「…最近とても調子が良いように見えます」
私のレッスンを見ていたプロデューサーが突然そんな事を言い出した。
「どしたの、突然」
褒められるのは素直に嬉しい。でも純粋に褒めてる?
「いえ、レッスンを見ているとそう思いました。調子が良さそうというのもありますけど、やる気があるような…」
やる気かぁ。うーん、そうかも。
前よりかはレッスン楽しいかな。
「別に悪いことではないので気にしないでください。ただ、なにかいい事でもあったのかなと思いまして」
いい事ねー。
「今のところは特にないかなー。進展とかないし」
「進展?」
おっと、口が滑った。
「なんでもないよー。最近学校が楽しくなっただけ」
「そうでしたか。それは良かったです」
良くないもん。進展させたいし。
もっと仲良くするにはどうすればいいのかなぁ…。
「…」
「どうかしました?」
とはいえプロデューサーに気になる男の子とどうすれば仲良くなれる?なんて聞く訳にもいかないし。
「べつにー。女の子は悩みがいっぱいってこと」
「は、はぁ」
実の所は比企谷君に見られることを意識してると思う。
だからレッスンも真面目にやってるし、次の仕事が楽しみになってる。
いいとこ見せたいもんね。
「あとちょっと頑張ろっかな」
明日も学校がある。
早く学校に行きたいな。
学校に行きたいなんて思うとは思わなかった。
これも比企谷君のおかげかな。
明日はレッスンないし、放課後どっか遊びに誘ってみようかな?
うん、いいかも。
比企谷君から誘ってくれるなんてないだろうし、勇気を出して誘ってみよう。
明日が楽しみだな。
「はぁ…」
最近疲れる。
それというのも全部双葉のせいだ。
いつもいつも話しかけて来て、休まる暇がない。
…あんな美少女に話しかけられてちゃ休まるわけないだろ。
それに好意をよせてくれるのがまずい。
そんな事もう期待しないって決めたし、人に期待するのは怖い。
また騙されるかも。
優しい女の子はみんなに優しいんだ。
俺が特別なんてことは無い。
「……」
そんな考えはあのカードで揺らいでしまう。
あれは特別じゃないのか?
携帯の連絡先だったら勘違いもあった。けどあのカードは特別と思って良いんじゃないのか?
いや、そもそも俺はどうしたいんだ?
双葉の事を好き、なのか?
「はぁ…」
ベッドで横になり、少し落ち着く。
可愛い、と思う。
それ以上にあの好意を向けてくれる事が何よりも嬉しい。
でも俺は双葉に何かをしたことは無い。
例えば由比ヶ浜は、自分の犬を助けて貰ったっていう理由があった。
でも双葉は何も無いはずだ。少なくとも俺は知らない。
それなのにあんな好意を向けてくるだろうか。
俺にはそれがわからなかった。
ラノベのように理由もなく人を好きになるなんてありえない。
「あー頭痛え…」
考えすぎか頭が痛い。今日はもう寝よう。
明日、学校でどうすればいいんだ…。
今日も早くに学校に来てしてまった。
比企谷君はそんなに早く来ないからもっと遅めでいいのに。
まいっか。いつも通り来るまでゆっくりしてよっと。
そんなふうに思ってたのに。
「ホームルーム始めるぞー、席につけー」
先生のそんな言葉が聞こえても比企谷君の席が埋まる事はなかった。
「40度あるよ…お兄ちゃん」
ベッドで動けない俺を小町が看病してくれる。
というのも朝になっても起きれず身体が思うように動かなかった俺は、小町に必死に助けを求めて朦朧とする意識の中助けられた訳だ。
「うわーこれはちょっとやばいね。お兄ちゃん立てる?とりあえず病院行こっか。小町タクシー呼んで学校に電話してくるから待っててね」
小町の言うことを理解は出来てるが身体は動かない。
ここまで重い風邪にかかったのはいつぶりだ。
「…小町?」
気がついたら小町がいない。あれ、どこいった?
