「「やしなって」」   作:風邪薬力

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5%アルコールさん、いつもすみません。次は出番の無いように誤字を無くしたいですね。


日常の果て
雪に頼まれたモノが日常を運べたら


 

 

「ただいま」

「おじゃまします」

「おっじゃましまーす☆」

三人で我が家の玄関を潜る。

きらりと杏と俺。

今日は滅多にとれない三人の休みを利用して、何処かへ行こうときらりが言い出したのだが、なぜだ。

なぜそれが我が家なんだ。

「わぁー!きらりちゃんだー!おおきい!可愛い!すごーい!」

あぁ、きらりは連れてくるの初めてだったしな。

よくよく考えてみれば割りと凄い光景だな。ここに並んでいる二人は世間を沸かす、トップアイドルだ。

そんな子が我が家にいると考えればそりゃテンション上がるよな。二人がいる風景が当たり前だと思うのは、俺の感覚が間違ってるんだろうし。

「はじめましてだにぃ、小町ちゃんだよね?」

「そうです!比企谷小町です!いつも兄がお世話になってます!」

小町ちゃん小町ちゃん、世話してるのはお兄ちゃんの方だよ?

なんでプロデューサーがアイドルに世話されてると思ったの?そんなに頼りなく見えるのかな?

「うんうん、でもね、お世話になってるのはきらり達の方だよ?いっつも助けてもらってるの。ハチ君がいるからきらりは、はぴはぴ出来るよ!」

きらりってば良い子…!

「へー、お兄ちゃんも役に立つんだね。それはそうと、お義姉ちゃん」

あれー?なんか字が違って見えるぞ?何この子、もしかしてもう気づいてるのん?

「へ?どしたの」

「家に入ってくるときは、ただいま、ですよね?」

因みに今、杏はきらりにだっこされている。きらりには全てを話しているらしいが、三人でいるときはきらりが杏を独占するようになった。

…別に寂しくなんて無い。

にしても家に入ってから今までと変わったような仕草もしてないのになぜ気づいた、小町よ。エスパーかな?

「あ、えと…ただい、ま」

「にょわー☆きゃわいいー!」

顔を真っ赤にして言った杏がよっぽど可愛いかったらしく、きらりは抱き締めたまま頬をすりすりしている。

ただいまを聞いた小町はなにやら納得している様子で頷いている。小町、何がしたいんだよ。

「もういいだろ。早く上がってくれ」

以上が玄関での出来事で、これから我が家での長い休日が始まるのだ。

あれ、俺休めてない気がする。精神的に。

 

 

「そもそもなんで実家なんだ…」

三人で遊びに行こうと聞いたときは、二人のためと思い多少の覚悟をして、人の多いショッピングやらなんやらを想像していたのに。

まさか実家に行こうと言い出すとは、全く想像できなかった。まぁでも、二人が行きたいと言った以上、拒否権は俺に無いですよね。知ってる。

「きらりはねー、杏ちゃんから聞いていたのです。ハチ君にとってもかわゆい妹がいて、仲良しだって。それならきらりも仲良くなりたいにぃ☆」

「小町もです!まさかきらりちゃんにも会えるとは思ってなかったです!」

ちょっとうちの妹のテンションがあれだな。まぁ気持ちはわからんでもないが、そのうち落ち着くだろう。それにしても小町ってこんなにアイドルに興味があったのか?今まではそんなことなかった気がするんだが。

「お兄ちゃんに感謝するんだぞ、小町。俺は使える権限は使い潰すんだ。小町のためなら越権行為もなんのそのだ」

「はぁ?何言ってんの、ごみいちゃん。そもそも今日家まで来てくれたのってきらりさんのお陰じゃん。どうせ、休みだからってごろごろしようと思ってたんでしょ?」

うぐ。ばれてる。

い、いや、小町のためならってところはホントだよ?

