ色の長髪の少女は少しほっと胸をなでおろした
「うん、カイアじゃなくてよかった」
少しマイペースそうな緑髪の少女もほっとしていた
二人共幼いけれどこれでも組織の人間なのよね
「黒葉の知り合い?」
「…まあ、そんなところかしら、理樹は何を?」
「ああえっと、迷子だったらしくて、雑貨店とかショッピングできそうな場所を聞かれてたんだよ」
「地理は苦手で…」
「お兄さん、助かります」
「うんうん!ありがとうございます、お兄ちゃん」
「………」
理樹が厄介事に巻き込まれるのはよく知っている
しかしどうして、いつもこう…
「あ、あれ?黒葉、何か怒ってない?」
「……怒ってないわ」
それは実に分かり易い反応だった、嘘をついてもバレてしまう、しかしこの二人、武装もせずに攻めてきたのだろうか
それとも本当に買い物に来ただけ?
『黒葉…敵意は感じないし、攻撃してくるならとっくに…』
理樹を人質にとって攻めれば簡単だろうし、この距離なら二人一斉に来られたらひとたまりもないのも事実
「わかってるわ、ほら、貴方達も道わかったんでしょ、早く行きなさい」
「道を尋ねてお礼をせずには行けませんよ」
「お兄さん、なにかして欲しいこととかあります?」
ずいっと二人が理樹に近寄る
「あ、いや、気持ちだけで…」
なんとか苦笑しながら返すも二人は引き下がろうとしない
「そういう訳にもまいりません!A.R.K.の一船員として礼を返さずして生きるのなどと」
「仰々しいわね」
『あ、あはは…』
さりげなく自身の組織のことも言っているし、なんだかマヌケな組織ね
「で、でも…」
「鼻の下伸びてるわよ」
「伸びてないよ!?」
「もぉー!片割れさんは黙っててください、話が進まないじゃないですか!」
と隣の少女も頷く
「…やれやれだわ」
深いため息と呆れが混ざり、軽い頭痛がしてきた黒葉は一つ思い出した
「この近くに喫茶店があるわ、そこのお茶が美味しかったから、お礼ならそこでいいんじゃないかしら?」
「おー…喫茶店」
「片割れさんナイス!」
「ええ!?話進んでる!」
黒葉はそれだけの提案をし立ち去ろうとする
「黒葉は一緒に来ないの?」
「えー…巫女様ならともかく片割れさんだと…」
「でもいい人だよ?」
「安心なさい、私だって暇じゃないの、それでは御一同、良い時間を…」
黒葉はそれだけを言い残し去ってしまった
害は特になさそうだし、危険ならそこで監視している美冬が止めるはず
それに私にはやることがあるわ…
「一船員、ね…」
『うん、さっきあの子が言ってたことだよね、どういう意味なのかな、船で海上から来てるのかな』
「……白葉、今夜試したい事があるのだけれど」
『黒葉の考えてることわかるよ、だから任せて』
さすが私ね…
彼女は空を見つめ不敵に笑う
───
深夜
この街には深夜になると誰も寄りつかない橋がある、工事をしていたのだろうけれど今は放置されている橋
広さもあるしここなら申し分無いだろうと黒葉は思った
月夜が照らすのは白いロリータの衣装纏った白葉
地面には白く淡く光る魔法陣が展開され、その中央に白葉が立っている
「索敵範囲はこの間の数倍…私からは誰も逃れられないの」
白葉が杖で地面を強く突いた、光り輝く緑色の波紋は空高くまで広がり、綺麗に広がると思いきや、空の何もない場所で波紋が引っかかった
「でかいね、ガーディアンドールでも届かないかな」
波紋が形取り、それは明らかに巨大な飛空艇だった
魔法による不可視か光学迷彩による不可視はわからないけど確かにそこにあった
『白葉』
「ごめんなさーーい!!」
白葉が杖を回し、飛空艇目掛け杖を構えた瞬間、魔法陣が光り輝き、杖の先から巨大なレーザーが射出され、飛空艇がかするかかすらないかギリギリのところを通り過ぎた
「今のは威嚇射撃、次は当てるの!」
