総武高校。
千葉にある高校。私はここに通っている。
双葉杏。高校2年生。将来の夢、印税生活。
意外にも健全な自己紹介だと思う。…まあ言われることはわかるけどさ。
でも私が高校1年の時にアイドルにスカウトされてからはこの夢も笑われるようなものじゃないと思うんだ。
だから笑うのは禁止。
まあまだまだなんだけど。それでも自分で言うのも変かもしれないけど、そこそこなんでも出来る子だからアイドル活動も上手く行ってる。
プロデューサーにはよく褒められるし、結構ファンもいるしね!
この間は地上波の有名なテレビにも出たし。…そのせいで学校じゃ相当面倒にはなったけど。
まじやばいっしょー
杏すごいじゃん。昨日のテレビ出てたよねー。あーしびっくりしたし。
双葉さんテレビ見たよ。凄いね。
とか普段関わるのを嫌うカースト上位に囲まれた。
面倒だったからてきとーに流したけど。
それ以降あんまり関わってこない。丁度いいけど。
どうにもあんな感じの関係は好きになれない。そもそもうるさいのは嫌いだし、面倒だし。
双葉さん、僕も見たよ!凄かった!やっぱ可愛いからアイドルとか向いてるよね!
ああ、彼は戸塚君だったっけ。彼はこっちの気持ちも察してくれたりするし、必要以上に絡もうとしてこないから好きだった。
うん。ありがとー。
悪い気はしなかったので普通に答える。
彼は応援するね、と言って自分の机に戻って行った。
いい人だなーと何処か冷めたように思いながら、それでも嬉しく思う自分もいて。だんだん思考もアイドルに近づいたかなと思いながらホームルームを意識してそれまで休もうと考える。
机で寝ようと横を見た時に私の視界に入ってきたのは、もう既に私がしようとしていた体勢になっている男子だった。
そういえばこの人いつも寝てるな。
えーと比企谷八幡君だったかな。
入学式に事故にあって遅れてクラスに合流したから覚えてる。
1回も話したことはないんだけど。なんか気にはなるんだけどなー。
私と似たような波長を感じる。面倒な事とか嫌いとか、将来楽して生きていたいとか思ってそうとか。
それは失礼かな?かんがえるのやーめた。
先人にあやかって私も寝るとしよう。
おやすみー。
授業が終わった。ぬあー、今からレッスンだ…。
やだなー…とはいえ印税生活の為にはやむなしか。ぼちぼちがんばっていこ。
「そういえば双葉さん、学校では大丈夫ですか?」
レッスンしているとプロデューサーに突然問いかけられた。
「どしたの、突然」
「昨日双葉さんが出た音楽番組が放送日でしたので。学校で何らかの反応があったのではと思いまして」
あーそゆことか。
「まあ色々と言われたよ。普段関わってない人達にも話しかけられた」
「問題はありませんでしたか?」
「問題?まあちょっと面倒だったくらいかなー。純粋な応援とかだったらいんだけど、野次馬みたいなもんだったし。…あ、でも1人だけちゃんと応援してるって感じで嬉しかったかな」
戸塚君だったかな。まあ私のファンになったってわけじゃないだろうけどそれでも嬉しかった。
「そうですか。それなら良かったです。では残りのレッスン頑張ってくださいね」
うへえ。
「ぷろでゅーさー、今日はもうやめよう?」
プロデューサーは私の言葉を聞いて心配そうな顔をして、
「え?体調が悪いのですか?」
そして私は悪びれずに答える。
「だるいぃ」
プロデューサーはとても微妙な顔をして、
「…頑張ってくださいね」
そう言い残してレッスン場から出ていった。
むう。抗議は通じず。まあしょうがないんだけどさ。
だるいもんはだるいんだい。
「はいはい。続きやっていきますよ」
トレーナーさんが手を叩いて仕切り直そうとする。
「はーい…」
私はのそりと身体を起こしてレッスンを続けるのだった。
それから2ヶ月がたった。
まだ収録されたわけじゃないけど、私にはそこそこの仕事が舞い込んでくるようになった。
これもしたくなかった努力の賜物だ。
そうして私はプロデューサーに聞いてみた。そろそろ印税生活も近いんじゃない?って。
プロデューサーは困ったように後頭部をかいて苦笑いするだけだった。
むう。
まだまだらしい。とおーいーよー。
そろそろ杏ちゃん頑張りすぎて疲れちゃうよ?と、いうわけで今日も今日とて学校で寝るのである。
横になるだけでも休まるなー。
こっそりと持ってきた自前の枕を机に置いて横になる。そうした時に目に入るのはやっぱり同じように寝ている比企谷君の背中だった。
この人凄いなあと思う。
何がすごいってこの人授業中と昼休み以外はほとんどこうしてるから。
友達がいないとか?まあスタートの遅れのせいでつくりづらそうとは思うけど。なんか…気になるというか、んー?
