『夏とともに逝け。』(中編)   作:LOORUME

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ハッピーエンド中毒者(ロールメ)による、最後の1ページ。



後日談「NO Grade」「新しい朝」

後日談「NO Grade」

 

 

 

 霊夢が亡くなった次の日の昼。

 私を含む霊夢の友人は、お通夜の準備をしている。翌日には、葬儀も執り行われる。

 

 会場は博麗神社。神社で葬式というはなんとも不穏な話だが、彼女は巫女である。彼女の生きた場所で改めてお別れをしたいし、神社は皆の思い出の場所でもあるのだ。

 

 ところが手伝いに来たはずの私は、いつの間にか縁側に座ってずっと休憩していた。実は藍が、準備は全て私がやる、と言い出して、無理矢理休まされたのだ。

 作業に夢中になってた方が楽だから、とも言っていた。逃避したって、事実は変わらないのにな。

 

「魔理沙さん……」

 

 振り向くと、そこには早苗が居た。悲しげな表情で佇んでいる。

 

「お前も、追いやられたか」

「まあ、はい」

「とりあえず、座れよ」

 

 早苗に隣を勧めると、何も言わず、静かに腰を落ち着けた。

 

 じっと早苗の顔を見てみると、目尻が赤くなっていた。

 神とは言え、彼女も人の子だ。人の生死で一喜一憂する。

 

「悲しいか?」

「そうですね」

「でもまあ、昨日よりはマシだな」

 

 混乱から情緒不安定になり、すぐに泣いてしまう。一日経てば、少しは落ち着くようだ。成長と言うべきか。

 

「そりゃあ、霊夢さんの言ったとおりにしないと」

「ああ、そんなことも言ってたな」

 

 たしか、別れの度に泣いていては神が務まらない、だったか。

 神奈子や諏訪子、雛、秋姉妹。彼女達の泣いている所は見たことがないし、信者がそんな所を見たら信仰が薄れてしまう。確かに、霊夢の言う通りなのかもしれない。

 

「それに……」

「ん?」

「一番の親友である魔理沙さんより悲しむ権利は、私には無いですから」

 

 む、つまり私が一番悲しんでいる? そんな、まさか。

 

「おいおい、そりゃ違うだろ。泣き上戸のお前が一番悲しんでるぜ」

 

 そう言う私の声は、誰よりも掠れていた。一睡もせずに叫び続けた結果だ。

 そう言う私の目は、誰よりも赤かった。一晩無寐、泣き続けた証拠だ。

 

「…強がらなくていいんですよ」

「私が強くなくてどうする」

 

 最強の巫女に認められた女だ。そう思わないと、やってられない。

 あとそろそろ次代の博麗の巫女ちゃんが選ばれる筈だ。その子にも色々教えてあげなくちゃならないから強くなきゃ。

 

 そんな感じで早苗と話していると、境内に誰かが降り立つ気配がした。二人組だ。

 

 早苗と一緒に表へまわると、紫が来ていた。さらにその横で手を繋いでいる、紅白の巫女服を着せられた少女。

 ぶすっとした表情だが、目鼻口が整っているのが分かる。回りに漂う雰囲気は、幼い頃の霊夢にそっくりだ。

 

「誰だ、それ。霊夢の生まれ変わりか?」

 

 半分ふざけて紫に聞いてみた。すると満更でもないように、さあね、と笑って首を傾げた。

 

 全く。この場にもし霊夢が居たら、紫に薄情者とかって言いそうなもんだが。

 紫も長い年月を生きてきた。それこそ私とは比べられないほど。その歳月の中で、紫は切り換わる事を覚えたのだ。

 大事な人が亡くなった。ならば、その人の事をずっと忘れず、時々思い出してみたり。その人のやりたかったことを代わりにしてみたりして。

 大事にする、というのはきっとそういうことなのだ。いつまでも惜しまれていては気軽に成仏することもできないだろう。

 

 対して私はどうだ。いつまでも、というわけでは無いがずるずる引きずるなんて。

 

 ……いや、流石に一日は早過ぎやしないか、紫。薄情者だぞ。

 

 まあいいや。とりあえずこの子に話しかけてみるか。言うまでもなく、次代の博麗の巫女だろう。

 

