真剣で青春謳歌しなさい!   作:阿見

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推敲するとあれですね。何度も書き直してあれですね。
投稿が一ヶ月ぶり近くなったのは別にエルミナージュ2とかディスガイア2をやっていたからだけではありません。


第五話

 

 

「おはよーさん」

 

「おっすおっす」

 

本日は月曜日。天気は晴れ。

最近はよく晴れて、雨が降っても夜明け前には上がってしまうことが多かった。

教室内はまだ人もまばらで、まだホームルームには間がある。

とはいえ、三日ぶりに再開したクラスメイトたちは、元気よく挨拶をすると気さくに返してくれた。

ぬるま湯のような、心地の良い空気だ。藤枝はこのクラスのことが気に入っていた。

 

「黛は・・・・・・まだ来てないのか?」

 

「えっと・・・・・・黛って、剣持ってるやつだろ?何、知り合いになったの?」

 

「友達になった。まあ、興味があるならお前も話しかけてみたら」

 

好奇心ありげに問いかける柏木に、藤枝は適当に返した。

黛は善良な人間だとは思うが、松風に喋らせる内容は良くも悪くも明け透けだから少しばかりクセが強い。

人間、相性というものがある。忍耐力や相互理解によってある程度は解決できるとはいえ、どうしてもウマが合わない人間がいることは、今までの短い人生経験でも感じていた。

 

「顔は可愛いよな。だけど、こないだ話しかけたら凄い目で睨まれたんだけど」

 

柏木は、その、≪こないだ≫を思い返してどうしたものかな、と悩むそぶりを見せた。

黛は表情を作るのが不得手のようだったから、笑みを浮かべようとして顔がこわばったのかもしれない。

あるいは、セク質でも仕掛けて睨まれたのかもしれない。

なんにせよ、その程度でコミュニケーション不能と断ずるようでは根気が足りないといわざるを得ない。

藤枝は鞄から引っ張り出した学習用具を机に移しながら、どうでもよさげに茶化した。

 

「お前の息が臭かったのかもな」

 

「ちっ、ちっげーよ!臭くねーよ!なあ!おい!嗅いでみろよ!」

 

「やめろ。毒状態になる」

 

「違う。そんなことは断じてない。俺の息は、眠り状態になるんだ・・・・・・」

 

「甘い息って柄かよ・・・・・・まあ、臭くはないから安心しなよ」

 

「だろ!」

 

「・・・・・・」

 

何も言うことはない。藤枝は席について天井を見上げる。

古びてくすんだ蛍光灯が二回点滅して、顔を照らした。

 

「ところで金曜日どうだった?負けた?」

 

「何その聞き方・・・・・・」

 

「もったいぶるなって!どうせ負けたんだろ?」

 

「どうでもいいだろ、そんなこと。それより落ち武者カーニバルやろうぜ。2な」

 

「何その露骨な話題逸らし・・・・・・」

 

「真似するなよ」

 

ごちゃごちゃと言いつつも、二人は通信ケーブルやらゲーム機やらを取り出した。

決闘の勝敗よりも携帯ゲーム機のほうが気になるようだ。

柏木は主人公の明智光秀をチョイスし、藤枝は隠しキャラの農民を選択した。

低画質の液晶画面上では光秀率いる落ち武者軍団が、ほっかむりをした農民率いる農民集団と戦っている・・・・・・

勇ましく戦う光秀は必殺技のバーニング本能寺を炸裂させるが、基本的に格上にダメージボーナスが入る技なので農民には効果が薄い。

一方、農民勢の怒涛の増殖戦法と即死攻撃はアイスのように落ち武者軍団を溶かし、やがて奮闘する光秀を飲み込んでいった。

・・・・・・農民リーダーが光秀のトレードマークであるウサ耳兜を手に、ドラクロワの絵みたいなポーズを取っている。

諸行無常。

 

「農民使用禁止にしようぜ。召喚技と即死攻撃の両方持ってるとかバランス明らかにおかしいし」

 

「勝頼はあり?」

 

「土屋と小宮山同時召喚しなければあり」

 

「それじゃー・・・・・・ん?」

 

「・・・・・・」

 

教室の扉が開く物音が一瞬だけして、ぴたりと止んだので、藤枝はそちらに目を向けた。

見れば、黛が扉の隙間から教室の中をうかがっている。見るからに挙動不審だ。

やがて目があうと、彼女はその状態のまま軽く会釈して見せた。

 

「何やってんだ?」

 

