飛空艇がクロノスの魔力に包まれている時
カイアは一人、展望ホールに残っていた
「クロノスが起動したのか…」
これで世界は変わる
待ち望んでいたはずなのに複雑だった
藤堂から聞かされていたプラン、最終的に白葉の精神は消え、神そのものになってしまう、それがわかっていたから最初はできるだけ優しくしようと心掛けていた
でも、報われない…俺よりもずっと…
「…くそ」
心のどこかで黒葉が止めてくれるかもしれないと思っていた
サヤの声が聞きたかったのに…おかしい…複雑だ…
「俺はまた大切な人を見捨てたのか…」
最低だ…
こうなることはわかっていた、彼女を騙していた、けどあの時から俺は彼女を本当の妹のように思えた、だからこそ、最低で兄貴失格だ…
『なーに、しょぼくれてんのよ兄貴』
ふと声が聞こえた、カイアの目の前には黒髪長髪の少女
「サヤ…サヤなのか?」
『それ以外どう見えるってわけ?せっかく会いに来てあげたんだから喜びなさいよ』
サヤが具現したのはクロノスの影響なのか、それはわからないが
目の前にいるのはサヤ本人
「…恨んでるんじゃないのか?あの時、見捨てた俺を」
それを聞いたサヤは鼻で笑った
『ホンット、馬鹿兄貴なんだら、私はあの時嬉しかったんだよ』
「でも俺はお前の最期の言葉を聞かずに行ってしまって、結果的には俺は…」
『あのねお兄ちゃん、私は最期にお兄ちゃんにありがとうって言ったんだよ』
「え…」
『両親もいなくってさ、塞ぎ込みっぱなしだった私を連れ出して、あの時は一番楽しかったの…だからありがとうって、それを伝えたかったの』
「恨んでないのか?」
『しつこい、恨んでないよ、むしろ今のお兄ちゃんのやってる事が許せないよ』
「………」
『私はいつもお兄ちゃんと一緒にいる、なのに蘇り?平和な世界?馬っ鹿じゃないの、誰も望んでないっつーの』
「でもやり残した事とか、まだやりたい事があるんじゃないのか?」
『お兄ちゃん、ちょっと歯、食いしばってね?』
「え?ぐほぉあ!?」
サヤの綺麗なハイキックが顔面を直撃した
『小さな女の子を犠牲にしてまで蘇ってやりたい事あるわけないじゃん、このまま蘇ったら舌噛んでまた死んでやるわよ』
「物騒だな…」
『うっさい!馬鹿兄貴!今のままじゃお兄ちゃん、かっこ悪いよ、私の知ってるお兄ちゃんになってよ、最期にさ』
「サヤ…」
カイアは少し寂しそうな表情をしたがまたいつものように微笑む
「おう、任せとけ、サヤの兄だもんな、カッコよく救ってやるさ、あの子を」
『さっすがお兄ちゃん!頑張れ』
「ああ、行ってくる!」
そう言いカイアは走り出した
『…バイバイ、馬鹿兄貴…』
そう寂しそうな声は風と共に消えた…
───
クロノスは動けない黒葉を串刺しにしようと襲い掛かるが、その攻撃は弾かれた
「よう、平気か、小さな妹」
黒葉を庇うように前に立つのはカイアだった
「誰が妹よ…」
ボロボロだが文句を返せる元気はあるようだと安心したカイアは笑った
「カイア、何故邪魔するのです」
「悪いね藤堂さん、このままじゃ兄貴失格だから、理想の兄貴になりにきた」
「何を訳のわからないことを…クロノス!構わない、そいつも潰せ!」
カイアは黒葉を巻き込まないように走り出した、その瞬間、魔法陣から火炎弾や魔法弾が襲いかかるがカイアは剣で切り裂き、防ぐ
「待ってろよ、必ず助けてやるから!」
すると魔法弾がカイアの背後から襲いかかる、気づいたカイアは剣で受け止めようとした時、その魔法弾はかき消された
その魔法弾をかき消したのは黒葉が召喚したコアドールだった
「え、どちら様?」
「私の人形よ、今はこっちの方が役に立ちそうね」
「そうなのか、人間かと思ったぜ」
コアドールは両手を振るとクロノスを糸で動きを封じた、その糸は頑丈でいくらクロノスでもそう簡単に切れることはできない
「白葉は抑え込むわ」
「ああ!」
