魔法少女RIRIKARUなのは ~Rを冠すは人か、それとも~ 作:koth3
あっ、ちょっと表現がグロいかもしれません。
海鳴を蹂躙した大樹のジュエルシードを回収し数日が経った。
あれ以降、高町が精力的にジュエルシードの回収に取り組んでいる甲斐もあり、ジュエルシードの回収は順調であったが、ここにきて甲矢と高町以外にジュエルシードを回収している第三勢力が存在していたことが露わになった。
第三勢力が善意でジュエルシードを回収しているという可能性もあるだろう。しかしもし悪意を持つ人間が集めているならば大変な事態となる。ジュエルシードの内包しているエネルギーの総量は計り知れず、最悪核爆弾のような殲滅兵器として運用することも可能だ。
だからこそ信頼できる人間がジュエルシードを持たなければならない。
またそれだけではない。ジュエルシードはロストロギアとも呼ばれる太古の文明が残したオーバーテクノロジーの塊であり、その扱いは細心の注意が必要な代物だ。専門の知識がなければ内部に蓄えこんだ魔力というエネルギーをあっという間に暴走させてしまう。
故に専門的な知識を有した者が必要となる。
その二点を併せ持つのが、高町とユーノであった。高町はジュエルシードを悪用するような人間性ではなく、また高町の近くにはいつもロストロギアの専門家であるユーノがいるためジュエルシードの暴走にもすぐに対処できる。
だからこそ甲矢は高町たちにジュエルシードを保管させた。
だが高町たちの知らせから、人格も分からずロストロギアに対する知識を有しているかも分からない第三者がジュエルシードを集めていることが分かった。さらには高町たちが確保していたジュエルシードを奪っていったという。
ジュエルシードの危険性を鑑みれば、その正体不明の第三者に回収されぬよう、探索を急がなければならない。
夜、孤児院から誰にも見つからぬようひっそりと抜け出した甲矢は、海鳴市上空をLAST-ARROWが有する早期索敵能力を行使しながら飛んでいた。高町と比べれば魔法のレパートリーなどないも同然の甲矢だが、幸いLAST-ARROWは超が十個ついてもおつりが来るほど高性能で、探索程度朝飯前であった。
とはいえ本来の性能ならば海鳴市程度一瞬で索敵しきれるのだが、それをコントロールしているのが甲矢のせいで探索性能は大きく低下している。それでも高町たちの探索能力を優に越えているのが、LAST-ARROWの性能の高さを示している。
飛行と探索をこなしながらそんなことをつらつら考えていた甲矢はLAST-ARROWを窺う。今は人の身の丈程度しかないへの字ロッドという間の抜けた姿だが、その本質は悪魔のような攻撃性能を有する兵器だ。単機でも敵勢力を滅ぼす能力を有することを主目的に造られた兵器。それがR戦闘機という人類の狂気が生み出した力。そしてその集大成こそがLAST-ARROWだ。
時折来る身体の震えは寒さなぞが原因ではけしてないだろう。LAST-ARROWの力で外気は遮断されている。
LAST-ARROWを甲矢はしっかりと握りこむ。けして手放さないために。
LAST-ARROWがなぜ甲矢を助けてくれるのか、それはわからない。だが一ついえるのは、この関係はとてつもなく脆いということだ。
高町とレイジングハートとの間にある信頼関係と違い、甲矢とLAST-ARROWとの間は損得関係しかない。いつしかLAST-ARROWは甲矢という枷を見限るかもしれず、あるいはいつまでも甲矢の手元に残り続けるかもしれない。しかしたとえどうなったところで甲矢の心が安まることはないだろう。
押しつぶされるような冷たい孤独に浸る甲矢はかぶりを振り、思考を無理矢理切り替える。今はジュエルシードを捜すべきで有り、LAST-ARROWについて考察をするべきタイミングではないと。
探索に意識を傾ける。現在LAST-ARROWの索敵範囲に高エネルギー反応は存在しない。
ジュエルシードはロストロギアの一つで有り、起動していなくとも膨大なエネルギーを蓄えている。LAST-ARROWの索敵能力は魔力の有無ではなく、エネルギーの多寡によるものだ。だからこそジュエルシードがたとえ起動していなくともエネルギーを内包している限りその探索から逃れることは出来ない。
