IS〈インフィニット・ストラトス〉~白天黒鎧~ 作:孤独の空
「優っくん~」
昼休み、のほほんとした雰囲気を放って、布仏本音は咲真の席に駆け寄った。
「お昼一緒に食べよ~」
「あぁ、構わない。丁度たくさん作り過ぎたから、みんなで食べよう」
そう言って彼が袋から取り出したのは、タッパーに詰まった酢豚、唐揚げ、ポトフを取り出した。
食欲をそそる香りに誘われて、続々と彼の周りに人が集まる。
「おぉ! 美味しそうだな!」
「ほへぇ~。これ、優っくんが作ったの?」
「あぁ、本音がきちんと食べろっていうから、覚えることにしたよ」
「えへへ、それほどでも」
褒めてはいないのだが、何故か彼女は照れ始める。
「おい、咲真。これは何の騒ぎだ」
教室の一か所にたくさんの生徒が集合しているからか、先生の目も集めた。
「そういうことは屋上でやれ。おい一夏、例の五人も連れて行ってやれ」
わざわざ彼が声をかけずとも、目にすれば場所問わずに寄ってくるだろうと咲真は思う。
実際にその通りであって、二組に属する鈴や、四組に属する簪などは、一夏が呼ばずとも自分から一組にやってきては彼に寄り沿う。
クラスのボスから追い出され、いつもの集団は屋上へと逃げた。
「まさか、毒など盛っていないだろうな」
「大丈夫だ。俺がもう食ったから」
毒味は、一夏がやっている。
「なんでそこまで信用されてないんだ、俺って」
「大丈夫だよ~。わたしは好きだよ~」
そういって、腕に絡みついてくる本音を、少しだけ、鬱陶しそうにする。
「暑苦し。離れて」
「嫌だ~」
「あぁ、もう……」
一向に離れてくれないので、咲真はそのままにした。簪の視線が痛かったが、無視した。
「うむ、これは美味だな」
「えぇ、わたくしのよりも美味しいですわ」
それはセシリアの余計なお節介が悪いと、みんなは本音を堪えて飲み込んだ。
「ほら、本音ちゃん。渡すんでしょ」
「え~。でもぉ~」
簪は周りに聞こえないように小声で彼女に話しかけるが、距離が距離なんで咲真には丸聞こえ。
「何か用なの?」
「うんとね、あのね」
もじもじしながら、目を泳がせながら、ぶらぶらと伸ばしている袖からお弁当箱を取り出した。
物理的にそれはあり得ないだろというツッコミはなし。
「お弁当作ってきたんだけど、食べない……よね?」
どうやら咲真がたくさん美味しい料理を持って来たため、遠慮してしまったらしい。
けれど、人の心があまり分からない彼にはどうでも良かった。
「くれるなら、食べるよ?」
「ほんと!?」
途端、不安の表情でいっぱいだった彼女の顔が晴れる。
「じゃあ、はい。これ」
「え??」
咲真は唐揚げを一個箸で摘んで、本音の前に差し出すが、彼女は首を横に倒す。
「あれ、こうするのが風習じゃなかったっけ」
「それ、どこの風習なの? 間違ってない?」
嫌われているであろう簪からは辛辣な意見が飛んでくるが、彼の真意を読み取った本音は、箸の先にある唐揚げを口にした。
「これは、想像以上に凄い……」
友達の反応に唆されて、珍しく簪も一口。
あまりの美味さに箸を落とした。
「な? 美味しいだろ、簪」
「うん、ちょっとだけ悔しい」
「普通に順序通り作れば簡単だよ?」
一夏のフォローで咲真への高感度が上がるも、本人がそれを地に落とすナイスプレイ。
簪はプイっとそっぽを向いてしまった。
「あれぇ?」
「ねぇねぇ優っくん。わたしのお弁当はどう?」
思い出したかのように、咲真も本音の手料理を食べる。
「うん、可もなく不可もなく」
咲真は良く言えば正直者、悪く言えば空気を読まない。