「何が?」

 

「いや・・・・・・ゲームはまた後にしよう。ちょっと俺は野暮用」

 

「女か」

 

「そうだな」

 

「マジでー?」

 

ことわりをいれると、藤枝は席を立って黛のもとへと向かった。

何か自分に用事があるのだろう、そう思ってのことだ。

人が増えてにわかに騒がしくなってきた廊下に出ると、黛が松風片手に話しかけてくる。

 

「おっ、おはようございます!」

 

「うん。おはようございます。朝から元気がよくて、とてもいいな」

 

「あっ・・・・・・ありがとうございます。なんだか、久しぶりに誰かに褒められた気がします。

 その、今日はお話したいことがありまして・・・・・・」

 

わくわくそわそわ。効果音をつけるのならば、こんな感じだった。

何か嬉しいことや楽しいことがあって、それを友達に話したくて仕方がない。そんな風に見える。

見た目はむしろ大人びて見えるぐらいなのだが、こういったところはいかにも子供のようだ。

藤枝が相槌を打つと、彼女は弾んだ声で話し始めた。

 

「昨日のことなんですが、なんと・・・・・・」

 

『テレッテッテーーーー、デデン!』

 

「寮の皆さんの仲間に入れてもらったんです!」

 

松風に効果音までやらせて発表したのは、友達が増えたということだった。

寮の皆さん、ということは友達一挙獲得チャンスを掴み取ったということだろう。

藤枝も黛が寮生だということは知っていたが、馴染めていないんだろうな、と思っていたので素直に感心した。

 

「へえ、やるじゃないか。寮には同学年はいる?先輩ばっかり?」

 

「あ、皆さん先輩の方々です。風間ファミリーと言って、とても仲良しそうで・・・・・・」

 

『いつもまゆっち羨ましそうに見てたもんねー』

 

「ですが、今は私も風間ファミリーなんですよ!」

 

「風間ファミリー?・・・・・・ん、ああ。風間君か。彼、何気に面倒見いいからな。よかったじゃないか、ホント」

 

風間、という苗字は藤枝の知る限りでは風間翔一しかいない。

彼はおせっかい焼きではないが、コミュニケーション能力が高く、快活で善良だ。多分。

フレンドフィーとるようなくちでもなし、悪い遊びを教えたりもしないだろう。多分

友人が路地裏で恐喝とかしているのを見るのは忍びない。

あまりに評判の悪い相手ならそれとなく告げ口のひとつでもしようかと思ったが、必要はなさそうだった。

 

「あれ、知っているんですか?」

 

「俺と同じぐらいの背丈で、バンダナ巻いたスマートな美形の風間翔一なら知ってる」

 

「あ、はい。その風間先輩です」

 

「言われてみりゃ、キャップとか言われてたな。キャプテンのキャップか。キャプテン何某なら俺も大好きだよ。まっ、ファミリーならボスのほうがらしいけど」

 

ただの言葉遊びだろうが、マフィアのようだ。

さしずめ黛は用心棒だろうか。刀持っているし。ゆらり、と効果音を立てて登場したり。

 

「ファミリーって言うんだから、他にもいるんだろ?何人友達ゲットだぜ?」

 

『都合八人友達ゲットだぜ!』

 

「一網打尽です!」

 

「その表現はどうだろうか・・・・・・まあ、よかったじゃないか。おめでとう」

 

『ありがとーう!アリガトーゥ・・・・・・アリガトーゥ(エコー)』

 

「このままスターダムに駆け上がります!」

 

見るからに有頂天になっていた。周囲の同級生たちの視線が少しばかり痛い。

とはいえ、今まで友達いなかった人間がここ数日で一気に、藤枝含め九人も友達増えたのなら無理もない。

川神百代、川神一子、椎名京、クリスティアーネ・フリードリヒ、風間翔一、直江大和、島津岳人、師岡卓也・・・・・・

と、新しく出来た友人の名前やら特徴やら、こういう会話をしたやら、楽しそうに黛は話した。

先日見せたこわばったそれではなく、和やかな笑みだ。誰かに話したくてたまらなかったのが見て取れる。

藤枝にも、そういう気持ちはなんとなくわからないでもなかった。

 

「川神一子先輩と、風間君には面識あるけど、他は知らないな・・・・・・三年の川神先輩とフリードリヒ先輩は見たことはある。一方的に知ってる、ってことだな」

 

