「「やしなって」」   作:風邪薬力

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果てのその先には

 

 

 

青春とは嘘であり、悪である。

 

「どうしてそんな事を考えてるんだろうね。もっと単純でいいと思うんだ」

「そうもいかんだろ。単純な人間は単純に流されていくだけだ」

「…よくわかんないんだけど」

 

青春をおう歌せし者達は常に自己と周囲を欺き

自らを取り巻く環境のすべてを肯定的にとらえる。

 

「そもそも良い青春時代を送れなかった八幡が悪いんじゃない?」

「違う。社会が悪い。学校生活なんて閉鎖された社会は悪でしかない。村八分って怖いだろ?それとかわらん状況が意図的に作られてるんだぞ?」

「…八幡ってほんとにぼっちだったんだね」

 

彼らは青春の2文字の前ならば

どんな一般的な解釈も社会通念もねじ曲げてみせる。

 

「でもさー、それならその社会通念をねじ曲げてやればよかったんじゃないの?そう出来てたら良い青春送れたかもよ?」

「ばっか、それが出来るのは持つものだけだ。社長には出来ることが社員には出来ないんだよ。そもそも窓際だしな」

「なんか話がでかくなってきた」

 

彼らにかかれば嘘も秘密も罪科も失敗さえも

青春のスパイスでしかないのだ。

 

 

「ふふ。そうやって考えると八幡って失敗のスパイスしか入ってない青春だよね」

「ああ。あれだ、テレビでよく見る完食できた人間がいないとか言う、激辛料理と一緒だろ。真っ赤なんだよな。あれ、辛さで涙出てきた」

「よしよし」

 

仮に失敗することが青春の証しであるのなら

友達作りに失敗した人間も

また 青春のど真ん中でなければおかしいではないか。

 

「だねー。それなら八幡も青春のど真ん中だよねー」

「だな。まぁ恐らく琵琶湖のど真ん中で、周りに誰もいないがな」

「心は広そうかも」

 

しかし彼らはそれを認めないだろう。

すべては彼らのご都合主義でしかない。

 

「ご都合主義ならそれで良いじゃん。八幡だってご都合主義でしょ?」

「確かに。学生の頃は突然出会った女の子が、俺と結婚して専業主夫にしてくれるって思ってた」

「それ高校の話?だとしたら相当ヤバイよ?」

 

結論を言おう。

 

「俺はそんな青春を送ってきたが、今ではそれで良かったと思ってる」

「それはどうしてかなー?」

 

言わせんな恥ずかしい。

 

 

そんなこんなで飛行機の中。

「少しは落ち着いた?」

「あ、ああ」

言った八幡はコーヒーを飲もうとして、手に持ったコップはカタカタと揺れてた。

「…全然駄目じゃん。緊張しすぎだよ」

「あれ、おかしいな。いや、機体が揺れてんじゃね?」

「全く。揺れてるのは八幡だけ」

ふう。こんなんじゃ心配だね。大丈夫かな?

「八幡、うちの両親に会ったら心臓止まっちゃいそうだね」

「…ああ。止まるかもな」

冗談でも止めてね。もう八幡は私の人生で必要な人なんだから。いなくなったらどうしたらいいのかわかんないし。

しょうがないなぁ。

私は左手で八幡の手を握る。一瞬ビクッとしたが、すぐに握り返してくれた。

心地いいなぁ。

「…うし。やるか」

「うん。がんばって」

私はふと右手を見る。

色々と不格好ではあったけど、八幡の気持ちが詰まったモノ。その不格好さも八幡っぽくて好きだし。

これを見るたびに私は幸せになる。

ふふふ。

あーやばい。ついつい顔がにやけちゃう。

ふふふ。

あー幸せだなぁ。

 

 

約束は取り付けた。

例の物も用意した。

覚悟も決めた。

「八幡、おまたせー」

「おう。じゃ行くか」

今日は二人で出掛ける。後に仕事が控えているのでゆっくり出来るわけではないが、それでもそこそこの時間があるので問題はない。

「今日はどこいくの?なんかあるんでしょ?きらり呼ばないんだし」

「まぁな。ちょっと二人で出掛けたくてな」

今日ばかりは二人きりが良い。そうでなくては締まらないし、そもそもきらりがいたって気を使わせてしまうし。

「ん。じゃ行こっか」

 

