魔法少女RIRIKARUなのは ~Rを冠すは人か、それとも~ 作:koth3
海鳴公園に甲矢となのはとがたどり着いたとき、すでにアルフとフェイトが待ち受けていた。
フェイトはバリアジャケットをすでに装着している。朝日の燃えるような光に照らし出され、煮えたぎる敵意をピジョン・ブラッドの瞳に宿し、二人を睨み付けている。
なのはが一歩前に進歩む。その手に杖となったレイジングハートが握られる。
二人の間を一陣の風が走り抜ける。
「審判は俺がつとめる。余計な手出しがないようにしたんだ。これくらいは受け入れてもらう」
「構わない」
なのはがバリアジャケットを纏う。純白の戦装束がはためく。
白と黒の少女達が敵意をぶつけ合う。辺りの空気がぴりぴりと引き締まる。
二人は同時に空へ飛び立つ。砂煙が甲矢の身体を叩く。一瞬の合間にも、二人は豆粒ほどの大きさになっていた。
後を追いかけるように、甲矢も空へ舞い上がる。
二人の身体にこもる覇気が、ゆらゆらと立ち籠めてくるようだ。甲矢は二人を一瞥すると、その手を天へ高々とあげた。
「始め!」
衝突。火花が散る。
初撃はフェイト。得意の高機動でなのはの反応を許さず、隙を見つけるや、容赦ない首を薙ぐ一太刀を繰り出した。しかしなのはも直ぐ様魔法により刃を防ぎ、ダメージを防いだ。返しの太刀で刃と盾がぶつかり合い、ギャリギャリと不快な音をかき立てる。
このまま攻防を続けても意味がないと判断したのか、両者は直ぐ後ろへ飛びはね、間合いを確保した。二人の間で空間が軋む。
にらみ合うさなか、フェイトの姿が
なのはが上へ飛ぶ。直前までなのはがいた場所を、フェイトが薙ぎ払う。唸りを上げる刃は、先の一撃と比べ、遙かに強烈に雷を纏っている。空気が焦げる臭いが、甲矢のいる場所まで漂ってくるほどだ。
一度掠めようものならば、いくら防御を得意とするなのはとて、大ダメージは免れないだろう。
しかしなのはは怯えることなく、魔方陣を自身の周囲に展開させる。
「シュート!」
淡い桜色の光弾が、五つの魔方陣から一つずつ解き放たれる。フェイトが鋭い動きで弾丸を全て躱す。しかし外れた弾丸が、再びフェイトに襲いかかる。
フェイトが複雑な回避行動を取り始める。ただまっすぐ飛ぶのではなく、時に急旋回し、時に急上昇・急降下を繰り返す。なんとか振り切ろうとしている。しかし弾丸は、けしてフェイトを見失うことはない。唸りを上げ、執拗な追跡者として駆り立てる。
その様を、なのはが見下ろす。油断のない瞳が、フェイトの姿を追う。なのはの視線に連動し弾丸が飛び交う。
五つの弾丸は猟犬の如くフェイトを追い立てる。避けきることは出来まい。いくらフェイトが素速かろうが、上空に陣取るなのはの目から逃れられないかぎり。
古今東西、ありとあらゆる戦いにおいて、上方に陣取るのは戦術的アドバンテージだ。ありとあらゆる点で、アドバンテージを得られる。その中でも特に、視界の確保というのは大きい。
理性的な行動ではなかったようだが、戦術的視点から見れば、なのはが上へ逃げたのは正解だった。このままフェイトが回避を続ければ、いつかは力尽きるだろう。
しかし誘導弾に追われるフェイトは、なのはの魔力弾から逃げきれないと悟ったらしく、打って出た。
回避行動を止め、一直線になのはへ迫る。後ろから追いかけてくる魔力弾が引き離された。
「速い!」
瞬きもしないうちになのはへ接近したフェイトが鎌を振り下ろす。魔力によるシールドだけでは防げないと判断したのか、なのはもレイジングハートを高々と掲げ受け止め、鍔迫り合いとなる。
お互いあらん限りの力を、魔力を注ぎ込み、押し合う。
しかし不意にフェイトは力を抜いた。必死に押し返そうとしていたなのはだが、力をいなされてしまいつんのめる。体勢を崩したなのはの鳩尾に、黒い機械的なブーツの底が突き刺さった。数メートル後ろへなのはが蹴り飛ばされる。
「う……っ」
バリアジャケットのおかげか、なのはのダメージは少ないらしく、被害は僅かに片目を閉じて顔をしかめる程度だ。
接戦の最中先にクリーンヒットをもらってしまったが、なのはの戦意は些かも消えておらず、それどころかその瞳からは爛々たる光が宿っている。けして退くものかといわんばかりに。
「フェイトちゃん、貴方はどうして戦うの?」
フェイトはなのはの言葉に何の反応も返さず、刹那の間に間合いをつめ、鎌を薙ぐ。雷光を発す鋭い斬撃だ。なのはのシールドすらも切り裂かれる。
「フォトンランサー」
がら空きとなったなのはの身体へ、間髪入れず放たれたフェイトの魔法が突き刺さる。
雷を纏った鏃がなのはに食らいつく。白い鎧を貫かんと。
だが。
だがしかし。高町なのはがその程度に打ち破られるはずがない。誰よりも強いその心が、雷神の怒りすらも受け止めきってしまう。
「ディバインバスター!」
桜色に輝く奔流が、フォトンランサーをかき消す。
なのはの魔法資質は圧縮だ。体内で圧縮した魔力を一気に解き放つ際に生じる衝撃で、フォトンランサーを破壊した。それは、甲矢の使う波動砲とよく似た性質だ。
「……化け物め」