でも、それはそれで、彼が本心から言葉を発していることの証明。
「けど、悪くはない……かな?」
「え?」
「なんか、良いな。こういうの」
「う、うん。ありがとう」
ロマンチックなムードになって、簪が空気を読んで離れようとしたところで、
「なぁ、咲真はどう思う?」
賑やかな一夏組の邪魔が入る。
「んもう~。おりむーったら」
「どう思うって、何が?」
彼らはどの服が誰に似合うのか話題にしていたようで、参考までにファッション誌を見せて来た。
それを読んで咲真は顔をしかめる。
「すまない。何が悪くて何が良いのか分からない」
その答えに、全員が疑問の声を上げる。
「えっと、つまりどういう意味……?」
服というのは非常に機能性に溢れている。主に人が使う顔と手を除いて胴体を四方八方から包み込んで完全防備し、歩行の妨げにならぬように足を守るために靴を履く。
上から下まで、完璧な装いだ。それに比べてスカートなんていう、動きやすさを上げながら素足を晒す、一点特化の服装をみんなが「可愛い可愛い」と褒める姿勢が分からない。
「え、じゃああんた普段は何を着てるの」
鈴の率直な、真っ当な意見に咲真が答えて、またみんなが驚く。
「制服だ」
「いや、それは分かるけど。ほら、休日に遊びに行くときとかさ」
「だから、制服だ。七着あるから毎日洗ってるぞ」
休日なんていうのは彼にはない。学校がない日はない日で、ガレージに籠って一人でISの調整や極星閃晶のメンテナンスをしている。
「咲真。お前、生きてて楽しいのか」
「どうだろう。特に不便も不満もないからさ。良く分からない」
咲真のあまりにも予想外日常に、一同は唖然。返す言葉も見つからない。
「じゃあさ優っくん。今度の週末に遊びに行こうよ~。わたしが服を選んであげる」
「お、いいな。俺も行く――」
仲間に入ろうとした一夏を、簪が止めた。
「駄目だよ、一夏」
「そ、そうなのか……?」
「だから一夏はわたしと遊びに行くの」
「それは別にいいけど……」
「あー!? ちょっと簪さん!? 抜け駆けは禁止だよ!」
「くっ!」
彼らが彼らで盛り上がっている間、咲真と本音も陰でこっそりと盛り上がる。
「優っくんどこ行きたい?」
「ん~。特にないかな」
「もう、そんなこと言わないでよ」
「そう言われても、学園以外は行ったことないし」
「ここに来る前は?」
「一面見渡す限り海だったから」
「え~!? 海沿いの街なの!? 羨ましい~」
「そんなことはないよ。遊泳は禁止されてたからね」
「残念、そうなんだ」
でも泳げないことはなく、久々に泳ぎたいということもあって、行き先はプールに決定。
「この火傷が治ったらね」
「あ、うん。そうだね」
包帯はある程度外れたものの、未だに火傷は完治していない。
本当は傷跡すらないのだが、そういう風に公には公開しているので咲真は話を合わせなければならない。これはこれで逐一考えて話さなければいけないので、少しだけ面倒臭かった。
「じゃ、じゃあ。服を買いに行こう?」
「いや、別にいらな――」
「いいや。行くの」
いつの間にか接近してきた簪が、覇気を纏った顔で迫ってきて、咲真は圧される。
「あなたは本音ちゃんと一緒に行くの? OK?」
「あ、はい。了解です」
◇
「だから、何で俺も……」
次の週末、咲真と本音に内緒で、一夏といつもの仲良し五人は二人の待ち合わせ場所に先回りして待機していた。
「何言ってるのよ、あんたは咲真の監視役でしょ」
「それはそうだけどさ。祝日は俺の役目じゃないんだよ」
