真剣で青春謳歌しなさい!   作:阿見

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つなぎがおかしくなったのでちょっと編集


第四話

 

 

 

四月二十五日、土曜日。天候は晴れ。

うららかな午前の日差しの下、藤枝は当て所なく多馬川河川敷を歩いていた。

 

「なあ、暇なのか」

 

「もちろん暇じゃないわ。たかがC組のアンタにはわからないでしょうけど、プッレーミアムなS組の首席の座を保つには、鍛錬だけじゃなくて勉強も必要だからね」

 

「あっ、ムカつく言い方だな、それ。俺だって勉強ぐらいしてるよ。こないだの小テストだって七十五点超えたし・・・・・・」

 

彼の傍らには、何故か武蔵小杉がいた。

金柳街のコンビニからバイトを終えて出てきたところ、偶然遭遇してそのまま連れ立っている。

そして、彼女はジャージを羽織ってはいても、いつもどおりの体操服姿だ。休日だというのに。

貧乏でろくに着る服がなくてその格好なのか、あるいは特殊な趣味か。

聞こうかとも思ったが、藤枝はコンビニで購入した肉まんを一つ渡して、黙ることにした。

 

「アンタの成績なんてどうでもいいわ!私が知りたいのはアンタの実力の秘密よ」

 

「俺の秘密が知りたいのか?実は眉毛が先のほうで微かに二又に分かれているんだ、ほら」

 

「わっ、ホントだ!」

 

「これのおかげで表情がわかりにくいらしくてな・・・・・・冷たい男だとよく勘違いされる」

 

近づけた藤枝の太い眉をじっと見ると、米噛み付近で微かに二又に分かれていた。

藤枝の髪型は額が露わになるベリーショートだから気づかない筈がないと思っていたが、これには武蔵も驚きを隠せない。

だが、そんな話をしに来たわけではない。

すぐに正気に戻った彼女は藤枝の顔に人差し指を突きつけた。

 

「じゃなくて!武術の心得も無いやつがこの私に勝つなんて有り得ないでしょ常識的に考えて」

 

「勝ったじゃん」

 

「そう。勝ったわ。だから、そのカラクリを探りに来たわけ」

 

武蔵は、どうしても昨日の決闘に納得がいかないようだった。

昨日、放課後の武道場で川神学園の体育教師、ルー・リー審判による、武蔵対藤枝の決闘が行われた。

結果だけ言えば、五秒で藤枝に軍配が上がった。決まり手は背負い投げによる一本。

カラクリもネタも何も無い。

単に藤枝がリーチ、体格、腕力、体捌きにおいて上回っていた。そして、未熟な武蔵の技量ではそれを覆すことが出来なかった。

それだけのことだ。

 

「じゃああれだ。俺は江湖最強の独孤九剣の伝承者だったんだ。今思い出した。入学前に事故にあって記憶喪失だったからな。

 これなら俺はド素人じゃないから、負けたって言い訳つくだろ」

 

「か、完全に私を下に見てるわね・・・・・・」

 

嘘八百パーセントの藤枝の言い草には、武蔵も口元をひくつかせざるをえない。

とはいえ、なんと言ったら彼女が満足して退散するのか藤枝にだってわからない。

もう一度伸したら納得してくれるのかというと、怪しい。

手加減して負けたら、それはそれでプライドを傷つけそうだ。

今のところ思い浮かぶもっとも正解に近い答えは、昨日の朝に戻って、決闘を武蔵と同じぐらいの実力のクラスメイトに押し付けることだったかもしれない。

だが、タイムマシンは発売日未定な上に予約殺到で学生の身の藤枝にはとても買えそうにない。

だから、適当にあしらって逃げることぐらいしか選べない。

口にこそしなかったが、あの決闘と呼ばれた勝負は、藤枝にとって遊び以外のなにものでもなかった。

 

「そういうことだから、じゃ」

 

「ちょおっと待ちなさい!例え秘密があろうがなかろうが、再戦だけは受けてもらうわよ!」

 

「いやだよ」

 

