仮想世界、第02016レイヤー付近。
相変わらず水の中のような青い背景に、情報や電子が輝跡を引きながら、交差している、延々と続くような錯覚すら覚える、何処か幻想的な景色。
以前、箒がいたIS学園のあるレイヤー(層)。
そこに向けて肇たちは移動中だった。
「––––––時に、箒。」
肇がふと、声をかける。
「本当にいいんだな?現実世界に帰るという選択で。」
「…ああ。」
肇は最終確認でも取るように聴く。
そして箒は何も迷う事なく応える。
「…そっか。」
そう肇は、ポツリ、と呟くと、自身の眼前に複数のウィンドウを展開する。
「簪、全フォルダに繋いでくれ。」
「うん…」
「いいか?このフォルダ内のファイルを開いたら突入する。」
簪が返事をして、肇の制圧下にある全フォルダに接続される。
ウィンドウの欄には『バルカンの火薬』というファイル名が多数入っていた。
『バルカンの火薬』の由来は、第一次世界大戦直前における「ヨーロッパの火薬庫たるバルカン半島」から来ているのだろう。
当時、バルカン半島でオーストリア皇太子夫妻をセルジア人青年が暗殺したことから、ヨーロッパを主戦場とする、第一次世界大戦が始まったのだ。
今、目の前の肇が、気まぐれでそんな名前をつけるとは、箒は思えなかった。
「準備はいいか?」
2人とも、頷く。
つまり、肇が名付けたそのファイルの名前は、多分…コンピューターウイルス。
「さて––––––天災…火が出たぞ。」
肇が、悪戯めいた、子供らしい顔を浮かべながらそう言って、ファイルを、開く。
瞬間、ファイルに肇が仕掛けた『バルカンの火薬』なるコンピューターウイルスが、肇の傘下にあった第10018フォルダから第45986フォルダのすべてのフォルダで一斉に起動。
仮想世界の青かった風景が反転し、一瞬で血のように赤を基調としたノイズまみれの風景に変わり、大量の黒い背景にオレンジ色の額のウィンドウに『警告:悪性ウイルスを検出しました。』と表示される。
「さて、これでレイヤー補正や御都合主義めいたプログラムや天災の支配下の空間の機能は破壊した。行くぞ。」
紫電弐式を展開しながら肇が言う。
「姉さんのことだからウイルス対策の機能もあるんじゃ…」
紅椿壱型丙を展開し、纏いながら肇に聴く。
「大丈夫。あれはウイルスがひとつやられたら5000倍の数になってリスポーン(再配置)されるから。」
簪が言う。
束の対ウイルスプログラムに肇のコンピューターウイルスがやられても、圧倒的数に倍加して再度現れて、それに対抗しようと束がまた対ウイルスプログラムを増員して…つまりはイタチごっこだった。
瞬間、センサーに反応を探知。
ラファールリヴァイヴ10機近くだった。おそらくIS学園の教師部隊のものだろう。
だが、あちらの反応が異常なまでに鈍い。
「演算処理が追いつかなくてフリーズしてんだろ。そうでなくてもラグのせいで反応は鈍ってるハズだ。」
肇が気にするな、と言いたげな顔で、言う。
つまり無視していいと、そういうことだろう。
「さて––––––突入すんぞ‼︎」
肇が号令をかけた直後、三人はIS学園––––––だった場所に突入した。
そこには学園の校舎はあるものの、ないハズの市街地レイヤーの高層ビル群や工業地レイヤーの煙突や石油タンクが乱立し、さらに学園のモニュメントだった建物は皆既日食の太陽の様な孔が開いた宙へと続く、白い二重螺旋状の塔、【蜘蛛之糸(くものいと)】になっていた。
「これ、が…」
「現実世界への鍵だよ。」
唖然としながら蜘蛛之糸を見上げる箒に、肇が言う。
「…にしても蜘蛛之糸…クモの糸か…。」
肇が何か思う様に呟く。
「地獄に落ちた亡者に仏だか神は天からクモの糸を垂らして、亡者たちがそれに寄って集って、地獄から抜け出すためにクモの糸を独り占めしようとして結局みんな、また地獄に落ちた…っていう話のやつから取ったのか?…皮肉か?これ。」
肇が呆れたような顔で呟く。
「さてどうかしらね?でも、あなたたちにはどうでも良くない?」
校舎の上から声がして––––––全員が、見上げる。
そこには、ミステリアスレイディを纏った楯無がいた。
そしてその周りには甲龍を纏った鈴と、打鉄を纏った生徒たち。
「うげ…まぁ〜たお前かよ。」
肇は、如何にも面倒くさそうに呟く。
「篠ノ之さんとかんちゃんは返してもらうわ…そして貴方には死んでもらう‼︎」