「小町…」
無性に不安になり小町を探す。
小町を1人にする訳にはいかないしな。
「いって…」
そうは思っても何故かからだが上手く動かなくて、ベッドからおちた。
あれ、おかしいな。
「わー!お兄ちゃんなにやってるの!寝てなきゃ駄目だってば!」
小町にベッドにもどされる。
「小町がいなかったから、しんぱいだったんだよ…」
「心配しなくても今日は小町も学校休んであげるから。タクシー来るまでゆっくりしててね」
そうじゃなくてな、こまちがしんぱいなんだよ。
あれ、よくわかんなくなってきた。
「大丈夫だよ、こんな時くらい妹に頼っていいんだよ」
あたまをなでられる。
いついらいぶりだろうか、こんなにひとはだがあたたかいとかんじるのは。
「さんきゅこまち」
「小町はお兄ちゃんの妹だからね。当然だよ」
「すーはー」
まるで不審者だ。
私は今人の家の前で深呼吸をしてる。
不審者と言われようともこれは仕方ないのだ。
表札には比企谷の文字。
これを見るだけで心臓はバクバクいってる。
さっきまではここに辿り着けるかが心配だったけど、今はそんなこと忘れて緊張が頭を埋めつくしてた。
「うー…」
比企谷君はどうやら風邪で休んだらしく、それを知った(先生に問い詰めた)私は何とか住所を教えてもらおうと平塚先生に聞いてみれば教えてくれた。
ラッキーなんて浮かれてた私は家の前に着いた途端に緊張に飲まれたという訳だ。
いや、だって看病とか出来るかな?って思ったし…。
最初は何も考えてなかったけど、比企谷君の家って事は家族もいるだろうし…。
色々考えるとやばい気がする。
「うー」
最初の勢いはどこへ行ったんだと自分で言いたくなるけど、よくよく考えたらお見舞いしたとして比企谷君の部屋に入るの?
それはそれでまずい。
私男の部屋とか入ったことないし。
ってそうじゃなくて。そもそも寝てるだろうし会えないと思うんだよね…。
でも来てしまったししょうがないよね?
途中で買ってきたお見舞いの品だけ渡して帰ろう。
「よし」
恐る恐るインターホンを押す。
ピンポーン。
ドキドキと胸が高鳴っていく。
あ、やばい、逃げたい。
家の中からはーいと声が聞こえて逃げられなくなった。
うわーうわー!
女の人の声!お母さんかな?
まずいまずい!
咄嗟に鏡で身だしなみをチェックしなかった自分を呪う。
大丈夫、多分。学校出る時は問題なかったはずだし大丈夫。
ぬあーやっぱりチェックしとけば良かった!
「はいはーい、どっちら様ですか?」
あ、年下だ。妹さんかな?
「あ、えっと比企谷君の友達で…あ!違う、八幡君の友達で…」
ここは比企谷家だった!
「えええ!お兄ちゃんの友達!?しかも女の子!」
「え、あ、はい…」
「んー?ふんむ…」
すっごい見られてる。てか品定めされてるような…。
「あのこれ、八幡君のお見舞いに来たんです」
私はとりあえず目的を果たそうと途中で買ってきたお見舞いの品を渡そうとした。
「それはお兄ちゃん喜びますよ!じゃあ案内しますので上がってどうぞ!」
そう言われて手を引かれるままに家に入っちゃったとさ。
あれー?
「おじゃましまーす…」
そろりそろりと扉を開け静かに言いながら入る。
妹ちゃんは何かをしなきゃ行けないらしく、私は1人で比企谷君の部屋に入ることに。
そろりそろりとベッドに近づく。
「うわー…」
うわー!寝顔!寝顔!
「綺麗…」
なるほど。普段は目が腐ってるけど寝てると普通に見えるんだ。
普段も好きだけど無防備な顔も好き。
やっぱり優しさが溢れてる気がするな。
少しの好奇心。
だってこんな無防備だったら誰だってそうする。
頭を撫でる。
あ、気持ちいい。
撫でられるのは気持ちいいって聞くけど、撫でるのも気持ちいいんだね。
「あ」
「小町…?」
やばい、起きた。しかも手を掴まれた。
うーうー、心臓がやばい!
「…?」
起きたと思ったけどすぐに寝息が聞こえてきた。
寝ぼけてたのかな?