それからは特別なことをしなかった。

いつも通り、杏の買い物に付き合って、それからご飯を食べる。

最近あったことを話し、些細なことで照れる。俺じゃない。俺は顔に出てない、と思う。

最近は三人でいることが当たり前だったので、二人きりというのも新鮮だ。

ずっと二人だと杏も寂しそうにするので、きらりがいない方がいいとは思ったことないが。

そもそも杏と恋人らしいことなどしたことないし。

手を繋ぐぐらいか。それもきらりと三人で繋いだりしてるし、特別なこととは言いがたい気がする。

それ以上のことは…まぁ、無理だな。

何年ぼっちやってたと思ってるんだ。なんなら手を繋ぐだけでいっぱいいっぱいだ。

「しかしコーラばっかりだな…」

車の後ろに積まれた荷物を見てそう呟く。買い物とはいっても女子がするようなウィンドウショッピングとは違っていた。

杏の頼みで買い物するときは大体食料とか飲料の確保だ。

「八幡に言われたくないよ。マッ缶を通販で箱買いしてるくせに」

「マッ缶は千葉県民の血液だからな」

「奈緒は違うって言ってたけど…」

まだまだだな。本物の千葉県民に一歩足りない。

「それで、一通り用事終わったけど、もう仕事の時間まで事務所で待機する?杏はもうおねむなんだけど」

「いや、ちょっと付き合ってくれ。まだ行くところがある」

「ん?うん、わかった」

まだ、行くところがある。そこは俺にとっての決戦の地だ。

昔は負けることにおいて最強だと、自負していた。なによりそれに誇りを持っていて、それを他人に可哀想な目で見られれば鼻で笑う程に。

でも今は違う。

俺が負けてしまえばそれは、俺の担当アイドルが負けることに繋がる。

売れないアイドルが悪いのではない、売り込むことが出来ないプロデューサーが悪いのだ。

そしてそれとは関係なく、俺は今日負けられない。

そもそも負けとは何を指すのか。今日においてのそれは、

 

言葉を杏に伝えられないことだ。

 

「ここって…」

「芸がないとか言うなよ。そういうのは俺に期待するな」

町が一望できる丘。ここは以前杏に気持ちを伝えた場所だった。

「…期待はしないよ。でもこの場所は杏にとって特別だから」

そう言いながらペンダントを握る。

「話があるんだ」

杏がこちらを向く。その顔はなんとも言えない表情で。

不安なのか、期待なのか。

「…その言葉を聞いたら期待しちゃうよ。あの時を思い出す」

前も同じように切り出した。

あの時も頭が一杯一杯で、まともに機能してなかった気がする。

「まぁ別に大事な話って訳じゃないし、ただこれを渡したかったんだ」

ひとつ嘘を付いたが、その方が良いと思った。

そして差し出すのはひとつの小箱。その中にはひとつのリング。

「こ、これって…」

「ペリドット。太陽の石だそうだ。杏に渡したかった。まぁペリドットは八月の誕生石で杏とは一月違いだが…」

言ってる間も杏は口を開けて呆けている。

それを俺は喜んでくれていると思えるくらいには、変われたのだとおもう。

「それでも俺の杏を象徴する太陽を大事にしたかったんだ。つっても緑色だし、誕生石じゃないしで、どうも不格好だけどな…」

色々と調べた。今まで何も知らないことが必要になったので仕方ないが、一生懸命調べて、やっぱりこれが良いと思ったんだ。

「杏」

「…え?」

ようやく我に帰る。呆けていた杏は俺の声に目を向け、同じ高さの目線に驚く。

同じ高さの目線、それは俺が膝をついているから。

人生でこんなことをするようになるとは思わなかった。小町は笑うな。

「右手を出してくれ」

「う、うん」

おずおずと差し出す手。その右手の薬指に指輪を填める。右手にしか填められないことも、酷く不格好だなと思う。

「に、似合ってる」

最高に、綺麗だ。

「あ、ありがちょ…」

噛んだ。顔が赤いのは噛んだせいか、それとも。

「今は右手で許してくれ。ばれるわけにもいかんしな。まぁ勘ぐられるだろうが誤魔化してくれ」

酷いことを言っているなと思う。それでもそういう関係なのだから仕方ない。

「あ、その、ありがとう…。嬉しいよ」

やっと笑顔になる。やっぱり杏にはその表情が一番似合っている。

その顔を引き出せるのが自分だと思うと最高に誇らしい。

「え、えへへ。嬉しいね。ま、まぁ右手じゃ男避けにはならないのかな?」

そう言いながらも大切そうにその手を抱く。

しかしまだ甘いな。これで終わりじゃないぞ?大事な話じゃないなんて嘘だからな。

「杏」

杏の手を取る。両手でその手を包み、声を絞り出す。

まるで喉に何か詰まったように出にくいが、それでも。

 

