誤字報告なんて面倒でしょうに。とてもありがたいことです。
例えばそれは童話。
その世界では主人公とヒロインだけは、確実に幸せなハッピーエンドを迎える。
その影には多数の悲しみや犠牲があったりするのだが、それは触れられぬままに。
ではなぜ触れられないのか。見えないからだ。
表からは見えない。なら触れることはできない。
その触れられない影には悲しみだけじゃなく、色々なものがあるだろう。
ともかく、見える場所が幸せなら、見ている人は幸せになれるのだ。
プロデューサーは世間に見えることは無い。
だからアイドルのために自分を殺して良いのか。違う。
なぜならアイドルにはプロデューサーが見えているからだ。見えるものが悲しいものならば、悲しくなってしまう。
自分を殺して、ただ仕事として接してくるプロデューサーを、アイドルは認めない。
共に生きるからこそ、アイドルは一度きりのステージを輝くことが出来る。
一緒に生きてくれる人は、ただそれだけでも力になるから。
だから俺は生きようと思う。アイドルと一緒に。
「い、今から、恥ずかしい話をしゅる…」
なんでこんなこと宣言してるのん。噛んじゃったし。
ほらみて、三人とも、は?みたいな顔してるよ。あまりの突然さに皆絶句じゃん。
今は凸レーションのデビューイベント前。正確に言えば、38分前。
そんなタイミングで意味のわからない宣言。そりゃ絶句する。
やばい、恥ずかしい話する前にもう恥ずかしい。
あー、槍とか降ってこないかなー。恥ずか死ぬ。
「ん、んん!あー、その…」
「はっちゃん…最近働きすぎて疲れちゃった?アタシがかんびょうしてあげよっか?」
「えー!だいじょうぶ?私もかんびょうするよ?」
良い子達だなー。その優しさが身に染みる。
「二人とも、ハチ君の話を聞いてあげよ?きらりは最後まで聞くよ?」
きらりは俺を見る。とても優しい顔で。
嬉しいけど恥ずかしい。今すぐ布団に潜って叫びたい。
でもきらりのそんなお姉さんオーラを前に二人も聞く体制になった。
話さなくちゃいけない。
俺が、プロデューサーであるために。
「…俺は、お前達のプロデューサーだ。だからお前達の隣を歩く」
俺は宣言するんだ。
「道の先を決めるのはお前達だ。それがどんなゴールであれ、アイドルとして目指す場所なら俺が連れていってやる」
アイドルのプロデューサーに、本当の意味でなるために。
「どんな道でも付いていく。連れていく。だから一緒に歩いてほしい。そして…」
俺の気持ちはもう決まった。
この思いは、本物だ。
「そして、見せて欲しい。お前達が最高の笑顔で、最高のステージで、最高のアイドルとして輝く姿を」
いっている間三人の顔を見ていた。
それは話し終わったあとも変わることなく、三人は驚いたような、びっくりしたような顔をしたまま固まっていた。
あれ?引かれちゃった?
やばいやばい。ここで引かれちゃったらもう八幡、生きていけない。
そんな顔を見ているうちに、俺は怖くなって顔を伏せてしまった。
やっぱり全部勘違いだったか?結局昔のように、本物っていう理想を求めすぎて離れていくのか?
そんな思いは、俺の手を震えさせていた。
そして、そんな手を包む暖かさ。
「ハチ君」
きらりだった。両手で俺の震える手を握って、目を合わせる。
「ううん、違うね。…プロデューサー」
言われた瞬間背筋がぞくぞくとした。
今までずっと言われたことのなかった名前。
俺のもうひとつの名前。
「一緒に歩こ?きらりはねー、みんなときらきら衣装を着てー、きらきらしたステージにたてると、はぴはぴするにぃー☆」
きらりは飛びっきりの笑顔を見せてくれる。
最高の笑顔だ。見れば、ただそれだけで楽しくなる、嬉しくなる笑顔。
「一緒。みんなでこうやって手を繋いで、きらりは幸せー!」
「いいよ、プロデューサー!アタシきっとお姉ちゃんみたいに…ううん、お姉ちゃん以上のセクシーアイドルになるから!見せてあげる、アタシのちょうせくしーなステージ!」
こうやって笑ってくれる。セクシーとは程遠いが、莉嘉の笑顔はそれ以上の価値がある。
「私もだよ!妹がね、お姉ちゃんきれー!っていってくれるようにがんばるからね!だから、手伝ってね、プロデューサー!」
あぁ、手伝うぞ。でも、もうすでにお姉ちゃんオーラ全開だぞ、みりあ。
「あ、あぁ。でもあんまり頼りすぎるなよ?俺は基本働きたくないんだ」
そんな俺の強がりは、
「はっちゃん、泣いてる?だいじょうぶ?」
すぐにばれた。
「ば、ないてねえ。ちょっと目にゴミが…」
「しょうがないにぃー☆きらりがいいこいいこしてあげゆ!」
「あはは!はっちゃんダサーい!」
うるせえ。
仕方ないだろ。
初めて本物を見つけたんだから。
「久しぶりな気がしますね、比企谷君」
「すみません、色々と御迷惑をおかけしました」
