俺は水母棲姫に恋をして   作:あーふぁ

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1話

「出産を前提に結婚してくれ!」

 

 俺は目の前にいる深海棲艦に大声で叫んでいた。

 場所は鎮守府にある小さな湾内の砂浜。その波打ち際に彼女、1mも離れていない水母棲姫がうつろな目を俺へと向けて立っている。

 隣には艤装を完全装備状態の、秘書である不知火が目を見開いて固まっている。

 俺の周囲から遠く離れたところには、軍のお偉いさんと戦艦、空母、あらゆる艦種の艦娘が遠くからこちらに向けて砲や弓を向けていて今にでも攻撃してきそうだ。

 そもそもこうなったのは、上層部が自分から進んで捕虜となった水母棲姫を説得して艤装を外させろと言われたからだ。

 貧乏くじを引いた、と嘆いていて今日が死ぬ日かとひどく落ち込んでいた。

 だが、彼女の目の前にやってきたら俺は素晴らしくハッピーな気分になった。

 なぜかというと、とても好みだったからだ。

 女の子に囲まれたい、という一心で提督になったがどの艦娘も俺の好みからは外れていた。どれもミステリアスさが足りなかった。

 それが今はどうだ。

 初めて目の前で見る敵。深海棲艦。―――艦娘たちが出会い、抵抗の仕草も見せないのでここに連れてきたと聞いた。

 彼女は、俺が着ている白い軍服とは対象的な黒を基調としている服装と艤装だ。

 背中まである黒髪の美しい長髪。表情は何の感情も浮かべることもなく、うつろな目で俺を見てくる。首には首輪があり、長い鎖が砂浜に向かって垂れている。頭にある大きく黒いリボンは大人びた彼女の容姿を幼く見せ、胸元は頭にあるリボンよりも大きいものをつけていて黒いフリルをあしらっていて、肩や胸元が大きく開いた薄手の下着のようだ。

 素晴らしく整った顔や控えめな胸の体を眺め、視線を下に持っていくと艤装のカタパルトや彼女の手が見える。

 手は人間のような手ではなく、腕は黒い金属のようなもので覆われ、指先は刃物のように鋭利になっている。

 下半身は人間とは似ても似つかない。人間とは違う、ひどく大きな口と、俺の胴体ほどにもあるかと思う腕で構成されている。

 それでもだ。

 俺は彼女に一目惚れしてしまった。

 恋は盲目というのを実感している。今なら彼女に殺されてもいいと思えるほどに。

 だから、出会ってすぐにあの言葉を言った。

 ちらりと不知火へ向けると口を開けて言葉が見つからないというかのように見事に固まっている。

 不知火が文句も何も言わないのを確認し、本来の任務である『説得』を始める。

 

「俺は深海棲艦というものに初めて会ったが、これほど心がときめいたのは偶然とは思えない」

 

 深海棲艦はカタコトの日本語を話すと聞いているがこの彼女もそうとは限らない。俺の日本語もわからないかもしれない。

 夏の熱い日差しを受け、汗を流しながら俺は一生懸命に言葉を続ける。

 胸の中にある熱い想いが俺に喋れ、と言い続けてくるから。

 

「民間人や艦娘たちを殺すお前たちに、俺は憎しみと恨みがある。だが、お前に会った瞬間にそんなことはどこかへ消えていった!」

 

 士官学校やラジオのニュースで深海棲艦のことをよく聞く。内容はおぞましい容姿と残虐なことをする人間とは相容れない存在と。世の中の悪いことは全て深海棲艦が悪い、と言っている人もいるほどだ。

 

「こんな美しい人間のような姿をしているからには理由があるんだろう? それを俺は知りたい。誰かに教えられたものではなく、自分で確かめたいんだ」

 

 水母棲姫に手を向けて伸ばそうとすると、我に返った不知火によって手は叩き落とされる。いつのまにか一歩前進していた体は、不知火に正面から抱きつかれて動きを止められていた。

 目だけは彼女のうつろな目を見つめている。

 この瞬間にも死ぬかもしれない。でも恐怖はない。今の俺は彼女に対する愛しかないからだ。

 恋は盲目というのがこれなのか。

 

「俺はお前に惚れている。だから結婚しよう!」

 

 大声で言い、彼女の目をじっと見続ける。それから1分ほど経った頃だろうか。

 うつろだった目が急にきょろきょろと忙しく動き始めては俺と俺の周囲を見ている。

 彼女は俺に抱きついている不知火を強引に手で引きはがし、近づいてきて両手で俺の体を持ち上げる。

 周囲のざわめきの声を無視して俺の体を縦や横に振りまわすが、俺は抵抗せずにされるがままになる。

 すると、彼女は俺を砂浜に降ろしたあと思いっきり抱きしめている。

 身長さもあって俺は彼女の慎ましやかな胸に顔をうずめることになる。

 抱きしめてくる腕は金属のように固いが体の感触は人間とまるで同じだ。体からは海の香りと彼女自身の爽やかな匂いがする。

 背骨が折れそうなほどの力にも悲鳴を出さず我慢しつづける。

 力が緩み、彼女の胸から顔を見上げる態勢になると彼女は無言で俺の顔いっぱいになめるかのようにキスをしはじめてきた。

 突然のことに感情が追いつかず、嬉しいやら驚いているやらで反応に困る。

 人間と似ている部分と同じもの。

 彼女らはただ『敵』と分類するだけの存在ではないのだろうか?

 こうやって言葉が通じ、感情も通じる。

 愛という想いもだ。

 俺がこうやって経験している今があれば、もしかしたら深海棲艦との和解もなるんじゃないかと強く思う。

 

「よぅし! これで任務達成ですよね!? この子、俺がもらいますからね!」

 

 顔を海軍の偉い人たちに向け思い切り声を出す。

 困惑する彼らの顔を見て満足していると、水母棲姫から視線を感じる。

 振りむくと鉄のように冷たく見えていた彼女の表情はほんの少しやわらいでいた。

 これからの生活は困難なことしか予想できない。だけれど、俺は必死に生きる自信がある。

 なぜなら、彼女を好きになってしまったから。

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