学園内では一夏はずっと咲真に付いていなくてはいけないが、それだけでは彼の負担が大きいと抗議した千冬の声によって、学園が通常営業していない日は政府の人間が監視をするようになっている。
危険人物であり重要人物である咲真には、誰の目にも映らない日はない。
「駄目よ! あんたの目でみないと意味がないの!」
「何で鈴がそこまで熱くなってるんだよ」
「おい、いたぞ」
ラウラが指さした先にいたのは、可愛い私服に身を包んだ布仏本音。
だが、彼女の前には待ち人ではない見知らぬ長身の男が二人立っていた。
「ねぇねぇ、今暇?」
「え、えっとぉ……」
「良かったら俺たちと遊びに行かない?」
「実は男の人を待っていて」
「ならさ、その人が来るまでで良いから」
その様子を肉眼で、会話をISの補助機能で六人は盗聴。
「ふむ。これはナンパというやつだな」
「えぇ、そのようですわね。でも……」
「これはあまり良くないやつだね」
本音の手を取り、半ば強引に連れて行こうとしたのを目撃して、箒は身を乗り出した。
「ねぇ、それはちょっと駄目なんじゃない」
しかし、良いタイミングで、彼女が手を取られてから直ぐに、咲真が男の腕を掴んで阻止する。
「あん? 誰だよお前」
「今日この子と遊ぶ予定の者です」
「なら諦めな。この子はこれから俺たちと遊ぶんだから」
男たちは無理やりにでも手を振りほどこうとするが、咲真はそれを許さない。
まるで空間に固定されたように、微動たりしない腕に、ついに男は声を荒げた。
「お前! いい加減に離せよ!」
「なら、お言葉に甘えて」
一番強く力が入ったときを見計らって、咲真は手を離した。
すると、男は反動で尻餅を付いてしまう。
「よし、なら行くか」
「え、う、うん……」
「待てよお前!」
本音とその場を離れようとした彼の腕を、今度は片方の男が掴む。
「何だよ。次は俺と遊んでくれるのか?」
「あんま嘗めてっと痛い目見るぞオラァ!」
振り上げた拳を、咲真は突き立てた指一本で止める。
すると、男の身体がグインと、一回転。
「あぁ、駄目だ。おい、どうすんだ。つい熱くなった」
尻餅をついた男の前に立ち、咲真は腰を降ろす。
彼の口調が、普段の上から目線の敬語から喧嘩腰になったのを見て、一夏は危機感を覚えた。咲真にではなく、男の方に。
「おい、あれは止めないとやばいぞ」
一夏はずっと一緒にいることもあって、良く彼からISの調整具合を確かめるために相手をさせられる。ISを纏って、戦闘態勢へとマインドチェンジした彼は、学園襲撃時のように非常に苛烈になる。
「なぁ、兄ちゃんたち。ちょっとだけ俺と遊べよ。大丈夫、時間はとらせない」
彼の手が男の額に触れようとした瞬間、
「ね、ねぇ。咲真くん」
本音が腕に巻き付き、止める。
「わたし、もう大丈夫だから。だから、もう行こ?」
彼女の少し怯えたような顔を見て、咲真は自分の髪をクシャクシャと混ぜ、目に手を当てた。
軽く深呼吸してから、絡めるように本音の手を握る。
「ごめん。ちょっと取り乱した」
「ひゃあ!?」
咲真はいきなり彼女をお姫様だったしたかと思うと、逃げるように走り出した。
「おい、逃げるぞ!」
全員で全力疾走で追いかけるが、意外にも足が早いことと、人々で賑わう週末の街中というのもあって直ぐに見失ってしまう。
「な、何よあいつ……。人一人抱えて走ってるっていうのに」
「おい、一夏。何か咲真たちが行きそうな場所はないか」
闇雲に探し回っても埒が明かないと判断した箒は、この中でもっとも彼の行動パターンを把握している一夏に助け舟を要求した。
