転生 咥え千本物語   作:オールライト

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第一話 団子と家族と友人と

 木の葉の里

『火影』と呼ばれるものが長として治めている里である。

 五大国、火の国と呼ばれる場所にあるこの里は地理的には他の国々の中心に位置している。

 土地も気候も、比較的安定しているこの里に、数々の飲食店や雑貨店などが並んでいる、いわゆる『商店街』と呼ばれそうな通りがある。

 今がお昼前ということもあってか、その通りは多くの人がひしめき合っており、あちこちの店に人が出入りしていた。

 その通りにある多くの店の中の一つであるとある団子屋で、一人の少年がせっせと団子を焼いていた。

 少年は焼いている所に届かないのか、脚立にのりながら団子を焼いていた。

 少年は頭がすっぽり隠れるように紺色の布を巻いており、口に爪楊枝を咥えていた。

 彼は焼き終えた団子にみたらしを付けて皿に盛った後、手元の棚にあったお盆へとそれを置いた。

 そして、団子を焼くスペースの隣に置いてある大きな鍋の蓋を開けた。

 すると、ムワッと煙が中から飛びてて来た後、甘~い香が辺り一面に広がっていった。

 鍋の中身はおいしそうなおしるこだった。

 小豆の一つ一つが見事に光っており、つぶれているような小豆は一つたりともなかった。

 少年はしばらくおしるこをかき回した後、上にある食器棚から黒いお椀を取り出し、そのお椀におしるこを注ぎ込んだ。

 そのおしるこを先ほどお盆に乗せた団子の皿の隣に置き、隣の食事処スペースに向かって大きく声を出した。

 

「お袋ぉー!五番の机の団子とおしるこ!出来上がったぞぉー!」

「はいよ!ちょいと待ってておくれ!」

 

 女性が少年の声に対して返事をしたとき、近くの机に座っていたおばあさんが優し気な笑顔を浮かべながら少年の様子を見つめていた。

 

「いやぁー、ゲンマちゃんは偉いねぇー。その年で親の手伝いだなんて…」

「ありがとうよ、山城のばあちゃん。だけどさ、ばあちゃん、おかしいとは思わないか?」

「何がだい、ゲンマちゃん?お団子もよく焼けてるし、料理してる姿もよく似合ってるよ。」

「そこだろ、おかしいのは。俺はまだ子供だぞ?普通さ、火を扱うような料理を、しかも店に出すような料理を子供に任せたりするかぁ?」

 

 ゲンマは咥えた爪楊枝を上下に揺らしながら苦言を漏らし、少しめんどくさそうな表情を浮かべた。

 ゲンマが苦言を漏らした後、店内から茶色の長髪をした美人の女性が現れた。

 

「何文句言ってるんだい、ゲンマ。使えるもんは我が子でも使えっていうだろ。」

「言わねぇよ。使うのは親だ、親。いや、まぁこの時間帯が忙しいのはわかるけどよ、だからって何も店の調理までやらせなくてもいいだろ?もしとんでもないこととか起きたらどうするんだ?」

「大丈夫、少なくともアンタは私や父さんよりも料理はうまいから。」

「なんだよそれ…。もっと親としてのプライドとかさ、そういうのを持てよ。自分の子供より料理の腕が悪いとか、恥ずかしいだろ、普通。」

 「そんな役に立たないプライドは当の昔に捨てたよ。あの夏の夜にね…。」

 「お袋も親父も、ほんとどうかしてるよな。」

 

 かなり変なことをいいながら黄昏てる母をみて大きなため息を着くゲンマ。

 その顔からはあきらめや呆れの感情が浮かんでいるように見えた。

 

「私や父さんから見たら、アンタの方がどうかしてると思うけどねぇ。料理はうまいし、物覚えはやたらと良いし、ほんとにアンタ、私たちの息子かい?」

 

 置いてあるお盆を手に取りながら、呆れたように肩をすくめるゲンマの母。

 そんな母親のしぐさを見たゲンマは口の爪楊枝を下に下げて、めんどくさそうに片手で頭をボリボリと搔いた。

 何を隠そうこのゲンマという少年、六道仙人により新たな命を与えられた件の転生者である。

 六道仙人により新たな人生を生きることになった男は、団子屋『不知火』の長男、不知火ゲンマという名前として生を得ていた。

 二度目の人生に加えて、自分の思い出にはない新しい家族や見たこともない文化や人間などがいる世界に多少戸惑いはしたものの、ゲンマは新しい家族と共にすくすくと育っていった。