「え、えっと八幡?」

 

 

「結婚しよう」

 

 

「…」

無言。

 

「え、ええええええええ!!」

突然張り上げた叫び声は、町中なら俺が捕まってしまうレベルだった。

「今すぐには無理だと思う。だからそれはエンゲージリング。約束してほしいんだ」

杏の顔は真っ赤で、肌色が無いんじゃないかと思うほどで。

 

「俺と、結婚して、ずっと隣にいてくれ」

頑張って絞り出した声に何時までも答えてくれない杏だったが、

「っ!」

その瞳には大量の涙が流れていた。し、しまった。

ま、まさか泣かれるとは。

「す、すまん。嫌だったか?わ、わるい。やっぱり無しに…」

その言葉の続きを言わせてもらえなかった。杏が膝を付いた俺に抱きついてきたからだ。

 

「八幡、杏と結婚してください」

 

「あ、ああ。って俺の台詞取るなよ。さっき言ったこと無かったことになるじゃん」

「あはは!八幡がイタリア人みたいなことするからいけないんだーい!」

失礼な奴め。俺がどんな覚悟で言ったと思ってるんだ。

…まぁ、それでも幸せな気持ちになるのだからとっくに俺は杏の物なんだろう。

 

「ずっと一緒にいてくれるか?」

「うん。一生側にいる。だいすき、はちまん」

 

 

 

 

これは蛇足で余談だが。

この日の仕事は小さなトークショー。ショッピングモールであったイベントには杏のファンと、足を止めてくれた一般人がいた。

その日彼女を見た客は、ファンは、彼女の最高の笑顔を前に、ただただ言葉を失ったのだと言う。

天使を前に、人間は無力なんだろう。

 

 

 

「ああ。式場も決まってる」

「…え。結婚式なんてしたら一発でばれるよ?」

杏の実家に二人で報告に行くことが決まった。

飛行機で向かうわけだが、杏の両親に顔を会わせるのか…。

そもそも17歳の娘に手を出してるんだけど殺されないかな?俺だったら殺す。

「いや、結婚式なんて立派なもんじゃない。場所を借りて、身内呼んで、誓いの言葉を言うだけだ」

「あーなるほど。それでもばれそうだけど…」

「いや、場所もスタッフもある人の息がかかってる。身内だけでするならばれることはないだろうって言ってたぞ」

「あの番組プロデューサー?確かに相当な大物らしいね」

そう、あの人は大物だ。大御所芸能人でも挨拶を欠かさないほどの。

それが幸運なことに気に入られたので、大いに甘えてしまおうということだ。

まぁあの人とは仕事において持ちつ、持たれつをできてると思うからこれぐらいのお願いは受け入れてくれるだろう。

式に呼ばなきゃ結婚したことばらすと本気で言われたし。

「籍とかは入れられないから形だけな。それだけでもやっておきたいんだよ」

「うん。そだね。…嬉しいよ」

事務所のソファーで話すような内容じゃないかもしれない。

誰かに聞かれたら一発アウトだし。アイドルなら問題はないだろうが、それでもまだ秘密にしておきたい。

「杏の両親の許可が貰えたら、準備を始めるから。でも衣装と日取りと仕事の調整と招待客の選別くらいだ」

本当はもうひとつあるけどまぁ杏に話さなくても良いだろう。

「うん。じゃあ頑張ってね八幡。ちゃんと杏をやしなってねー」

はいはい、敗者はただ従うのみ。

それに不思議と、好きな人をやしなうのは思っていたのと違って、楽しそうだと思った。

 

 

 

 