三年の川神先輩・・・・・・川神百代は、おそらくこの学校中で知らないものはそうはいないだろうほどの有名人だ。

時折、昼休みの校内ラジオ、ラブ川神でパーソナリティを務めているから・・・・・・だけではない。

彼女は、武神の異名をとる、世界に名だたる武術家なのだ。比喩ではなく一騎当千、万夫不当。

聞いた話によると○めはめ波みたいなビームとか撃つらしく、異星人だとか、古代文明が作った最終兵器だという噂もある。

ちなみに、化け物染みて強いからって別に化け物みたいな外見はしていない。美人だ。

藤枝も、顔を合わせたことこそないが、遠目に何度か見たことがあった。

ある種、超人的な存在であり、彼にとっても気になる存在だった。

 

『すっげー、友達の友達って実在したんだー』

 

「世の中には知らないことがたくさんありますね、松風」

 

「・・・・・・楽しそうで何よりだな」

 

つっこめばいいのか、同意してやればいいのか分からず、藤枝は曖昧に相槌を打った。

その瞬間、黛の眉根がぴくりと動き、彼女の持つ雰囲気がほんの僅かに変質したことが藤枝にはわかった。

別に、望んだような返答が帰ってこなかったから気分を害したとか、そういうわけではない。

彼女は背後に向き直ると、階段フロアの物陰から襲い掛かってきた何者かに備える。

 

「まゆまゆ見ーーーーっけ!」

 

「かっ、川神先輩?!」

 

噂をすれば影とはこのことか。

物陰から現れた闖入者は、川神百代その人だった。

スキンシップの激しい人のようで、彼女は困惑する黛を胸元にかいぐった。

 

「先に一人で行くなよー」

 

「あっ、す、すみません。その・・・・・・お友達に、いち早くお知らせしたいことがありまして」

 

少しばかり照れくさげに、黛は藤枝を見やる。

この人が私の友達なんですよと言うような誇らしげな顔をされ、藤枝はどこかむずがゆそうに身じろぎした。

 

「むむ・・・・・・そいつか。友達第一号って。まゆまゆの初めてを奪うとは・・・・・・」

 

百代は切れ長の眼差しを向け、じろじろと藤枝を見回した。

初対面でそいつ呼ばわりはあまりにあまりだが、二つ上の先輩なので仕方がない。

藤枝は彼女に向き直ると、軽すぎず慇懃すぎずの会釈をして名乗った。

 

「どうも、藤枝です。お噂はかねがね」

 

「ああ、川神百代だ。・・・・・・興味本位で聞くんだが、どんな噂なんだ?」

 

「強くて、優しくて、美人だって。今さっき黛が言ってたんで・・・・・・

 うれしそうに話すもんだから楽しみにしてたんですよ。紹介してくれるのかなあ、ってね」

 

半分は黛へのからかい、もう半分は、何も話題を持っていないからものの試しに振ってみただけのことだった。

直接褒められるとお世辞に感じても、誰かが褒めていたことを伝えられると、それをお世辞とは思わないようで。

あまり不愉快に思う人もいないので、会話の取っ掛かりとしては上等だろう。

 

「まったく・・・・・・まゆまゆはカワイイなあ!モモ先輩かっこは・あ・と、って親しみを込めて呼んでみ、ほれほれ」

 

「あわわわわ・・・・・・!」

 

顔を真っ赤にしながら、助けてくれとも、何言ってんだとも、どうしようとも取れる眼差しで黛は藤枝を見やった。

百代はまるで小動物だか何かを愛でるように、彼女の頭を撫で回している。

この手のコミュニケーションを好む女子は何度も見たことがある。

特別珍しいものでもなし、猛烈に嫌がっているふうでもなし、藤枝は何もせずに曖昧な笑みを返した。

 

「その笑みの意味は一体?!」

 

「まあ、黛はカワイイよ。わかる。なんというのかな、癒し系というか、なんというか」

 

「そっ、そんな。私ごときが恐れ多いです・・・・・・!」

 

『まゆっちが優良物件なのは事実だけど、ちょっとやそっと褒めたくらいで好感度アップはしないってばよ』

 

さきおとといチョロいやつ呼ばわりされたのを根に持っているのか、松風を使って抗議してきた。

主音声と副音声で違うことを言っているときは、恐らく副音声の方が本音なのだろうな、と藤枝はぼんやりと考える。

彼女は小心者に見えて意外と自己主張はしっかりしてる。

 

「お前よくわかってるじゃないか。まゆまゆはなんというかこう・・・・・・抱きしめたくなるよな!」

 

