『憩いの場間宮にて』
川内「木曾の眼帯ってさ、そんなデザインだったっけ?」
木曾「ん? これは前の鎮守府でダチに貰ったもんだよ」
川内「へー、木曾も結構長いんだ。私は六年」
木曾「俺は五年だな……色々あったみたいだなお互い」
足柄「へー、私はこないだ建造されたばかりだからね、そんな思い出は無いわ」
千歳「同じく」
川内「つっても、提督が変わったから練度は下がっちゃったけどね」
木曾「そこは経験でカバーだな」
潮「私は元々そんなに練度は無かったからあまり不都合無いんですけどね」
千歳「あら意外、潮ちゃんもベテラン組だったのね。わーい、潮お姉ちゃん!」
潮「うひゃあ!? 胸に顔を押し付けるのは止めてくださぁあああい!」
足柄「はいはい千歳、セクハラは禁止よ」
川内「大丈夫、潮?」
潮「ど、どうにか」
木曾「元気が有り余ってんなら午後の遠征や演習に使えよな……と、ろくな番組が無いな」
川内「あ、ちょっと待った木曾! チャンネル二つ前に戻して」
木曾「ん? これか」
那珂『皆のアイドル、那珂ちゃんだよ☆ きゃはっ』
川内「おお、那珂ちゃん!」
潮「あ、この人川内さんの妹さんですよね」
川内「うん。って言っても、この那珂ちゃんとはあった事無いんだけどね」
木曾「確かこの那珂ってデビュー十年以上だろ? 俺らより年上だよな……見た目がまるで変わらんが」
川内「そうなんだよね。ガチでアイドル活動してるから解体されてるはずなんだけど、一切変わらないんだよね」
千歳「え? どういうこと?」
潮「あ、千歳さんはまだ建造されたばかりだから知らないんですね」
木曾「俺達艦娘は艤装とリンクしてる限り歳を取らないんだよ」
川内「筋肉や脂肪が多少付いたり、髪や爪が伸びる程度で、基本的に肉体がこの状態で固定されてるんだ。だから病気も風邪くらいだし、妊娠もしない」
潮「に、妊娠……」
川内「あ、いやセクハラじゃなくて、確かこの那珂ちゃんって子供がいたはず。って話」
千歳「へえ、子供産んでこのスタイルを維持……並大抵の努力じゃないわね」
川内「まあ那珂ってば努力の子ですから」
足柄「嬉しそうね。私も姉さんや羽黒に会いたいなぁ」
木曾「姉妹艦ね、会ったら会ったで面倒くさいぞ」
北上「どういう意味さ木曾ー」
大井「本当にどういう意味よ」
木曾「そのままだ、何が悲しくて恋人繋ぎしてる姉達の姿を見なきゃならないんだ」
北上「これは大井っちが勝手に……ん? 何さ阿武隈、こっち見てきてさ」
阿武隈「なんでもないで……すっ!?」
北上「避けるなよー」
阿武隈「避けますよ! 今前髪狙いましたね」
北上「そのお洒落に時間掛かってそうな前髪をグシャグシャにして……こら逃げるな」
大井「ああ、北上さーん!」
一同「…………」
木曾「……その、騒がしい姉達で済まん」
川内「いいよいいよ、私もうるさいってよく言われるポジだし」
村雨「はいはーい、輸送部隊の帰還ですよ。皆暗い顔をしてどうしたのかなー?」
間宮「あら村雨ちゃんお帰りなさい。買い出し手伝ってもらっちゃって悪かったわね」
村雨「いえいえ、むしろ街に出られて役得でした」
潮「村雨ちゃんお帰りなさい」
村雨「ただいまー、新商品のお菓子買って来たよ、皆で食べよっか」
足柄「ありがとう、貰うわね」
千歳「梅紫蘇味のブリッツ……じゃなくてホッキーだこれ!」
川内「それはそれで気になるね」
木曾「はぁー、平和だねぇ」
夕立「全然平和じゃないっぽい」
千歳「あら夕立ちゃん起きたのね」
夕立「寝てなんか無いの、騒がしかったし」
木曾「それは悪かった……が平和じゃないってどうした?」
村雨「何があったの? お姉ちゃんに言ってみなさい」
夕立「村雨ちゃん、最初の建造で生まれたのにお姉ちゃんぶって」
川内「一ヶ月くらいの差でしょ? 私が前にいた鎮守府なんて、鬼怒の一年後に長良が来て微妙な空気だったんだから」
村雨「そういう事。さあ夕立、お姉ちゃんにレッツ相談」
夕立「うぅー、そりゃあ勿論提督の事」
