昨年の中ごろににじファンで川神市逗留記書いてたアミです。arcadiaではひゅろすとか、あおいぶたの名前で活動してました。
随分久しぶりに書くので、正直なところかなり文が怪しいです。
この作品は習作ということで文章の書き方が変わっていくかもしれませんので、ご了承ください。
四月二十四日。
七時半を少しばかり回って、ぽつぽつと人が増え始めた一年C組教室の一角で男子生徒たちがなにやら盛り上がっている。
その中心にいるのはこの話の主人公、藤枝平馬とクラスメイトA(本名柏木)だった。
彼らはどこから持ってきたのか、旧式の携帯ゲーム機を通信ケーブルでつないで遊んでいる。
低解像度の画面には青いユニフォームの選手がゴールを決める場面が映し出されて、続いて3-1と表示された。
「こりゃもう藤枝の勝ちっぽいな……くそー」
「今日の昼飯はちょっと贅沢できそうだ」
二人を取り囲んでいるクラスメイトたちが悲喜交々の呟きを漏らした。
彼らはこのゲームの勝敗を賭博にしていたようだった。あるものは昼食のおかずだったり、あるものはシャーペンの芯だったり。
まあ、可愛いものだ。
「相手が死ぬまで攻撃の手は緩めない。それがウズベキスタン戦士の掟」
「ウズベキスタンを馬鹿にするな。っていうかポルトガル使って負けるとかヤベエな」
「こっちがフィーゴとかやってるからそうなる」
架空チームの選手となってワールドカップを戦うサッカーゲーム。ゲームタイトルは、サッカーコンテスト2001。
今のところ、後半三十七分で三対一。勝っているのは藤枝の操るウズベキスタンだった。
「敗戦処理とかだるいんで、もう終わりでいい?」
「えー?」
そんな、終了ムード漂う一角に近づく影、否。ブルマ一つ。
「藤枝平馬!私と決闘しなさい!」
ピピー……!
「あっ、おい。敗色濃厚だからって狂ったようにキーパーを蹴るのをやめろ」
「蹴りやすいところにいるのが悪いんだ……あ、レッドカードかよ」
「当たり前だろ」
「む、無視!?このプッレーミアムなS組首席の私を?!無視!?」
とんだ扱いだった。
藤枝を含むC組男子は、少女の怒声に一度こそちらりと目をやったものの、すぐにゲーム画面に視線を戻してしまう。
興味なさげな男子たちの態度は、彼女の自尊心を大きく傷つけたようだった。
「まあ、こんなもんか。今度は落ち武者カーニバルで対戦しようぜ」
「なんでそんな懐ゲーばっかなんだよ。お前ゲーム機買えよー。今度はみんなでクリハンやろうぜ」
「バイト代入ったら検討するわ」
とは言え、バイト先のコンビニの給料日はまだまだ先だ。
体力も有り余っていることだし、日雇いのバイトでも探そうかとぼんやり考えながら携帯ゲーム機を鞄にしまって立ち上がる。
すると、視界の端っこで妙に拳をプルプルさせている女子生徒が見えた。
何故か一人だけ体操服姿だった。川神学園の女子の体操服は時代錯誤なブルマだ。
いつか見たような気がする。今さっきだったかもしれない。
「……ん?君ウチのクラスじゃないな。それに、なんでそんな格好してんの」
「無視に続いて、この私に対する第一声がそれ!?」
がたっ、と机に手のひらを叩きつけて、彼女は藤枝に詰め寄った。
彼女は他でもない、この川神学園一年の誇る特進学級S組の首席、武蔵小杉。
口角泡を飛ばす勢いで詰め寄る彼女を見て、藤枝は困惑しながらクラスメイトたちに"だれこいつ"的な眼差しを送る。
「なんか、決闘しろって言ってたけど」
「ふふん、ちゃんと聞いてるんじゃない。カッコつけて興味ないフリしてたわけね」
「決闘?ピストルでも撃ち合うのか?何かきみに侮辱でも働いたっけ?」
心当たりを探るために武蔵の顔をまじまじと眺めるが、恨まれるようなことをした覚えは……ない、筈。
どこかで迷惑をかけた相手の親類縁者ならわかるが、少なくとも武蔵家の墓を暴いた覚えはない。
「侮辱なら今さっき受けたけど、違うわ。生徒手帳の十二ページを見なさい!」
「んー?」
言われた通り、鞄から生徒手帳を取り出すと、十二ページをひく。
そのページには川神学園の決闘制度における取り決めが記述されていた。
単純なもので、暴力を伴うものは学長の許可がいるとか、遺恨を残して復讐とかしたら処刑するとか、インチキ八百長したら不思議な力で死ぬことになるとか、そういったものだ。
「ふーん。初めて知った」
「お前、朝礼でよく学園長が言ってるじゃん。切磋琢磨に活用しろとかなんとかかんとか」
「この鳥頭が覚えてるわけねーって……つーか、校則ぐらい覚えとけ」