カイアが藤堂に斬りかかったが、その攻撃は何者かによって塞がれた
「どいつもこいつも邪魔ばっかりだな」
それはあの橋で会った埋葬機関の男だった
「ユゼル…クロノスは不完全じゃないか!こんな出来損ないと兵士如きに止められるなんて…!」
「飼い慣らし方もわからねぇお前には過ぎたオモチャだ、ま、ここまでやるとは予想外だったけどよ」
「お前、何を言って──!!」
響く破裂音、藤堂の腹部はユゼルのトンファー型パイルバンカーによって貫かれ、藤堂はその場に倒れた
「仲間割れ…?」
「おいおい…」
躊躇いなく切り捨てたユゼルを見た二人は、確信した、ユゼルが裏で糸を引いていた黒幕だと
「教えてやるよ本当の飼い慣らし方をな」
ユゼルが指を鳴らすとクロノスは糸を波動で裂き、杖を掲げた
すると赤い光の粒子が次々と現れ杖に宿り始めた
「これは…生命?喰らってるの?」
次第に聖王礼装は黒く染まり始め、クロノスは宙に浮く
機械装甲もより禍々しく増え、巨大になってゆく
「そうだ、死者の魂を喰らう獣、ソウルイーター、神でもなんでもない、一つの兵器さ!」
「A.R.K.を騙してたのか!」
「騙される方が悪いに決まってんだろ!人間様の世界をズケズケと土足で入り込みやがって気持わりぃ」
カイアは自分達を見下した白葉の姿を見た
あの子は俺達に巻き込まれて…くそ!
「黒葉さん!」
「カイア!」
そこへリィムとアンリが来た
「艦長!?アンタ、目が覚めたのか!?」
「面目ありません、藤堂に封じ込められて…」
アンリは倒れている藤堂を見る、あの様子ではもう助からないだろう
「藤堂…」
「あの、黒葉さん?まさかと思いますが、あれは…」
「白葉よ」
「おーおー揃いも揃って談話か?置かれてる立場理解しやがれ!」
白葉は禍々しい波動を放ち、その波動はカイア達に襲いかかるがアンリがバリアを張り防いだ
「くっ…あいつさえ倒せば!」
カイアは剣を強く握り走り出した
「カイア!」
アンリの静止は聞かず、襲いかかる波動を避け、ユゼルに斬りかかったが
その攻撃は白葉の杖によって塞がれた
「惜しくもねぇよ、ガキが」
白葉の杖はハルバート状に形態を変え、カイアに振り落とす、カイアは剣で防ごうとしたが剣は砕け、弾き飛ばされ壁に激突した
白葉は杖を投げ放ち、カイアを串刺しにようとした
「ぬんっ!」
突如現れたガルアスはその杖を大盾で受け止め弾いたが、大盾は破壊されてしまう
白葉は再び杖を召喚し持ち直した
「これは…?」
「チッ、遅すぎた」
そこへ冬華とスティアが来た
「艦長、状況が飲めません、ご説明を」
「ガルアス…彼はA.R.K.の敵です、白葉さんを利用し我々を利用した、お願いです、私に力を貸してください」
「御意」
ガルアスは槍を構えた
「馬鹿が!テメェらなんぞ直接相手しなくても潰せんだよ!ソウルイーター!」
白葉とユゼルを包む光の輪が一瞬で二人を消した
「転移魔法……」
「逃げられたの?」
「ふっふっふっ〜」
するとリィムは怪しく笑う
「お忘れですか、私達には優秀なバックアップがいることを…」
───
ユゼルが転移した場所は薄暗い格納庫の一室だった
出口は封鎖され、さらにはそこには真桜がいる
「あ?何処だここ?俺は外に出るはずだったのによ」
「埋葬機関ユゼル、貴方は人を利用しその人物を殺害、さらには人である白葉の人権を無視したおこない、到底埋葬機関としても許されるものではありませんよ」
「…小娘、なにもんだ?」
「神教会の聖徒にして騎士、片瀬真桜」
「神教会か、こんなところまでご苦労な事だな!人の事情にいつも突っかかりやがって!」
ユゼルはトンファーを構えた、少女である真桜なら簡単に倒せると思ったのだろう
「罪を認め、大人しく投降すれば神教会としては許します」
「あ?何言ってやがる?」
「今の私は、黒葉と白葉の親友、よって投降したところで許しませんよ」
親友である彼女を傷つけ、怪我を負わせ、さらには道具として扱う彼を真桜は許せないでいた