数分も飛行したころ、LAST-ARROWが反応を示す。
『高エネルギー反応を感知しました』
「どこだ」
『一時の方向三キロメートルです。まだ起動はしていませんが、いつ起動してもおかしくありません』
すぐさま高町へジュエルシードの場所を連絡し、甲矢は反応のあった場所へ急行する。
そこは街の中心にほど近い繁華街だった。数日前に発生した大樹のダメージがいくらか残っているもののその多くは修復され、いつもより少ないが人々の行き交う賑やかな場所だった。
もしジュエルシードが起動したら、大勢の人が犠牲になるだろう。甲矢のこめかみを冷や汗が伝う。
ジュエルシードを起動する前に人気のない場所に移動させるべきかと考え実行しようとしたところ、空中を押し進むような力強い飛行音が後方からし、甲矢が振り返り見れば、足首から淡い桜色の翼を生やし飛ぶ高町の姿が見えた。高町も甲矢がいることに気がついたのか、飛行速度を速め近寄ってくる。
「まってて、今結界を張るから」
高町は着いてすぐさまとある魔法を使う。
そのとある魔法とは結界魔法と呼ばれる魔法だ。ある一定範囲の空間を魔導力学的に遮断することで、時空間を特殊な状態へ変質させ外界と内界とを別つという特殊な魔法だ。限度があるとはいえ、内界で起きた現象は外界に影響せず、また外界で起きた現象も内界へ影響しなくなるという、計り知れない利便性を有する魔法。
それが甲矢たちを中心にジュエルシードを巻き込み発動する。
これで魔法に関する知識を持たない一般人は入ってこられず、またジュエルシードと戦闘を行っても周りに影響を及ぼすことはない。
魔法が発動されたことをしっかりと確認し、甲矢と高町はジュエルシードの確保に移る。道路脇に生えている茂みの中に、その青い菱形の厄災は寝静まっていた。
だが、高町がジュエルシードを封印しようと近づいたら、上空から黄色の魔法弾が突如襲いかかった。甲矢は高町を抱えて後方へ飛び退く。誰もいない地面をその黄色い弾丸は撃ち抜いた。
黄色い弾丸が撃ち抜いたアスファルトは、コロナ放電特有の音を立て赤熱している。生身で食らえばひとたまりもない。しかももしあの魔法をかすめたとしたら身体は感電し麻痺することは間違いないだろう。
バリアジャケットがあるとはいえ、その絶縁性がどれほどあるか実地の試験を行うのはいくら甲矢とて勘弁だ。
高町を放り投げるように解放しつつ、甲矢がその場を離れ二射目を避ける。肌が粟立つような音が耳をかすめた。攻撃を避けながら上空を見上げると、黒いバリアジャケットを纏った金髪の少女が、戦斧を携え甲矢たちを睥睨している。
金髪の少女を警戒しつつジュエルシードを見れば、先程の電撃を纏った魔力の着弾の衝撃で道路へと吹き飛んでいる。直ちに確保したいところだが、お互いにらみ合いとなってしまい、迂闊に取ることができない。
ジュエルシードの回収を邪魔した金髪の少女を高町たちの言う第三勢力と判断した甲矢は、現状の戦力を分析し、判断を下す。
「高町、そいつを抑えていろッ。俺はジュエルシードの確保をする」
甲矢が少女と戦うのが一番早いだろう。三人の中で戦闘能力が最も高いのは間違いなく甲矢だ。だが甲矢の能力では対人戦に不向きすぎる。どんな手段を採ろうとも少女を確実に殺してしまう。それがわかるからこそ、あえて高町に相手をさせるという一種博打に近い手を打った。
「う、うん。わかった。頑張る」
上空から攻撃してくる者へ高町を向かわせつつ、己はジュエルシードを手に入れようと甲矢はひた走る。だが、その眼前にオレンジ色の体毛をした狼が現れた。
「そうはいかないよッ。これは私たちが頂く」
四肢を伏せ唸りを上げながら牙を剥く狼を相手に、甲矢は一瞬迷う。
そして、掌を向けた。
「九条さん、行ってください。君の相手は僕だ」
だが電力で生み出された掌の磁界を利用する前に、ユーノが鎖で狼を牽制する。
攻撃を中断し、甲矢はユーノの後ろをすり抜ける。金髪の少女と狼が邪魔をしようとするが、高町とユーノにより防がれる。ナノマシンにより強化された身体能力を駆使し、甲矢は茂みから道路の中央に飛び出たジュエルシードを獲る。