魔法陣が光り輝き出したと同時に飛空艇から何か飛び降り真っ直ぐ白葉に向かってくる
騎士の鎧にパーカー姿、昨日の連中だろう、騎士は槍を構え、切り払うようにくる
白葉は黒葉に変わり、杖は傘に変わった
ガルアスの槍による攻撃を弾き飛ばし、続けざまに来た冬華の剣の攻撃も弾いた
「ご機嫌よう、空から落ちる気分ってどんなのかしら?」
「巫女様をたぶらかする者よ、やはり黒に染まるか」
「片割れ…」
「返事を求めたのはそちらでしてよ、白葉は私のもの」
『黒葉は私のもの、だよね、黒葉』
返事を返さずとも白葉はわかっていた、二人は一つなのだから
黒葉は傘をガルアス達に向けた、確実な宣戦布告
「私達は静かに過ごしたいの、だから協力はしないわ」
「だったら力づく…」
冬華は剣を黒葉に向ける
「よいのだな?巫女様は保証するが、貴殿は無事じゃ済まぬぞ」
なんという威圧だろうか、たかが人がこれほど驚異と感じることになるなんて
だからこそ使命の為なら犠牲もいとわない、こんな性格の奴を理樹の周りにいさせてはならないし、白葉を預ける気にはなれない
「楽しい夜になりそうね」
答えは受け取ったとガルアスは再び大盾と槍を構えた
「我はA.R.K.の騎士、シャスチ、ガルアス!」
「ピャーチ、雛木月 冬華」
「参る!」
先陣を切ってきたのは冬華
真っ直ぐに突っ込んで、低く構えた剣を振り上げ、黒葉に切りかかる
空中へ飛び下がり冬華に攻撃を仕掛けたが、冬華も驚異的な速さで避けた
「速いっ」
「どこを見ている!」
足元が何かに捕まった、見るとそこには光の糸
ガルアスは魔法で黒葉を捕らえたのだ
「こんなの!」
傘で薙ぎ払おうとした時、力が抜け、伏せてしまう
どうやら力を感知し吸収してしまう
「聖女の鎖だ、逃れられんぞ」
伏せている黒葉に対してガルアスと冬華が同時攻撃を仕掛けてくる
激しい砂煙が巻き起こった
「む!」
黒葉は白葉に変わり円上のバリアを張って防いだ
「巫女…!」
ガルアスと冬華は急いで飛び下がり
白葉が杖の先からレーザーを射出し薙ぎ払う
冬華はガルアスの背後に隠れ、ガルアスは大盾で防いでいた
だけど距離は稼いだ
「ごめん…黒葉…私、もう…!」
白葉は黒葉に変わった
高位の魔法を使えるとなっても人間の身、それでいてあんなに連発していれば消耗は激しいはず
「後はゆっくり休みなさい、白葉…」
黒葉は申し訳なさそうに自身の胸に触れ、ガルアス達を見た
戦法や行動パターンは少し情報が少ないけどわかった
ガルアスは守りや支援魔法、無理に前にはでないで確実にこちらの隙を突くつもり
冬華は一直線の攻撃型、防御を捨てているぶんこちらの隙を生ませやすい
なんだか、この戦い方…どこかで…
「…ああ、まるで刺守とスティアじゃない」
かつて人形の時に戦った人間の化け物
黒葉はそう思うと少し笑えた
「ふふ」
「む…」
そう考えればあの二人よりは断然に弱いと
「来なさい、可愛がってあげるわ」
少し昔みたいに戻ったみたいで高揚してきた黒葉は笑っていた
「…」
冬華が走って突っ込んでくる
黒葉は傘を投げ、冬華は傘を弾き、再び黒葉を捉えようと前を見たがいない
弾いた一瞬の隙を突きガルアスに近づいた黒葉
「殿方が女性のエスコートをしなくてはダメよ?」
この距離では槍も触れないと盾を構え、冬華が来るまで時間を稼ごうと考えだ、冬華が黒葉に切りかかる
「はい」
寸前で軽い動作で冬華の剣を避け、冬華を蹴り飛ばした
地面に刺さった冬華の剣を抜きガルアスの大盾を剣で破壊し、ガルアスは怯んだ
動こうとした冬華の前に剣を投げ刺し、行動を一瞬止め
上空から落ちてきた自身の傘を取った
「もう関わらないで」
それだけを言い残し立ち去ろうとした時だった
嫌な感じの雨が降り始め、黒葉の目の前に何者かが立ち塞いだ
「まったくこれだから、人間相手に人形の力を使うなんて」