「う~ん。そうだなぁ、あいつ特に趣味とか興味ないからなぁ……」
「んもう、じれったいわねぇ! この際なんでも良いわよ」
そういえばと、咲真は合流後は喫茶店でゆっくりすると言っていたと、彼は口にする。
「それよそれ!」
的が絞られれば早速、手分けして探すことに。
そして、セシリアが一番最初に見つけた。
「いましたわ!」
パラソルの下には、仲良く談笑する二人の姿が。
「ふむふむ。なるほど」
「ちょっとラウラ。僕にも聞かせて」
会話を盗聴する彼女に群がるように、他のメンバーが聞き耳を立てて集まる。
「いやぁ、あのときは済まない。ちょっと、身体を動かすと頭に血が昇るのが悪い癖で」
「ううん、大丈夫。ちょっと怖かったけど、助けてくれてありがとう」
「気にするな。友人だと思って一歩引いた僕も悪かった」
「そんな!? もっと早く声かけてよ~」
彼女たちの不安とは裏腹に、咲真と本音の仲は悪くなかった。
「あいつ、意外に普通の会話が出来るのね」
「ふむ。てっきりいきなり煽るのかと思ったぞ『あの程度の雑兵すら捌けんのか!』とか」
「いや、あいつ確かに上から目線だけど、そこまで傲慢じゃないぞ」
普段、授業中や昼休みにしか面識と会話がない女性陣にとっては、咲真に負けた記憶の方が多い。それに比べて一夏は学園の日常生活のほとんどを二人で過ごしているので、我の表現が強いだけでそこまで悪い人物ではないという印象がある。
「おい、席を立つぞ!」
喫茶店から出て行く二人を、まるでストーカーのように追う五人組の姿は、事情を知っている一夏の目から見ても不審極まりなかった。
その後二人はカラオケに行ってゲームセンターに行ってボウリングに行って、最後には買い物をして普通に休日を満喫した。
「なんだこれは。これではただのデートではないか」
「だから言ったじゃん」
日も落ちてきて、後は帰るだけ。全てが杞憂に終わるかと思った矢先、咲真が突如行動に移った。
「ひゃ!?」
「これは驚いた」
横に並んで歩いていた咲真が突然、本音を胸の中に抱き寄せ、すれ違った白いワンピースの女性に対して刃物を向けたのだ。
「殺意は一瞬しか披露してないんだけど、まさかそこまで機敏に反応するとは」
「残念だったな。一瞬は一瞬でも、この距離なら感知できないとでも」
急に臨戦態勢に入った咲真に、腕の中に抱かれている本音は怖くて震えるしかなかった。
「ところで、お前は誰だ。俺の記録にはお前の声帯は登録されていない」
「いや、何者でもないよ。今回はただ、君を見に来ただけさ」
彼女のパラソルから覗く不気味な笑み。
まるでそれがトリガーのように、背後のショーウィンドウが爆発した。
「見に来て、実力を窺いに来た」
爆破された店の奥から、二メートルを超える、蚊のような機械の巨人が二体、出現。
「おい、白天」
「へ!? へ!? 咲真くん?!」
危険を感じた咲真は早急に本音に白天を着せ、
「学園まで運べ」
安全圏まで避難させる。
「おや、いいのかな? 大事なISを手放しちゃって」
「問題ない。こっちには後六人専用機持ちがいる」
「何?」
彼の言葉通り、異変を目撃した一夏一同はISを装着して集合を果たす。
「おい、遅いぞ。最初の爆破で直ぐに駆けつけて来い」
「お前、最初からわたしたちのことに気が付いていたのか」
「当たり前だろ。あんな大人数で固まってんだ。目立たない方がおかしい」
彼女がパチンと指を鳴らすと、
「おっと。まさかそこまでお見通しとはね。ではご紹介しよう」
ISのマスクが開帳し、操縦士の顔が現れる。
その二名の顔は、咲真と因縁のある男。
