2人がまだ結婚する前の話。
「にゃー…。つかれたぁ…」
ジャージをきた少女がだらんとした格好で横になる。
「お疲れ様。今度のライブも問題なさそうだな」
俺はレッスンの光景を思い出しながらそう答える。
「ひざー…八幡、ひざまくらー」
…まあ今なら誰もいないしいいか。
「普段は駄目だぞ。今は誰もいないからいいけど会社じゃこういうのは駄目なんだからな」
「ぶつくさ言いながらも膝枕してくれるはちまんさいこー」
べ、べつにしたくてしてるんじゃないんだからね!
「ん!」
なんだと思って杏を見るとどうやら頭を撫でろと言うことらしい。
可愛い。
「むふふ」
撫でてやると猫のようにゴロゴロとし始める。
なんだこいつ地球上で1番可愛いだろ。
「今度はソロのライブだ。きらりいないんだから気を抜きすぎてミスするなよ」
「誰に言ってんのさー。ライブは本気でやるのが杏のぽりしーだよ」
ぽりしーね。
「初耳だな」
「んー?…だって杏は太陽だからね。月が舞台を作って沈んだら太陽が輝く番でしょ?」
ぐっ!杏めデビューの頃の話覚えてやがる。
忘れろと言ったのに!
「…白夜になったらどうするよ」
「…そうなったら太陽もやる気なくしてどっか行くんじゃない?」
厳密には月はどっかいってるわけじゃないけどな。
意地悪な質問だったか。
暗い顔させちゃったな。
「あー…そういえばライブ前に休みをとってる。だからな、その」
「ん?なーにー、八幡」
杏のにやにやしてる顔を見るに俺の気持ちを察しているようで、悔しいやら嬉しいやら。
「デートに行こう」
「ふーん、いつになく直球じゃん。良いね、行きたい!」
そう言って首に腕を回してくる杏は、やっぱり天使だ。
「どこいくのー?」
久しぶりのデートだ。どこ行こう。
相変わらず杏の私物に埋め尽くされそうな車の中でどうしようと考えていたら
「ノープラン?さすが八幡だね」
「うっせ。そもそもあんまり行きたいとことかないし、なんならお家デートでいいまである」
むしろ最高だ。
そうだったらこんなメガネにマスクとか怪しいカッコしなくて済むし。
「んーまぁ杏もそれでもいいけど…」
そんなことを言う。
そんな寂しそうな顔するなよ…。
「そういやみりあ達から、デパートに新しく出来たぬいぐるみ専門店の話聞いたんだよ。杏が好きなのあるかと思ってたんだが…」
「へーそうなんだ。いいじゃん、いこっか」
しっかりと嬉しそうな顔しやがって。
ふとミラーに映る自分の顔を見てげんなりとする。
俺もかよ…。
「これ可愛い!はちまーん、見て!」
やっぱ好きな物の前だとテンション上がるのな。
久しぶりに見る好きな人の笑顔に自分も嬉しくなる。
この顔が見たかったんだよな。
「買うのはいいけど車におけるサイズと量にしてくれよ」
「どーしよっかなぁ。んー今日はこの子だけにしよっか。良いよね?」
「熊?珍しいな、熊は選んだことない気がするんだが」
確かいなかったはず。車にも俺の部屋にも。
結構な数あるのに一体もいなかったのはあまり好きじゃないからじゃないのか?
「好きってわけじゃないけど、見てよ」
言われて見てみる。
所謂デフォルメされているぬいぐるみでその顔には覇気が感じられない。
その顔はなんだか見ていてムカつく。
とぼけた顔をしてるだけなんだが、なんか煽られてる気がして…なんだこいつ。
「なんかムカつく」
「なにそれ。もーわかんない?」
「わからん」
「自分じゃわかんないかな?この子八幡に似てない?」
…え?
「いや似てないでしょ…」
「えーわかんないかなー?目の辺りなんかそっくりじゃん」
そう…か?いやそれでムカつくのか?
「可愛いでしょ?」
お前がな。口には出さないけど。
「お昼だねー。なに食べる?」
「サイゼが恋しい…」
「探せばあるかもしれないけど…めんどいよ」
「まぁな。しょうがないからそこら辺の店でいいだろ」
「どんだけサイゼ行きたいのさ…」
俺はハンバーグドリアを頼んだ。
「結局オムライスにしたのか。美味しそうだな」
「八幡はドリアばっかりだね。サイゼ以外でもそれだもん」
1番はサイゼだがな。
千葉県民のソウルフードだし。
「ねーちょっとちょうだい?」
仕方ないな。
このままあげても熱いし少し冷ましてあげる。
「ほら」
向かいに席に座る杏にスプーンを差し出す。
「んむ。んー美味しい」
一通りの動作を終えて、そこで気付く。
なに俺はリア充みたいなことやってんだ…。
爆発しろっ…!
「ねーねー、今度オムライスつくって。八幡がつくったの食べたいな」
「ん。いいぞ」
そこでふと思いつく。
「杏も作ってくれよ。俺も杏が作ってくれたの食べたいし」
そういえば俺は杏の料理を食べたことがない。
そもそも料理できるのか?
「うえっ!料理…料理かぁ…面倒だぁ」
「お前なぁ…」
「面倒、だけどまぁやってみようかなぁ…」
ちょっと気恥しそうに言う杏は、見ていて嬉しいもんだな。
「八幡、最初はちゃんと教えてよ?」
「おう。まかせろ」
「今度のはソロでの大きいライブだ」
日も暮れて暗くなってきた頃、車で送るついでに話をする。
「ソロでのライブがどれくらい凄くてどれくらいどれだけ怖いものか想像するしか出来ないが…」
「間違ってるよ八幡」
「え」
どうにも俺には難しいらしく、やっぱり分かりきれていないらしい。
プロデューサーとして成功しているのかもしれない。
何人かのアイドルをプロデュースして少しはそう思えても、全てを理解するなんて難しい。
いや、出来ないって言ってもいいかもしれない。
「怖い?そんなわけないじゃん」
間違えてるのはそこらしい。
怖いだろ?
自分の前には何万人の人がいて、自分に会いにわざわざ来ているんだ。
そんな期待とかそういうのは怖いに決まってる。
「八幡と杏じゃ感覚違うのかも」
そう言って笑う杏に首を傾げる。
「杏にとっては八幡が作ってくれた舞台だよ。怖いなんて思うわけないじゃん」
…?よくわからん。
「わかんねえ」
「その舞台は杏専用なの。王子様が開く舞踏会じゃない。そこは杏の為だけに用意された場所」
まあそのために整えてるからな。
俺や会社がそういう風につくった舞台だ。
「そこには杏にとって怖いものなんてないよ。用意してくれたのは1番信用してる人なんだから」
…そこまで言われると照れるけどな。
「だから大丈夫。太陽は輝くよ」
笑顔を見せる杏。
「最初から心配はしてねえよ」
心配なんてする訳ない。
杏のことは俺が1番よく知ってるんだ。
杏が舞台にたった時の輝きは知ってるんだ。
それが見たくて舞台を整えたんだ。
だから後はその手を引いて城の階段をエスコートするだけだ。
「また見せてくれよ」
何をとか言わない。
恥ずかしいからな。
「もちろんだよ。杏は空の上で月と並ぶために輝くんだから」
2日目。
脳に糖分が足りません。
それではみなさん、またあした!
やみのま!