忘れてはいけなかった、A.R.K.は埋葬機関と繋がっていた事を、だけれど相手は一人だけ、いや一人だけだからこそ警戒しなきゃならなかった
「お前のマリオネットの糸と俺のワイヤー、どちらが優秀か」
赤髪の男、黒のスーツ、その男は不気味なほど落ち着いた声で喋り
恐怖を感じた瞬間、身体が動かなかった
「お前はもう蜘蛛の巣の一部、動けるわけ、ねぇよ!」
「っ!!」
男の容赦ない蹴りが黒葉のみぞおちに入った
激しい吐き気と痛みに襲われるが黒葉は耐え、男を睨む
「あー神よ、偉大なる神、主なる神よ、今夜一人そちらに向かうぜ」
拘束されてることいいことに、容赦ない蹴りや殴りが黒葉を襲うがどうしようもなかった
男がワイヤーと言ったように、身体中にワイヤーが絡み動けない
「ぐっ…!うっ!」
まるでサンドバッグ状態、遠のきそうになる意識
「おっと、いけね、忘れるとこだった」
拘束が解かれ、男に首元を掴まれた黒葉は引きづられガルアスに投げ渡された
ぐったりして動かない黒葉を見て、ガルアスは罪悪感の感情を殺した
「ふう、邪魔くさい人形を片付けることが出来るなんてなA.R.K.の方々には感謝しないといけねぇな、なにしろ白い方に暴れられると俺なんて…おっと、聞いてない?これまた失礼」
「お喋り…」
「嬢ちゃん、俺に精神的ダメージ与えるのやめてもらえますかな?俺ってばメンタル弱くて弱くて」
先程とうって代わり陽気な男
ガルアスは無言で黒葉に腕輪を付け、その瞬間
黒葉の身体は光り輝き、やがて二つの輝きとなった
輝きが静まると黒葉と白葉が別れていた
「く、黒葉!?」
ぐったりして動かない黒葉を見ると白葉は杖を探した、しかし、どこにもないのだ、傘はあるのに
状況を飲み込めないでいると男は黒葉の首元を掴み、引きづり、まだ工事途中で橋が出来てない断崖に向かう
「黒葉!黒葉!!黒葉ー!!」
急いで向かおうとする白葉をガルアスは掴まえ、止めた
「離して!離してください!」
「よぉ、聞こえてるか人形、お前は今から裁かれる、なんの罪もない人々を殺してきた罪を」
首元を掴まれた断崖の外に出される、離されれば落ちてしまうだろう
「なによ……偉そうに……」
反撃しなければまずい、そう理解しているのに身体が動かない…
今ほど人間の少女の身体を恨めしく思ったことはない
「そうだな、俺は偉い、そもそもこの世界は人間様のものだ、お前達のじゃあねぇんだよ」
首を掴む力が強くなり苦しくなる
「……そう、残念ね」
含みがある残念、諦めともとれるその言葉は男にとって不満でしかなかった
「この下は海だ、大荒れで落ちて助かった奴なんていねぇ、それでいてボロボロのお前なんてな」
恐怖し命乞いする姿を男は見たかったのだ
どうしてこの男がこのように恨みを持っているのか、埋葬機関だからか、知らずうちにこの男の逆鱗に触れていたのか…
「やめて!離してよ!」
男に白葉がしがみつく、ガルアスを振りほどいて急いで来たのだ
「おおっとー困るな?ガルアスさん、お楽しみの邪魔しちゃあ…」
「お願いします!このままじゃ黒葉死んじゃう!」
「ガルアスさーん!このお嬢さんどうにかしてくださいよ、飛空艇迎えに来たんでしょ!」
「…承知した」
「ふふ、貴方方に祝福を…」
不可視の飛空艇が近づいたのかすごい駆動音が聞こえる
ガルアスは白葉を掴み、半ば強引に抱えた
「黒葉!黒葉ーー!」
連れていかれる間もなにかないと辺りを探してもなく、ガルアスを殴っても非力な自分の力じゃ痛くないのか、ものともしていない
「おーおー、美しい友情だな、安心しな、あのお嬢さんは俺達、人間側だ」
「白葉……」
「ちっ、鳴かなきゃ退屈だぜ」
そう言い、男は黒葉を投げ捨てるかのように落とした
落ちていく様を飛空艇から見た白葉は叫んでいた、しかしもう黒葉には届かなかった……