他作品のネタがつまり、息抜きに書き始めたらちょっと筆が進んだので、ゆっくりと進ませていきたいと思っています(願望)
黒
足元はおろか辺り一面黒い闇に包まれた空間。
どこまで続いているのかすらわからない漆黒に包まれている空間の真ん中(とはいっても本当にこの空間の真ん中どうかさだかではないのだが)に1人の男が仰向けに寝ていた。
白髪頭に白い髭、少し強面な顔が特徴的な男性だった。
男はピクリとも動かず、まるで死んでいるかのように仰向けになっていたが、突然目をカッ!と見開いた。
「…やっと死ねたか。よくもまぁ、随分と粘ったもんだ。流石は儂といったところか?」
そう言って仰向けのまま片手で頭をボリボリ掻いた。
この言動からもわかるように、この男はつい先程命を落としたばかりなのだ。
享年69歳
肝がんを患ったものの気づくのが遅すぎたために処置ができず、残りの余生をそれなりに楽しく過ごしながら逝くことになった。
粘った、というのは余命が1年だったところを2年半にまで命をのばしたことを指しているのだ。
この辺りは彼の生命力に感心するほかないだろう。
我ながらすごいもんだなぁ、と内心で呟きながら男はぐるりと首を回して自分のいる真っ黒な空間を見渡した。
男は、よくある小説の主人公のように事故などで死んでいるのではなく、寿命により死を迎えたためか、かなり冷静な反応を見せている。
「しっかし、ここはどこだ?暗くて何も分かりゃしない。人の気配もまるで感じられない。…って、儂は死んどるんだから、ここは死者の世界に決まっとるか。こりゃ何とも殺風景な場所だな。想像していたのと大分違う。」
てっきり最初は鬼か天使が迎えに来てくれるかと思っとたんだが
と呟いた後、男は億劫そうに両足に力を入れて「どっこいしょ」と声を出して起き上がった。
軽く腰を叩き、体を伸ばしたり捻ったりしてコリをほぐしたあとげんなりとした表情を浮かべて溜息をついた。
「どうやら死んでも肩こりや腰痛は治らんらしい。神さんも何とも不親切なもんだ。死んでからも身体のコリと付きわにゃいかんとは。これなら若い時に死んだ奴の方が得じゃないか、納得できんぞそんなこと…。」
そういいながら軽くストレッチをして身体を温めた男は軽く頬を叩いたあと、気合いを入れるように「よし」とつぶやいた。
「とりあえずここが死者の世界なら、儂の父母や先祖もいるだろう。顔を見せて挨拶しなけりゃ礼儀にも欠ける。手始めに親父とお袋を探して礼を言わねばならんな。育ててもらった恩義をいまの儂の姿を見せて返さねばいかん。積もる話もたっぷりあるしな。…さて、そうと決まれば、早速ここから移動するか。」
そう言って歩きだそうとする男だったが、
(…どこに向かっていけばいい?)
自分がどこにいるのかも、目的地すらも分からないことに気付き、上げた足を床に降ろしてしまった。
(うーむ、困ったな。どこに行けば父母に会えるのかも分からんし、適当に歩いて迷子になるのもごめんだしな…。さて、どうしたものか。)
数分間、腕を組んでうんうん唸りながら頭を働かせた後、とりあえず死人なんだし、臆せず適当に歩いてみよう。
そうすればいずれ何処かにたどり着く!
