待っていた夜は 作:厨二患者第138号
じいさんの死はあまりにも呆気なかった。
こんなにも人とは脆かっただろうか。昨日までは元気だった。いつも通り憎まれ口をたたき、たたかれ笑っていた。確かにそう遠くない日に死ぬんだなと、心の何処かでは覚悟していた。だが、こんな急だなんて聞いてない。
早すぎる。
俺はまだ何も返せていない。赤子の俺を拾って、片腕で苦心しながらも一生懸命に育ててくれた。転生者である俺に無言で理解を示してくれた。この国の難解な文字と言語を文句を言いながらも、俺が分かるように丁寧に教えてくれた。現代日本と比べ圧倒的に過酷なこの世界で逞しく生きていける力を見せてくれた。
じいさんが俺にしてくれたことを一つずつ挙げるとキリがない。だから今日までじいさんに恩返ししようと、一生をかけても返せない恩を少しでも返そうと、それが俺の生き甲斐だから返そうとした。
「畜生、早いよ」
目の前にはじいさんの骸がある。ふとすると目を開けるのではないか。
そう思えるほど、自然に横たわっていた。
だが、嫌でも分かってしまうのだ。じいさんの肌はもう氷の様に冷たい。
死んでいるのだ。
「ああ、畜生。死んじまった」
今日死ぬのだと予め分かっていれば、まだやりようはあった、だなんて、都合のいい事を考えてしまう。
せめてどう遺体を葬儀すればいいかということだけは聞いておけばよかった。じいさんの望んだ埋葬をしたかった。
いや、埋葬だと限った話ではない。
もしかしたら川に流してほしいと言ったかもしれないし、砂漠に撒いてほしいと言ったかもしれない。
日本人だったら火葬なのだが、生憎この国でソレはご法度だ。このままじいさんを放っておくわけにもいかない。
「……ん?」
ふと、じいさんの片方しかない手が力強く握られているのを見つけた。
「最期、まさか苦しかったのか?」
手に力が入る程、苦しく死んでしまったというのか。だとすれば、何故うめき声の一つも上げてくれなかった。
少しでも苦しいというアクションさえ起こしてくれれば、俺がすぐにじいさんの異変に察知出来たかもしれない。そうなれば、まだじいさんは死んでなかったかもしれない。
そんな自分にとって都合のいいように考えると、どうしようもなく胸が苦しくなる。
強く握られた指を解きほぐそうとしたが、筋肉が硬直していて上手く動かせない。しばらく掌を広げることに四苦八苦していると、じいさんの手に何かが握られていることに気づいた。
それは紙だった。
俺は紙片が破れないよう、ゆっくり取り出す。日本ではどこにでもある紙だが、この国、というよりもこの時代ではそれなりに高価なものになる。だから無一文に等しいじいさんが紙を持っていることに疑問に思った。
「……これって、もしかして」
しかし、そんな疑問は紙片の内容を見てすぐに消えた。少し考えてみれば分かることだった。じいさんは苦しんだがために手に力が入っていた訳ではない。
ただ、死を悟って、あらかじめ準備していた遺言書をかみしめるように握っていたのだ。
所詮これは俺の憶測と『直感』でしかない。
だが、きっとそうだったのだ。転生した影響か、俺の『直感』はよく当たるようになった。
それに直感など関係なく心で分かる。
じいさんは俺に何も言わず死ぬはずがないのだと。
しかし、遺言書と言うにはあまりにも短い内容だった。
というのも書かれていた内容が……
「『影の国へ向かえ』、だって?」
―――――――――――――――――――――――
結局、俺はじいさんを土葬した。
所詮は素人の発想に過ぎなかった。この国で一番ポピュラーな葬儀が土葬だったのだ。だから俺はそれに則っただけ。まず人気のない山の奥の更に奥、そこにじいさんを埋めた。人目につく場所に埋めて、墓荒らしにじいさんを掘り返されたくなかったのだ。
一人にさせて申し訳ないと思っている。だがそれ以上に死んだあとくらいは安らかに眠っていてほしい。
恐らくじいさんは人生の大半を『戦い』に費やしていた。
土葬するにあたってじいさんの身なりを整えていた時、自然とじいさんの体を見ることになった。