甲矢ではジュエルシードの封印をすることができない。だが自軍の最大戦力である甲矢が持つ限り、ジュエルシードが奪われる危険性は最も低い。
掌の冷たく硬い感触を確かめながら、甲矢は高町とユーノの様子を窺う。二組の戦いは激しい火花を散らすばかりで、今すぐに決着がつきそうにはない。握り締めていた手をかすかに開き、ジュエルシードの様子を指の隙間から覘く。菱形の青い宝石の内部には膨大な魔力が渦巻いており、いつその魔力が解き放たれるかわからない。早くジュエルシードを封印しなければ安心は出来ない。
しかし高町は、金髪の少女と戦っており、手放す余裕はない。ユーノもまた狼を食い止めるのに精一杯だ。端から見れば二組の実力はそれぞれ伯仲している。
金髪の少女は素速い動きで高町を翻弄しようとしている。その速度はかなりのもので、高町では追いつくことは出来ないであろう速さだ。縦横無尽に飛び交い、すれ違い様手に持つ戦斧で斬りかかっている。高町の防御魔法との間に火花が散り空中に跳ね火がきらめくなか、金髪の少女は黄色い閃光となり、高町へ襲いかかる。
だが高町も然る者、速度では勝ち目がないからか、金髪の少女を追いかけるようなことはせず、どっしりと構え堅強な守りを固め、よくよく観察に徹している。すこしでも隙を見つければ、自慢の砲撃魔法で金髪の少女を撃ち抜くことだろう。
一方のユーノと狼の戦いも千日手となっていた。
体格のある狼が牙や爪で敏く力強く襲いかかるも、ユーノはシールドや鎖を巧みに操り攻撃を自分に届かせない。ユーノは攻撃こそ貧弱だが、防御に徹すれば負けることはないだろう。
だが、二人は戦いに精一杯で封印魔法を行う余裕まではない。甲矢は冷や汗を流しながらジュエルシードを掌で覆う。先程からジュエルシードの魔力が戦闘により発生している魔力の余波で少しずつ励起しはじめている。暴走の臨界点まであと少しといったところだろう。
ジュエルシードに甲矢の気がとられている間に、高町の戦いに動きがあった。金髪の少女が焦りからか見せてしまった僅かな隙を見逃さず、高町が砲撃魔法を金髪の少女へと撃ち抜く体勢へ入る。金髪の少女も避けることは不可能と判断したのか、砲撃魔法で相殺しようと幾何学的な魔方陣を展開している。
「なっ、やめろ、そんな魔力を放ったらッ」
甲矢が制止を叫ぶが、時すでに遅く二人の魔法は放たれた。
「ディバインバスター」
「サンダースマッシャー」
桜色の光柱と黄色の光柱とが激突する。
膨大な魔力が辺りに撒き散らされる。周辺一帯の魔力濃度が急上昇していく。
その魔力に感化され、ジュエルシードは臨界点を超えた。
ジュエルシードに蓄えられた膨大な魔力が青白い光となって天へ放たれる。
ジュエルシードを握っていた甲矢の手が膨大な魔力によって焼かれる。あまりの痛みに甲矢はジュエルシードを手放してしまう。
甲矢の腕は広範囲にわたって肌がなくなり、しゅうしゅうと湯気を立てており、一拍おいて粘性の高い赤黒い血が流れ出た。
「は、甲矢君ッ」
高町が悲鳴をあげる。
気を少しでも緩めれば意識を失うほどの痛みに襲われ、甲矢は額から脂汗を垂れ流す。
すぐに脳内に存在するナノマシンがアドレナリンやβ-エンドルフィンの分泌を強制させ、甲矢の痛覚神経を麻痺させる。
一時的な処置とはいえ、行動可能となった甲矢は暴走したジュエルシードをにらみつける。
膨大な魔力を垂れ流すジュエルシードは、光の柱となって天を衝いていた。どうにかして暴走を止めなければならない。
だが――、
「そんな、これほどの魔力、もう、どうにもならない」
ユーノが青ざめた顔でぽつりと呟く。
ジュエルシードの発する魔力は強くなるばかりで、弱まる気配はない。
ジュエルシードを眺めるしかできなかった甲矢たちの脇を黄色い閃光が通り抜けた。
「ッ、止まれ、止まれ止まれ止まれぇえええ――」
金髪の少女が端整な顔立ちを苦悶に歪めながら、ジュエルシードを握りこみ封印しようとした。だが現実は無情だ。魔力を必死に振り絞ったのだろうが、それでもジュエルシードから漏れ出す魔力と比ぶれば雀の涙。金髪の少女はあっけなくはじき飛ばされ、交通標識に背中を強かに打ち付けられた。力なく仏倒しとなった金髪の少女を狼が慌てて懐抱する。
そうしている間にもジュエルシードの輝きはいよいよもって最高潮に達したらしく、辺りは真昼よりも目映い。