 生まれ落ちて数年も経てば、ゲンマもいろいろな場所へと行けるようになったり様々なことができるようになってくる。

 元々前世の記憶を持っているためか、彼は動きが取れない赤ん坊の時期がもどかしくてしょうがなく、動ける時期になった途端様々なことを行い始めた。

 前世からの趣味であった盆栽いじりだったり、のんきに日向でお茶を飲んだり、家の手伝いなどをしたりと、様々なことをやり始めた。

 だが、このことが今の店の手伝いの現状を作り上げてしまったのだ。

 言葉づかいや話し方こそ体に引っ張られてしまったのかかなり若くなってしまっているものの、もとは69年生きてきた爺である。

 その人生の経験から得られた役立つ知識等は、今現在もそのまま受け継がれているのだ。

 調理の手際も下手をすれば両親よりもよく、掃除もほうきはもちろん歯ブラシや割りばし等を駆使して隅々まできれいにし、つい最近生まれた妹のおしめも両親にやり方を教わりもせず、両親よりも手早くきれいに仕上げてしまう。

 趣味や行動や言動も妙に大人び過ぎている彼の事を両親はもちろん、まわりの子供たちは軽く疑問に思ったが、大人、老人たちは特に不思議がった。

 しかし言っていることの大半は正しいことなのが多く、とても益になる話や情報などを教えてくれる上に、性格もおおらかで優しく、怒ることも少ない。

 おまけに何が起きても大抵冷静に物事を対処するその姿勢に周りのみなは好感をもち、すぐに彼に対する疑問は「ま、気にするほどの事でもないか」とどこかへ飛んで行ってしまうこととなった。

 しかし、その疑問が飛んで行ったことにより、疑問があることによってあった大人たちの警戒心がなくなってしまい、多くの大人が彼に様々なことを相談するようになった。

 家庭の他愛ない相談から、恋人に関すること等の恋愛相談、果ては人生の相談までされる始末である。

 ゲンマも、前世の母親から「困った人に手を差し伸べるのは常識だ」と教えられていたため、断るに断れず、彼の家の近辺の住民からは、「何かに困ったときは不知火の団子屋に行け」と言われてしまうほどだった。

 その影響は家族にもいきわたり、さすがに近辺の住民ほどではないが、忙しい昼時の店の手伝いや家事の手伝いなどをゲンマに任せているのが現状となっている。

 ちなみに家族の手伝いには駄賃が出るが、住民の手助けには駄賃代わりに飴玉などのお菓子が出てくる。

 住民や家族、友達からも頼りにされ、とても人気があるのが今のゲンマの現状である。

 本人からしてみれば非常に迷惑極まりないことだが、嫌われてしまったり、気味悪がられたりするよりはましである。

 

「自分が腹を痛めて産んだ子供に冗談でもそんなこというんじゃねぇよ…。出産の時の痛みも苦労も心労も、すべてが偽りってことになったらお袋だってやだろ?」

「そういう切り返し方が私の子供らしくないって言ってんだよ。もう少し子供らしくしたらどうなんだい?ねぇ、山城さん。」

「そうだねぇ…。ゲンマちゃんはいつもみんなの事や店の手伝いばかりで、自分のことがほとんどできなくて大変だろう?たまには羽を伸ばして、のびのびと遊んだらどうだい?そうだ、うちの孫のアオバともゲンマちゃんは仲が良いんだろう?うちの家にお友達も呼んで遊びにきたらどうだい?」

「ばあちゃん、誘いはありがたいんけどよ、俺も最近はなかなか羽を伸ばすことができないのよ。どっかの誰かさんが店の手伝いなんて頼んだりするからな。さーて、誰だろーなぁ、お袋?」

「お団子三本とおしるこ一杯でお待ちのお客様ー!すぐにお持ちいたしますねぇ!」

 

 まるで逃げるように団子とおしるこを運んでいく母親の姿をジト目で追いかけたゲンマはあきらめたように大きくため息を吐いた。

 それを見て山城のおばあさんが何とも言えない表情で笑顔を浮かべたその時、団子屋『不知火』に数人の少年少女達が勢いよくなだれ込んできた。

 