村雨「まあまあまあ、夕立に春が来たのね。間宮さんにお赤飯炊いてもらわなきゃ」
潮「え? そうなの? おめでとう夕立ちゃん」
夕立「ちがぁーう! 夕立は、あんな性倒錯変態女装重婚カッコガチ野郎なんて好きじゃないっぽい!」
村雨「うんうん分かってる分かってる。じゃないっぽいじゃないっぽいも好きの内ね」
夕立「これはただの語尾ぃー!」
間宮「何かあったのー?」
木曾「なんでもありませーん。ほら夕立、ちっと声のトーン下げろ」
夕立「はーい、すいません」
千歳「で、その思い付く限りの悪口を叩き込んだ提督がどうしたの?」
夕立「皆は平気なの? あんなふざけた提督で。そもそも高校生くらいの歳だし」
木曾「夕立、この鎮守府が動く前に神存島を護ってた鎮守府知ってるだろ?」
夕立「えーと、鉋島に神楽と鳴神鎮守府でしたっけ?」
木曾「ああ、んで鳴神鎮守府の提督は中学生だぞ確か」
夕立「ええっ!?」
川内「私、提督が小学生くらいの鎮守府知ってるよ、三つくらい」
夕立「嘘ー」
潮「提督って艦娘と特別な絆を育める人だから、年齢や性別は問わないんだって」
夕立「大本営、本当に大丈夫っぽい? でも、やっぱり女装して勤務するのは」
木曾「働いてるからいいじゃないか。それに人間だしな、まだ気が楽だ」
夕立「はい?」
川内「あ、木曾も見た事あるんだ。うさぎとか柴犬の提督いるよね」
木曾「俺はマリモとか矢印だったぞ……あと頭がTの謎生物」
潮「深海棲艦より謎ですよねー」
夕立「ちょっとぉ、頭こんがらがって来たんだけど」
村雨「世界はまだまだ私達の知らない事でいっぱいだねー」
足柄「本当ねー」
夕立「それで済ませていい事態なの? って、一番の問題はそこじゃ無いっぽい」
村雨「んー?」
夕立「ハーレムだよ! ハーレム! 普通初対面でそんな事言う!?」
木曾「まあ、普通は言わねえな」
川内「あはは、可愛い顔して男の子だね」
千歳「草食獣の顔した肉食獣かぁ、そういうの嫌いじゃないわよ」
潮「駆逐艦の皆には優しいって評判みたい」
夕立「もう、千歳さんってば。潮ちゃん、それは女の子に慣れてるって証拠っぽい。皆はあの提督の事どう思ってるっぽい? ハーレム発言も含めて」
村雨「んー、そう言われてもねえ。私も古参だけど付き合いは秘書艦の夕立ちゃんが圧倒的に多いから分からないってのが本音かな。強いて言うなら、あのハーレム発言は一種のポーズみたいに感じたね、一度軽く腕を絡めようとしたけど微妙に焦りながら避けられちゃったのよ。多分、女の子の家族が多くて女の子慣れしてるけど、恋人とかがいた事は無い、もしくは浅い付き合いだった。ってところかな」
夕立「むちゃくちゃ具体的!」
村雨「まあ、もし本当にハーレムを作れる様な傑物なら不肖村雨、提督の愛人に立候補するのもやぶさかじゃないかな」
夕立「マジで!?」
村雨「さあ? 川内さんは?」
川内「ちょっと待って……はい、お茶。そうだねぇ、村雨と同じく恋愛的な判断はまだ出来ないかな。ただ、あんまりがっついてる感じはしないね、お触りもしないし」
夕立「お触りぃ!?」
木曾「提督のデイリー任務だ、やるかどうかは任意だが……お前はされてるのか?」
夕立「されてない! されてたら提督に主砲と魚雷をしこたまぶち込んでやるっぽい」
千歳「まあセクハラでそれなら健全よね」
木曾「そうか?」
千歳「格納庫まさぐったりとか、抱いたり、寝たりを提督特権で、ふふふふふ」
木曾「昼間っから酒入ってんのか! 駆逐艦のチビ共もいるんだぞ」
夕立「抱く……寝る……ぽいぽいぽい……」
村雨「あらー、夕立がオーバーヒートしちゃった」
文月「なんですか? なんですか? 抱いたりとか寝たりとか、なんのおはなし?」
千歳「あら文月ちゃん、提督に抱いて貰ったり一緒に寝たかって話よ」
文月「あたし? あるよー」
木曾「おい川内、縄と猿轡持ってこ……何ぃ!?」
千歳「意外だったわ、夕立ちゃんは発育のいい駆逐艦だから免れてたのね。提督はロリコンどころかペド……」