楯無がそう叫ぶと、打鉄を纏った生徒たちが襲いかかってくる。
「–––ふん…」
肇はそれを、何でもないような顔で見る。
何せ、ラグのせいで少し動くごとに空中で停滞してしまうから。
肇は両手にM6A1を展開。
だが今目の前の打鉄を片付けるのは–––––––
「簪‼︎」
「うん。」
簪だ。
簪の打鉄改二の背中にマウントされていたミサイル発射基を、展開。
そして––––––
「山嵐炉号…斉射!」
簪は、マルチロックオンミサイル・山嵐炉号(燃料気化誘導弾)の引き金を、引く。
瞬間、凄まじい爆音と衝撃波と共に64発もの燃料気化誘導弾が放たれる。
そして山嵐炉号が、ラグで停滞していた打鉄を纏った生徒たちに弾着し––––––爆音が轟くと共に盛大に上がる火柱と凄まじい衝撃波と暴力的な気化熱。
それらが64回、連鎖爆発を引き起こす。
そして、打鉄を纏った生徒や甲龍を纏った鈴、楯無、校舎を巻き込んで、IS学園敷地内の建物を、蜘蛛之糸や市街地レイヤーの建物を除いて、全て消し飛ばす。
今ので鈴を含む生徒たちは死んだ。
「ぐぅ…こ、この…」
だが、何故か楯無だけは生き延びていた。
「…!肇、蜘蛛之糸の上部からゴーレム…形状からして新型複数‼︎」
簪が肇に叫ぶ。
だが瞬間、アンノウン(敵味方識別不明機)の接近を知らせる警報が、鳴る。
「アンノウン⁉︎…これ…ラファール・リヴァイヴⅡ?…でもシュヴァルツァレーゲンの反応が内部にある…?」
「…箒、悪いがゴーレムは頼む。簪は死に損ないの楯無を。俺はアンノウンをやる。」
「分かった。」
箒は右手に3式長刀を持ち、左手の追加装甲を地面にスパイク部を突き刺して、左側背部兵装担架から予備の3式長刀を展開して装備する。
網膜にはゴーレムⅢと表示されているISが8機。
多分ゴーレムⅠより強いだろう。…だが、箒に負ける気はしなかった。
決して油断してるわけじゃない。油断は身を滅ぼすから、しない。
だから、全力で、” 殺す ”。
紅椿の跳躍ユニットが後方に向けられ––––––ロケットモーターを点火。
瞬間、体を前のめりに傾けて、地面を蹴り––––––突撃。
ゴーレム群のど真ん中にある突っ込む。
当然、箒はゴーレムにロックオンされる。けたたましい警報音が響く。
けれど撃たない。いや、撃てない。
紅椿に乗っているのが箒だから。
クラス別トーナメントの時も、腕の砲身を向けはしたが、箒より僅かにズレたポイントを狙っていた。
箒が傷付くのを多分、人一倍嫌がる束は、箒に対してゴーレムは敵味方識別では味方扱いだった。
最後の最後に、自分を理解してくれるかも知れない––––––束の、そんな淡い期待があったから。
だから、肇は、それを逆手に取った。
瞬間、箒はゴーレム8機の真ん中に突っ込むと同時に両手の3式長刀で、耳障りな金属の裂ける音を響かせながらゴーレム2機を貫き、増設した背部兵装担架2基に搭載した突撃砲の12.7ミリ機関砲から、劣化ウラン弾を後方のゴーレム2機に向けて、放つ。
それでゴーレム4機は爆散する。
だがまだゴーレムは4機いる。
そして今度は指令コードが撃墜から捕獲に移り、4機の内、箒に最も近い2機のゴーレムが巨大な腕で紅椿を捕らえようとして––––––箒は、すかさず3式長刀を手放し、上腕部の1式甲部近接短刀を展開して––––––一閃。
甲部近接短刀を、弧を描くように振るい、ゴーレムの腕を斬り飛ばし、腕を振るう過程で先程撃墜したゴーレムに突き刺さったままの3式長刀を引き抜き、再度、一閃。
ゴーレム2機の胴体を斬りとばす。
残り、2機。
残った2機は箒を挟撃する形で前方と後方から迫り来る。だが、箒は慌てることなく、冷静に、後方から迫り来るゴーレムの腕を掴み、柔道の背負い投げの要領で、投げとばし––––––前方から迫っていたゴーレムに直撃。
そこに箒はすかさず先程とは別の長刀を拾い上げ、槍投げの要領で投擲し––––––ゴーレムは、装甲からISコア諸共、串刺しになる。
瞬間、爆発。
––––––後に残ったのは、爆炎が漂う中に立つ、深紅の装甲に補色関係である淡い青色の各種補助センサーと頭部のメインカメラ…通称:【睨み目】を煌めかせる紅椿壱型丙だった。
同時刻・数十メートル上空
市街地レイヤー
「へぇ、予想してたよりやるなぁアイツ。」
肇がゴーレム8機相手に無双する箒を見ながら、呟く。
