俺は水母棲姫に恋をして   作:あーふぁ

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3話

 

「その慎ましやかな胸をさわらせてくれ!」

 

 水母棲姫を車いすから降ろし、下半身が大きな口と大きな片腕で立っている彼女に俺は力強く叫んだ。

 場所は鎮守府内にある小さな湾内の砂浜。俺と水母棲姫は仲良く並んで朝日が昇るのを見ていて、その光景に感動している余韻が残っている時のことだ。

 艤装をつけた不知火は10mほど離れていて、冷たい視線を感じるのを受けとめながら朝日を背に俺は水母棲姫の前に立つ。

 砂浜に来てから体を拘束している車いすから離し、久しぶりに自由になった彼女は俺の言葉を受けて目を丸くしている。

 ずいぶんと驚かれているが、これは仕方のないことだ。

 全部彼女の姿が悪い。気持ちのいい海風でつややかな黒髪がなびくのを見ていると、心臓の鼓動が高まってゆく。鮮やかな朝日の光を浴び、氷のように清らかな肌は目を離せなくなる。ルビーのような輝く赤色の瞳は意識を吸いこまれるような。頭にある大きな黒いリボン、同じく黒いゴシックな服はその全てを引き立たせる。

 そんなのだから仕方がないんだ。

 爽やかな朝だというのに俺がむらむらとした気持ちになってしまうのも。不知火よりもある胸を触りたくて。

 仕事するよりも真面目な目を水母棲姫の目にあわせ、そっと胸に手を伸ばそうとするも合意ではなかったことに首を振って手を止める。

 胸へ伸ばされた俺の手が戻っていくのに不思議そうな顔で首を傾げて眺めてくる水母棲姫の顔が可愛い。

 そんな可愛い顔を見てますます強引にはさわれなくなってしまい、なんとか合意の上でさわれないかと考えてすぐに思いつく。

 

「勝負をしよう、勝負。勝ったほうが相手に好きなことを1回だけするということを!」

 

 よくわかっていないまま頷いた水母棲姫は下半身の大きな片腕のこぶしを硬く握りはじめた。

 勝負内容を考えようとしていた俺は突然の寒気がする空気を感じて距離を取ろうとするも、俺の正面にいる彼女からの右方向からの横殴りをまともな防御もできずに吹っ飛ばされ、砂浜へ受け身も取れずに頭から落ちた。

 

「司令!」

 

 砂浜に倒れて意識が朦朧としているなか、聞こえてくる音は不知火の叫び声と砲撃音、そして砂を蹴ってそばへ来る力強い足音。

 頭は海のほうを見たまま動かせず、今の状況はとてもよくないことが起きている気がする。起き上がろうと力を入れるが、言葉にならない痛みの声がもれるだけ。

 

「動かないでください、危険です」

 

 再び砲撃音。さきほどは聞きとることができなかったが、音は砂浜に着弾して砂が飛び散る音が聞こえた。

 水母棲姫に当てていないようで一安心したが、状況はよくない。このままだと不知火は殺してしまうだろう。

 思い切り力を入れ立ち上がる。ふらつく意識のなか、不知火の前に回り込んで水母棲姫を背にする。

 

「ちょっとスキンシップを間違えただけだ」

「どいてください、不知火の独断により水母棲姫を処分します」

 

 水母棲姫に向けていた砲は、俺の前では下げているが引き金には指がかかったままだ。

 事故ではなく、遊びだったということにしないと上層部から俺と水母棲姫は引き離されてしまう。

 不知火の鋭い目つきを受けながら、水母棲姫とは一部分迫力が足りないことに気付き、それを話に使おうと思いつく。

 

「胸なんだ」

「……もう1度お願いします」

「不知火の胸がぺったんこだから、俺は水母棲姫の胸がさわりたかったんだ」

 

 両手をわきわきと胸をもみしだくかのように手を動かすと、鋭い目つきのまま不知火がさっきとは違う、怖い視線を出してくる。

 