「お前ら、何してる」
本音をナンパした男二人が、ISの中に居た。
「ち、違うんだ! 確かにこいつの口車に乗ったのは認めるけど、まさかこんなことになるとは思わなくて! お、お願いだ! 助けてくれ!」
「助けてくれ?」
ISに乗っているのだから、てっきり仕返しをしにきたと咲真は思っていたが、二人の口から出たのは焦燥と恐怖と動揺と救助の声。
「んもう、男なんだから。潔く諦めなさい。運が良ければそのISが君の専用機になるかも知れないんだし」
「嫌だ! 嫌だ! 死にたくない! 俺はもう降りるから!」
泣きじゃくる表情から、ただよらぬ気配を感じた咲真。
「おい、もう手放してやれよ。今のそいつじゃ確実に使い物にならないぞ」
「ううん、そんなことないよ。これは中に人がいなきゃ機動しないから、いて貰わなきゃ困る」
説得も、意味はなかった。
「なぁ、頼むよ。お願いだ。さっきのことは謝るから、助けて……」
「大丈夫だ。少し時間はかかるし最悪怪我はすることになるけど、必ず助ける」
「あぁ、信じてる」
マスクが閉じ、会話は終わる。
そして、
「さぁ、茶番は終わったね」
戦いの幕が開く。
「じゃあ、いっちゃって。スモーキーズ」
ラウラとシャルロットと鈴が、箒と一夏とセシリアがそれぞれISの相手を買って出、咲真の実力を知っているみんなは彼に女の身柄の確保を任せた。
「もしかして、わたしの相手をするの?」
「いやぁ、本当は気が進まないんだ。女性を殴るのとかさ、男のすることじゃないよね」
だから、咲真は靴で足元の砂を蹴り、彼女の視界を潰す。
「うわ、ちょっと!」
その隙に近づき、首の後ろへ手を回して足を引っ掛けて転ばせる。
「なんだ、口だけじゃないか」
「うるさい!」
「!?」
閃光が輝いてから間髪入れて、咲真は車道を超えて対向車線側の店にまで吹っ飛ぶ。
「いってぇ。それは卑怯じゃないのか」
彼女が展開したのは登録情報のないIS。腕力だけでは万力に勝てないように、脚力だけでは自動車に勝てないように、生身ではISに勝てない。腕部だけでこの威力なのだから、全身装着で武装なんて使われでもしたらスクラップになってしまう。
「不意打ちで目潰しを平然とするような人に言われたくないわ」
しかし、それは素手で相手取ったときの話。
「ったく、遅いぞ」
ISさえ手に入れれば、こっちのもの。
彼女の一撃を受け止めた右腕を始めとして胸部、脚部、バイザーが次々と到着し、装着。
最後に翼を広げ、白き天使は完成した。
「さぁ、ここからが本番だ」
「なっ! まずい!」
「おいこら。どこへ行く」
白天の機能を把握しているのか、彼女は距離を離そうとしたが、生身だと思って接近したのが彼女の間違い。打撃を受け止めた時点で、既に白天の干渉領域に侵入している。
「さぁ、一切合財吐いて貰うぞ」
「くそ! スモーキーズ!」
白天の強力なPICに捕縛されて身動きの取れない彼女は、使役しているISに助けを求める。
無駄な抵抗と叫びだと、咲真は意にも介さなかったが、ほどなくして二機が六人を引き連れて戻って来た。
「おい、お前ら。何してた」
「うっさいわねぇ! こいつらあちこち飛び回ってうざったいのよ!」
咲真の腕は二本。手の甲にコアとして極星閃晶が埋め込まれているが、ISの身動きを止めるには最低でも腕一本を使う。胸部の極星閃晶は時機の制御に割り当てているため、外へ放出することも出来ない。
二機が咲真を襲ってきたため、仕方なく彼女の手を緩めてスモーキーズを吹っ飛ばす。
「まさか、ここで使うことになるとは思わなかったけど!」