「まぁ、八幡だし、しょうがないよね。そういうの期待する方が無駄だもんね」

あれ、今日はなんだか冷たくないですかね。いつもはもう少しだけ優しい気がするんですが。

「それにしても小町ちゃんはかわゆいねぇ~。そだ!せっかくハチ君がプロデューサーなんだし、アイドルやってみゆ?」

「ばっか、小町にアイドルなんてさせられるか。小町がアイドルになったら小町教が出来るまであるぞ」

もちろん教祖は俺。

「それに大勢の男に晒すのはいただけん」

少し考えればわかるはずだろ。あの顔で、あの声で、見つめられ、お兄ちゃん?なんて首をかしげて言われれば、全国の大きいお友だちはズキュンされてしまう。

大量シスコン兵器だ。俺はシスコンじゃないが。

「そのシスコンっぷりは引くねー。腐った目だから余計に」

杏ちゃん、今日は本当に厳しいね。

「小町的にもポイント低いかなー。まぁでも小町はアイドルはしませんよ。お兄ちゃんとは兄妹のままでいたいですから。今の小町的にポイント高い!」

まあな。でもさっき減点されたからとんとんだな。

「うーん、残念だにぃ。一緒にきらきら出来たら楽しいと思ったのに」

「まぁまぁ。きらりが個人的に遊びに来ればいいんじゃない?八幡に頼めば連れてきてくれるし」

「暇があればな」

全くいつまで働けば良いんだ。許容したとはいえ、50、60になるまで働くとか気が遠くなってしまう。いやよそう、考えれば働きたくなくなる。

ほら、言った傍からこれだ。

「すまん、電話だ」

言って部屋から出てディスプレイの表示を見る。

そこには前に大手の番組に、無理言ってだして貰った番組プロデューサーの名前が表示されていた。

どうもこの人に気に入られたようだ。あれからちょくちょく誘われては飲みに行く。

俺も二十歳になったことだし、遠慮がなくなった。

「お疲れさまです」

『お疲れ。聞いたよ、今日君休みなんだって?』

なんで知ってるんだよ。連絡網とか回ってるのか?いつかは望んだことだが、実際回ると相当面倒だな。やっぱボッチ最強。

「知ってるなんて驚きです」

『いやなに、たまたま局で城ヶ崎ちゃんと赤城ちゃんに会ってね。そこで当然僕のお気に入りで彼女達のお気に入りの話になったわけだよ』

当然って。あれ、この人ガチなの?俺の事気に入ったとか言ってたけどソッチの人?

「はぁ、そうですか」

『最近冷たくないかい?まぁいいや。それでね、これから飲みに行かないかい?もちろん僕持ちで良いよ』

そんなことを聞いておいて断れるわけがない。これは罠だな。

きっと今度の企画で俺のアイドルの誰かを使いたいんだろう。まぁ悪い話じゃないはずだろうし、一応それなりにはこの人を信用しているから問題はない。

「いいですよ、ただ運転しなきゃいけないんでアルコールは無しで」

『いいよいいよ。じゃいつものところで待ってるから』

はぁ。折角の休みなんだが仕方ないな。

部屋のドアを開けると、なぜかきらりが小町を抱っこしていた。

「…何してんだ」

「小町ちゃんもかわゆいから抱っこしたいなぁって。いいでしょ~」

ああまぁ気持ちは分かるぞ。俺には最近ベタベタしてくれないからな。羨ましい。

「…悪い、二人とも。ちょっと呼び出されて出なきゃいけなくなった。夜には帰れるからここで待っててくれ」

「ん。仕事?」

少し寂しそうにする。ちくしょう、可愛いな。

「あぁ、あのいつものプロデューサーだ」

「あぁ、あの。てことはまた昼間っから飲むんだね」

「飲んだら運転出来んだろ。アルコールは無しだ」

言いながらジャケットを羽織り、車のキーを取り出す。

「じゃ、行ってくる。小町、後頼むな」

「あいあいさー。いってらっしゃい」

「いってらー」

「ハチ君またねー」

玄関から出る。そこでため息が出た。

あぁ、それなりに楽しみにしていたんだけどな、三人の休み。

 

