「「やしなって」」   作:風邪薬力

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されどパパは上司と踊る

 

「ねえ、最近目の濁りが良くなってきた気がするんだけど」

 

「は?嘘だろ?」

 

「んーちょっとね。少なくとも出会った時よりは濁ってないよ」

 

「おぉ…!ついにゾンビと言われなくなるのか…!」

 

「今も言われてないけどねー。どっちかと言うと…これは言わない方がいっか」

 

「そんなやばい呼び方されてんの?担当の子も呼んでたら明日から仕事したくないんだけど…」

 

「悪い呼び方じゃないよ。ただ、えっと、呼び始めたのが美城さんだから…」

 

「…ゾンビより酷くないことを祈る」

 

 

「空が生まれてから良くなってきたかもね」

 

「自分じゃわからんからな。良くなったって気づかなかったし」

 

「うーん、まぁ杏はいつも見てるからね!小さな変化も気づいてあげるよー!」

 

「…嬉しいけど、それって本当は男がいつも言わないといけないんじゃないのか」

 

「そうだよー?だから杏のことちゃんと見ててね!」

 

「…おう。ずっと、だな」

 

 

「比企谷。私が呼び出した理由、わかっているな?」

俺は呼び出された。こうやって上役に呼び出されると学生時代に平塚先生に呼び出されたことを思い出す。

あの人元気にやってるかな。

今度ラーメンでも誘ってみよう。

「…はぁ。いえ、突然呼び出されたので特に心当たりがありません。俺常務に怒られるような事しましたっけ?」

「君は良くやっている。相変わらず気に入らないこともあるが」

「なんかすみません」

俺はこの人に認められたわけではないのかもな。ただ損にはならないから気にされてないような。

人の評価なんてよく分からんけどな。特にこの業界では。

「いやいい。実績があればある程度は目を瞑る。そんなことより比企谷」

「はい、何でしょうか」

「息子が生まれて3年になるな」

呼び出してまで子供の話か…。

もはや悪癖じゃね?

「…えっと、そうですね。空から3年後でしたから少しは落ち着いて育てられていると思っています」

「もう3歳だ」

「はぁ。いえこの前の誕生日はありがとうございました。あんな高いもの貰っちゃちょっと気遅れしますけど…」

グランドピアノて。わざわざ家の広さを確認して置いても邪魔にならない大きさを発注してるあたり用意周到さを感じる。

家もそこそこいい家とは言ってもさすがにあれにはびっくりした…。

「いい。必要だと感じたから送っただけだ。彼の才能を伸ばす手伝いになるだろう」

「才能ですか?あれば嬉しいですけどね。まぁ自由にやりたい事やってくれれば良いじゃないですかね」

そもそも杏には才能があっても俺には何も無いからな。

それでプレッシャーになったらグレるでしょ。

「…君は何も気づかないのか?」

「…?何がでしょう」

「あの子の才能にだ。いいか?磨けば光る原石だ。いやそんな言葉も生ぬるい」

「あ、あの常務?」

この人子供が好きなのか、才能があるものが好きなのか、うちの子を見てちょくちょくおかしくなる。

この前は真顔で空にお姉様と呼ぶように、とか言ってた。

「磨けば光る、いやもう既に輝いている。君が双葉杏を見た時に足が竦んだと言ったように、私も同じ気持ちを味わった」

「いや、ちょっと待て、なんで知ってるんですか…!」

それを知ってるのはごく一部…!黒歴史が勝手に1人歩きしている!?

「男のアイドルは我が社ではあまり経験がない。これはいい機会と言えるだろう」

「誰ですか?どうせあのプロデューサーが喋ったんでしょ!?」

あんのタヌキオヤジめ…!