「訴えられたくないんで俺はやりませんが。美人の特権なんですか、そういうのは」

 

「正確に言うなら美少女の。より正確には、私の特権だな」

 

言って、百代はふてぶてしく笑ってみせた。

行いに善悪など求めたこともないような、拠りどころを必要としないような、あるいは何も考えていないような。

そんな、笑みだ。楽しそうだ。

まだまだ自分には出来そうにないそれを見て、素直に、素敵だ、なんて思ってしまった。

自分自身をごまかすように、藤枝は軽口をたたく。

 

「人気あるわけだ。キュンときた」

 

「惚れていいぞー。だけど、弱い男はノーサンキューだ。頼りがいのある男じゃないとな」

 

「川神先輩に頼られるようになるにはまだまだ修行が足りないかな・・・・・・」

 

「自信のない男は趣味じゃないぞー・・・・・・まあ、骨のある男がいないから、女の子にばかり目が行くわけで。まゆまゆ、お嫁に来ないか」

 

「えっ・・・・・・ま、松風!これはもしやぷろっ、プロポーズなのでは?!」

 

『まままままあわわまわあわわわわて』

 

「いや冗談だよ」

 

「・・・・・・もっ、弄ばれました・・・・・・」

 

『ドーンマイまゆっち』

 

「本気で言われてもどうせ困るんだろー?」

 

目を丸くして驚いたような表情で小芝居を始める黛をよそに、百代はそっぽをむいてつまらなそうに口をとがらせた。

 

「ん・・・・・・?」

 

そうして、三人で他愛も無い話に興じていると、藤枝は視線の数が露骨に増えてきたことに気づいた。

いずれも同級生だが、女子の眼差しに宿る、好奇心というよりも悋気に近いものが気になる。

憧れの川神百代先輩が一年の教室フロアで下級生二人と親しげに話しているから、かもしれない。

百代もそんな視線に気づいたのか、黛を解放して居住まいを直した。

 

「・・・・・・さて、あんまりおにゃのこを待たせちゃ悪いからな。そろそろ行くか」

 

「人気があるってのも大変そうだ」

 

「気にするな、楽しみの方が多い。まあ、お前もいい奴そうでよかったよ。それじゃ、またな」

 

それだけ言って、百代は去ってゆく。

まるで砂鉄を集める磁石のように女子生徒を引き付ける彼女の後姿を見送り、藤枝はひとつ息を吐いた。

去り際の言葉を察するに、黛の様子を心配して来たようだった。妹持つ姉らしく、面倒見がいいらしい。

 

「いい先輩じゃないの。周りの人に恵まれてるな、まゆまゆ?」

 

「それは・・・・・・私には勿体無いぐらいで、本当にありがたい気持ちでいっぱいで・・・・・・」

 

『だけどできればまゆっちって呼んでほしいなー』

 

別にまゆっちでもまゆまゆでも藤枝としてはどうでもよかったが、不意に、あることが気になった。

黛は友達がいないといっていた金曜から、松風にまゆっちと呼ばせていた。

まゆっちは、マユズミのマユからもじったものだろうから、親兄弟にそう呼ばれているわけでもあるまい。

自分で自分のあだ名を考えたのだろうか。想像するだけで足から力が抜けるようだ。

≪自分のあだ名、自分で考えたの≫とか、聞こうと考えただけでもなんだか死にそうな気分になる。

 

「あだ名か・・・・・・」

 

「友達とあだ名で呼び合うのってずっと夢だったんです」

 

「・・・・・・黛の場合パペットマペットとかあだ名つけられそうだよな」

 

『なんかー、藤枝っちの言ってること、ちょー意味不明なんですけどー?』

 

「同上です」

 

あだ名には何かこだわりがあるようだ。

腹話術ではなく付喪神である、という設定で通している以上、腹話術師的なあだ名は否定せざるを得ないのかもしれなかった。

ともあれ、黛は藤枝の話を流して、話を切り替える。

 

「と、ところで、先日お話した友達記念日のことなんですが」

 

「そんな記念日は知らない」

 

「あ、私に生まれて初めて友達が出来た記念のことです」

 

『三日前に制定されたんだぜー』

 

金曜日のことだろうと思うと輪郭がはっきりしてくる。

手料理を振舞うとか、なんとか。三日前の話なので詳細は怪しいが、藤枝にもそんな話をした覚えがあった。

 

「美味いものを食わせてくれるってあれか。楽しみに待ってるから、急がなくてもいいぞ」

 