 

「やぁやぁ、比企谷君、遅かったじゃないか」

「すみません、って遅くなるって言ったじゃないですか」

「そうだっけ?まぁいいや、座りなよ」

「うす」

小さな料亭。ここの出す飯は旨く、酒は地方の良い酒を仕入れている。

もちろん値段は相応に高い。ちくしょう、成功者め。

「それにしても君は本当に面白いよね。正直ここまで上がってくるとは思わなかったよ」

そんなの俺だって思ってなかった。というより、その時その時を考えるのに必死で、上なんて目に入らなかったと言った方が正しいのか。

「いつもその話しますね。もう飲んでます?」

「だから言ったじゃないか、遅かったねって。それともう一人呼んだんだけどなー」

もう一人?だれだ?

「まぁ来るまで君の話を聞きたいな。どうだい、上手くいってるかい?」

 

色々な話をした。

この人とはプロデューサーになりたての頃からの知り合いだから、砕けて話をする。

もちろん仕事中はちゃんとしてるが。

「しかし、君にはやっぱり才能あるよ。新しく作ったユニットも好評じゃないか」

凸レーションもAランクまでとはいかなかったが、中高生を筆頭に確実にファンを増やしている。そう遠くないうちにAランクに上がるだろう。

「お陰さまで。杏の時みたいに協力してくれれば、もっと上にいけると思うんですけど」

「その話か。したいんだけどね~もう一人が来てからかな~」

てことはもう一人は業界関係者か。

その時、個室に仲居さんが入ってきてお連れ様が来ましたと伝える。ここだけ見るとなんか悪事を企む野郎のワンシーンだな。

「失礼します」

「え」

「待ってたよ。じゃあ仕事の話をしようか。まぁこの面子だし、気軽にね」

個室に入ってきたのは目付きが鋭く、大柄で、人でも殺してそうな顔のプロデューサーだった。というか武内さんだった。

 

そんなこんながありつつも、仕事をするときは三人とも真面目である。

いや武内さんはいつも真面目だけども。

結局この人が提案したのは346プロ特集の歌番組だった。それには346のアイドルだけが出演するというなんとも冒険のような計画。

そんな番組の演出をどうするか、アイドルを知り尽くしているプロデューサーに意見を聞きたかったようで。

「いやぁ、ようやく決まったよ。ありがとう二人とも。流石は有名なプロデューサーたちだね」

「いえ、ありがとうございます」

「ども」

有名ね。武内さんは文字通り敏腕プロデューサー。

そして俺は腐った目のプロデューサーとかだろ。

しってる。はちまんきずつかない。

「それにしてもさ、ずっと気になってたんだよね。本当は会った時すぐにでも聞きたかったんだけど、仕事終わってからの方がいいかなーってね」

「?はぁ」

「なにもったいぶってるんですか?」

「いやいやそれこそ驚天動地って感じだね。今年一番まさかと思ったよ。正直仕事中上の空だった」

いやそれは駄目だろう。こっちが真剣にやってるのに何してんだこの人。

 

「比企谷君、その指、その左手薬指にはまっている、輪っかはなんだい?」

……あ。やらかした。

「…気づいてなかったのですね」

武内さん、気づいたなら教えてください。

「あ、いや、これはでしゅね、しょの、妹に…」

「妹に貰った指輪を左手薬指に?いやぁ、仲が良いとはいってもその指には、はめないんじゃないかな?」

やばい。最近これがあるのが当たり前すぎて、忘れてた。そうだ、今指輪がはまっている。

「とうとう君にも春が来たんだろ?いやぁめでたいよ。それなのに話してくれないし、隠そうとするし。…そんなにいけない恋なのかな?」

「そんなわけないじゃないでしゅか!」

噛み噛みじゃん。もうこれ人生で一番噛んでるよ。

「なら話してくれてもいいんじゃないでしゅか?」

ぐっ!意地が悪い!この人絶対に許さない。絶対に許さないノートに二回も名前を刻んだのはこの人が初めてだ。

「こ、これは彼女に貰ったんすよ。俺も最近一般の人と付き合うことになって…」

「なんてね。気づいていないとでも?僕はそこそこ君を、君たちを見てるんだよ。太陽と、それを見上げる君をね」

…やばい。

「双葉杏、彼女だろう?君にそれを送ったのは」

ばれてる。

「はぁ…」

武内さん溜め息やめて!