言われるほど物忘れは激しくないつもりなんだけどなあ、と思いながらも、やはり朝礼云々は思い出せなかった。
それに、生徒手帳にロクに目を通していない以上、何を言っても意味のない言い訳にしかならなかったので、藤枝はごまかすように頭をかいてそっぽを向いた。
「決闘かあ、こないだ二年の川神先輩の見に行ったけど、迫力あったなあ」
「ああ、薙刀振り回してたな。あれが決闘か。なるほど……ああいうのをやるのか」
「そういうこと。既にA組とB組は制圧したわ!だから次はC組ってわけ……C組代表の藤枝平馬!勝負してもらうわ!」
「待った待った。いつ俺が代表になったんだ」
というか、代表って何だ。制圧ってのもあれだ。藤枝は思わずツッコミを入れた。
なんだか不良の縄張り争いみたいな話じゃあないか。制圧されたらシャーペンの芯でも上納するのだろうか。
そんな、益体もないことを考えていると、脇にいたクラスメイトが口を挟む。
「クラス委員だからじゃねーの?」
「遅刻していなかった俺にお前らが押し付けたあれか。恨みの心が今再燃したぞ。夜道には気をつけろよ。五、六人で取り囲んで袋叩きにしてやるからな」
「リアルに怖いから止めてくださいお願いします」
地味にクラス委員は面倒くさいものだった。
連絡とかの本来の仕事だけではなく、教師としても頼りやすいのか、授業の準備を気軽に申し付けてくる。
休み時間に次の授業の教師とかに見つかると、このプリント配っといてくれとか、機材の準備頼むとか言われかねない。
げんなりとした顔で恨み節を口にする藤枝は、何をするかわからない怖さがあった。
「くっ、なんだかこの空間にいると私の存在感が薄れてゆく気がするわ……!」
「地味にこのクラス変なの多いしね。ストーカーとか」
「もうしてないって!改心したよ!」
「わざわざ自白しなくてもいいですよ」
他にも、常時刀を携え、馬の人形付き携帯ストラップと喋る少女などがいる。
他の学年ではそういった一風変わった者たちは特進クラスのS組か、問題児クラスのF組に隔離されるのだが、今回は上手く選り分けられなかったようだ。
とはいえ、その濃いクラスメイトを放置しては話が進まない。
そろそろHRだし、と藤枝は彼らを視線で制して武蔵に訊ねた。
「で、決闘って何やんの。川神先輩みたいにチャンバラやるのか?勉強勝負とかは苦手なんで、ちょっといやだぞ」
「一対一で、無手での勝負を望むわ」
「それなら……まあ、いいか……学園長先生に聞かないといけないんだよな。許可とってくる」
「それは不要よ。こうしてワッペンを……」
≪クリスティアーネ・フリードリヒ!ドイツ・リューベックより推参!≫
「ん?」
「うごェっ!?」
手にしていたワッペンを机に叩きつけようとしたところで、何者かに背中を押されて足を滑らせた武蔵は、思い切り頭を机に打ち付けてしまった。
突然グラウンドから聞こえてきた大声に驚き、そちらに体を向けたC組のクラスメイトの肘があたったらしい。
がつん、と派手に音を立てて床に倒れこんだ彼女は、一度奇声を発したきり動かない。ぴくりとも、動かない。
藤枝がつま先でわき腹をつついて様子を伺うが、やはり動かなかった。
「やべえ、人殺しちまった」
「いや、生きてる生きてる……おでこが赤くなってるだけっぽいな。目とか鼻とかは打ってないみたいだ」
手首を掴めば、すぐに脈がとれた。
同年代の平均より若干少ないが、スポーツマンなら妥当な数。
自発呼吸もしていて、ただ気絶しているように見えたが、念のために養護教諭に押し付けてくることにする。
藤枝は彼女の胴に腕を回して担ぎ上げると、担任への適当な言い訳を頼み、教室を後にした。
……
…………
……
養護教諭に額にあざを作った武蔵を押し付けて、藤枝はグラウンドへと向かっていた。
目当ては先ほど推参したクリスティアーネ。どうやら、彼女が件の決闘少女、川神一子と決闘するそうだ。
別に恨みを買ったとかそういうのではなく、体育会系特有の歓迎会みたいなものらしい。
数年前、野球部にいたころに似たようなのがあったな、などといらないことを思い出して、藤枝はかぶりを振った。
「む」
「おっと」
考え事をしていたせいで、廊下の曲がり角で人にぶつかりそうになってしまった。
反射的に身をかわしつつ目を向けると、そこにはなんと軍服に身を包んだ長身の男性の姿が。
年齢は中年から初老に差し掛かろうかというころで、胸には無数の略綬が飾られており、服の膨らみと重心の偏りを見るに、恐らく腰から拳銃を提げていた。