という何とも投げやりな考えの元、意を決して歩こうとした、その時。
「ふむ、やっとここに入れたか。いささか時間がかかってしまったようだ。それだけ儂の力が落ちてしまっておるということか…。」
背後から突然、老齢の男性の声が聞こえた。
普通こんな暗い空間の中でいきなり背後から声が聞こえたら驚くのだろうが、そこは流石、元69歳。
伊達に長く生きてはおらず、背後から声が聞こえたくらいで派手に声を上げて驚くこともなくゆっくりとした動作で顔を背後へと向けた。
そこには頭に角をはやし、黒い杖を持って空中にあぐらをかいて座っている灰色の肌をした老人がいた。
しかも宙に浮いて佇んでいて、おまけに波紋の模様をした紫色の眼をしている。
目の前の老人からは厳格な雰囲気が感じられ、姿や雰囲気からも、普通の人間には思えない。
それをみた男は眉を潜めて、目の前にいる老人をジーッと見つめた。
「なんというか、これまた想像してたのとは随分違う鬼さんが出てきたもんだ。儂はてっきり全身真っ赤で虎の下着を身につけた怖い鬼が来ると思っとったんだが、随分と顔色の悪い鬼が来てしまったな。どこか具合でも悪いのかい?」
「お気遣い感謝する。だが、儂は具合が悪い訳でも、鬼と呼ばれる化け物でもない。この肌の色も自前だ。」
「そうか?ならいいんだが。…無理はあんまりすんじゃないよ?」
心配そうに目の前の老人を見ながら、男は頭をボリボリと掻いた。
血色を感じられない肌はともかくとして、顔や額に生えている角をみても、とても普通の人間には思えないこの老人を目の前にしても、まったく動じない男。
しばらく老人を観察した後、ゆっくりと手を頭から離し、大きく息をはいた。
「それにしても、死者の世界にはアンタみたいな奴もいるんだな。どうみても角が生えてるし、てっきり鬼かと思ったんだが。というか、鬼じゃないとしたら、アンタは一体なんなんだい?もしかして閻魔さんか?」
「ふむ、確かに儂の見た目は普通の人間とは大分かけ離れている。そう思ってしまうのも無理はない。だが、儂はれっきとした人間である。」
「…そうだったのかい。それはまた、随分と失礼な事を言っちまったね。悪かった、許してくれ。」
そう言って深く頭を下げる男に、老人は軽く手をかざして謝るのを止めた。
「いやいや、儂もこの見た目のことは重々承知しておる。変に誤解してしまうのも無理はない。本当なら姿形を変えてからそなたの前に現れた方が良かったのだが、あいにくそこまでの時間も力もなくてな。失礼を覚悟でここにこさせてもらった。」
「そのままの姿でくるのに失礼も何もないだろう。こっちが失礼かましてるってのに謝るなんて。アンタ、かなり優しい人なんだね。」
思わず、自分も見習わないといけないなぁ、なんて思いつつ男は目の前の老人について改めて考え始めた。
どうやら彼の口振りからして、この老人は自分に会いにここまでやってきたということだろう。
ここは死者の世界(たぶん)なので、目の前の老人も恐らくは死人である。
そして、姿形を変えられるという言葉にこの厳格そうな出で立ちから見ても、もしかしたら彼はこの死者の世界の中でも特別な力を持った存在なのかもしれない。
例えば、長く生き続けた昔の偉い人だとか、死者の世界を統率する人だとか、そんな感じの人。
だとしたら、まだ死者の世界に来たばかりの自分に一体何のようが合ってここに来たのだろうか?
そこまで考え、男は目の前の老人に自分の疑問をぶつけてみた。
「えーと、ところでアンタは一体儂に何のようがあるのかね?見たところ相当位が高そうな人に見えるんだが。あいにくと儂はさっき死んだばかりの新参者だ。長く死者の世界にいるであろうアンタに教えられるようなことは何もないんだが…。」
「ふむ、死者の世界か。…まあ、先程死んだ上にこの暗い空間だ。勘違いするのも無理はない、か。さて、どこから話せばいいものか…。」
男の言葉を聞いた老人はぶつくさと何かを呟いたあと、顎に手をあてて何かを考える仕草を始めた。
自分の言葉の返事もせずに何かを考える老人を見て、思わず男が首を傾げてから数分後。
老人はゆっくりと手を顎から離し、視線を男へと向けた。
「まずは、儂自身についてと、ここについての説明をせねばならんか。」
「ん?説明するも何も、ここは死者の世界で、アンタはここのお偉いさんかなんかじゃないのかい?」
