魔法少女RIRIKARUなのは ~Rを冠すは人か、それとも~ 作:koth3
甲矢が目を開けば、見慣れない天井が広がっていた。白い天井はつなぎ目がなくつるつるしており、蛍光灯もないのに光を発し、部屋を照らしている。
甲矢はふかふかなベッドに寝転がりながら二、三回瞬いた。不意にアルコールの臭いが漂っているのに気がついた。
身体を起こす。病床や薬品棚が見える。甲矢の身体が拘束されていないところを鑑みれば、どうやら攻撃を食らい気を失った後、アースラに回収されたようだ。
「驚いたな、一日は起きないと言われていたのに」
声のした方へ目をやれば、クロノが丸くした目を甲矢に向け、椅子に座っている。
クロノは回復魔法を自らにかけているようで、淡い光が包帯で吊り下げている腕を覆っている。魔方陣が消え去ると、感触を確かめるように腕を動かしている。クロノは顔を僅かにしかめた。しかしすぐにそれをかき消した。
「僕が回復魔法を使ったことを、医官には秘密にしておいてくれ。彼らは回復魔法がきらいでね。必要なときすらも使わせてくれないんだ。完全な回復が出来なくなるとね」
クロノがうんざりとした面持ちで包帯をゴミ箱へ投げ捨てるのを見やりながら、甲矢は自らのメディカル・チェックをすませる。自己修復を終えたナノマシンによれば、感電により一時的に行動不能となっていた身体だが、すでに復調しているようだ。ナノマシン様々だという言葉は口内でせき止め、甲矢は病床から立ち上がろうとした。しかしその肩が、押しとどめられた。顔を見上げれば、クロノが真剣な目で甲矢を見詰めている。
「何をしているんだ、君は? さっきも言ったが、君は本来丸一日眠るような状態だったんだ。怪我人は寝ているべきだ」
甲矢は感慨もなくクロノの手を押しのけ、立ち上がる。
「動くべきではない? それでも士官か? 最適解を考えれば、俺が前に出ることに意味がある」
「最適解なんて現実では全く役に立たない。そんなものは、机上の空論に過ぎないんだ。君が戦う必要はないんだ」
クロノは駄々をこねる子供をなだめるかのような顔つきで、甲矢を押しとどめようとする。
甲矢にとってそれはただの鬱陶しい干渉に過ぎず、クロノの声を背に受けながら、医務室のドアへと向かう。
しかしクロノは納得しなかったらしく、甲矢の肩を掴み、むき直させた。
「言い方を変えよう。執務官として君が動くことは認められない」
「リスクとリターンをはかり、損失を許容するべきだ。それが士官の役割だろう」
「その損失が君自身であったとしてもかい?」
クロノの言葉に、甲矢は何ら感慨を抱くことはなかった。
「当然だ」
肩におかれていたクロノの手から力が抜けた。
解放された甲矢は、クロノの顔を見ることなく医務室から立ち去った。
甲矢が情報を欲しアースラの艦橋に赴くと、そこは慌ただしい気配が漂っていた。普段ならば、アースラクルーが甲矢へと敵意の視線を向ける。しかし今はアースラクルー達が艦橋をせわしなく動き回り、幾つものモニターを凝視し手を動かし、至る所で声を張りあげている。甲矢の存在に気がつく余裕などなかった。
甲矢は状況を説明してくれるであろうリンディを探す。艦橋の中央、他の席よりも高いところにもうけられた艦長の席近くに、リンディはなのはと共にいた。二人はなにやら話し込んでいるようで、甲矢に気がついていないらしい。顔を気むずかしげにしかめている。
甲矢が二人に近づくと、なのはが気がついたらしく、駆け寄ってきた。
「なんで起きているの!? 休んでいなきゃ駄目だよ、甲矢君!」
なのはの言葉を無視し、甲矢はリンディへ視線を向ける。リンディもまた、なのはと同じような顔をしている。甲矢は顔をしかめ、なのはのわきを通り過ぎた。
「現在の情報を要求します、リンディ艦長」
口を挟もうとするなのはを甲矢が掌で制止し、リンディを見据える。リンディが押し黙り、甲矢の目をのぞき込む。一分程経過しただろうか、リンディの口が開かれた。
「アースラは魔法による次元跳躍による攻撃を受け、修復におわれているわ。でもその攻撃でフェイトさんの裏にいる黒幕とその座標を手に入れられた。ここで逃がすわけにいかない。平行作業になってしまうけれども、武装隊員によるカウンターアタックを行い、同時に敵本拠地への強行調査を開始したところよ」