「実家の両親が食品を送ってきてくれたんです。日持ちしないものもあるので、都合のいい日をお聞きしようと思いまして」

 

『地元の加賀だけじゃなくて能登の品もあるでよー。海の幸も山の幸も北陸の味がぎっしりだがや』

 

「加賀って金沢のあたりだよな。石川県出身なのか・・・・・・ああ、だから松風」

 

松風と言えば前田慶次だ。そして、前田慶次は加賀百万石の大名、前田利家の甥だ。

だからなんだ、といえばそれまでだが、なんとなく納得した。

なんとなく。

 

「いつでもいい。それこそ今日だろうと明日だろうと明後日だろうと。そっちに合わせる」

 

「でっ、では・・・・・・今日の放課後、藤枝さんのお宅にお邪魔させていただいてもいいですか?」

 

「・・・・・・俺の家か?ううむ・・・・・・俺んちはちょっとな。掃除してないんでね」

 

ここ、川神に越してきて一ヶ月になり、藤枝の借りたアパートの一室の隅にはゴミ山が築かれつつある。

一人暮らしというものは存外大変で、掃除や料理、それこそゴミ出しひとつとってもいろいろ悩んだりする。

もうじき黒くて足の速い虫が湧く時期なので、気が重い。

 

「あの、よかったらお掃除の手伝いを・・・・・・」

 

「なるほど、掃除を口実にして俺を誘っているのか。案外ドスケベだな」

 

「ドすっ・・・・・・?!ごほっ、ごほっ!」

 

「大丈夫か?」

 

一瞬で顔を真っ赤に染め上げた黛は、抗議の声をあげようとしてむせたようだった。

少しからかっただけでこんなに反応してくれから、とてもからかい甲斐がある。

背中を一、二度叩いてやると、ようやく落ち着いてきた。

 

「だ、大丈夫ではないです・・・・・・」

 

『謂われのない誹謗中傷には断固として戦う所存』

 

「すまない、ただの冗談だ」

 

藤枝にだって、黛が善意で申し出ているということはなんとなく察しがつく。

別に本気でドスケベだとか、むっつりとか思っているわけではない。

 

「それじゃ、今日来てくれるなら、片付けとく。あ、襲い掛かったりはしないぞ?」

 

「そ、その・・・・・・信用しますから」

 

『何かあっても藤枝っちじゃ返り討ちだってばよ』

 

「そんな信用いらねえなあ」

 

言いながら、藤枝は自分の仮住まいであるアパートへの地図をメモする。

バイト先のコンビニエンスストアのある、金柳街の近くだった。

風呂もトイレも部屋についているし、交通の便もいいのだが、四階建てでエレベーターがついていない上に築三十年の物件だったので妙に安かった。

 

「多分わかると思うけど、道に迷ったら・・・・・・ええと、青い建設会社の看板・・・・・・ああ、ここから見えるだろ。あれ。

 あのビルの下で待っててくれ。遅いようなら迎えに行くから」

 

「あ、はい。お世話になります。あまりアーケードの方には行った事がなかったので」

 

『一緒に行く友達いなかったしね』

 

「案内する。結構便利なんだ」

 

自虐ネタを華麗にスルー。

どの辺りが黛の好みだろうか、と金柳街をシミュレートしながら藤枝は地図を書き上げる。

金柳街はスーパーマーケットやコンビニをはじめとして、ゲームセンターや本屋など、学生のたまり場には事欠かない。

川神学園の生徒もご多分に漏れず、放課後を過ごす姿が見られた。

確かに、一人ぼっちでうろうろするのは少しばかり寂しい気分になるかもしれないが、友達はこれからいくらでも作ればいい。

それを手渡すと、示し合わせたかのようにホームルーム前の予鈴が鳴った。

 

「お、そろそろ時間だ。戻ろう」

 

「はい。え、えっと・・・・・・」

 

電話番号と自宅までの地図が記載されたメモを見て、黛はうれしそうに口元を緩めた。

そして、彼女は少しだけ考えるそぶりをみせて、顔を上げる。

 

「ほ、放課後、楽しみにしてますねっ!」

 

立ち去る後姿を見送り、何となしに窓を開けてみれば、南風が吹き込んできた。

新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込むと、いろいろな感情がわき上がってくる。

藤枝はそんな、興奮とか、期待とか、そういった感情をひっくるめて、青春だと呼ぶことにした。

 

 

 

 

 

 

 

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