「失せろ!小娘ェ!」
襲いかかる攻撃を避け続け、避けれない攻撃は刀よって弾き、納刀し、大きく後方に下がった、その瞬間真桜は低く構えた
「片瀬流抜刀術絶刃!」
高速で突撃し反応できないユゼルの左トンファーを抜刀で破壊し、ユゼルは反動で宙に浮いた、真桜は宙に浮いたユゼルを踏みつけ床に叩き落とし下がった
「ぐっ!抜刀!?」
勢いよく立ち上がったユゼルはトンファーを構えた
「なめんなよ!」
ユゼルは床を強く踏むとワイヤーが至る所に張り巡らされた、これで勢いよく動けなくなってしまい、実質抜刀術は封じられたようなもの
『─消えろ─』
そう真桜は呟いた
ワイヤーは小さな粒子となり消えた
「な、なんだよ…今の」
「言霊ですよ、片瀬流と神教会の魔法を合わせた、私の特殊能力」
「ちぃ…!化け物め!」
ユゼルは走って向かってくる
「貴方達のその偏見で救われない人たちがいるんです、だから!」
真桜は低く構え、消えた
ユゼルは辺りを見渡すが真桜はいない、否、その姿を速すぎて捉えられないのだ
「そうか、思い出したぞ!お前は神教会副本部長の…!クソがァ!」
ユゼルはようやく捉えたまっすぐ突っ込んで来る真桜に対してパイルバンカーを叩き込むがトンファーは砕け散り、その瞬間強い衝撃が襲い、ユゼルは床に叩き伏せられた
「貴方を拘束します」
気絶して動かないユゼルを見て真桜は胸を撫で下ろすし、天井を見つめた
「理樹、後は頼みましたよ…」
───
展望ホールには白葉とそれと対峙する美冬
隅には理樹と刺守もいる
白葉が転移されてから美冬は防戦ながらも確実にダメージを与えていた、機械装甲の幾つかは機能を停止し落ちてはいるが、白葉はその都度、ソウルイーターで装甲を回復している
「さすがに厄介か」
「とか言いつつ余裕そうじゃないか?」
ジリ貧なのも確かだが、美冬は呼吸の一つも乱していない
一人で禁忌指定級装備を相手している
刺守は念の為に理樹を守る為にそばを離れず見てはいるが、美冬にとってそれは動きやすい環境のひとつになっている、後ろを気にしなくていいのだから
「美冬…白葉…」
自分はどうしたこうも無力なのかと呪ってしまいたい程ある、苦しんでいる女の子一人助けてやれないなんて…
「理樹の声は届いているさ」
唐突に呟くように美冬が言った
「え…」
「あの子の心に届かせられる声は理樹しかいない、だから遠慮はいらないさ」
余裕そうに微笑む美冬を見て、理樹は力強く想った、白葉を救いたいと
「叫ぶといい、響かせろ、影月理樹という少年はここにいるのだから」
襲いかかる攻撃を避け、美冬はさらに白葉の攻撃を受け流す
「白葉!白葉ー!」
叫んだ、力強く、少女の名を
すると白葉の動きが鈍った、けれども止まる様子はないが、確実に声は届いている
「帰ろう!みんな待ってるから!僕らの家に!」
「……っ!」
苦しそうに悶える白葉の周りには複数魔法陣が展開しレーザーを撃ち放つが周りの壁や床をがむしゃらに撃っているだけ
少女はそう、ただ苦しそうに暴れているだけ
「白葉!!」
「っ!」
その瞳は理樹を見た、だが直後にがむしゃらに撃っていたレーザーが理樹に襲いかかる
刺守が防ごうと魔具を構えた
「邪魔よ」
しかしレーザーは何者かの傘によって塞がれた
「遅かったじゃないか…」
「あら、自分を魅せる淑女は遅れてくるものよ」
「黒葉!」
理樹の前には黒葉が立っていた、その後に続くようにアンリ達がやって来た
「おっ待たせしました〜!」
元気そうに手を振るリィム
それを見た刺守は彼等がもう敵ではないというのを察した
すると黒葉は美冬の横へと行った
「後は任せたぞ」
そう言い美冬は下がった
少女を止められるのは黒葉と理樹しかいないと踏んだ美冬はあえて任せたのだ
対峙した黒葉を見て白葉は無表情だが気持ちが流れてくる
自分自身だからわかるんだ、止めてほしい、そう感じた