杏の両親は思っていたより俺を歓迎してくれた。

それでも俺を信用していると言うよりかは、杏を信頼していて、娘が選んだ相手なら大丈夫だろうと。

そして最後には娘をよろしくお願いしますと言われ、俺は深く頭を下げた。

そもそも杏が結婚できるとは思っていなかったらしい。まぁ確かに。

杏はあれで人に対して難しいところもあるし、家事もしないだろうしな。

それを受け入れるとは変わり者だねと言われたが、俺からすれば杏みたいな天性の美少女、引く手あまたな気がするが。

ともかく、両親に許可を貰ったので準備を進めている。すでに武内さんには話を通していて、これからが本番である、親玉に話をしにいかなければならない。

「失礼します、比企谷です」

中から肯定する声がきこえ、扉を開ける。

「お疲れさまです、専務。今日は話があって参りました」

「また下らない話をしにきたのかね?」

相変わらずだな。開口一番から毒を吐かれるとは。

「前の話しも私にとっては大事な話だったのですが」

「君にとってそうでも私にとっては下らないということだ。今回もその類いなのだろな。それで」

ある意味ここが本番だ。

杏の両親よりもこの人を説得する方が難題なのだから。

 

「双葉杏との男女間の付き合いを許可していただけませんか?」

「ほう?君はプロデューサーだったな。アイドルを売るべき人間が、アイドルの価値を下げ、ばれてしまえばアイドル生命が終わるようなことを許可しろと?」

「…はい」

「くだらない。私が想像していた以上に下らん話だったな。話はそれだけか?それならもう下がりたまえ」

 

ああ、胃が痛い。しかし今さら引くわけがない。

 

「そもそも問題はばれることです。しかし私はプロデューサーとして普段は接しているので対外的にばれる可能性は少ないです。こうは思いませんか?問題はばれなければ問題にすらならないと」

「問題は問題になり得る可能性があるから問題と言うんだ。その言葉になるほどと言えるのは子供だけだ。根本が解決しない限り常にリスクは付き纏う。可能性は100%になることはない。例えば今このデスクに盗聴機がしかられていたとしたら?その可能性まで考えが至らないから君の言葉は子供の我が儘だと言うんだ」

「…しかし今の時代アイドルが結婚している例もあります。それを考えずに暗黙のルールを馬鹿のように守り続ける意味もないのでは?」

「なぜ暗黙のルールが出来たか想像しろ。それはアイドルを応援するファンの気持ちであり、アイドルがそれに答えるための誠意だ。君たちはそれを理解できていない。そしてばれた場合のわが社のイメージはどうなる?346の落ちたブランドイメージに対して君は責任がとれるのか?」

 

くっ!正論なだけに反論できない。だが引けないんだ。

 

「責任はとれません。私には背負えないと思います。ですがこのまま引き裂かれ、輝きを失った太陽を見上げる人がいますか?俺には彼女を輝かせ続けることが出来ます」

「太陽とは見上げるものではない。そこに居るだけで良い。それが陰っていようと私たちに恩恵を与える。今出来ている彼女の成功ブランドがあればそれだけで十分だ」

「太陽が上らなければ?言っておきますが杏は上ることすら拒否するような太陽ですよ?」

「上らなければ月を輝かせる。わが社にはそれができるアイドルがいる。永遠に上らない太陽などない。彼女が姿を見せなければまた新しい太陽が顔を見せるだろう」

 

ああいえばこう言う。くそ、どうする。

 

「で、でも、それでも困るのは専務のほうのはずです。大切な稼ぎ頭を失うより、ばれる可能性の少ないリスクに賭けてもいいんじゃないですか?」

「わが社はアイドル部門が全てではない。それならば大きな賭けをわざわざするようなこともない。それで終わりか?」

「そ、それでも!」

 

引くわけにはいかないんだ。こんな結果をもって帰ったんじゃ杏の笑顔は曇る。

最悪アイドルやめても良いとか言い出すかもしれない。

それだけはさせるわけにはいかない。杏が自分で手にした世界を、捨てさせるわけにはいかない。

そこにはきらりだっているんだ。結果的にきらりも曇ってしまう。

俺はきらりのプロデューサーでもあるのだ。ならば、引くわけにはいかない!