本物かどうかは不明だが、尋常ではない。
なんでこんなやつが校内にいるんだ、と口元がひきつるのを抑えながら、藤枝は軽く会釈をしてから謝罪する。
「ええと、申し訳ないです。考え事をしていて。怪我はありませんか」
「いや、大丈夫だ。君こそ怪我は無いか?」
流暢な日本語でそう言う軍服男の眼差しは、どこか探りを入れるようなものだった。
ひょっとしたら、態度の変化に気づかれたのかもしれなかった。
とはいえ、これだけ異質な存在と相対して平然としていられる人間がいるとも思えないが。
むしろ、平然を装ったから注目されたのかもしれなかった。
「いえ、私も大丈夫ですので。失礼します」
なんにせよ、もう一度だけ謝って、藤枝は足早にその場を離れた。
振り返りはしなかったが、軍服の男が自分の背中をじっと見ていたことは、振り返らずともわかっていた。
……
…………
……
藤枝がグラウンドに出るころには、既に見事な人だかりができていた。
学校中の半分は下るまい。まさしく黒山と呼ぶべき景色だ。
「朝飯に弁当いかがッスかー!」
「さあ張った張った!」
商売に勤しむ連中の中で、見知った顔が賭札を売っている。
クセの強い生徒の多い川神学園でも特に目立つ男だ。赤いバンダナをしているから、というだけではない。
名は風間翔一。美形でスポーツ万能で好奇心旺盛で行動力のある、いかにもな感じの人気者だった。
ほんの一ヶ月前に彼のバイト先で知り合っての短い付き合いだが、度々彼や彼のクラスメイトと飲食店めぐりなどをしている。
「何やってんの」
「おっ、平馬じゃん!賭けてけよ。オッズは……」
オッズは拮抗していたが、薙刀使いの川神一子が若干有利と見ているものが多いようだった。
金髪さんこと、クリスティアーネ・フリードリヒの得物はレイピア。
突くのも斬るのもできる、取り回しの良い優れた器械だ。
とはいえ、リーチに勝る薙刀を自在に操る川神一子には苦戦を余儀なくされるだろう。
少しだけ考えてから、藤枝は財布から千円札を出した。
「んじゃ金髪さんに一枚だけ」
「ノリが悪いぞぅ。男なら厚く張らねーと」
「学生のクセに何言ってんだ」
賭札を受け取って、藤枝は見物場所を探した。
せっかく足を運んだのだから間近で見たいと思うのは藤枝もご多分に漏れずある。
同年代よりいくらか上背があったとしても、五尺八寸程度では背伸びをしても見えはしない。
「失礼」
よく見える場所を捜し求めて歩いていると、人のいない空隙があったので、そこへ身を滑り込ませた。
そこは一人の人間を中心に、半径一.五メートルに誰もいない不思議な空間だった。
「あ……」
「黛じゃん」
その不思議な空間の主は他でもない、藤枝のクラスメイトの黛由紀江だった。
噂の、刀を携帯して携帯ストラップとおしゃべりする彼女だ。
時々妙に気合の入った顔で挨拶をしてくるから、元気よく挨拶を返したりはするものの、藤枝自身、殆ど喋ったりした記憶はなかった。
「ここいい?」
「は、はい。どうぞ藤枝さん!」
「サンキュー。君、どっちに賭けた?」
「いえ、その、賭けごとはしていなくて……」
何故か、黛は申し訳なさそうに目を伏せた。相手の話に乗れないのが残念なのかもしれなかった。
そんな微妙な雰囲気に、居心地の悪さを感じた藤枝は、何かしら会話をつなげようと試みる。
黛も刀を持っているから、剣道なり何なりやっているのだろう。身のこなしは軽いし、かなりやるのかもしれない。
そう感じた藤枝は武術の話題をふってみる。
「剣道やってるんだろ?どっちが強いと思う?」
「あ、はい……フリードリヒ先輩が地力では上回っているように見えます。ただ、武器の差、場の変化でどちらに転ぶかは……」
「ふーん……凄いじゃん。達人みたいだな」
「い、いえ!私には、過分なお言葉です……!」
その見識に感心したからこその素直な言葉だったが、尚更畏まってしまった。
とはいえ、うつむいて顔を赤くしているから、褒められて照れているだけのようだが。
人見知りだが生真面目な性格のようだ、と藤枝は彼女への印象を修正した。
≪では、これより決闘の儀を始める!≫
「始まるみたいだ」
学園長が大声で宣誓した。ようやく、決闘が始まるらしい。
彼の呼び上げに応じ、川神一子、クリスティアーネ・フリードリヒの二人が応じた。
彼女たちはそれぞれの得物を持って、十メートル程度距離を空けて構えを取る。
一瞬の静寂。そして
≪はじめいッ!≫
学園長の合図とともに、剣戟の交わる音が鳴り響いたのだった。