そういう男の言葉に、老人はゆっくりと首を横に振った。
「ここは死者の世界ではない。まあ、ある意味ではここも死者の世界ともいえるがな。」
「ある意味で?」
「さよう。」
よく意味がわからず、男が首を傾げると、老人は辺りをぐるりと見渡した後、人差し指を上へと向けた。
「ここは魂が行き着くべき場所、『 あの世』と…」
そこまで言って老人は上に向けていた人差し指を今度は下へと向けた。
「今、この世に生きているものの住んでいる『 この世』の狭間の空間なのだ。生きている訳でもなければ、死んでいるという訳でもない。そういった点ではそなたの見解は当たらずとも遠からず、ということになる。」
「あの世とこの世の狭間…。んーと、よくはわからんがとりあえず儂は生きとる訳でも死んどるわけでもない、中途半端な位置にいるということか?」
「そういうことになる。このような説明でも、焦ることなく、きちんと理解ができるとは、見た目に違わず冷静で聡明な者のようだ。」
「単純に、イマイチ自分の今の状況がのみ込め取らんだけだよ。頭の方もそんなに出来はよくない。儂は高校しか卒業してないからな。」
そう言って頬を軽く掻いた後、男は老人から視線を外し、一面真っ黒な空間を見渡した。
「しかし、だとするならなんで儂はこんな場所にいるんだ?儂は確かに肝がんで死んだはずなんだが。それとも何かが原因であの世に行けなくなったのかい?」
「そなたの言う通りである。まこと申し訳ないが儂がそなたの魂を、この空間へと呼び寄せさせてもらった。」
「アンタが?」
「さよう。」
そういうと老人は、少しばかり身なりを整えたあと男の目をまっすぐ見つめた。
その姿から並々成らぬ覇気が感じられる。
「儂の名前は大筒木ハゴロモ、またの名を六道仙人と申す。かつては忍宗を率い、この世の安寧秩序を成した者である。この度はそなたに頼みたいことがあってここに参った。」
「……。」
ハゴロモと名乗った老人の言葉に、男が口を半開きで半ば呆然と立ちすくむ。
何の反応も示さない男に異変を感じたのか、ハゴロモは片まゆをピクリと上げて、再び男に声をかけた。
「…どうした?何かわからぬことでもあったか?」
「いや、わからないことだらけというか、なんというか、だな。」
そういうと男は、うーん、とうなりながら腕を組んで何かを考え始めた。
しばらく腕を組んだまま、ブツブツ何かをつぶやいたあと、ゆっくりと腕をほどき、目の前の老人を見つめた。
「…アンタ、儂よりも随分と歳を食っとるように見えるが…実はマンガとか何かをよくよんどるのかい?すまんが、儂はそういうのには疎いんだが…。」
「ふむ、やはり簡単には信じてもらえなんだか。さて、どうしたものよ…。」
「どうしたも、何もなぁ。いきなり仙人だの、忍宗だの、安寧秩序だの言われたら誰だって疑いたくなるだろう?何か身分でも証明できるものがあるならば別だが。」
「なるほど、ようは儂が忍びだということを証明できればよいということか。それならば話しは速い。」
ハゴロモは軽く頷くと、自分の顔の前で何かの印を結び始めた。
そして、ゆっくりと手のひらを開き、目の前の男へとかざした。
一体何をするのかと男が首を傾げたその瞬間である。
「万象天引」
「!ぬぉぉぉお!?」
ハゴロモが呟いたすぐ後、それまで何の動きもなかった男の身体が、まるで吸い込まれるかのように彼のかざした手の方へと、かなりの速さで飛んでいった。
いきなりのことに変な声を上げながら、ハゴロモの手のひら目掛けて飛んでいく男。
そのままなすすべもなく飛んでいった男は、ハゴロモの手のひらが当たるぎりぎり手前でその動きを止めた。
「神羅天征」
「どわぁあ!?」
すかさずハゴロモが言葉を紡ぐと、男の身体が勢いよくその場から後ろへと吹き飛んだ。
男は数メートルほど後ろへと吹き飛んだあと、勢いよく地面へと背中をぶつけた。
2回ほど小さくバウンドしながら地面に倒れ込んだ男は、そのままの状態で苦しそうに咳き込んだ。
「この二つは儂の持つ『 輪廻眼』と呼ばれる瞳術により発動する忍術だ。この術は普通の人間はもちろん、忍びの中でも限られた者しか使えない特別な術。どうだろう?これならば儂の言っていることを少しは信じてもらえるだろうか?」
そう言ったハゴロモは倒れている男の方へ近寄り、顔を覗き込むように体を屈ませた。