 

「…くそ」

が、何を言えば良いのか。

そもそも向こうが正しいのだ。許されるなんて事はそれこそご都合主義。

結局のところ俺はまだ、学生から成長できていないのかもしれない。

「終わりか。流石に頑張ったな。私は君を買っている。なぜならわが社に利益をもたらしたからだ。…しかし今不利益ももたらそうとしている」

不利益。それは、

「大沼。知っているだろう?君が懇意にしているプロデューサーだよ」

なぜいきなりその人の話を?

「…はぁ、まぁ」

「この前彼から話があると言われ、呼び出された。彼の力には我々も世話になっている。そこでこう言われた。比企谷君と双葉さんの関係をばらす準備があると」

「なっ!」

あの人秘密にしてくれるって言ってたぞ。しかも式場からなにまで世話になっているのに今更!

「私は、346を脅すなんて随分と大きく出ましたねと言ってやった。そこで大沼は笑いながらこう言ったよ。二人の式を用意している。それを行う許可さえくれれば黙っておこう、とね。ふざけた男だ」

あのひと…!本当にいい人だ。こうして周りに助けられ続け、それに対して返すことができるのだろうか。

「彼は大手の取引先のようなものだ。それほどの相手の反感を買うくらいならば君の言う小さなリスクを負った方がいいだろう。君はこうして助けられた。今後どうしていく?」

「…今以上に努力します。受けた恩を返せるように」

「それでいい。…それと招待客はもう決まっているのか?」

「い、いえ、まだですけど…。身内とこの事務所の人と大沼さんくらいだと思います」

「そうか、なら私にも招待状が来るんだろうな。楽しみにしておこう」

「え」

まじか。この人呼ぶ予定なかったなー。てか来るのかよ。

…凄い嫌なんだが。なんで楽しみにしてるんだよ。

 

 

 

 

「おひさしぶりですね!今日は私、『幸福の木』社長の清水がお相手させていただきます」

「よろしくお願いします」

てかこのひと社長だったんだね。あの時八幡からちょっと話聞いたけど、八幡もただの社員さんだと思ってたみたいだし。

あんまりそうは見えないかも。

「にょわー!杏ちゃん!このドレスかわいいにぃー!試着してみよ!」

「全部試着してたら身が持たないんだけど…」

とは言っても。

こうしてウエディングドレスが並んでいると壮観だ。

どれもきらきら輝いていてきらりが興奮するのもうなずける。

「それにしても、あのプロデューサーの方がお相手なのですね。失礼ですが、釣り合わないと言った彼の言葉に納得してしまいました。私もまだまだですね」

「いや、まぁ、ばれたらいけないし、八幡も必死だったんじゃないですか?」

それにしても本当に式の準備が進んでいく。

この前は八幡の実家に行って報告もしたし、式場も押さえてるらしいし、武内プロデューサーは式の日にアイドルの仕事がなるべくないように死に物狂いで調整してるし。

一応所属アイドルに声はかけたらしい。そうしたら皆参加したいと言って、その日を空けてとアイドル達からお願いされたみたい。

そろそろ八幡が武内プロデューサーに本気で恨まれそう。

まぁ仕方ないね。

でもなんだかんだ言ってあの人も当日は来るといっていたし、楽しみにはしてくれているんだと思う。

「あ、そうでした。ドレスについての予算は考えなくても大丈夫ですよ?大沼様が受け持つそうですので」

「ええ!ふとっぱらだねー☆」

「いやいや、それは流石に…」

「なんでも今回は形だけだから御祝儀もとらないんですよね?それで大沼様が納得できないので彼に秘密でこっちに領収を回せと」

どんだけ入れ込んでるのあのひと。

本当に八幡のこと好きだね。嫉妬はしないけど。

「あの人子供いないから息子のようだと思ってるんじゃないですか?あ!だとしたら双葉さんは娘ですね!」

それはやだ。感謝はしてるけど。

「それはそうと、選んじゃいましょうね!彼を驚かせるようなやつを!」

「いっちばんきらきらしたドレスにしようねー☆」

「うん。ちょっとだるいけど、綺麗なやつ着たいね」

ふふふ。今から八幡の驚く姿が目に浮かぶ。

楽しみだなー。

 

 

 

 

本日は晴天なり。

今日がこれほど晴れたのは普段の行いが良いからだ。だよね。

今日の結婚式は本番じゃない。用意しているのはマリッジリングでもなくエンゲージリングと、杏いわく女避けのリングだけ。ご祝儀もないし、お色直しもなければ食事会もない。