「っ、アンタみたいな下等種族に負けたままなんて、誰が許しても自分自身が許せないわ!」

 

「俺はホモ・サピエンスなんですが」

 

「形而上のことを言ってるの。覇気の欠片も見えない男に負けたままじゃあ屈辱で夜も眠れないし・・・・・・」

 

「俺、将来の夢は地球大統領。これオフレコね」

 

「なにそのインテリジェンスの欠片も無い発言・・・・・・」

 

あまりにあまりな発言だが、藤枝にも確かに向上心やらやる気やらいったものが欠けている自覚はあった。

夢や、やる気を抱いてスポーツや勉強に打ち込んでいる人間は輝いて見える。自分もそうありたいとも思っている。

だが、現状無い物は無いんだから、無いまま生きるしかない。

足りない心のポリキャップBはただいま探し中なのだ。

ゴミに出してない限り、そのうち見つかるだろう。そう、思うしかない。

 

「というかさあ、ストーカーの真似事やるぐらいなら得意な勉強やってろよ。それなら俺に勝ってるだろ?」

 

藤枝の成績はせいぜい中の中から中の下あたりだった。学年首席の武蔵とは雲泥の差である。

昔はそれなりに出来て、結構ちやほやされてはいたのだが、今では凋落はなはだしい。

学習塾の冬期講習を活用して、なんとか浪人せずに川神学園に入学出来たが、ところどころわからないことがあって困っていた。

 

「他の分野の勝利で敗北を誤魔化せるほど、プッレーミアムなS組首席のプライドは安いものじゃないの」

 

「S組首席のプライドったって、まだ入学して一月も経ってないだろ・・・・・・」

 

藤枝には知る由もないが、その一ヶ月に満たない時間で、武蔵小杉は十回以上決闘を行っていた。

そして、ただ一度を除き、その決闘の全てに勝利している。

そうして培った自信やプライドこそが彼女を頑なにさせているのかもしれない。

あるいは、単にエゴイストなだけかもしれない。

なんにせよ、藤枝としてはどうでもいいことだった。

 

「まあ、そのうちな・・・・・・」

 

「そのうちっていつよ」

 

「そのうちはそのうちだ。というか、ほら。昨日きみの胸倉つかんだときに爪が割れちまったんだ」

 

「それでも私としては一向に構わないわ!」

 

「構えよっ、というか、ほら。構うだろ?プッレーミアムな武蔵さんのプッレーミアムなプライドは、負傷し、万全な状態ではない俺を破ったところで満足しないだろ?それともあれか、きみがプッレーミアムなのは嘘か?そのプッレーミアムは偽者か?偽者じゃないって言うならつま先見せてみろよオラッ」

 

「むむむっ」

 

まくし立てながら藤枝は右手の人差し指をつきつけた。

大作りで分厚い手に五本生えた、杭のような指はいかにも頑健そうだが、爪先に僅かな亀裂が入っている。

流石の武蔵もこう言われては引き下がらざるを得ない。怪我人に決闘を強要する卑怯者ととられるのは本意ではなかった。

 

「大の男が爪の一枚二枚で軟弱ね・・・・・・」

 

「・・・・・・やかましいやつだな。そろそろ黙らないと川に放り込むぞ」

 

鬱陶しいったらない。藤枝はいい加減辟易して、唾でも吐き捨てるような顔をした。

しつこい女は嫌われるぞ、とか言って見ようかと思ったが、なんだか口から出すには洗練されていない言葉だ。

だが、結局口から出てきた言葉はいかにも粗野な脅し文句だった。

 

「・・・・・・ハッ、やってみなさいよ」

 

ただの脅しか、最後通牒か。まさか、美少女である自分を多馬川に放り込むような男はいまい。

そんな思考を数秒だけめぐらせて、武蔵は挑発的に笑ってみせた。

 

「春真っ盛りに川辺で遊んでいたバカなブルマが水死体となって発見されたとして、誰が殺人事件だと思うだろうか」

 

例え脅しでも、川を背に強い力で両肩を捕まれては、首肯以外が許される筈もなかった。

 