やっと比企谷くんを捕まえた、というより自らやって来てくれました。
少し話がしたいですと言った彼を、とりあえず飲食店に誘い、顔を合わせる。
「いえ、迷惑なんて事は。ただもう少し『ほうれんそう』を、大切にして欲しかったです」
「いや、ほんとすいません…」
しかし久しぶりに会った比企谷君は一皮むけたようで。
相変わらず目は腐ってますが、その奥になにかを感じる。
「別に怒りたい訳ではないのですが、色々と話は聞きたいですね」
少し前は話を、したかった、のですが、それは顔を見る限り必要なさそうだ。
「えっと、まぁ気持ちの整理はつきました。それとするべきことも決まりました」
「するべきこと?それは凸レーションが成功した今、もう終わったのでは?」
比企谷君の目的は、自分の担当を完璧にプロデュースした上で他にも手を出し、それを上に認めさせ、双葉さんのプロデューサーに戻ること。
ならば後は結果待ちのはず。
「それだけじゃ認めてもらえないかもしれないじゃないすか。それに複数出来るってなっても、杏のプロデュースじゃなくて他のアイドルを任せられるかもしれませんし」
確かに、それはそうだろう。
比企谷くんがその可能性を考えないわけがなかった。
「だから確実に杏のプロデューサーに戻れるように、直接交渉します」
「…上がまともに取り合ってくれるとは思えませんが」
「これでも舌論は得意なんすよ。なんとかしてみせます」
…彼なら出来るのでしょうか。
いや、するのでしょうね。しかし、やっぱり比企谷君にとっての双葉さんは…。
それを見て見ぬふりするのか、それとも先輩として、社員としてそれを咎めるべきなのか。
じゃあ私個人としては?
どうすれば良いのかはわかりませんが、私は今そうしたいようにすることにします。
「…比企谷君の夢は専業主夫だと言ってましたね。それでもう一度聞きたいんです。貴方の夢はなんですか?」
「俺の夢は、」
答えてください。プロデューサーとしてアイドルを導いた貴方は何処にたどり着いたのか。
「俺の夢は、担当したアイドルが、最高の笑顔で、最高のステージで、最高に楽しく、輝き続けることですね」
きっと全てのプロデューサーはそこへたどり着く。
何故なら私たちは、彼女達の自然な笑顔も、楽しんでいる姿も、輝きにも、一番最初に触れるのだから。
ふとした拍子に聞いた話。
彼女達はとても楽しそうに話をしていた。
「それでね、はっちゃんがどんなゴールにもつれていってくれるって言ったんだー!」
「そうそう、アタシ達と一緒に歩くって!ちょーかっこよかったよ!」
そして周りのアイドルも騒ぐ。
八幡はたぶん、この話を広められたって知ると、頭を抱えるんだろうなぁ。
でもそんなことよりも。
私はちょっと落ち込んでいた。
だって、それだけは私の特別だと思ってたのに。
確かにかっこいいよ?うん、さすが八幡。
決めるとこは決めるんだよね。
でもさ、どんどん私の特別が無くなっちゃう。
今はきらりのお陰で、もう深く落ち込むことはないけどさぁー。
それでもくやしいもんはくやしい。
今度八幡に会ったら脛蹴ってやる。
私の特別、なんだろう。
飴くれること、車に私物があること?実家に行ったことあること?
こうやって並べるとなんかものたんない。
あーあ。
…八幡に会いたいな。
「双葉さん、いますか?」
扉を開けて入ってきたのは武内プロデューサーだった。
「杏ちゃん?そこのソファで寝てるよ」
誰かが答え、そして向かいのソファへ座ったプロデューサー。
「お話があります。大事な話です」
なんだろ。周りのアイドルも空気を読んで静かになる。
このままで聞くのも悪いなと思って私は体を起こす。
「どしたの、プロデューサー」
真剣な顔。やだなぁ、なんか前の事を思い出す。
八幡が離れていった日。
「担当プロデューサーが変わります」
「え?」
まさか、それって。
「引き継ぐのは、比企谷君です。良かったですね」
あはは。
ほらね、やっぱり。
ちゃんと帰ってきてくれた。
約束したもんね。信じてたよ。
ほんとだよ?
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「え?」
言われて気付く。私は泣いてた。
あちゃー。はずかしいなー。
すると回りに居た子達が一斉に飛びかかってきた。
もうもみくちゃだ。プロデューサーも困ってる。
でもどうしてだろ。
ものすごく嬉しい。
みんなありがとね。
「…こんな時間に連れ出してどしたの?」
私は八幡に車で夜景の見える場所まで連れ出されていた。
なんでも話したいことがあるらしい。
それにしてもすっごく久しぶりに会う気がする。
実際に久しぶりだしね。
「その、なんだ、実はな…」
ふっふっふ。
八幡はそわそわしながらどう話そうかと考えているみたいだけど、私にはお見通しだよ?