でもなんでか、弱々しく掴まれた手を離せなくて。
「よしよし」
逆の手で頭を撫でた。
「大丈夫だよー。杏は傍にいるからね」
時間が許してくれるまで、こうしているからね。
時間が許してくれるなら、ずっとこうしていたい。
時間が止まればいいのにね。
暖かい夢を見た。
「ん…」
目を開ければ部屋は随分暗くて外は夜になっていた。
ああそうか、俺は風邪ひいて寝てたんだ。
朝は随分ときつくて起きれなかった記憶があるけど、今はそれなりに良くなったみたいだ。
「あー、頭いてえ…」
ずっと寝ていたせいかフラフラする。
どうやら動く分には問題ないみたいだし、水を飲みに居間へと降りる。
「あれー、お兄ちゃんもう起きて大丈夫なの?」
「なんとかな。悪い迷惑かけたか」
「気にしないよ。どうせお兄ちゃんにはいっつも迷惑かけられてるし」
「あーはいはい。あんがとさん。水あるか?」
「あるよー。あとポカリも」
小町らしからぬ用意の良さだな。
「悪いな。用意してもらって」
「ふっふっふー。実は小町はそこまで用意してないよー。買いに行く余裕もなかったし」
なんで威張ってんだ。
「母ちゃんか」
「最初はお母さんに頼もうと思ったんだけどね。その必要なくなっちゃってさ」
「父ちゃんか、珍しいな」
「ぶっぶー。両方ハズレだよー」
そうなったら選択肢無くね?
まあいいや。今は小町のクイズに付き合ってるほど体力ないし。
「誰か気になるでしょ?それにしてもね、小町は感動しているのです」
どした、突然。
「しらばっくれちゃって。お兄ちゃんにあんな可愛い友達がいるなんて知らなかったよ」
「病み上がりの傷を抉らないようにね、小町ちゃん。お兄ちゃんに友達はいないぞ」
「何その悲しい発言…。じゃあ彼女?」
「友達がいないのに彼女がいるわけないだろ…」
ふと、夢のことを思い出す。
「じゃあ友達でも彼女でもないのに見舞いに来たってこと?無理があると思うなー」
「…待て。見舞いに来た?」
朧気ではあるけど誰かがそばにいてくれた事。
あれは夢か?
「そうだよ。双葉さん。ソレも双葉さんが買ってきてくれたんだからね」
「は?」
言われて飲んでいた水を見る。
双葉が?お見舞い?
「…な、なあ小町、お前が看病してくれたんだよな?」
「最初はね。でも病院から帰ったらお兄ちゃんすぐ寝ちゃったからずっと付きっきりってわけじゃなかったよ」
「そ、そうか」
良かった。妹に甘えてたという黒歴史は避けられたみたいだ。
妹に甘えてたなんて事あったら八幡死んじゃう。
「それより双葉さんの方が付きっきりだったかな」
え?
「え?」
「言ったじゃん、お見舞いに来たって。わざわざ来てもらったから風邪ひいてますけど顔みていきますか?って聞いたら看病してくれたんだよ?これが友達じゃなかったらなんなのさ」
そばにいるからね
そんな声が聞こえて、誰かに撫でられた気がした。
あ、あれって…。
「結構長い間お兄ちゃんをみてくれてたんだからね。ちゃんとお礼いいなよ」
「小町」
「なに?」
「お兄ちゃんちょっと失踪してくる」
「なーに言ってんのかなこのごみいちゃんは…」
じゃあ何?俺は双葉に甘えた挙句頭なでなでされてたって事?