全身が傷だらけだった。後遺症が残ってもおかしくなかったくらいに見るに堪えない傷の数々が無数に刻まれていて、しかしそれが嫌に映えていたのが憎らしかった。
また、そのことに気づけなかった自分にも嫌気がさした。だが、それ以上に俺はじいさんに対して怒りを感じていた。
何故俺をもっと頼ってくれなかった、と。
これでも日本人だった頃は『
人一人くらい介護するのは苦にもならないし、寧ろじいさんは俺の命の恩人であるのだから喜んでする。もっと俺からじいさんに言ってあげればよかったなどと、意味ないと分かっていても今更後悔する。
「……で、影の国ってどこだよ……じいさん」
今は亡きじいさんに向けて呟く。
じいさんの遺言書(?)に書かれてあった影の国。そこが何処にあるのかが分からない。というかそれなりに良い大学に通っていた俺でさえ知らない国名なのだ。
じいさんの昔の伝手で町の知識人に話を聞いたが、分かったことが少なくともアジア方面には存在しないという事。同じユーラシア大陸にあると思うので、もしかするとヨーロッパにあるのかもしれない。だが、そうだとするとあまりにも遠すぎる。
現在地は恐らくイラン。全盛期であったガズナ朝のマフムードと言う男がこの国を治めていたのが数十年前で、現在はかの有名なセルジューク朝の真っ盛りだ。
とすると、現在は十一世紀から十二世紀辺り。近いうちに十字軍がイスラエルに出軍するのでヨーロッパへの道のりはかなりの危険地帯となるだろう。
それに一応英語も喋れるが、十一世紀に二十一世紀の英語がどこまで通じるかも不安だ。というか、イギリスかその植民地辺りじゃないと英語は使われてないし、コミュニケーション的な側面でもかなり苦労するだろう。
「……うわ、あるかもわからない国探すとか」
前途多難とはこのことを言うのだろう。
まるで手がかりが見つからない。
でもまぁ、することもないのも事実。俺の新しい半生はこの『影の国』とやらを探すことにつぎ込むことになりそうだ。
実は奔放な旅にあこがれていたので、案外いい機会なのかもしれない。
「でも、路銀とかどうしようか」
旅をすることは確定。最悪アメリカ大陸に進出することも考えると、お金はあって困らない。金と言うよりも、金目の物を持っていた方が良いだろう。
窃盗にも限界がありそうだし、本当にどうしようか。
そんな事を考えながら、俺はじいさんと俺が住んでいたボロ屋へと帰宅する。この家ともそう遠くない内にお別れになるのだと思うと感慨深いものがある。雨風も碌に凌げず、空調も劣悪であったが、それでも別れるというのは来るものがある。後で綺麗にしてあげようと、そう決めた。
「ん? 何だ、これ」
ふと、じいさんが最期に眠っていた寝床に何か棒のようなモノが立っていた。
「え、でもこんなもの……」
――――――先程まではなかった。
少なくとも、じいさんが死んでいたことに気づいた時にはなかった。
俺は慎重すぎるくらい慎重にソレに近づき、半ば引き腰になりながら棒を抜く。結構重さがあるということに驚きつつも、棒を横にして両手で持った。
まるで得体が知れない棒はやはりただの棒ではなかった。短い取っ手に、そこまで長くはない刃物が付随している。得体の知れない棒ではなく得体の知れない剣だったのだ。
「……じいさん」
否、得体の知れない剣ではなかった。
刀身に、言葉が、刻まれていた。
ただ、『愛している』
高難度イベントの鬼殺しにて。
しじみ「よし、ゲオル先生のガッツ発動ぅ! 全体攻撃さえこなければ、次のターンの宝具受けれるぞぉ!」
茨木童子「フハ( ̄∇ ̄;)ハッハッハ!!」(893キック
ゲオル先生「申し訳ありません、マスター……」
しじみ「ファー!?」
どうも、最近鬼殺しが安定してきたしじみです。
今回のイベントかなり難しいですね。
宝具の強化解除は兎も角、ガッツ後に攻撃が来るのだけは勘弁です。
そして今イベントは槍ニキが大活躍ですね。
兄貴、大好きなので本当にうれしい限りです。