 

 

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

 

 

 

「ところで、さっきから何してるわけ?」

 

何をするでもなく、地面を眺めながら河川敷を練り歩く藤枝を不審に思い、武蔵は訊ねた。

かれこれ二十分近くそんな藤枝の後ろにくっついて歩いている彼女も大概不審だったが。

振り返ることもなく、藤枝は答えた。

 

「探し物」

 

「何のよ」

 

「財布」

 

「落としたの?」

 

「風間君が手伝ってくれって言うんだよ」

 

今朝、早朝のコンビニバイトを終えた藤枝にかかってきた電話が切欠だった。

バイトの同僚が今朝仕事を終えて帰宅したところ、財布を紛失したことに気がついたそうな。

河川敷を歩いて帰った際にジュースを購入し、その際には持っていたそうなので、そこから自宅までに落としたことになる。

今ならまだ見つかるかもしれないし・・・・・・ということで、見つけたら報酬を出すから、と頼んできたらしい。

 

「2Fの風間先輩?」

 

「知ってんだ。美形だもんなー。気になっちゃうよなー?」

 

「むっ、ミーハーみたいに言わないでよね。エレガンテ・クワットロだから知ってるってだけだし!

 それに、どっちかって言うと源先輩みたいにタフで硬派な感じのほうが好みだし・・・・・・」

 

藤枝がからかうと、武蔵はむくれながら反論した。

ちなみに、エレガンテ・クワットロというのは誰が言い始めたか知らないが、川神学園の美形四天王のことだ。

ミスコンの男版みたいなものだと思ってくれていい。あるいは、クラスに一人はつけてるやつがいる、イケてる女子のランキングみたいなものだ。

このあたりの感覚、性差はないらしい。

現状、二年の風間翔一、源忠勝、葵冬馬。三年の京極彦一がそのエレガンテ・クワットロなのだそうな。

 

「別に好みまでは聞いてないけど」

 

「・・・・・・ゴホン、ゴホン・・・・・・」

 

「武蔵小杉はタフで男らしいのがお好き、と」

 

「あ、ああーーーっと、い、犬がいる!」

 

「ん?おお、犬だ」

 

からかわれることから逃れるための、露骨な話題逸らしだったが、確かに武蔵が指差した先には犬がいた。

春になって雑草にまみれつつある川辺に紛れて、柴犬に似た感じの中型犬が一匹。

人懐っこそうな間抜け面をしている。かわいい。

首輪がついているので飼い犬だろうが、飼い主らしき人物の姿は見当たらない。

飼い主がいてはなんとなくかまうのも憚られるが、いないのならば頭の一撫でもしたくなるのが人情というものだ。

藤枝は屈んで目線を下げ、犬に、こっちこい、とジェスチャーをかける。

 

「犬、いいよね」

 

「いい・・・・・・って、こっち来た」

 

はっ、はっ、と息を荒げて犬がやってきた。

見た限りは清潔にしているし、おそらく病気もしていない。

赤い首輪には油性マジックで、タマ、と書いてある。名前だろう。

 

「知性が滲み出てくるようないい名前だ」

 

「そう?」

 

「ようタマ。この辺で財布見なかったか?茶色い長財布なんだが」

 

頭を撫でて、ジェスチャーを交えながら藤枝がそう話すと、タマは二回元気に鳴いた。

 

「・・・・・・」

 

「本気で喋ってるわけじゃないですよ?」

 

本気で犬と喋っちゃう人を見るような目で見られるのは不愉快だ。

人の心がわからんやつだな、と武蔵に悪態をつきながら立ち上がると、タマは先ほどまでいた草むらへと戻っていく。

しかし、戻るなりUターン。何かをくわえてタマはもう一度やってきた。

 

「・・・・・・」

 

「ええと、本気で喋ってるつもりじゃないんだ。喋れてるわけでもない。ホント・・・・・・多分な」

 