夕立「あの野郎、いくらなんでも文月ちゃんに手を出すなんて……その無駄に切れ長の目でお肌すべすべで綺麗な顔を吹っ飛ばしてやるっぽい」
川内「えっと文月、無理矢理とかいやいやじゃないよね? もしそうだったら流石に相談して欲しいな。なんて」
文月「なんで怒ってるの?」
潮「なんでって、そのー」
夕立「放して村雨ちゃん、鎮守府の風紀のためなの!」
村雨「だからって抜錨しようとしないで、提督死んじゃうから」
文月「だっこでご本読んでもらったり、一緒にお昼寝するのがそんなにいけないのかなー?」
夕立「いけないに決まってるっぽ……え?」
木曾「なんだ、そっちか」
文月「あたしを見てると妹を思い出すんだって」
村雨「あー、やっぱり妹持ちかぁ」
文月「これからは司令官に甘えちゃいけないの?」
川内「ううん、そんな事無いよ。仕事が無いときは甘えておいで」
文月「やったぁ、てっきり夕立ちゃんが嫉妬してるのかと思ったよ」
夕立「は、はぁ!?」
木曾「焦ったー」
川内「本当にね。憲兵さんに通報案件かと思ったよ」
足柄「ちょっといいかしら?」
川内「なんです?」
足柄「今の話、なんで焦ってたの?」
木曾「え?」
足柄「抱き合ったり一緒に寝たりなんてコミュニケーションの手段じゃない。そういう積み重ねがあってこそ、戦場で背中を任せられる仲間になれるのよ」
川内「えーと」
千歳「……足柄、耳貸して……ゴニョゴニョ、ゴニョ、ゴニョラ、ゴニョリータって知ってる?」
足柄「勿論よ、性別の事でしょ」
千歳「餓えた狼だったわ、ガチの……でも提督ね、ハーレムとか言われても……ん? 女装が似合うほどの美少年で、高給取りのエリート、さらにハーレムならそこまで束縛されない……むしろ有料物件じゃない? これで焦って婚活しなくて大丈夫ね」
木曾「俺が提督だったら、一人だけスルーしたくなるんだが。足柄さんはどうだ? 提督の事」
足柄「んー、いい指揮官になるんじゃないかしら。私も使ってくれるし、艦娘を無茶な運用しないし。たった一ヶ月でこの戦果は上々じゃない? 貴方達ベテラン組も優先して回されてるみたいだし、上からも評価されてるって事じゃないかしら」
木曾「俺に言わせりゃ優等生だがな。これまでは先人の残したデータを元にした定石を外さなかったからこそ……言っちまえば提督じゃなくてもやれた事だ。これから先は定石なんてもんは無い、刻一刻と姿を変える、それが海……魔性の海ってもんだ」
夕立「…………」
木曾「だからこそ、これからが楽しみな男だよ。メッキが剥がれてただの凡将で終わるか、それとも殻を破って名将になるのか。もし後者なら誘われるまでも無い、喜んで身も心も捧げてやるよ」
村雨「わぁ、木曾さん大胆」
川内「なんだ、木曾ってば「あんななよなよした奴男じゃねえ!」とか言うタイプかと思ってたよ」
夕立「…………あ、あたし、そろそろ秘書艦の業務に戻るね」
村雨「うん、頑張ってねー……なんでしょうね、あれ」
川内「まだ自分の気持ちに整理が着いてないんでしょう。話を聞くと上げて落とされたみたいなもんだし」
木曾「今回のこれ、牽制したって事に気付いて無いんだろうな」
村雨「姉としては応援してあげたいんですけどね」
千歳「んじゃ、そろそろ……必死に空気と同化しようとしていた潮ちゃんのターンね」
潮「ふぇええ!?」
***
大淀「しかし、いきなりのあれは驚きましたよ」
銀髪提督「あれ?」
大淀「ハーレムです。正直、わざわざそんな事言わなければ、普通に好意を持たれたと思うんですが」
銀髪提督「ははは、まだまだ物を知らない若造ですから、駆け引きを間違えちゃったんですよね」
大淀「へえ……てっきり貴方のご両親が理由だと思ってました」
銀髪提督「…………知ってましたか」
大淀「立場が立場ですので」
夕立『なんで提督さんが初対面でハーレムなんて言ったのか。その理由をあたし達はまだ知らなかったのでした』