よくわからないけど、寂しい背中だなって思った。
授業終わり!
と、喜ぶのも束の間。私はレッスンに行かなければならないのだ…。
憂鬱になったので皆が帰る中、少しだけ横になって時間を潰した。
いい加減動かなきゃと思ったからカバンを持って枕を机にしまい、帰ろうとする。
あ、比企谷君。
どうやら彼も眠っていたらしく、慌てた様子で周りを見てすぐにカバンを持って帰っていく。
なんとなく見送ってしまったけど、私も後を追って教室を出ようと、
「ヒッキー!」
して、扉に手をかけた時に廊下からそんな声が聞こえた。
「待ってよ!ヒッキー!」
どうやら同じクラスの由比ヶ浜さんだ。
「え?俺のこと?」
「他にいないじゃん」
「えっと、誰?」
「ひどい!同じクラスの由比ヶ浜だよ!」
「わ、悪い。知らなかったから」
…比企谷君、あのこリア充グループにいるんだから知っとこうよ。
「え?ヒッキーって俺の事か?」
「そうだよ、比企谷だからヒッキー」
それはどうなの。
「いや、その呼び方やめて欲しいんだけど…」
「ちょっと話があって、聞いてくれる?」
「せめて俺の話聞いてからにしてくれる?」
まあそうだよね。無視かよって突っ込んじゃうところだったよ。
それにしても、出にくい雰囲気だなぁ…。
「あ、あのね?その…」
「なんだよ…」
早く終わってくれないかな。
なんか告白っぽいし、出るに出られないなあ。
そういえば比企谷君が喋ってるとこ初めて聞いた。こんな声だったんだ。
「えっと、その」
「何もないなら帰るけど」
まあ私としてはレッスンに遅れる理由も出来たしゆっくりでも良いけどね。
でもびっくりだなー。由比ヶ浜さんが比企谷君に告白なんて。
「入学式の日、覚えてる?」
「…あいにくとその日は交通事故にあっててな。お前とは会ってないと思う」
あれ、告白じゃない?
「それだよ、その交通事故。ヒッキーが守ってくれたあの犬私のだったんだ…」
そうなんだ。ん?もうそれ一年以上前の事だよね。なんで今なんだろ。
「ああ、クッキーくれたのお前だったのか。知らなかった」
「お礼を言いたくて…あ、ありがとう」
……
「…別にお前の為に助けたわけじゃない。偶然だ」
「それでも、サブレをたすけてくれたから。それでね!ヒッキーとその、と友達に、なりたいなって…」
……
「…お詫びなら貰ったし気を使ってるならやめろ。事故がなくてもどうせぼっちだったと思うし、お前が気を使うことじゃない」
「ち、ちがうし!気を使ってるとかじゃない!ヒッキーと友達になりたくて!」
ああ、もう!
私はついに我慢することなく教室のドアを開けた。
予想もしないところから音が鳴ったために2人はびっくりしてこちらをむく。
「ふ、双葉さん、い、いたんだ…」
びっくりしている由比ヶ浜さんを無視して私は口を開く。
「あのさ、由比ヶ浜さん。お礼を言いたいならまずそのヒッキーっていうのやめた方がいいと思うんだけど」
「え?き、聞いてたの!?」
「友達になりたいんだよね?だったらまず友達が嫌がってることやめた方がいいよ。それと大事なお礼はもっと早めに言わなきゃダメ」
私はちょっとイライラしていたせいか明るく言えなかった。
「え、あ、うん。…そうだよねごめん…」
由比ヶ浜さんは顔を伏せて俯く。
「それと比企谷君」
「ひゃい!」
彼は自分が話しかけられると思っていなかったのか、声を裏返させて返事をする。
「由比ヶ浜さんはお礼を言ってるんだから素直に受け取ろうよ。比企谷君はどう思ってるか知らないけど感謝は受け取らなきゃ可哀想だと思う」
「だ、だからもう受け取ってるし…」
「わざわざ1年も前のことを直接言いに来たんだから今受け取らなきゃダメ。どれだけ勇気が必要だったか由比ヶ浜さん見たらわかるじゃん。せっかくいい事したのに台無しだよ」
「…ああ、そう、だな」
「それじゃ杏帰るね。ばいばい」
とことこと2人に背を向けて歩く。
はー、柄にもないことしたなぁ。そうは思ってもなんか凄く嫌だったから。
特に比企谷君。
せっかく勇気を振り絞って謝りに来たんだから受け入れるべきだと思うんだよね。いくら由比ヶ浜さんが失礼でも。
でも、
「…なんとなく、比企谷君がわかったかも」
器用で臆病。
人が怖くて、でも1人は嫌だ。
そして他人のために行動出来る優しい人。
初対面でヒッキーなんて言われ続けても話を聞いて、
友達になりたいって言われて嫌だと言わずに気を使うなと言い、
顔も知らない、他人の犬を身を呈して守ってしまい、
それを偶然と言った。
つまり彼は誰でも助けていたんだ。