フェイトが苦渋に満ちた顔で吐き捨てる。それに対し寂しげに笑うなのは。
「そうなのかも、フェイトちゃん。私の力はきっと化け物染みたものなんだろうね。でもね、意味もなく力を振るうことなんてしないよ。私は私だから。だけど、今の私はフェイトちゃんがどうして戦うのか。それを知りたくて力を振るうの」
――だから、教えて欲しいな、フェイトちゃん。
そう言い、手を伸ばすなのは。その伸びた手に、フェイトは肩を震わし、飛び退った。
まるで火に触れて傷ついた野生動物が、再び火を近づけられたように。
「怖がらないで」
フェイトは震える手を握り締めると、魔法を発動する。フォトンランサーだ。
なのはが前進する。フォトンランサーを強引にかき分け。嵐の中を歩む殉教者のように歩みをけしてとめない。
その身体が無傷なはずがない。身を守るシールドは打ち砕け、纏う鎧は穴だらけ。見える素肌は電撃により焼かれている。しかしどれだけ傷つこうとも、なのはの笑顔だけは変わることがない。
「来ないで!」
「いや。私は知りたいもの。フェイトちゃんのことを。何も分からないまま戦うなんていやだよ」
「どうして! どうして私のことなんて知ろうとするの! 私は君を利用しているだけなのに!」
「それでもいいよ。利用しているだけだったとしても。そんなの私には関係ないもの。私が知りたい理由はね、簡単だよ。フェイトちゃん、悲しそうだもん」
ぼろぼろでみすぼらしい姿のまま、それでもフェイトと話したいと手を伸ばすなのはの姿は、あまりに純真すぎる。甲矢には目映く見えた。
「私は、私は……! 母さんのためなんだ! 負けるわけにはいかないんだ!」
気が狂ったかのようにフェイトは首を振る。そしてなのはをにらみつけた。するとなのはの身体に金色のリングが纏わり付く。
縛り付けられたなのはが顔を歪める。身じろぎするが、束縛が緩む気配はない。
それを見て取ったフェイトが詠唱を唱える。
――アルカス・クルタス・エイギアス 疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ
フェイトの周りに魔方陣が浮かび上がる。曼荼羅のようにフェイトを囲むそれは、三十を超えているだろう。そこからはスフィアが生み出された。スフィアは詠唱が進むにつれ、放電現象を起こす。
――バルエル・ザルエル・ブラウゼル フォトンランサー・ファランクスシフト 撃ち砕け、ファイアー!
スフィアから幾つものフォトンランサーが連続で放たれる。それは身動き一つ出来ないなのはへ、マシンガンのように絶え間なく撃ち込まれる。
なのはが煙に呑み込まれる。
なのはの様子は窺えない。しかし、甲矢は確信があった。
「そっか。そうなんだ。お母さんのためなの。ありがとう、フェイトちゃん。教えてくれて」
煙が晴れると、傷だらけのなのはが現れる。ふらふらと飛ぶ姿には、全く力を感じられない。
しかし敵であるはずのフェイトはその姿を前に、顔中にありありと恐怖を張り付け、なのはを力なく見上げていた。
「どうして……。私の最大威力の魔法なのに……。どうして立っていられるの!?」
「うん。すっごく痛い。でもね、甲矢君はもっと痛かったはずだもの。私だけこの程度で倒れるわけにいかないよ」
レイジングハートがフェイトに突きつけられる。今までの戦いで使われ、辺りに散らばった魔力が、なのはに吸い寄せられていく。一つ一つは小さな光だ。しかし集まった魔力が大きな光となり、球となった。
「今度は私の番だよ、フェイトちゃん。天に散らばる星光よ、私に戒めを壊す力を! スターライトブレイカー!」
臨界に達した魔力が一気呵成に解き放たれる。桜色の光柱が世界を埋め尽くす。それはフェイトを呑み込んでなお、有り余る威力だった。
光が消え去ると、フェイトが意識を失い力なく宙を漂っていた。
「勝負あり。なのは、お前の勝ちだ」
甲矢が決着を告げる。勝者であるなのはだが、にこりともせず、ただ悲しそうに胸元を押さえていた。なのはから目をそらし、甲矢は気を失っているフェイトを見た。気を失った顔には、先程垣間見えた狂気染みた焦りは消え失せている。
甲矢が漂っているフェイトを回収しようとしたとき、突如LAST-ARROWが反応を示した。
『次元跳躍砲撃を確認。ショック体勢を推奨します』
LAST-ARROWの観測データが甲矢に送られる。
データを脳内で認識した甲矢は、咄嗟に動いていた。宙を力なく漂うフェイトを突き飛ばす。それで限界だった
空が瞬く間に暗雲に包まれ、巨大な雷が甲矢へ降り注ぐ。鋭い痛みが甲矢の身体の中心を突き刺した。視界が白く濁る。言葉にならない絶叫が漏れる。
雷に打たれた甲矢は、死ぬ寸前の熱病患者のように痙攣を起こしていた。
筋肉も神経すらも、甲矢のコントロールから離脱している。走馬燈のように甲矢の思考だけが高速に加速していく中、煮えたぎり白く変性した眼球を、ショートし故障寸前のナノマシンで強制的に動かす。白く濁った視界に、なのはとフェイトの姿が見えた。
そこで力が抜けた。
「甲矢君!!」
なのはの呼ぶ声を耳にしつつ、甲矢は気を失った。