「…いくわよ」
走ったのは黒葉、迎撃の魔法弾を傘で薙ぎ払い、突き進む
近接になると白葉は杖をハルバートへと変え、黒葉の攻撃を止める
「目を、覚ましなさい!」
黒葉は白葉の肩を掴み、白葉の頭へヘッドバッドを決めた
その瞬間、意識が飛んできた
辺りは白く包まれ、周りには誰もいなくなり対峙している黒葉と白葉のみ
ここは意識の世界
「あはは…痛いなぁ黒葉は」
少し遠慮気味に苦笑する少女、その額は少し赤くなっている
「いい目覚ましになったでしょう?」
「うん……私、みんなに迷惑掛けちゃったんだね…なんで気づけなかったのかな…」
「恋は盲目よ」
「え…?」
「もし私が白葉と逆の立場だったら、きっと理樹の為に動いていたわ」
意識と記憶を共有したから白葉の感情がわかった
大切な人の危険はできるだけ避けたい、目の前で私自身を失えば、また失いたいとは思いたくないから
「やっぱり黒葉はすごいなぁ…私にないものいっぱい持ってて…どこかで嫉妬しちゃってたのかなぁ…」
「ほんと、子供ね」
「む、どうせ私は子供だよ、黒葉みたく何もないんだもん…」
すると黒葉は白葉の頬を優しく触れる
「馬鹿ね、私がないものを貴方はいっぱい持ってるのよ?私だって嫉妬するわ、理樹の前じゃ素直になれないもの」
白葉みたく好意を素直に表に出せない、好きを好きって言える白葉を羨ましく思えていた
「…なら、私の全て、貰ってくれる?」
そう、少女は呟いた…
「きっと私はもう助からないんだよね、だから私の全てを黒葉にぃ──いふぁい!?いふぁい!」
黒葉は白葉の頬をつねっていた、痛そうな白葉を堪能して黒葉は離した
「痛いよ黒葉!なにするの!?」
「貴方は私自身なの、白葉が持っているのを私が持って、私が持ってるのを白葉が持つの、二人で一つの私達、だから諦めてはダメよ?」
「で、でも、私、きっと…」
「運命を覆した私達よ、きっと大丈夫よ、貴方をソウルイーターなんかに喰わせたりしない」
「黒葉…」
「終わったら理樹に美味しい物を作ってもらいましょ、それまで、ね?」
「うん…でも、黒葉、私全力でいくよ」
「あら、私は最初っからそのつもりよ、たまには教育しなきゃね」
「むぅ、子供扱いして、私だって成長してるってとこ見せてあげるんだから!」
お互いに笑っていた
これを最後にしないよう
彼女達は誓った
彼が待つ家に帰ろうと
そして意識は遠のいた
ボロボロの展望ホールでヘッドバッドで弾き飛ばされた受身をとり白葉は杖を構え、機械装甲が粒子となり消え、A.R.K.制服に戻った
光のないだが、白葉の気持ちが流れてくる、楽しもうって
「ただの頭突きっで聖王礼装を…」
驚くアンリ、確かに傍から見たらそう見えただろう
そして二人は戦い始めた
攻防が続き、白葉が魔法を撃ち、黒葉が避ける
黒葉が傘で攻撃を仕掛け、白葉が攻撃を受け止める
「なんだかあの二人楽しそうね」
戦闘狂のスティアにはわかったのだろう、禍々しいソウルイーターはそこにあるのに、二人共楽しんでいる
「きっと、もう大丈夫だよ」
そう微笑む理樹
大切な家族だから理解できた、先ほどの不安は消え、理樹は安心した
「まったく、やるじゃない」
ボロボロになる黒葉と白葉だがお互いに楽しくて仕方なかった、おかしいかもしれないがこの時間が続いてほしかった
彼女達は思った、本気でぶつかりそれに応える、ああ…なんて人間て素晴らしいのだろう…
「…!」
夜明けが近い
陽射しが射し込む前に彼女達は終わらせようと全力で叩き込み、そして距離をとった、きっと、これが最後の一撃
渾身の一撃で攻撃した一撃は互いの攻撃がぶつかり二人を巻き込み、辺りがまぶしく光り輝いた
─夜明けだ─
一同が眩しさから瞳を開けると朝日が射し込み、倒れている黒葉と白葉を包み込んでいた
黒葉と手と白葉の手が重なり、仲が良さそうに倒れている二人を見た、その場の一同は終わったんだと確信した
───