「ユーノ、止められるか」
「で、できない。これはもう、人の手には余る代物、災害そのものだ」
「そうか。人の手ではどうしようもないのか」
甲矢とユーノの言葉に高町はあきらめきれないのか、ジュエルシードめがけて魔法を放つ。今まで暴走体を封印してきた高町の魔法だが、ジュエルシードの魔力の余波だけで高町の魔法が食い止められ、核に届くことはなく封印は不発に終わった。
もう、封印することはできない。
だから、これから行おうとしていることを想像し、その想像をLAST-ARROWが肯定したため顔を青ざめるながらも、決心した。
「ユーノ、先に謝っておく。ジュエルシードを諦めろ。俺がなんとかする」
「えっ、な、何を言っているんだッ。こんな魔力の塊、もうどうしようもない――」
最後まで聞くことなく甲矢は飛び立つ。
眼前には青白い光の柱があり、その中央には災厄の種、ジュエルシードがある。
人間にはどうしようもないほどの魔力に護られている。その護りをどうにかして、さらには中核にあるジュエルシードをも破壊しなければならない。それにはいくら超高速電磁レールキャノンでも力不足だ。だからそれをなしえる武装へと切り替える。
「LAST-ARROW、異層次元航法推進システムを起動しろ」
『異層次元航法推進システム オールグリーン』
R戦闘機には所謂主砲と呼ばれる兵器に値する武装が装備されている。その名を波動砲という。
波動砲は現次元とは別の次元、すなわち異層次元と呼ばれる重なり合った異次元に特殊な力場を発生させ、波動エネルギーと呼ばれるエネルギーをその異層次元に蓄積し、現次元へと指向性を持たせた上で一挙に放つというものであり、その威力は二十二世紀の戦艦の主砲にも劣らない一撃だ。むしろものによっては戦艦の主砲が霞むことがあるほど絶大な威力を誇る。
だが、それはあくまでR戦闘機という機体だからこそ制御できる兵器。いくら異層次元に大本の波動エネルギーが蓄えられるとはいえ、波動エネルギー自体別次元へと異層を起こしやすいエネルギーだ。生身の甲矢が過大なエネルギーを押さえ込める道理など存在せず、コントロールから外れた波動エネルギーが甲矢の身体を襲う。
力場を異層次元へと発生させた段階で、LAST-ARROWを支える右腕が鈍い音を立てて拉げた。右腕に開いた十センチメートル程度の穴から鮮血が噴き出す。
エネルギーをチャージする段階で身体中の毛細血管が切れ、穴という穴から黒血が流れ出す。
もはやナノマシンによる脳内麻薬の過剰分泌では痛みを軽減することすらできない。細胞レベルで身体が壊れていくのが、ナノマシンを通じて知覚される。
それでも甲矢は奥歯が折れるほど噛みしめ、それでも苦悶を漏らしつつもエネルギーチャージをやめない。
発生した力場により身体がばらばらに引き千切れそうな中、ようやく波動砲のチャージが終わった。
「スタンダード波動砲、発射ァッ」
青白い光が甲矢の前方から発生し、驀進する。
波動の光がジュエルシードから溢れ出す魔力と激突する。
人智を越えたジュエルシードの魔力を前に、しかし波動砲は易々と魔力を食い散らかす。拮抗することすら許さず、波動の光はジュエルシードを呑み込んだ。
そこまで見届けた甲矢が地面へと鈍い音を立てて墜ちる。もはや空を飛ぶだけの力もない。身体は見るも無惨な状態だ。身体の前面の皮膚の約八割程度がずるりと剥け、赤い筋繊維が露わになるが膨大なエネルギーに曝されたために至る所が焦げて黒ずみ、せせらぎの如く流れ出ていた血が少しずつ血液量を増やし渓流のような勢いとなり、湯気を立てつつ血だまりを生んでいる。
「は、甲矢君ッ、待ってて、今すぐ、今すぐ治すから。だから、だから」
青ざめた顔の高町は、純白のバリアジャケットが血に染まるのを気にもとめず、甲矢の身体を抱きかかえる。
その横でユーノはジュエルシードがあった場所を呆然と眺めていた。そこにはジュエルシードの影など跡形もなく、さらにはその後ろにあった時空間が乱れた波紋のように歪曲していた。
さて、滅びの光とは何なのでしょうね。
ジュエルシードが、波動砲か、それとも人の欲望の象徴、文明の光か。皆様もどうかお考えくだされば、何よりです。