やだ死にたい。
「そもそもなんで双葉が来るんだよ…」
「…はー。本気で言ってる?これだからごみいちゃんは」
「だって意味わかんねえだろ。俺あいつと仲良くなんてしてないぞ」
「お兄ちゃんこの際だから言うけどさ、逃げちゃ駄目だよ」
小町は随分と真面目な顔でそう言う。
「逃げるって…何をだよ」
「好意から、でしょ。双葉さんがお兄ちゃんをどう思ってるかなんてどうでもいいと思うな」
「いや、大事でしょそこ」
「だから逃げてるって言ってるの。結局さ双葉さんがどう思ってるかじゃなくてお兄ちゃんが双葉さんをどう思ってるかじゃない」
逃げる…。俺は…。
「お兄ちゃんは自分を好きになる人しか好きにならないの?小町はさ、お兄ちゃんがめんどくさい事知ってるしもう慣れちゃったからなんとも思わないけど」
お、おう。
「でもだからそうやって逃げてたらもう二度と友達も出来ないし恋人も出来ないよ」
いつの間にか俺は小町が座っていたソファへ座り、横に並ぶ。
そうするとすとんと小町が頭を預けてくる。
「小町はさ、お兄ちゃんのいい所を知ってくれる人が好き。だって気持ちわかるもん」
こそばゆくなってきたので小町の頭をゆっくり撫でた。
「お兄ちゃんのめんどくさい所小町は好きだよ。だから小町と同じような人が現れたら良いなぁって思ってる」
「小町…」
「でもねそんな人が居たとしてもお兄ちゃんが逃げたら駄目なんだよ」
なんとも言えない気持ちになったせいで俺は小町の頭をわしゃしゃと撫でる。
「わーなにー」
「ありがとな、小町」
「小町がいる限りぼっちにはならないから安心してね?」
全く可愛い妹だ。
ありがとう
小町にあんなことまで言わせたんだ。
行動しなくてどうする。
結局は怖いだけなんだ。
今まで理不尽に嫌われ、それでも人と繋がりたくて必死に頑張った。
人を好きにもなった。
その結果は最悪で、人が怖くなった。
人の好意が怖い。だってそれは俺にだけ向けられるものじゃなくてみんなに向いてる。
だから俺が特別になろうとするとまたあの時みたいなことになる。
それがとても怖い。
でも、それでももう一度だけ頑張ってみよう。
だって俺は双葉杏を好きになったから。
どこが?
この目を綺麗って言ってくれた。
どこが?
笑顔が。
どこが?
真っ直ぐな目が。
好きになった。
「お、おはよ、双葉」
声をかけると双葉はキョトンとした顔をしたが直ぐに、
「おーはよ。もう風邪治った?」
いつものだるそうな笑顔で答えてくれた。
「あー、なんかお見舞いに来てくれたらしいな。さんきゅ」
「ふふん、ちゃんと感謝してねー。わざわざ平塚先生に住所聞いたんだから」
少しドヤ顔で答える双葉を見て、やっぱり少し照れてしまう。
「それとな今日昼飯なんだけど簡単に弁当作ってきたんだ。一緒に食べないか?」
すると今度こそキョトンとした顔で固まり、
「え?比企谷君て弁当作ったりできるの?」
びっくりした顔でそう言った。
「専業主夫希望だからな。普段作ることはないけどまあ看病のお礼だ」
「へー、へー。うれしいかも。じゃあ一緒に食べてくれるんだよね?」
随分とニヤけた顔でそう答える双葉を見て抑えていた期待感がまた出てくる。
「お礼だしな。いつものとこでいいだろ?」
「あんまり歩きたくないなー。ま、あの場所好きだから良いけどね」
そういえばどうしても聞きたいことがあったんだった。
「な、なあ、看病に来てくれた時の事だけど…俺何か変なこと言ったりしてなかったか?」
「んー?どうかな。あんまりおぼえてなーい!あはは!」
なんだその笑いは。やっぱり俺なんか言ったのか?
はぁ。
答えるつもりも無さそうだし、諦めるしかないか。
この先聞く機会もあるだろうしゆっくり聞いていこう。
もう一度、もう一度だけ近づいてみよう。
この太陽に焼かれるか、それとも太陽の横に寄り添えるか。
俺の青春ラブコメを頑張ってみよう。
前回誤字が酷くて、直してくださった皆さんありがとうございます。
まじで酷かった…。
さてダラダラと続いた高校生活編終わりました!
高校生のフレッシュな感じがかきたかったのですけど…無理みたいですね笑
次はこっちには関係ないハリーポッターのリクエスト書きますね!
待たせて申し訳ありませんけど、もう少しお待ちください!