「杏のプロデュース、してくれるんでしょ?」
「なっ、お前しってたのか…」
「八幡がサプライズなんて10年早いよ。杏を出し抜こうったってそうはいかないから」
実際は武内プロデューサーのお陰だけど。
「それに八幡にこの夜景は似合わないよ。キザすぎー」
まるでイタリア人。八幡とは対極だね。
「まぁ、な。でもそれだけじゃないんだよ」
「ん?」
「俺はやっとプロデューサーになれたよ。あの三人のお陰で」
「うん、聞いたよ。でもさーそれって杏の時はなんだったのさー」
ちょっとした意地悪。杏を放っておいた罰だよ。
私がどれだけ悩んだと思ってんの?
八幡のせいであれだけ苦しんで悩んだんだから少し位は意地悪してもいいよね。
「…俺は杏に惚れてた」
…ん?え?
「ええー!なにいってんの!?」
「そんときは気づいてなかったけどな。多分一目で惚れたんだろ」
ひ、ひとめぼれ!?
そんなこと鼻で笑いそうな八幡が!?
「だから、杏をプロデュースできたのはただ、好きな子のために頑張っただけなんだろ」
八幡が恥ずかしい事言ってる…。
ていうか私も恥ずかしい…。
「な、なに、さっきからどしたの、八幡」
「プロデューサーはアイドルと一緒に歩く。それが俺の答え。最近やっとこたえられたんだが…」
言いながら八幡は頭をかく。
今の八幡の言葉に口を挟むのは違う気がして、私は黙った。
「それなら杏の時はなんで、成功できたのか考えたんだ。それで気づいた気がする。多分俺はただお前が好きで、好きな子のために一生懸命だっただけじゃないかって」
顔が赤くなる。
今までもそれっぽい話しはしたことあったが、それでもこんなに直接な表現を使うことはなかったのに。
「だからずっとプロデュースするとか、離れることはないとか言ったが、たぶんあれ違う」
え?どうして。
そこまで否定しなくて良いじゃん。それは私の特別なんだよ?
「違うんだよ。アイドルとプロデューサーじゃない、双葉杏と比企谷八幡。俺はアイドルじゃなくても良い、ただ双葉杏と一緒に歩きたい」
私は今どんな顔をしているのかな。
赤くなってる?困ってる?笑ってる?それとも全部?
「ずっと一緒にいたい。隣を歩いていたい」
私にとってのファンタジーが一瞬で現実になっていく。
恋心なんてわからないなんていっておきながら、なんて手のひら返しだ。
「やしなうから」
うん。やしなって。
「だから、一緒に歩いていこう」
「うん!」
私は我慢できずに八幡の胸へとダイブする。
これから、一瞬たりとも離れないぞって、気持ちを込めて。
おかえり、八幡。
やっぱり大好き。
「それからな、これやるよ」
そう言って差し出したのはうさぎのネックレス。
「ありがと。これ、うさぎだね」
「まぁ、その、指輪も考えたんだが、アイドルがするわけにもいかんしな。だからネックレスにしておいた」
相当に悩んだが。
そもそも人生においてこんなにすべてをかけたプレゼントは初めてなんだ。
なんなら普通のプレゼントさえあまりしたこと無い俺にとって超難関だった。
「まぁそだね。指輪なんてしてたらすぐばれちゃうし」
「それで、杏はうさぎのぬいぐるみをずっと持ってるだろ?だからそのうさぎは俺で、いつでも離れないっていう証明をだな…」
なにこれ。いってて恥ずかしい。
最近こんな思いしかしてないきがする。もはや黒歴史、ではないが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。
「えー、八幡がうさぎとか笑えるね。似てないし。そう言い張るんだったらせめて目を腐らせなよ」
こ、こいつ。
「もういい、返せ」
「やーだよ!これはもう杏のだかんねー!」
言いながら舌を出す杏。
そんな杏を最高にかわいいと思ってしまっている時点で俺はもう負けている。
結局のところ、俺が求めた本物はずっとそばに居た。
プロデューサーとしての本物。
比企谷八幡としての本物。
二つも手に入れてしまった俺は何て幸せものなんだろうと思う。
が、結局のところ人が変わるにはそれなりの日にちを要するようで、どんなに幸せだと思っていてもその気持ちだけを伝えるなんて俺には無理だ。恥ずかしいからな。
告白でそんな思いはお腹一杯だし、もう体験したくない。
こっちは噛まないようにするので精一杯だったのだ。これ以上は御免である。
「ねえ、八幡」
「あ?」
「着けて」
「…おう」
「……どう?似合ってる?」
「…似合ってなかったらそう言えたんだけどな」
「そんときは八幡の見る目がなかったんでしょ。ありがと、はちまん。大事にするよ」
「ああ」
俺も、大事にするよ。
終わりました。
とりあえず私は3日分の睡眠を取り返したいと思ってます。
機会があればまたあえるかもしれません。
では。