「…で、お前にも驚きだよ。一番の懸念材料は織斑姉弟や篠ノ之束だったのに…それ以上の奴が来ちゃったなぁ…」
醒めた、それでいて何処か面白そうな笑みを浮かべながら、肇は目の前のイレギュラーを見据える。
「それは、どうも。」
ニッコリと笑いながら答える、シュヴァルツァレーゲンとブルーティアーズの残留情報を取り込み、強化して…挙句、篠ノ之束の管理下を離れた、右肩にパンツァーカノニーアを、左肩に羽のようにティアーズを装備し、腕にプラズマ手刀展開機構を装備した、【ラファール・リヴァイヴⅡ・オルタ】を身にまとい、ラウラと同じヴォーダン・オージェをその右目に宿したシャルロット・デュノアを。
「国崎くんだっけ?転校以来だね。」
シャルはやはり天使らしい顔で笑いながら言う。
「ああ…その様子だと俺が撒いたウイルスが原因でイかれちまったらしいな。」
肇は少し哀れむように言う。
「別に罪悪感を抱くことないよ。むしろ感謝してる。」
シャルは少し妖艶な声音で言う。
「君のお陰で色々知れたしね…この世界は長くは持たないこと、僕はあの道化にただただ報われない愛を抱き続けなきゃいけないこと…」
道化––––––織斑一夏の事だろう。
シャルは歌うように言う。
「ひどいな、ついさっきまでその道化とやらはお前からしたら恋人だったんだろう?」
小馬鹿にするように肇が聴く。
「うん、でももう良い。…だって、僕のスパイ云々の話は3年間の内にどうにかしようって淡い希望を抱かせてそのまま棚上げ。この世界が長く保ったって、僕には救いなんて無いもの。」
そう、シャルはどうせ救われない。
様々な修羅場や何やらの果てに、結局なぁなぁで箒と一夏は結ばれる––––––束のシナリオではそうだった。
……そこに、シャルの問題解決は、ない。所詮シャルはシナリオを盛り上げるための材料に過ぎない。
だから使い捨てられる。
「でもせっかく君が世界を壊してくれたし、お礼をしなきゃね。…でも、どうしよう、お礼できるものなんて無いし…」
シャルは困ったように言う。
それに肇は、にやりと笑って、
「別にお前が一番やりたい方法でやれよ。…戦いたくて、ウズウズしてるんだろう?」
今まで溜めた鬱憤をぶつけられる相手に、出会ったから、シャルは、
「うん、じゃあ死んで。」
楽しげに笑いながら、言って、パンツァーカノニーアを、放つ。
さらにそれと同時にAIC《空間停止結界》を発動…しかしラウラのものとは根幹から違うらしく、対象を空間固定するのではなく––––––対象を含めた周辺時間を緩やかに遅くするというモノだった。
「時空間加速《タイムアルター》––––––二段加速《ダブルアクセル》!」
だから肇は奥の手のひとつである、体内時間を加速させる機能を発動し、シャルの動きに追いつく。
「くっ…‼︎」
シャルとしては驚く。だが、肇と同じ様に歓喜に満ちた顔をする。
だって、互角に殺し会えるのだから。
シャルはティアーズを展開して、ビットを自身の周辺を回転させながら、肇に向けてレーザーを放つ。
セシリアのようにオールレンジ射撃や複数同時射撃は出来ない。
だが、ビットが撃墜される率は減る。
肇はそれに、M6A1の12.7ミリ機関砲をレーザーに向けて穿つ。
ビットのレーザーも、突撃砲の弾丸も、シャルのAICにより、空間で一瞬動きが止まっているに近いくらい、遅くなる。
肇の放った弾丸はシャルのレーザーを狙って、シャルの放ったレーザーは肇の弾丸を狙う形で空間に停滞し––––––
「…ッ、うっ…」
シャルが右目を抑えながら、ヴォーダン・オージェを解除。
瞬間、弾丸とレーザーがぶつかり合い、エネルギーの相殺によって爆発と衝撃波が生じ、市街地レイヤーのビルの外壁を吹き飛ばしていく。
思わぬ敵に肇は内心では困惑していた。
…でも、その表情は、どうしようも無いくらい、歓喜に歪んでいて––––––。
さて、そろそろ仮想世界はクライマックスです。
一言も喋ることも、刃を一度も交えることなく、鈴、哀れ蒸発…。
箒の紅椿は武御雷くらいの近接全振りっぷりをして箒自体も近接格闘術の腕を上げて並の射撃訓練したらこれくらい強くなれると思うんですよね…。
そして魔改造シャルの登場。しかも束の管理下から外れてる…。
そしてフェイトネタが入ってきてる…ま、まぁどうせ仮想世界の中だけだし…いいよね?