「おっすゲンマ!相変わらず忙しそうにしてんなぁ、お前は。」

「いつもあそんでばかりのアスマとは違うのよ。手伝いお疲れさま、ゲンマ。いつも通りの手際の良さね。」

「やはり店を手伝っていたんだな、ゲンマ。まぁ、この時間帯だしな…。」

「やあゲンマ君、相変わらず爪楊枝は咥えてるんだ…。ってあれ、ばあちゃん!?なんでここにいるんだよ!」

「よぉ、アスマに紅にライドウにアオバ、お前ら来ちまったのか…。それとアオバ、俺の所のお客さんに失礼な態度とらないでくれ。」

 

 団子を焼く手を止めずに、ゲンマは店に来た少年たちをみて、山城のおばあさんに指を指して驚いたように叫んでいたアオバに釘を刺した。

 猿飛アスマ、夕日紅、並足ライドウ、山城アオバの四人はゲンマがよくつるむ彼の友人たちである。

 最初はアスマとライドウの二人とよくつるむことが多かったのだが、紅とはそのうちの一人であるアスマの友人として紹介されたのをきっかけに親しくなったのだ。

 ちなみにアオバはアスマやライドウなどとは全くそれまでは関係性はなく、ゲンマの仲介で親しくなった。

 アオバとゲンマとの出会いは、団子屋『不知火』の常連、山城アオバの祖母の口添えによってである。

 

「くぅ~、ゲンマん所の家は相変わらずいい匂いがするなぁー!思わず腹が減ってきちまうぜ。ゲンマ、団子十本だ!全部みたらしでな。」

「ゲンマの家は団子屋なんだから当たり前でしょ?ていうか、アンタお昼にラーメン食べたばかりなんでしょ。そんなに食べたらこの後動けなくなっちゃうわよ。」

「大丈夫だって、紅。甘い物は別腹だってよく言うだろ?八本くらい余裕で平らげちまうって。それに、たかがラーメンと団子だけで動けなくなるほど軟弱じゃねぇよ!」

「もう、調子に乗っちゃって。どうなっても知らないわよ。」

「団子は作ってもいいが、アスマはちゃんと金持ってんのか?」

 

 右手を高らかに上げて宣言するアスマを見て、呆れたように溜息を吐く紅とアスマの懐具合を気にするゲンマ。

 アオバはというと、自分の祖母と何やら言い争いのようなものをしていた。

 言い争いというよりは、アオバが一方的に祖母に話しかけている様子である。

 

「ばあちゃん!勝手に家を出て行っちゃ困るっていつも言ってるだろ?母さんも父さんも心配してたんだぞ!」

「ごめんねぇ、アオバ。おばあちゃん、急にお団子が食べたくなってね。ついここまできちゃったんだよ。ゲンマちゃんの顔も見たくなったし。」

「だからって何も言わないで家を出ないでよ!ばあちゃんがどっかいくと俺や父ちゃんが探しに行かなきゃならないんだから!俺がどれだけ母ちゃんを説得して遊びに出掛けるのを許されたと思ってるんだよ!」

「まぁ、それは大変だったね。ありがとう、アオバ。お礼にお団子を買ってあげるかね。」

「ばあちゃん、話をそらさないでよ!まったく、ばあちゃんはいつもいつもすぐにどっかいっちゃうんだから…。今度家に出たらもう俺は」

「おや、アオバはお団子はいらないのかい?」

「食べるよ!ゲンマ君、アンコとみたらし一本ずつね!」

「結局食べるのかよ…。とりあえず今焼いてる最中だから待っててくれアオバ。あとアスマもな。」

 

 さっきまで祖母に怒っていたのに、ケロッと笑顔に変えて団子を二串注文するアオバを見て、ニコニコと笑顔を浮かべるアオバの祖母と小声でツッコミを入れるゲンマ。

 そんな中でも手を休めずに彼らから注文された団子を手慣れた様子で焼いているゲンマの横でライドウが申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

 

「すまない、忙しいだろうから、行くのは止そうと何度も言ったんだが、アスマが言うことを聞かなくてな…。」

「気にすんなよライドウ、この繁盛っぷりだ。いまさら団子を十本焼こうが二十本焼こうが、大して変わりはしねぇよ。」

 