男は、ゆっくりとした動作で上半身だけ起こすと、胸を激しく上下させながら息を吐きだした。
「ぜぇ、ぜぇ…。アンタな、せめて、一言何か、声をかけるとか、してくれんかね…。もう少し、老体を…いたわってくれないか?」
「む、それはすまぬことをした。なにぶんあまり時間がないものでな、少し焦ってしまったようだ。」
大丈夫か?と声をかけたハゴロモは、いまだ息を荒がせている男の背中に軽く片手で叩いた。
すると、今まで苦しそうに体を上下させていた男の呼吸が、徐々にいつものリズムに戻り始めた。
「どうだろうか?少しは楽になってもらえればよいのだが…。」
「ん…?おお、急に呼吸が元に戻ったぞ。こりゃあすごいな、もしかしてアンタがやったのか?」
軽く首と胸をさすりながら、男は驚いたようにハゴロモに問いかけると、ハゴロモはゆっくりと首を縦に振った。
肯定の意を示したハゴロモを見た男は「はぁ~、そうかい。これをアンタが…」と感心したように呟くと、片手を肩に置き二、三回軽く回した後、首も同じようにぐるりと回した。
男は、首を回した時にボキボキと音が鳴るのを聞き、思わずやはり年だなと感じてしまった。
とはいえ、彼はもう死んでしまっているのだから、金輪際年を取ることはないのだが。
「さて、改めて問うこととなるが、これで儂が本物だと信じてもらえただろうか?」
「…そりゃあ、ここまでの事をされちゃあな…。信じるほかないだろう。しかし、何というか…万国人間びっくりショーを見ているような気分だな…。」
首に手を置いたまま、呆れたような感心したような、何とも言えない表情を浮かべながら男は目の前にいる老人を見つめた。
男の言葉を聞いたハゴロモはゆっくりと目を閉じて大きくうなずいた。
「それはありがたい。これでようやく話の本題に入ることができる。」
「ん、本題?…ああ、確か儂に頼みたいことがあったんだっけな。いろいろなことがありすぎてすっかり忘れていたよ、いやぁすまんすまん。」
片手を頭に置き、頭を搔きながらばつが悪そうに言う男を見て、ハゴロモは首を横に振り、気にしないでほしいと男に言った。
「こちらはそなたに頼み事をさせてもらう立場にある、文句を言うのは筋違いというものだ。さて、もうあまり時間がない。早速だが話に入らせてもらう。」
真剣な表情を作り始めたハゴロモを見て、ただならぬ雰囲気を感じた男はゆっくりと腕を組み、気を引き締めるかのように短く息を吐いて首を縦に振って頷いた。
それを見たハゴロモもまた同じように頷いて、ゆっくりと口を開いた。
「そなたに頼みたい事とは、儂がいた世界に降り立ち、その世界の危機を救ってほしいということだ。」
「…ん?」
「当時儂のいた世界に存在していた十尾と呼ばれる化け物を止めてほしいのだ。かつては儂が皆と共にその化け物を抑え込んだのだが、どうやらその化け物を再びこの世に呼び戻そうとしている者がいるようなのだ。そのまま野放しにしていたら、またその世界に大きな危機が訪れるやもしれん。できることなら儂自身が止められれば良いのだが、儂も今は命尽き果て、チャクラのみとなってしまった存在。さすがに現世にて戦えるほどの力はもう残ってはおらんのだ。そこで、そなたには」
「待て待て!すまんが少しだけ話すのをやめてくれんか?あまりにも早すぎて頭の中を整理することができん。」
「む、すまない。あまり時間がないためか早口になってしまっていたようだ。そなたに質問する暇すら与えられなかったな、申し訳ない。」
そう言って軽く頭を下げるハゴロモだが、男はそんなことには目もくれず、顎に手を当てて、何かを考えているような表情をした後、ゆっくりと口を開いた。
「うーむ…。すまない大筒木さんとやら、少し質問してもいいか?」
「もちろんだとも。頼み事をしておるというのに、何も知らせないのではあまりに失礼だ。」
「まずは、儂がいた世界ではその…ジュウビ?とかいう化け物だか妖怪だかの名前を聞いたことがない。それどころか、世界の危機だなんていうそんなスケールが大きいこともあったことは歴史上でも…儂の記憶ではないはずだ。それに、アンタの名前も聞いたことがないのにも合点がいかない。世界を救ったほどの英雄なら、後世に名前が残るはずだろう?」
「うむ、それはそなたが生きていた世界と儂が生きていた世界が違うからなのだ。」
「生きていた『世界』が違う?」
「さよう」
