#01 語り手のお話
これは昔話。
正確には私が体験して来た、下らない、実にチンケな『あいとゆうきのおとぎ話』、とでも言うような、奇妙で、不思議で、異質で、御都合主義で…それでいて、悲しくて、苦労に満ちた体験談だ。
ああ、もしもISというモノが「実際に存在」し、御都合主義に満ちた、ラブコメまがいで、暴力女な私が一夏に一途な世界が好きな者はご退場する事をお勧めする。
…なにせ、これから語る事の3割は「その世界」の悪口だし、残りは「その世界」とは無縁の、「この世界」の話だからな。
精神衛生的には、聞かない方が良いと思うぞ?
ま、マゾヒストなら、話は別だがな。
そして私が知ってる人間なら––––––いや、やめよう。
私の言う「その世界」の事は下らない妄想だと思ってくれ。まぁ「この世界」の事は覆しようのない事実だから受け入れてくれるだろう…。
今から語るのは体験談––––––そう、私の体験談だ。
日本国・防衛陸軍大尉、篠ノ之箒が語る、下らない、それでいて壮大な体験談だ。
…ん?ああすまない、主人が帰ってきたようだ。
すまない、勝手だが、一旦録音を切る。
あいつは最近までシアトルに派遣されていて、帰省してきたばかりだからな。
苦労をかけている分、それを私がねぎらう必要がある。
また、後で話を続ける。
ではな––––––
––––––待たせてすまない。
それでは語るとしようか……。
■■■■■■
20・・年9月13日、IS学園。
1年1組は驚愕していた。何故なら。
「国崎肇です。ひょんなことからISを動かした為にこちらに転入して来ました。よろしくお願いします。」
ISという女にしか動かせない兵器…そしてそれを唯一動かせる男は織斑一夏だけ––––––という常識が、2人目の男性IS操縦者の出現により、粉砕されたからだ。
私––––––篠ノ之箒も、驚愕していた。
そしてその時は誰もが驚愕していたが、授業が済むと、まるでそんな事––––––2人目の男性操縦者が来たなんて事実が無かったかのように皆んな「一夏、一夏。」といつも通り、一夏三昧に走り出した。
箒も、その1人だった。
「い、一夏‼︎昨日の約束…」
「おう、付き合ってやっても良いぞ。」
「一夏…。」
「買い物くらい。」
そして、恋人として付き合ってくれ、という、普通の人間なら分かるような事を、持ち前の鈍感スキルでねじ伏せ、私の淡い希望を粉砕し、周りの一夏を狙う女子…イギリス国家代表候補生のセシリア・オルコット、中国国家代表候補生の鳳鈴音、フランス国家代表候補生のシャルロット・デュノア、ドイツ国家代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒ、ロシア国家代表の更識楯無が、期待を裏切られた私を遠くから、フッと鼻で笑う。
「…な、…うと…」
怒りに箒は震える。
そして一夏はそれに気付かず、首を傾げながら、言う。
「え…ほ、箒?どうしたん–––…」
「そんな事だろうと思ったわ‼︎」
怒りに身を任せ、殴り飛ばす。
一夏は腹を抑え、床で悶え苦しみながら、ゴロゴロと転がっているが、箒はそれを見向きもせずに立ち去り、先程箒を鼻で笑っていた代表候補生––––––通称・一夏ラヴァーズが一夏に走り寄り。
「大丈夫⁉︎(ですか/か)一夏(さん/嫁/くん)⁉︎」
と、心配そうな声をかけていて、一夏が幸せそうなのを見て、悔し涙を浮かべながら、そこから立ち去った。
「何だというのだ––––––昔はあんなのでは無かったのに…」
学園の庭を歩きながら箒は呟く。
小学校の時は虐めらていた私を助けてくれた。良いやつなのに…。
はぁ…と、箒はため息を吐く。
「今まで…一夏のいなかった中学はどれだけ寂しかったか…中学の時は––––––あれ?」
歩きながら、呆れながら言っていたのに、ふと、立ち止まり、
「中学の…時?」
歪な、まるで、「ロボットか機械のような顔」をして、呟く。
「中学の時…何をしていた?いや、そもそも…」
息が乱れ始める。
「一夏が転校した後の小学校の時は?中学の時は?その時のクラスメートや担任の先生の名前は?…いや、それ以前に私の両親の名前は?思い出は?………一夏と小学校で過ごして、一夏が転校してからニュースで一夏の事を知るまでの………私の、記憶、は?」
おかしい。
おかしい、おかしい、おかしい。
欠落している。
生まれてから束や一夏と過ごした日々に至るまでの記憶。
一夏が転校してから一夏がISを動かした事を伝えるニュースを見るまでの記憶。
今は離散している家族の名前。
その全てが、
「…知ら、ない?」
あり得ない。だって、知らなければ可笑しい事だ。
ふと、瞬間、校舎が爆発で吹き飛ぶ。
それで我にかえる。
見ると、一夏かIS・白式を展開し、逃げる様に飛んで行って––––––その後を、いつもラヴァーズが追いかけている。…ISを展開しながら。
「一夏ァ‼︎私の酢豚を毎日食べてって言ったでしょぉぉぉ‼︎」
「一夏さん‼︎今日こそ私の家の婿養子に来てもらいますわ‼︎」
「一夏‼︎今日こそは僕の買った指輪を受け取って‼︎」
「嫁‼︎今日はドイツに城を買いに行くぞ‼︎」
「一夏くん‼︎お姉さんと今日こそ合体しましょう‼︎」
「勘弁してくれぇぇぇぇ‼︎」
…いつものことだ。
「…あれ?」
ふと、後ろから声がしたので振り返ると––––––国崎肇がいた。
「えーと、篠ノ之さん?」
「な、なんだ?」
急に話しかけられ、困惑するが、一応、こたえる。
「…ISの許可なく私的に無断展開するのって…国際条約違反じゃ––––––?」
肇が聴く。
「…そんな事か。今さらだろう?今までそんな事は何度も––––––…」
箒が呆れる様に言うが––––––途中で詰まり、また先程の様な歪な顔になる。
「何度、も…?」
箒が呟く。
確かにラヴァーズ…セシリア達はこれまで何度もISの無断展開を公私に関わらず行っていた。
…時には嫉妬のあまり一夏を殺しかけたことも––––––普通なら、罰を受ける行いだ。
だが––––––今まで一度でも罰せられたか?