ただ誓い合うだけ。

これからのことを。

ただそうだとしても、それがやりたかった。

これから一緒にいるんだと近しい人に教えたくて、そしてこれから公に普通の付き合いが出来ないからこその式。

そして、俺の一番好きな人が俺のために輝く日。それがどうしても見たかった。

「比企谷君、おめでとうございます」

「ありがとうございます、武内さん」

今は控え室。慣れない色のスーツを身にまとい、緊張の中で時間が過ぎるのを待っていた。

「しかし吃驚しました。このような式場で式を挙げられるとは。これで内密に進められるんですか?」

「今までもあったらしいですよ、こうゆうこと。実績があるなら大丈夫じゃないですかね?それにもしバレるようなことがあっても346と大沼さんがバックアップしてくれるらしいっすよ」

至れり尽くせりだな。まぁ大沼さんはあれとして、346はばれてしまえば困るわけだから当然と言えば当然か。

「な、なるほど。それにしても似合っていますよ」

スーツに合わせて髪はオールバック。白のスーツだけでも照れ臭いのだが、めかし込むべきだと髪いじられた。

まぁ似合っているなら良いか。

「そうっすか?ありがとうございます。あ、それと渋谷と遊園地いきました?」

「…ええまぁ。ペアチケットしかないので二人でと言われ仕方無く。しかしやはり比企谷君だったのですね」

「余計なことっすけど渋谷にブーケ作ってもらう為に取引しました。嫌じゃないでしょ?」

「まぁそうですが…」

これなら脈ありかもな。頑張れ渋谷。

「そろそろ私は行きますね。どうやら誰か来たようですので」

言いながら部屋を出ていく。

そして入れ違いに小町と両親が入ってきた。

 

「お兄ちゃん、おめでとう!」

「おう。ありがとな小町」

小町は飛び付くように抱きついてきた。俺も嬉しくなって頭を撫でる。

「小町はね、この日が来ることを夢に見てたよ。お兄ちゃんが幸せを宣言する日。まぁ正直来るとは思ってなかったけどねー」

おおう。酷いな妹よ。

 

「お兄ちゃん、小町はね、お兄ちゃんが大好き。だから幸せになってね?」

「小町…。ああ、でもな、小町が妹だからずっと幸せだったぞ」

その言葉を聞いて小町はさらに強く抱きついてくる。本当に可愛い妹だ。

「八幡」

「親父…」

スーツを身にまとった親父はどこか神妙な顔をしていて、

「これからお前は彼女達をやしなう立場になる。達っていうのは理解できるだろ?」

それは将来の話。二人で生きていれば家族が増えるかもしれない。

「ああ」

「自分の大切な人を守れ。自分を守れ。そしていつまでも愛し続けろよ」

「…恥ずかしいこと言うなよ親父。わかってるから」

大きくなったななんていいながら肩を叩いてくる。

今更親とこんな空気になるのは恥ずかしい。でもそんなのも悪くないなんて思いながら。

 

「ひきがやー!」

バン!と音をたて扉が開き、そこにいたのは元担任だった。

「ど、どうしたんすか、先生」

「結婚おめでとう!私は嬉しいぞ!けどなぁ!ついに教え子まで結婚しやがったぁ!」

先生泣いてるじゃないですか。嬉し涙っすか?ちょっと判断できないんですけど。

「比企谷、私は本当に嬉しいんだ。確かに普通とは違う形かもしれない。でも捻くれた君らしい式だと思う。よかったな、比企谷」

「はい、ありがとうございます。先生のお陰でもありますから、特に感謝してます」

そこまで話してようやく親父が目に入ったようで、挨拶をしている。

そんな風景を見ながら自然と口が緩んだ気がした。

 

 

「わー!はっちゃんカッコいいじゃん!」

「ほんとだー!はっちゃんかっこいい!」

みりあと莉嘉が空気も読まずに声をあげる。

もうすでに全員が椅子に座っていて、新婦がヴァージンロードを歩いてくるのを今か今かとまっている。周りのアイドルが止めているが正式な場でもないし、それが二人らしいのでむしろ良いとおもう。