ハゴロモは軽く頷いたあと、自身が持っていた杖で足元の黒い空間へ叩いた。
すると、まるで水面に石が投げられたかのように、静かに波紋が広がっていき、足元の黒い空間をどんどんと進んでいった。
すると、足元の黒い空間が少しずつ変わっていき、数十秒後には足元一面がまるで宇宙かのような壮大な景色へと姿を変えた。
「うお!?なんだいこりゃあ…。」と驚いたように呟いて、二、三歩思わず後ずさりしてしまう男。
ゆっくりと、軽く警戒しながら宇宙のような空間を覗き込むと、そこには光り輝いている星や、見たこともない惑星があったりした。
「これは、宇宙と呼ばれている場所だ。とはいっても、そのことはそなたもよく知っていることだろう?」
「ああ、それはまぁ…。」
「そしてこれが、そなたが生きていた世界の地球だ。」
そう言ってハゴロモが杖をとあるところに向けた。
彼が杖で指したその先には、男のよく知る青い地球があった。
「はぁ、テレビでも何度か見たことがあるが、生?で見るのは初めてだ…。まさかこんな形で見ることになるとはなぁ。」
「この世界でそなたは人生を歩み、そして寿命を迎えた、というわけだ。しかし、実を言うならば地球はこれ一つではない?」
「?どういう意味だ?」
「確かにこの世界には地球は一つしかない。だが、世界の方は一つというわけではない。」
ハゴロモが再び杖を足元へとたたきつけると、再び波紋が広がり、辺りの世界が変わった。
先ほどあった青い地球は、なんとまるで炭のように黒ずんで、そこにたたずんでいた。
「これは先ほどとは違った世界の地球だ。この世界の地球は、残念ながら一度すでに滅んでしまっている。ゴーマとよばれる化け物によってな。今は新たな生命を作っている最中といったところだな。」
「…それは、なんとも、まぁ…。」
男は驚いたようにハゴロモを見た後、何を言えばいいのかわからない様子で視線を再び黒い地球に向けた。
視線の先にある地球は、先ほどのような生命を感じさせるような青はなく、燃える炭のような雰囲気を感じられた。
自分の地球がこうなっていたらと思うと、男はぞっとしてしまう。
「このように、数多ある世界にある、数多の地球はそれぞれ別の道を歩んでいるのだ。儂のいた地球も、そなたの地球とはかなり違った道を進んでいる。」
「な、なるほど。さすがにこれは驚いたが、これでアンタの言ったことの一部は理解できた。」
「それは何よりだ。」
男は、満足そうにうなずくハゴロモを見て、一度大きく息を吐くと片手で頭を搔きながら口を開いた。
「しかしなぁ、いろいろな地球があるんだってことはなんとなく理解はできたが、儂はどうやってその地球に行くんだ?そういう乗り物があるんだとしても、儂はもうすでに死んじまってる。いくらなんでも命がないんじゃ、そこに行くことはできんぞ?」
「そこは問題はない。儂の力でそなたを…」
そう言った瞬間、ハゴロモの体がまるでスイッチを入れたり切ったりしている電気のように消えたり現れたりを繰り返し始めた。
それを見た男は、慌てたように声をあげた。
「お、おい!アンタ、体が…」
「もう、あまり時間がない様だ。元々、無い力をかき集めてここにそなたと儂を連れてきていたゆえ、儂はそう長くここにはいられないのだ。」
そういうとハゴロモは自分の消えかけている体に一度視線を向けた後、ゆっくりと男の方へと向き直り真剣な面持ちで目の前の男を見つめた。
「これから、そなたを儂がいた地球へと転生させる。そなたを、再び現世へと、新しい体でよみがえらさせてもらう。」
「て、転生?転生って、つまり儂は生まれ変わるってことかい?」
「その通りだ。」
大きく頷いた後、ハゴロモは少しだけばつの悪い顔をして、その顔を下へとうつむかせた。
「すまない、急なことの上に人生を終えたそなたにこんな危険なことを頼んでしまって…。しかし、儂のこの術はただ死んだ者に使える術というわけではないのだ。死んだ直後、あの世へと向かうその前の魂にしかこの術は使えないのだ。そのタイミングに偶然そなたが命を落とした。それゆえに儂は、本来あの世の極楽へと向かうであろうそなたの魂をここに閉じ込めたのだ。本当に申し訳ない…。」
そう言って頭を下げるハゴロモを見て、男は軽く頭を搔いた後、笑顔で手を軽く横に振った。