修復作業に追われたクルーと、武装隊員のバックアップを行っているのであれば、クルー達の余裕のなさも理解できる。二面作戦の断行なぞ、最善どころか、最悪に近い状況だ。かといって修復作業に専念しようとも、すでにアースラの座標は敵に把握されている。対処を怠れば、再びの攻撃が待っているだろう。二撃目にアースラが耐えられるとは限らない。難しい状況だが、リンディは行動を選択したのだろう。
甲矢はそこまで考えたうえで、それを投げ捨てた。甲矢の役割は戦術的なもの。いかに与えられた役割を果たすかであり、戦略的な視点は必要ない。不必要な情報を捨て去った甲矢は、リンディにさらなる情報を求めようとした。
しかし「あっ」という声がし、その声が最近聞いたものであり、振り返る。そこにはフェイトが手錠をかけられ、クロノに連れられていた。その後ろには、同様の処置を施されたアルフが歯をむき出しにしうなっている。フェイトは甲矢と目が合うと、顔をうつむかせた。
なのはが何かを語りかけようと甲矢の服の裾を引っ張ったとき、武装隊員の通信が入り込んできた。
リンディが近くの機械をなにやら操作をすると、モニターが空間に投影される。モニターには円柱状の部屋が映しだされていた。部屋には豪奢な椅子が一つだけおかれていた。椅子の縁を飾る金メッキは黒く汚れている。その椅子の裏側の壁に、武装隊員が働き蟻の如く群がっている。そしてなにやら機械を張り付け、何かを調べていた。
「こちらアルファチーム。艦長、時の庭園最奥ブロックに、不審な空間があります。調査の許可を。どうぞ」
「こちらリンディ。アルファチーム、調査を許可します。気をつけて」
リンディの命を受け、隊員達は行動を開始した。いくつかの魔方陣が壁に沿って規則的に展開される。様々な色合いの光を放つ魔方陣は、隊長のカウントダウンにあわせ、小さな爆発音を響かせる。一瞬で壁が崩れ、暗闇が口を開く。
隊員達が迅速に行動し、暗闇へ突入する。その部屋は暗かったが、光源には事欠かなかった。部屋の中央に、巨大な円柱型のポッドがあり、そのポッドが淡い光を発していたからだ。そして誰もがそのポッドに目を奪われていた。
そのポッドは二メートル程度の高さで、何かの液体に満たされている。そしてその液体にくるまれているのは、幼い少女の裸体だ。膝を抱えている少女は、どこか見覚えのある顔立ちをしている。アースラにいる全てのものが、フェイトへ目を向けた。その顔立ちは年齢による差異があるものの、ポッドの少女と似ている。甲矢もまた、再びフェイトへ視線をやる。
フェイト自身、表情を凍り付かせ、モニターに映し出されているポッドの中身を凝視している。
「どういうこと……?」
武装隊員達が、アースラでの困惑をよそに、ポッドへ触れようとした。しかしその指先が触れるよりも早く、絶叫が
武装隊員が弾かれたように振り返れば、開かれた抜け穴に一人の女が立っていた。紫色を基調とした落ち着いた色合いの服を着た女性で、その表情は憤怒に染め上げられている。
「アリシアに、触るな!」
雷鳴が轟き、稲光にモニターが灼かれる。白光で画面が見えなくなり、その後には“no signal”の文字だけがモニターは表示した。
「回収を急いで! 医療班も!」
リンディの大音声に、固まっていたアースラクルーが再稼働する。武装隊員の回収がすんだ報告がクルーから飛んだ瞬間、モニターが新しい画像を表示した。
そこには先程の女性が映っていた。ポッドの部屋から出たらしく円柱の部屋にあった椅子に座り込んで頬をついている。その顔からは、明らかな憤怒の色は全く消えておらず、それどころか一度蓋をしたせいかより怒気が強まってすらいた。その証拠に、女性の周りには紫電が時折漏れ出し、鋭い雷鳴を鳴り響かせていた。
「知らなかったわ。無能な管理局が犯罪者になっていたなんて」
自らの苛立ちを示すかのように、女性は指を肘掛けに突き立てる。