何もない。助けられたから助けた。
見返りも求めていなかった。
ただ体が動いただけ。
どんなに凄いことなんだろう。
私には出来ない。
下駄箱から靴を出しながら私は知らず呟いた。
「…羨ましいなぁ」
どっちにそう思ってるかもわからず。
「…なんだか今日はいつも以上に疲れてますね。大丈夫ですか?」
プロデューサーが心配そうに聞いてくる。
「あー、んー。学校でちょっとねー。それよりプロデューサーなんかあったの?」
今日はプロデューサーが見学する日じゃない。だからこそ遅れていいやって思ったんだけど。
「大丈夫ならいいですけど…。今日は報告がありまして」
「んー、なーにー?」
私は寝っ転がり、仰向けになりながらプロデューサーに聞いた。
「最近のメディアへの露出具合を考えそろそろファンクラブを作ろうと思いまして。それでこれをどうぞ」
そう言ってプロデューサーが1枚のカードをくれた。
寝っ転がって見るそれには、双葉杏ファンクラブ会員番号000000と書いてあった。
「へーもうカード作ってあるの?」
「いえ、それだけです。それだけは特別なものになりますので、双葉さんの大事な方へあげるのが良いかと思います」
「んーそう言われても…」
大事な人ねえ。
「プロデューサーいる?」
「私よりも親御さんにあげてはどうですか?きっと喜んでくれますよ」
あ、そっか。
「じゃあお父さんにあげようかなー」
「良いと思います。では残り頑張ってくださいね」
うえ。
「やな事は思い出させないでよ…」
次の日、教室に入った私の目に見えたのは由比ヶ浜さんが比企谷君に挨拶しているところだった。
ぎこちないけどまあ挨拶出来るくらいにはちゃんと話し合ってくれたみたい。
由比ヶ浜さんはその後私に気付いて昨日のことを謝ってきた。
別に気にしなくていいよって言って席へ座る。
自分の机に枕もおかず頭を置きはー、と息をつく。
自分のした事を思い出し疲れた。やっぱり柄じゃないなー。
いつもの体勢なので比企谷君が見える。
今日は突っ伏した姿じゃなくて、正面からだけど。
どっか行くみたい。席を立ってこっちへくる。
…目が合ってる?
「ふ、双葉、そ、その、昨日はすまん」
びっくりした。話しかけられた。
「杏は言いたいこと言っただけだからべつにいいよー」
にしても比企谷君を正面からちゃんと見たのは初めてだ。
凄い目。目が腐ってる。
「へへ、何その目」
「うるせえ、生まれつきだ」
困ったようにそっぽ向く比企谷君。
かわい。
「それで、その迷惑かけたからな。なんかジュースでも奢る。なにがいい?」
「お返しなんていらないよ。杏だって言いたくて言ったわけじゃなかったし」
「俺はやしなってもらうのはいいが施しは受けない」
ふふ、何それ。
「施しってわけじゃないんだけどなー。ん?やしなってもらう?」
「ああ、俺の夢は専業主夫だ」
あははははは。何それ面白い。
「その手があったのかー。いいね」
「…引かないのか?」
「どして?いい夢じゃん。杏はその夢素敵だと思うよ。そだ、杏の事やしなってよ」
そう言うと教室は一瞬静まり比企谷君は驚いた顔をして、焦りながら
「ば、ばか。俺はやしなってもらう側だ」
そういった頃には喧騒を取り戻した。
ちぇー。印税生活よりも楽そうだったのになー。
「そ、それより何がいいんだよ。自販機にあるやつで頼む」
んー、別に大したことしてないからいいんだけど。
でもそれじゃ比企谷君納得しないだろうし。
「じゃあこー…」
あ。
「ん?コーラで良いのか?」
私はおもむろにカバンを取り出し、財布を取り出す。
「お、おい、奢るからお金は」
そして1枚のカードを取り出した。
「はいこれ」
比企谷君はカードを受け取り、
「…なんだこれ?」
「見てみてよ」
そうして言われるままにまじまじと見ていき、
「お、おい、これ」
「杏のファンクラブのカード。杏のファンになってよ!」
比企谷君は顔を引き攣らせて固まり、教室を静寂が支配し、今度こそ喧騒を取り戻す事無くホームルームが始まった。
とりあえず前編です。
何度も更地に戻してこの程度しか書けません…。
一応続きは書いてますけど長くなりそうだったので分割します。
それと、ご意見、要望(リクエスト)ありましたらTwitterによろしくどうぞ!
書きたいけど題材がないんです…。
どんな題材でも(知っているものなら)書きますので気軽にどうぞ
あ、それと八幡と杏と娘のイラストみたいなー、と乞食します!いや、本当に見たいです…自分でかけたらいいのに…
@riki_avalon