「いやいや、そんな頭を下げてまで謝ることはない。アンタだっていろいろ悩んだ結果儂を転生させることにしたんだろう?困ったときはお互いさまともいうし、何より、もう一度新しい人生を歩ませてくれるんだ。簡単には体験できないことが体験できるんだ。楽しまなきゃ損だろう?」
「しかし、儂はそなたを、より過酷な場所へ向かわせようとしている…。もしかしたら、そなたの手を血で汚すことにも…。」
「誰の人生も、相応に過酷なものさ。アンタも、儂のも、さまざまな試練や壁、上り坂下り坂があって、それでも歩みを止めずに生き抜いて、命を終えたんだ。さすがに人を殺したことはないが…その長い人生の中でそれなりのこともいろいろ経験してきたんだ。そう簡単にくたばっちまうほどやわってわけでもないさ。それに」
そこで言葉を切った男は、いまだ頭を下げているハゴロモを見て口角をわずかに上へとあげて笑顔を作った。
「アンタがどれだけ真剣に頼んでいるかは、なんとなく理解はできる。困ってる人間がいるんだったら、きちんと手を差し伸べてやらんとな。」
そう言って面白そうに笑う男の声を聴いて、ハゴロモはゆっくりと顔をあげて男へと視線を向けた。
男のその笑顔を見たハゴロモは、しばらく男に視線を向けた後、再び頭を下げた。
「ありがとう…本当に、本当にありがとう。」
「ま、そんな化け物がいるところなら、当分の間は力をつけることがメインになるだろうがね。だが、儂は腕っぷしはそこそこだし、何より殺し合いだの戦争だのとは無縁の生活を送っていたんだ。あまり期待はしないでくれよ。」
「…いや、そなたなら大丈夫だ。なぜだかわからんが、そんな気がしてならないのだよ。それに、わしもそれについては多少なりとも考えてはいる。」
そういうと、ハゴロモは右手を自分の両目に覆うように置いたあと、男に近づき「失礼する」と言って同じように男の眼に手を置いた。
「な、なんだいいきなり目隠しなんてして…」
「儂の持つ瞳力をそなたに授ける。この目があれば、大抵の忍びに負けることはないだろう。」
「瞳力?そりゃ一体…なんだこの目は?」
ハゴロモが唐突に前に出した手の平は、まるで鏡のようになって、覗き込んだ男の顔がそこに映し出されていた。
そして、鏡?に映し出されている彼の眼はハゴロモと同じような波紋模様の紫色をした両目になっていた。
しばらくまじまじと自分の眼を見ていた男だったが、だんだんと波紋模様が消えていき、数秒後には普通の自分の眼に戻っていた。
「それは『輪廻眼』と呼ばれる瞳力だ。儂が今残る力で渡せるのはその程度だが、少しでもそなたの人生に役立てて欲しい。」
「ほぉ、なんだかよくわからんが感謝するよ。」
「…さて、それでは!」
ハゴロモが顔の目の前で人差し指と中指を立てると、男の体がまばゆい光に包まれていった。
それと同時に男の視界も光へと包まれていく。
「うお、こりゃかなりまぶしいな…。これが転生の儀式ってやつかい。」
「すまない、偶然とはいえそなたをまきこんでしまって…」
「もう謝るのは無しにしようや、ハゴロモさん。儂を、いや、俺を信頼してくれるんなら、謝るのはもうしまいにいてくれ。」
「…感謝する、どうかあの世界のことを、よろしく頼む。」
「ああ、どこまでできるかわからんが、俺は俺なりに精いっぱい頑張らせてもらうよ。」
男がそう言った瞬間、暗かったこの空間を覆いつくすほどの光ができたかと思うと、その光は一瞬にして消えていき、その場から男の体が跡形もなく消えていた。
「…できたか。何とか間に合ったようだな。」
ハゴロモがそういうと同時に、先ほどまで透けていた体がどんどんと形をなくし始めた。
ハゴロモは消えていく自分の掌を見つめた後、小さく笑みを浮かべて、ゆっくりと上を見上げた。
「不思議な男だった。彼ならば、生まれ変わりしあの二人のことを、そして世界を、救ってくれるかもしれんな。」
「頼むぞ、不知火ゲンマよ。」
黒
足元はおろか辺り一面黒い闇に包まれた空間。
どこまで続いているのかすらわからない漆黒に包まれている空間に、一つのタバコの箱が落ちていた。
既に中身はほとんどなく、最後の一本であろうタバコが、箱から抜け落ちた。
タイトルから見ても分かる通り私はネーミングセンスが欠片もありません。
何かいいの思いついたらぜひおっしゃってください。
良いものがあればきちんと許可を取って採用させていただきますので。
しかし、久しぶりに書いたせいかグダグダですね…。