「プレシア・テスタロッサですね? 我々は時空管理局の者です。貴方にロストロギアの違法所持、また公務執行妨害、殺人未遂の容疑があります」
リンディの抑揚をなくした言葉に、プレシアは反応を示した。眉をひそめ、聞き返した。
「……殺人未遂ですって?」
プレシアが両の手で肘掛けを握りこんだ。僅かに怒気が薄まったのか、紫電は消え去り、リンディを見詰める。その瞳は嘘を見抜こうと鋭さを増しており、端にいた甲矢すら刺すほどだった。
ふとプレシアの瞳に込められた力が弱まる。甲矢の耳が、なのはとフェイト、アルフの荒い息を拾い取る。甲矢自身、僅かではあるが脈拍が加速していた。
「そう……。まあ、良いわ」
プレシアがジュエルシードをその手で弄ぶ。青い厄災の種は、じゃらじゃらと音を立て、その身が芽吹く時を今か今かと待っている。
「予定よりも少ないけれど、十分ね」
「ジュエルシードで何をするつもりです、プレシア・テスタロッサ!」
プレシアの動きが止まった。肩を震わし、膨大な魔力が解き放たれる。その魔力は紫電となり、天を衝く。甲矢を含め、アースラにいた全ての人間が息を呑んだ。プレシアから立ち上った雷は、先程の次元跳躍魔法がかすみに思えるほどだ。
【注意しなさい。正確なデータの取得に失敗しましたが、それでもあれは
甲矢がLAST-ARROWを掴みあげる。なのはとアルフまでもが、LAST-ARROWを凝視する。LAST-ARROWは語った言葉を撤回することはしなかった。
アースラのクルーが、LAST-ARROWの言葉を証明するかの如く「嘘でしょう……。す、推定魔力SSSクラス?」と言った。
その言葉により、魔導師達までもがその驚異を理解させられた。
「管理局が言うか!!」
甲矢は、今までプレシアがみせていた怒りが、氷山の一角にも満たなかったことを理解した。静電気によりプレシアの髪は逆立ち、逆光によりその面持ちは見えない。しかし怒りに燃える瞳だけは見通せ、化け物染みたプレシアの容貌を、より恐ろしいものへと変えている。
「アリシアを殺した管理局が!!」
その叫びは、甲矢の身体を凍てつかせた。プレシアのはき出す言葉が感情をむき出しにしたものであればあるほど、甲矢の身体の芯が痺れ、思考も麻痺していく。指先一つ動かすことは出来ない。プレシアは息を荒げ汗だくになりながらも、リンディを睨む。
「ふ、ふふ。でも、その怒りすらも、どうでも良い。私は、アリシアを蘇らせるのだから!」
ジュエルシードが今までと比べものにならないほどの光を発する。機器を用いずとも分かる。プレシアが発動させたジュエルシードは、今までの、それこそ暴走したジュエルシードを上回る力を発揮している。
ジュエルシードが放つ凄まじいまでの力に、モニターの画像が乱れていく。
「じ、時空歪曲を確認! このままでは時の庭園を震央とした次元震へ発展します!」
「プレシア・テスタロッサ、貴方は何をしようというの!?」
プレシアが笑う。
「全てを取り戻すのよ! 失ったアリシアを生き返らせる術は、アルハザードにこそある!」
「そんな、アルハザードなんておとぎ話を信じるというの!?」
「アルハザードは存在するわ。ありとあらゆる次元の狭間、異層となりし深奥に眠っている。そこには全ての魔法が存在する!」
荒唐無稽な話に反し、プレシアの瞳は理論的な確信を抱いていた。
狂人の戯言か、それとも希望を掴み取った人間の真理なのか。甲矢は分からなかった。分からなかったが故に、プレシアの言葉を一つも漏らさないように耳をそばだてた。
「偽りの家族ごっこなんて、これでお終い! 分かるかしら、フェイト! 貴方の事よ!」
フェイトから息を呑む気配がする。
「アリシアの記憶を継いで生まれた貴方だけれども、結局貴方はアリシアではなかった。私はね、貴方のことが、大嫌いだったのよ!」
モニターが限界を迎えたらしく、映像が切断された。アースラは静まり返り、誰もが言葉を失っていた。
「あっ、おい! しっかりするんだ!」
「フェイト! フェイト!」
フェイトが一切の表情を失い、クロノの腕に倒れ込んだ。
プレシアさん、人間やめていた回です。ライトニング波動砲を独力で撃てる人類。バイドに侵食されたのかな?