インフィニット・ストラトス ワールド・オブ・イフ 作:ラ・ピュセル
無人機の襲撃後、楯無とヴィクターは千冬に呼ばれ状況報告をおこなっていた。
「機体そのものは亡国企業のゴーレムでしたが、顔にあたる部分がピエロのような妙な意匠がありました」
楯無に続いてヴィクターも口を開く。
「恐らくあいつが絡んでいます。あいつもこの世界に来て、その亡国企業とやらと手を組んでいる可能性が高い」
話を聞いていた摩耶が思い出したように言う。
「あいつって、前にヴィクターさんが言っていた…」
「ええ、自分が世界を放浪する原因となった男、ガルフ・ゲイシー。あらゆる技術を収集し兵器に転用しようとする男です」
「そいつの目的は亡国企業の無人機ISの技術か?」
千冬の問いをヴィクターは否定する。
「それもあるでしょうが、第一目標は黄金獅子の強奪かと。次元跳躍は再現できたものの、世界観測機能はデータ不足で大元のシステムを奪う方が早いと踏んだというところでしょう」
そこまで言うとヴィクターは頭を下げる。
「申し訳ない、私の問題なのに貴女方を巻き込んでしまった」
「気にするな。そいつの特徴を聞く限り、お前が別の場所に身を隠していたとしても亡国企業の技術に目を付けていただろう。亡国企業が絡むとなれば我々の問題でもある。むしろ情報が手元にあると考えるべきだ」
それを聞いてヴィクターは少し笑った。
「失礼、貴女は本当に前向きですね。あの人とそっくりだ」
「マイナスに考えていては、物事は進まないからな」
「そういうところも、そっくりですよ。ではまず、あいつが入手している技術についてですが…」
繁華街のあるレストランのVIPルーム、そこには4人の人影があった。内3人は亡国企業のスコール・ミューゼル、織斑マドカ、オータムであり、残り1人はその3人の向かいの席に座っている。ボルドーカラーのスーツに白黒のチェック模様の帽子、目と口にあたる部分が三日月型にくりぬかれた道化師を模した仮面という奇抜な見た目の男、彼はワイングラスを揺らしながらスコールに言う。
「今回は試しで送ってみたが、あまりいい結果ではなかったか」
「あら、私どものゴーレムでは貴方の技術とは相性が悪いということかしら?ガルフ氏」
男、ガルフはその問いを否定する。
「いや、改善の余地ありな部分はあったが機体に関しては良好だった。問題はあの男、ヴィクターだ。あいつの持つ黄金獅子の適応能力の高さと、ヴィクター自身のセンスが相まって高い戦闘能力を誇っている。それをどう崩すかが肝ということだ」
そう話しながら、ガルフは映像を投射する。それは一夏達を襲撃した、無人機の一体が記録した戦闘の様子だった。始めは防戦一方だったのが、黄金獅子が形態を変化させてからは瞬く間に無人機が撃墜されていく。
「確かに厄介だけど、その分ますます欲しくなるわね。いいわ、必要なものがあったら何でも言って下さいね」
スコールの発言にオータムが反論する。
「マジで言ってんのか、スコール!こんな得体のしれない野郎なんかに投資する価値があるってのか!?」
「落ち着きなさい、オータム。彼に投資する分、こちらにも技術提供してもらう契約なの。対等な関係というのを忘れないで」
その様子を見ていたガルフは笑いながら話す。
「ご心配なく、お嬢さん。私は商人だ。利益を優先することはあるが、商人というのは契約を第一に考える為、裏切り等は一切しないと宣言しよう」
「ケッ」
ガルフの返しにも心底つまらなそうにするオータム。マドカもまた、ガルフに関しては快く思っていない。
「あのヴィクターとかいう男については勝手にすればいい。だが織斑一夏は私の獲物だ。手を出すな」
「そのつもりだが、降りかかる火の粉は払わなければねぇ」
マドカの発言にそう返すガルフ。その一言でマドカは一瞬で殺意を剥き出しにし、ナイフで斬りつける。ある程度の練度の兵士でも簡単に喉を引き裂くような一撃は、しかしガルフには届かなかった。ガルフの背から伸びた機械腕が、マドカの腕を掴んで止めていたのだ。
「おぉ、怖い。さながら狂犬だ。躾はしっかりしておいてほしいものだね、ミス・スコール」
「失礼、あの坊やの事になると手がつけられないの。できるだけヴィクターのことだけ狙うようにして下さる?」
「まぁ、善処はしよう」
仮面の隙間から見える口元は、そんなつもりはないというように笑っていた。