「安心しなよ、僕は君を貶めたりしないよ」

「はぁ、まあ…」

「僕相手に誤魔化せると思ってたのかい?僕は気づいてるよ。最近彼女の首にネックレスがつけられていることも、それが贈り物であることも」

全部ばれてるじゃん。まじか。いやでもこの人なら…。

「リークしたりしませんよね…?」

そう聞くと笑いを堪えながら、

「するわけないじゃん。むしろ応援するよ。厳しいだろうけど、不可能な恋じゃない。君のデビューだってそうだったろう?厳しい条件の仕事、それを君は獲った。それと一緒じゃないかな」

いつも思う。不可能じゃないのだろうか。確かにアイドルが結婚するというのは聞いたことがあるが、それでも相手が俺で、トップアイドルの結婚は許されるのだろうか。

「私としてはあまり外部に漏れることは避けたかったのですが…仕方ありませんね。この情報をリークした場合、こちらにも考えがありますよ?」

「怖いね。でもそれを守りきった場合、結婚式には呼んでくれよ?」

勝手に話が進んでいる。そもそも俺が指輪を外し忘れたからいけないのか…。

いつからだ?あ、実家でもそうだったのか?だから小町は気づいていたのか。

「よろしくお願いします…本当に」

「うんうん。それで、彼女に指輪を貰ったのは何故かな?こういうリスクもあるだろう?」

いやまぁ…。

「…女避け、だそうです。目が腐ってるくせに意外にモテるから心配だって…」

それを聞いて今度こそ大笑いをした。

 

「いやまぁ確かに、ぱっと見君と彼女が付き合っていると気づくのは無理だろうね。君たちを知っている人間ならともかく。彼女は指輪をしていないしね」

「しかし、うちのアイドル達は皆気づいています。それの対応で最近困っていまして…」

知ってる。最近、渋谷がそれとなくアピールしているんだそうな。

あの二人いいね。アイドルとプロデューサーだって。凄いよね。そんな二人でも付き合えるんだね。

ご迷惑をお掛けしてすみません、武内さん。今度なんか奢ります。

あと有名な遊園地のペアチケットとかいりますかね?

「ほんとすみません…。でもアイドルに関して言えば杏がネックレスをつけた時点で気づかれましたよ…」

なんで気づかれた。そしてなぜそのペンダントが贈り物だと気づいた。

杏が自分で買ってたかもしれないのに。本当に恐ろしい。

そしてあの二人の言葉がなにげに刺さる。

え?はっちゃん杏ちゃんと付き合ってるの?それなら杏ちゃんと並んでても恥ずかしくない格好しようね☆はい、これ見て!

とかいって雑誌渡してきたり、

え!?そうなんだー!じゃあはっちゃんも指輪プレゼントしないといけないね!…え?プレゼントしないの?どうして?かわいそうだよー!

なんて言われたり。

「まぁ女の子は敏感だからね。そういうことにはすぐに気づくもんだよ。…ん、もうこんな時間か。そろそろ解散しようか」

もう16時か。四時間も話していたことになる。まぁ仕事の話もあったし、そんなものか。

「それでは私はこれで。代金は置いておきますね」

「いいよいいよ。こっちは経費で落ちるから」

「そうですか。ではお言葉に甘えて。ありがとうございます」

「いえいえ。それと比企谷君」

「はい?」

「彼女、幸せにしなよ。勿論君も幸せにね」

「…はい。ありがとうございます」






短編集っぽくないですかね。長くなったので一度切ります。
あと一話、それである程度スノウ.ymさんのリクエストに答えられるかと。
こんなの違うと思っても許してください。

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