変態。のキーワードを合図に、彼女が配下に置いているISがパキパキポキポキと、木の枝を折ったような生々しい音を立てながら、人体の骨格を無視した変形を繰り返し、二機が一機となる。
「あ、あの。これって……」
「……諦めろ。諦めて、目の前の敵に集中しろ」
手と足を含めた細い腕が八本と、羽が十本。それが人の真似をするかのように直立をしているのだから、不動でも不気味だった。
「いけ、スモーカー」
瞬きの一瞬で、スモーカーは間合いを詰め、驚く間に、PICの干渉を貫通するほどの拳を咲真に叩きつけた。
その威力と衝撃は、建物にぽっかりと風穴を開けるほど。
「咲真!」
彼女たちも構えを取るが、咲真の安否を確認した意識の一瞬が命取りとなり、何が起こったのか分からずに組み伏せられてしまう。
「あは! 最高ね! 最高傑作ね! さぁ、止めを刺しましょう!」
「おい、」
スモーカーが振り上げた腕を、復帰した咲真が掴み、
「お返しだ」
極星閃晶のエネルギーを混入させた打撃を顔面に叩き込む。
二、三度バウンドして、車を巻き込んで、建物を突き抜けて、ついには米粒のように小さくなるほど遠くまで飛んだ。
「くそ。なんて硬さだ。おい、動ける奴は全員立て」
「そんなの、分かってる」
セシリアが一発、警告もなく撃った。何故なら、遠距離特化型の彼女の目にはこちらへ猛スピードで迫るスモーカーが映ったから。
「そんな、当たらない」
「構わない。続けろ」
彼女の銃撃を目晦ましに、盾にして、咲真は再度拳をぶつけた。
が、やはり機体の硬さには勝てず、地面へと叩き落とされる。
「咲真! そいつの動きを止めておいてくれ!」
「了解!」
咲真はマウントポジションを取られながらも、箒の援護を期待して時機の制御を放棄。両手のコアと合わせて胸部の極星閃晶を、三つの動力源をフル動員させてスモーカーを取り押さえた。
「食らえ!」
穿千。両肩の展開装甲クロスボウ状に変化させて発射する、紅椿が誇る二門の高出力可変型ブラスターライフル。それぞれがスモーカーの右側の腕と左側の羽を根こそぎ奪い取った。
「いけ! 一夏!」
追撃はまだ終わらない。零落百夜を発動させた雪片弐型で、今度は上半身と下半身に切り分ける。
「逃がすか!」
下半身は咲真が捕まえているが、切り離されたことで彼の領域から放たれた上半身が逃亡を図った。だが、それをラウラが許さず、ワイヤーでがっちりと締めあげる。
「これで、終わりです!」
「お終いだよ!」
そして最後に、セシリアとシャルロットの弾装が尽きるほどの銃撃を浴びせ、ハチの巣にした。
「ふぅ、終わった」
「いや、まだだ」
そう、まだ終わっていない。
「ハッ!? あいつは!?」
「ほっとけ。もう逃げた」
騒動に乗じて、ワンピースの女は既にこの場から離脱している。
咲真の言っていることは、コアの破損具合の確認と、中身の状態。
「お前らは見ない方が良いぞ」
彼の言葉通り、ISの中は肉と骨と血をぐちゃぐちゃにした赤い液体で満たされており、異臭が鼻を突く。
「俺、頭に血が昇って……」
スモーカーを真っ二つにした一夏は、人を殺してしまったという罪の意識に罪悪感を感じて、つい吐いてしまう。
「気にすんな。その前からもう死んでる。悪いのはお前じゃない。それに、お前の一刀がなかったら負けていた」
嗅覚を切った咲真は、ドロドロになった液体に手を突っ込み、表面が削れた破損気味のコアを取り出す。
「よし、まだ使えるな。誰か、この下半身を運びたい奴はいるか」
彼の問いに、みんなが首を横に振った。