今度は、信じられないものをみるかのような目をした武蔵だったが、信じられないのは藤枝も同じだった。

タマがくわえて持ってきたものは、藤枝が言ったような茶色の長財布だった。

今朝に電話で聞いた財布の特徴をメモとして残していたので、ポケットから取り出して確認する。

色、デザイン、ブランド、財布の中に入っているカードの名前。

幸運というか、偶然というか。

感謝の気持ちを伝えたいが、飼い犬に何か与えるのもいけないので、首元を撫でることにとどめる。

すると、タマは一度だけ威勢よく鳴いてから、お座り状態だった腰を上げて勢いよく何処へともなく駆け出す。

目で追った先、ほんの豆粒よりも小さく見えるぐらい先では、タマは飼い主らしい人物の足元をぐるぐると回っていた。

 

「まあ、よかったよ。見つかって・・・・・・あ、電池切れてる」

 

携帯電話で風間に見つかったと連絡を取ろうと思ったが、生憎なことに電池が切れていた。

まだ携帯電話を購入してから日が浅く、毎日充電するという習慣がなかったから、こういったことは珍しくなかった。

仮に武蔵が持っていて、それを借りたとしても無駄だ。電話番号やアドレスは覚えていない。

そこで、風間は川下のグラウンド付近のウォーキングコースを探すと言っていたことを思い出し、藤枝は川下を探すことにした。

 

 

 

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

 

 

 

川下のグラウンドではシニアの野球チームが試合を行っていた。

キャッチャーが大声を張り上げると、それに呼応して内野も外野も声を出す。

そんな少年たちの姿を眺め、藤枝は昔というほどでもない、かつてのことを思い出す。

昔、小学校のころには藤枝も野球をやっていた。

本人の希望ではなく、親の希望だ。

練習がある日には日曜日の午前中が、試合がある日には日曜日が丸ごと潰れたので、あまりいい思い出ではない。

打ち込むだけの愛情でもあれば話は別だろうが、藤枝には愛情も自主性もなかった。

 

「武蔵は習い事とかやってんの?」

 

「武蔵家の女として恥ずかしくないだけの教養はあるつもりよ。茶道に華道も免状貰ってるし、書道だってプッレーミアムな段持ちだもの」

 

「茶道や華道は知らんが、書道の段持ちってプレミアムってほど凄くないだろ・・・・・五段とか六段なら別だけど」

 

かくいう藤枝も書道は初段を持っている。

持ってはいるが、彼の字は汚い。テストや大事な書類ならば気合を入れて書くが、ノートやメモ書きなどは酷いものだ。

重度の金釘文字は、おそらく彼以外の人間が見たところで解読できまい。

 

「というか、何。きみって結構いいとこのお嬢様なわけ」

 

「ふふん」

 

明言はしなかったが、武蔵は誇らしげに鼻を鳴らした。

てっきり、体操服ぐらいしか着るものがない貧乏人だと思っていたが、間違っていたようだ。

思えば、血色はよかった。

藤枝は彼女に対する失礼なイメージを内心で訂正した。

 

「へえ」

 

「えっ・・・・・・スルー?・・・・・・えっ?」

 

「習い事も、楽しくやれてりゃそれが一番だよな」

 

習い事なんてものは大抵親の勝手で決められるものだった。

小学校のうちは、ピアノ、そろばん、水泳、習字、それから野球とやらされていたが、あまり身になった気はしない。

中学校にあがってからはそれらから解放され、自分の意思で部活をやってはいたが、いろいろとあってやめてしまった。

半ば、反抗期のあてつけ染みた理由であり、半ば、友達づきあいの延長であり。

しかるべき、とでも言おうか。なんにせよ、過ぎたことだった。

知らずのうちに思考が汚泥の中に沈み込もうとする。そんな時、不意に声をかけられた。

 

「ん、おーい!へーうま!見つかったか?」

 

「・・・・・・あ、ああ。へーうまって呼ぶなよ!見つけたぞ!これか?」

 