「お嬢ちゃん、お名前は?」

「………」

「ちょっと魔理沙、会話しないでくださる? あなたの男口調がうつったら困るわ」

「そう簡単にはうつらんぜ」

「次の巫女なんだから…。ああそれと、この子にはまだ名前は無いわ」

 

 ぴくり、と反応する。

 

「私が命名してやるぜ」

「けっこう」

「そう遠慮するな、えーと。紅葉、紅梅、菊咲、彩月……うーん」

「いいって言ってるのに」

「そうだ、木染(こぞめ)っていうのはどうだ?」

「………」

 

 少女に投げかけたが、相変わらず仏頂面で、黙りこくったままだ。しかし目線は鋭い。

 

「……意外ね」

 

 それと同時に、じっとりとした目線を私に向ける紫。私のネーミングセンスを推し量るようにそう言った。

 

「侮るなよ。で、どうだ?」

 

 改めて少女に聞く。

 凛とした口調で少女は答えた。

 

「それで、いいよ」

 

 声色は透き通るよう。生意気な受け答えだが、今はそれでもいい。時間をかけてイロハを教え込んでやろう。

 

 礼儀に始まって、幻想郷の分布、弾幕作法。巫女になるなら禊とか降霊、降神を教えるべきだけど、そういうのは紫に任せよう。

 

 

 こうして博麗木染が新しく博麗の巫女となった。彼女はこれから数々な異変を解決するだろう。だから私は、彼女を見守ろう。

 

 幻想郷の日常は崩れたかのように見えた。だがそれは、新たな日常の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────あなたは、そう。少し信仰を集めすぎた』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────ふむ。どうせ転生するなら、あなたも若いほうが良いでしょう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 博麗神社の境内に、もう一人の紅白の巫女が降り立った。

 

「あら、その子が新しい博麗の巫女? 可愛いわね〜」

「は?」

 

 私と紫、木染、早苗。全員の頭は混乱状態に陥った。

 

 霊夢、霊夢だ、霊夢だぜ。死んだはずの霊夢が? 笑っちゃうよな。

 

「どうして、お前がここに…?」

 

 しかもその姿は、若かりし頃の霊夢の姿だった。十代後半から二十代前半といったところか。

 

「いやー、なんかね、神になっちゃったみたい」

「はああ!?」

 

 それは、新たな日常の始まりだった。

 楽園の素敵な巫女、木染。博麗の神、霊夢。

 

 見守るだけでは、私の気が済まなさそうだ。

 

 

 

 ○ 「新しい朝」

 

 

 

 朝、目が覚めると目線の先はいつも通りの天井だった。

 

「あー…」

 

 前言撤回。昨日失敗した実験のせいで煤汚れた天井になっていた。掃除するのが億劫だ。今度しよう。

 

 実験は何度かやって、そのうち一つは成功させることが出来た。天井はその代償と考えれば安いものだ、という気休め。

 

 ベッドから抜け出し、床に両足をつく。宝物(ゴミ)が散乱する床を掻い潜り、キッチンに到着した。

 

 今日はこの後から用事がある。だからその前に、腹ごしらえだ。

 

 キッチンに自然成長したキノコをもぎ取って、八卦路を利用して手早く調理していく。一人暮らしは長いから、料理は手慣れたものだ。

 口笛を吹きながらだって、完成させられる。

 

 出来上がったものはキノコとベーコンのソテーと、トースト。あとはコーヒーだ。

 それらを素早く胃の中へ流し込み、出発の準備をする。

 

 髪を整え、いつもの服に着替え、箒を掴み、霊夢と木染のいる博麗神社へ。

 最近は木染も弾幕ごっこが上達してきて、相手をするのも楽しくなってきた。

 

 対戦する私と木染を、お茶を飲みながら見守る霊夢。それがいつもの光景だ。

 だが、たまには霊夢と対戦するのも悪くない。

 

 さあ、昨日の実験の成果を、目に物見せてやる。

 

 

 

 

『夏とともに逝け。』 おわり




ご読了お疲れ様です。

最後の「新しい朝」は、まあ分かればさらに楽しめる部分と思って頂ければ。

あとがきは、活動報告にゆっくり書かせていただきます。
閲覧、お気に入り、感想、評価ありがとうございました。
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