「照れ隠しで殴られただけなんだ」

 

 不知火は俺と水母棲姫を交互ににらんだあと溜息をついて、引き金から指を離す。そしてからしゃがみ、砂を掴んで勢いよく俺の目へと投げつけてくる。

 予想外な行動で砂がおもいきり目に入り、あとずさると背中に柔らかい胸の感触を感じる。

 その感触に安心し、目を手でぬぐって視界が晴れたときには不知火が俺へ背中を向けて離れていくところだった。

 背中を向けられるのは信頼されているからだとわかってはいるが、なんだか寂しくなってしまう。不知火に嫌われたと思ってしまったからだろうか。

 今の行動も、深海棲艦と仲良くなろうとする今までのことも。

 ちょっと落ち込んでしまうが、すぐに体を反転し水母棲姫の胸に顔をうずめる。

 慎ましい胸と俺はいったが、充分に胸の感触を楽しめるほどにはある。

 女性特有のいい香りと、人間よりやや低めの体温。それは深海棲艦である彼女は人間と変わりがないように思える。

 彼女をはじめ、深海棲艦たちは人間によく似ている外見をしている。こちらの言葉もわかっているし、うまくはないが日本語も喋る。

 なんで俺たちは戦争なんかしなきゃいけないんだろう。

 もしこの世界に神様がいるのなら、こんなにも人間と似た存在を陸と海でわけたのだろうか。

 人間同士で争うことをやめさせようと? 

 人は争うことでしかわかりあおうとしないから? 

 そうだとしたら、なんてつまらない。

 争わなくても俺は仲良くできている。

 水母棲姫である彼女がここにやってきたことは迷い込んだのか、自分から来たのはわからない。わかることは俺の元に水母棲姫がいて、俺と彼女は両想いだということだ。

 胸にうずめていた顔をあげると、彼女の頬は赤くなっているけど優しい目を俺に向けてきた。

 それに対して俺は微笑みを返す。その途端、俺の体は彼女の両手によって持ちあげられ、宙へ飛ばされる。

 そう、これは人間的に言うならば。

 

「たかいたかいはやめてえぇぇぇぇ!?」

 

 赤ちゃんの体を持ちあげて高い場所に持ちあげる遊び。とはいえ、地面から10m以上も放り投げられれば誰しもこんなふうに叫んでもおかしくはない。

 胸に抱きついたのに怒ったのか、照れ隠しかのどっちかと考えながら顔を見る。

 怖いおもいをして宙から見る彼女の顔は嬉しそうだ。

 空に浮かび、または落ちながら考え、『勝ったほうが相手に好きなことを1回だけするという』ことを言ったことに思い当たる。

 彼女はただそれをやっているにすぎない。

 けれど、だけれども。怖いのは愛があっても怖い。

 

「不知火、不知火!」

 

 名前を呼び、宙に浮かびあがっているときに不知火を探すがどこにも見当たらない。

 本当に嫌われたかと落ち込んでいると水母棲姫とは違う細い腕に体が抱きとめられ、その人物と一緒に砂浜に倒れ込む。

 

「怖かったですか?」

 

 俺は仰向けで倒れている不知火の盛り上がりがない胸に顔をのせている。手袋をつけている不知火の手で目元をぬぐってもらったときに涙が出ていたことに気付く。

 怖かったことと、不知火が来てくれたことの安心感で涙が出てくる。

 

「水母棲姫、あなたはもっと気をつけるべきです。思っている以上に人間は弱い存在なのですから」

 

 不知火が脅すように低い声で言うったに俺は喜びを覚える。今までは敵意を向けるだけだったのに注意をし、水母棲姫もその言葉にうなずいたから。

 人間も艦娘も深海棲艦も日々成長していく。

 いつの日か、もしかしたらずっと先のことかもしれないが笑いあえる楽しい時間が来ることを願う。深海棲艦ときちんと結婚できるような法律ができることも。

 

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