先ほど見つけた財布を掲げて近づくと、他にも人がいることに気づいた。

ほかの友人たちにも協力を要請していたらしい。

藤枝と同学年か、あるいは年下に見えるぐらい小柄でかわいらしい感じの顔つきの少年がひとり。

同じく藤枝と同学年ぐらいに見える、生意気そうな、中性的、というか女顔の少年がひとり。

とはいえ、藤枝自身実年齢よりも一つ二つ上に見られるのが常なので、その印象はあてになるまい。

 

「ん・・・・・・ちょっと待て・・・・・・おお、これだこれ!早速電話かけて報告するから待っててくれ」

 

財布の中にはいっていた、家電屋のカード、そして、藤枝が見たときには気づかなかったが、カード型の学生証を確認する。

現金もしっかりと入っているようで、誰かがネコババしたということもなさそうだ。

間違いないと判断した彼は電話で依頼主と連絡を取る。

見つかったから今日のバイトの時に渡しにいく、という本題と、関係ない脱線話を数十秒してから彼は電話を切った。

 

「いや、ホントに助かったぜっ。そう言えば、報酬いらないって言ってたけど本当にいいのか?貰っちゃうぞ?」

 

「大丈夫だ。また今度美味い店でも教えてくれればいいからさ」

 

金に困っているわけではなかった。仕事のつもりで探していたわけでもない。

 

「そうか?なら、今度奢ってやるよ!可愛い後輩をタダ働きさせたんじゃ悪いからな!」

 

「あんまり気にしなくていいって、ただの暇つぶしだしな。まあ、期待してるよ。それじゃ」

 

「じゃーな!」

 

手を振る風間に、軽く手を上げて返すと、藤枝はその場を後にした。

感謝されるのは気分がいい。

大したことしていなくとも、立派な人間になったような気分になれる。

足元の影を見れば、もうじき正午を越えそうだった。

藤枝は何の気なしに武蔵に声をかける。

 

「昼飯どうする?」

 

「え?・・・・・・特に考えてないけど」

 

「なら、コンビニ行こうぜ。コンビニ」

 

「・・・・・・は?」

 

 

 

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

 

 

 

「このお弁当賞味期限切れてるんだけど」

 

「少しぐらいいいだろ。食わなきゃこれ、ゴミになるんだぞ。もったいないと思わないか」

 

「いや、知らないし・・・・・・」

 

ラローナ川神付近の公園のベンチにて、鳥そぼろ弁当をかきこむ藤枝と、それを白い目で見つめる武蔵。

彼らが持っている弁当は他でもない、藤枝の働いているコンビニで出た廃棄商品だった。

とはいえ、品質には何の問題もない。

冷蔵庫に入れておけば夏場でも二日三日は平気で保存がきくし、そもそも彼らが前にしているのはまだ数時間前の検品でハネられたものだった。

勿体無い精神を発揮するまでもなく、普通に食べられる。

 

「日ごろ地球環境ぶち壊しまくってるんだから、たまには殊勝な気持ちで廃棄弁当でもつつくのも悪くないだろ。結構美味いぞ」

 

「私ほど地球環境に優しい人間はそういないと思うけど」

 

「いつも体操服だしな。何?代えの服ないの」

 

「んなわけないでしょ!行住坐臥、いつでも戦いを意識しているからこその動きやすい服装なの。わかる?」

 

一理ぐらいはあるかもしれないが、だからといって他人の目を気にしないのはいかがなものか。

街を歩けば、すれ違う人間が武蔵のことを目で追っているのは、彼女の見目だけに注目しているわけではないだろう。

 

「・・・・・・」

 

「あによ」

 

「まあ、いつも体操服なきみも素敵だと思うよ」

 

「おおっ・・・・・・?!よくわかってるじゃない!」

 

藤枝は何か忠告でもしかけて、結局止めた。

わざわざお節介みたいなことを言うのもあほくさいし、皮肉っぽくお茶を濁すだけにとどめる。

皮肉が通じなかったのか、武蔵も気を良くしたようなので、言うこともなくし、藤枝は無言で弁当を食べ続けた。

もそもそとそれなりの味の鳥そぼろ弁当を食べながら過ごす休日の昼下がりは、そう悪いものではなかった。

 

 

 

 

 

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