「聞け。今のうちから才能を伸ばすんだ。君ならプロデュース出来るはずだ」

はぁ。何度か暴走しているとはいえ、前しか見れない人だ。

誰しも前向きに歩ける訳じゃないってのに。

「嫌ですよ…」

「なぜだ?」

「そんな教育してたら生きづらいでしょ。俺はあの子を自由に育てます。将来なんて自分で決めれば良いんですよ。なんなら専業主夫になりたいなんて言っても応援しますよ」

むしろ褒めてやる。よく言ったってな。

俺にはできなかったが、だからこそ息子がやってくれたら面白いだろ。

「…」

「あの子が常務と会った時に笑ってくれなかったらどうします?いつも無愛想に抱いてくれる常務にさえ笑顔見せる子ですよ?そんな子が笑ってくれなかったら嫌でしょ?」

本当にこの人笑わないからな。なんでうちの子たちが喜んで抱かれているか謎なんだが。

「…今思えばあの子なら育てるまでもなく開花させるだろう。私は不合理な事をするところだったな。悪かった」

「いえ、悪くはないでしょ。あの子達も346の大勢に囲まれて嬉しそうですよ」

まあうちのアイドルが時々遊びに来たりしてるけど、皆女の子だし綺麗どころだし子供は大喜びだ。

空はもうアイドルごっこと言って本業のアイドルたちと遊んでるし。

いやまあ、あれを遊びと言えれば、だが。

割とガチな指導を優しく言ってるだけなんだよなー…。

「ところで、空がこの前私にママのようになりたいと言ってきた。今からプロデュースの準備をしておけ」

「あんた何か変なこと教えてないだろうな?空はまだ6歳だぞ!?」

思わず敬語を忘れる。

子役とかもあるが嫌だぞ俺は。

まだ大人の世界に入れたくないし。

「上司に向かってその口の聞き方はなんだ。あの子達の親でなければ首にしているところだぞ?ふ、2人に感謝しなさい」

「…自分の子供持てば良いじゃないですか」

ぼそっと言ってやる。でもなぁこの人自分の子供を世話してるとこ想像できないんだよな…。

今の距離感がちょうど良いんだろうな。多分。

「私の目に止まる男が居なかったのでな。それに必要性も感じない」

聞こえてしまったらしく、顔はいつもの真顔だが怒っているのはわかった。

少しは見分けられるようになったな。

嬉しい成長なのかなんなのか。

とりあえず俺はやるべき事をしないとな。

 

「すみませんでした!」

 

 

 

「あー…疲れた…」

「どしたのー?今日は一段と疲れてるね」

「常務がな…拗らせてんだろあの人…」

「八幡」

「ん?」

「ぎゅー」

「おっと」

「よしよし」

「はぁ…落ち着くな」

「じゃあ交代ね」

「おう、ぎゅー」

「はふぅ…」

「よしよし」

「えへー」

「ありがと、杏」

「んーんーいーよー。杏もしたかったし」

「よし、空達にあってくる」

「うん、さっき寝たばっかりだから気をつけてね」

「ん」

 

 

「はー、それで常務のことなんだけど」

 

「無茶ぶりでもされたの?」

 

「んや、空をプロデュースしようとしてた」

 

「あーまぁ空もアイドルの姿よく見てるから、アイドルになりたいとは言ってたけどね」

 

「本人がやりたいなら良いけど、まだ早いよなぁ…」

 

「もうちょっと先が良いかな。杏もまだ家族の時間欲しいし」

 

「…そうだよな。時間欲しいよな」

 

「休み取れそう?」

 

「子供が寂しがってるから休みくださいっていえばよっぽど外せない限り取れるから大丈夫でしょ。そのための調整はしてるからな」

 

「良かった。ねーはちまん?」

 

「どした?」

 

「これからもやしなってね?」

 

「…俺の負けだもんな。しょうがない」

 

 

 

 

 






のぶはすさん、西園弖虎さん、sooginさん
誤字報告ありがとうございます!
普段より時間がなくてより酷い…
気をつけます。

あと少し頑張りましょう。
質を落とさないように…。

こんなものを読んでくれている皆様、本当にありがとうございます!
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