そして後方、ほんとに来てるじゃん。マジで来るとは思わなかった。

あんまり険しい顔しないで欲しいんですけど。ただでさえ緊張しているのに更に緊張が高まる…。

まぁ今日忙しいアイドルが参列できたのはあの専務も力を貸してくれていることなので仕方ないとする。

 

そして、ついに光のなかに人影が現れる。

 

逆光でもないのにこんなにも眩しく見えるのか。まるでステージの上で輝いているようで、双葉杏を象徴するようだった。

そして初めて見る彼女のドレス姿。

奇抜なものは一切無く、シンプルに白を基調とし、そして、綺麗だった。

普段誉める言葉で天使等と言うことがあったが、今日の杏はまさにそれだった。

花束を持って、父親の手を取り、こちらへ歩いてくる天使。

この子が自分を好いてくれているなどまるで妄想のように感じてしまう。

参列席からもきれい…とか、え?とか聞こえてくる。普段の杏しか知らないならしょうがないと思う。

俺も気持ちの整理が出来ないから。

そうして俺の前へたどり着く。

 

「八幡君、娘をよろしく」

「っ!はい、もちろん」

お義父さんからバトンタッチされ、杏の手をとる。

杏の顔はベールのせいでよく見えないが、赤くなっていると思う。

ああ、きっと俺もそうなってるんだろうな。

そうして手を取り歩いていく。

そして神父の前についた二人は横へ並ぶ。

 

「汝、比企谷八幡。あなたはこの女性を健康な時も病の時も富める時も貧しい時も、良い時も悪い時も愛し合い敬いなぐさめ助けて、変わることなく愛することを誓いますか」

 

「誓います」

 

「汝、双葉杏。あなたはこの男性を健康な時も病の時も富める時も貧しい時も、良い時も悪い時も愛し合い敬いなぐさめ助けて、変わることなく愛することを誓いますか」

 

「誓います」

 

「あなた方は自分自身をお互いに捧げますか?」

 

「「はい、捧げます」」

 

「それでは指輪の交換を」

 

神父が差し出した箱には歪なペアリングひとつはシルバーのシンプルな、しかし高級感のある指輪。もうひとつはペリドットを使ったシルバーのリング。

二つは結婚指輪というには違うだろうが、それでも今日の日にはピッタリのものだった。

俺は杏の指へ指輪を填める。もちろん左手薬指に。

今日くらいはいいだろう。ここにはばれて困る人間もいない。

そして杏が俺の指へ指輪を填める。

 

「それでは誓いのキスを」

 

ここで緊張がマックスになった。震える手でベールを上げる。

そこに見えるのは、真っ赤になった杏の顔だった。

そして二人が固まる。

周りもざわざわとしてきた。あれ?もしかして。そんな声が聞こえる。

そうだよ悪いか。キスなんてしたことねえよ!

ふと目線を横に逸らした。そこに見えたのはきらりで、とても優しい顔をしていた。

まるで自分の子供を見ているようだな。近くに居る親父は泣いてるし。

 

「八幡」

杏に目を合わせる。

 

「だいすき」

 

何て顔で何てことを言うんだ。そんなことを言われれば、もう緊張なんて感じないだろ。

 

「俺もだ。一生側にいてくれ」

 

そして口を合わせる。

同時に上がる歓声。悲鳴も聞こえる。

むちゃくちゃだな。

それでも、口を離して目を合わせた杏は幸せそうな顔をしていた。

俺は単純なんだろうなと思う。

それだけで幸せになるのだから。

 

これで日常が終わる事はない。

今からは一緒に歩くことが日常になる。

だから歩いていこうと思う。

いつまでも、この小さな太陽の前に膝を付き、見上げながら。自分らしくないとは思いつつも、体は勝手に動くのだ。

俺の灰被り姫はぐうたらで、決して舞踏会に自発的に来るような子じゃない。

だからいつまでも迎えに行く。

 

 

 

手を取り、共に光輝く城へ。

 

 

 

 






今まで読んでくださりありがとうございました。
初めて書いたものが皆さんに評価していただき嬉しい限りです。
これで完結とします。

作中で日常が続いていくといっていますがメタ的なメッセージではなく、サブタイに対する答えですね。日常の果てに日常は続いていく。

それでは皆さん、お付き合いしていただきありがとうございました。
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