「…1度も、罰を受けて、ない……?」
それどころか、周りの反応はどうだった?
…まるで「人形のように」、織斑やラヴァーズを持ち上げるような、応援するような、羨ましがるような発言しか、していない。
生徒も、教師も、一般人も全て––––––。
「…な、に?…どういう、こと––––––?」
息が乱れ始める。
おかしい。
おかしい、おかしい、おかしい。
異常だ。
普通なら、普通ならあり得ない事だ。
「どう、して…違法行為なの、に……?」
信じかねるような顔をして、箒が言う。
「…そりゃそうだよ。だってそう『プログラムされたモノ』だから。」
すると肇が呆れるように、だが心配するような声音で言う。
「プロ…グラ、ム…?」
訳が、分からない。
箒は、唖然としてしまう。
あるはずの記憶がない。
あるはずの法の罰が存在しない。
何故か一夏に恋慕を抱く女子や自分。
都合の良過ぎるくらいに一夏に優しい出来事。
瞬間、箒の脳裏にないはずの記憶が浮かぶ。
空から降ってくる流星群。
空に打ち上げられるロケット。
それを見上げている自分。
「な、に…今…の……?」
箒が呟くが、瞬間。
「…!チッ‼︎」
体を肇が押し倒す。
瞬間、レーザーが頭上の空気を、焼く。
見ると、クラス別トーナメントの時に現れた無人ISが、6機、こちらに飛んで来る。
その中の一機には、束が掴まりながら飛んできていた。
「箒ちゃんソイツから離れて‼︎」
「ね、姉さん⁉︎」
叫ぶ束に箒が唖然とする。
「ソイツは敵だよ‼︎私たちの‼︎」
「–––ッ‼︎」
瞬間、束の言葉を聞いて肇から下がろうと箒はする。
だが、
「…敵?」
ふと、箒は止まってしまう。
「敵って…私たちの、敵?」
「そうだよ‼︎だから早く…」
「で、でも姉さん‼︎」
束が言う前に箒は遮る。
「…私たちの敵って…なん、なんですか?」
「…え?」
箒の言葉に束は唖然としてしまう。
「そもそも、敵って、何、ですか?」
箒は、分からない。
そもそも敵とは、何に対する敵なのか。誰から見て、何に対する敵なのか。
「何が、真実なんですか…?」
何が真実か、箒は分からなくなる。
「ああ、もう‼︎ゴーレム‼︎取り敢えずあのムカつく男を吹っ飛ばして‼︎」
苛立ちを隠せない顔で、ヤケクソに叫ぶ。
「…さて、と」
肇は呟くと、専用ISらしき物を部分展開し、右手に刀を持つ。
「…どうする?篠ノ之箒?」
「…え?」
肇が箒に声をかける。
「真実が知りたいならついて来るか?嫌なら別にいいが。」
肇が言う。
真実。
今一番、箒が知りたいもの。
歪な今の状況の中で、箒が知りたいもの。
それを教えてやると、肇は言うのだ。
「……知りたい。」
ゴーレムが接近してくる中、呟く。
「私は、真実を…知りたい。…だから、教えてくれ…。」
声は小さい。
けれど決意と覚悟に満ちた声音で、言う。
それを聴くなり、肇は口角を少し上げ、
「…了解。ただし後悔すんなよ?」
肇は刀を地面に突き刺す。
瞬間、箒と肇いた場所が、消滅し––––––2人は、IS学園のあったレイヤー(層)から、落ちて行った。
そしてそれが、私とソイツの物語の、始まりだった。
さて、いきなりですが急展開でした。
(…読者さん置いてきぼりにしてないか心配だ……。)
不定期ですが、次回もよろしくお願い致します。