 そう言って苦笑するゲンマはくるりと団子をひっくり返して、焼いている面を変えた。団子には香ばしそうな、ちょうどよい焦げ目がついており、それを見たゲンマは満足そうに軽く頷いた。

 

「いや、それもそうなんだが…」

「ん?なんだお前ら、ここに団子を食いに来たんじゃないのか?」

「そんなつもりは全くなかったんだ…。まあ、アスマが団子を食いたがるのはなんとなく予想はついたんだがな。」

 

 ライドウはそう言って、呆れたように視線をアスマの方へ向けた。

 アスマは店内の長椅子に座り込み、団子はまだかー、と笑顔で叫んでおり、隣に座っている紅がげんなりとした表情を浮かべながら彼を注意をしていた。

 ゲンマはそれを見ると軽く頭を搔いてから、大声でアスマに向かって声をかけた。

 

「うるせぇぞ、アスマ!ほかの客の迷惑になるから少し黙ってろ!あんまりうるせぇと団子は無しだからな!」

「なッ…、俺だって一人の客じゃねぇか!?そりゃ理不尽ってもんだろ!友達なんだし、少しくらい」

「ああもう!うるさいわよアスマ!さっきからぎゃあぎゃあ騒いで!そばにいるこっちが恥ずかしくなってくるじゃない!お団子くらい静かに待てないの!?大体アスマはいつもいつも他人に迷惑をかけてばっかりで!この前だって…」

 

 いくら注意してもやめる様子がないアスマに、ついに堪忍袋の緒が切れてしまった紅が怒涛の勢いで説教をし始めた。

 とても子供とは思えない迫力あるその姿に、先ほどまで文句を言っていたアスマも冷や汗を流しながら縮こまってしまっている。

 ガミガミ説教をし続ける紅を見て、ライドウは思わずこめかみを手で押さえてうつむき、首をよこに振った。

 先ほどのアスマよりもさらに大きな声で説教をする紅は、アスマ以上にほかの客に迷惑をかけてしまっている。

 普段の彼女ならそれくらいは理解できるのだろうが、今の彼女は頭に血が上ってしまっているのか、それに気づく様子は見られない。

 まわりの客も、迷惑そうな、というよりは仕方がないなぁ、という表情を浮かべながら二人の子供を見つめていた。

 

「本当にすまないゲンマ。今すぐにでも俺が二人を止めるから…ってあれ?ゲンマ?」

 

 謝罪をしながら顔をあげるライドウだが、目の前にいたはずのゲンマが見当たらず、キョロキョロと首を振りながら辺りを見渡した。

 ライドウが店内に視線を向けると、先ほどまで団子を焼いていたゲンマがつかつかと店内の中を歩いていた。

 ゲンマは両手に、十本のみたらし団子とおしるこが乗ったお盆と、二つの湯飲みが乗ったお盆の二つを持ち、それを器用に持ちながら鬼の形相で叫んでいる紅とすっかり意気消沈してしまっているアスマの方へと歩いていく。

 その途中途中にいたお客に頭を下げて申し訳なさそうに謝っていた。

 そしてゲンマは二人のいる長椅子までたどり着くと…

 

「いい加減にしろ!!」

「あでッ!!?」

「イタッ!!?」

 

 持っていたお盆を思い切り二人の頭へとたたきつけた。

 一瞬お盆に乗っていた湯飲みの中に入れてあるお茶がこぼれそうになったが、ゲンマは器用にお盆を動かしてこぼれるのを阻止した。

 

「お前ら、いくら何でもうるさすぎだ。もう少しまわりの事も考えろって。」

「イッタ~…。ちょっとゲンマ、いきなり何するのよ!アスマはともかく、私まで叩く必要はないでしょ!?」

「お、おい、おれはともかくってどういうことだよ!お前が叩かれる必要がないってんだったら、俺だって」

「何よ、何か文句でもあるの!?」

「うぐッ…」

 

 男顔負けの迫力でアスマをにらみつける紅。

 その視線を向けられたアスマは開いていた口を閉じて、再び縮こまってしまった。

 そんな二人の様子を見てゲンマは大きなため息を吐いた後、お盆で紅を軽く小突いた。

 

「一旦落ち着けよ紅。頭に血が上りすぎだ。怒りすぎてまわりが全然見えてないぞお前。」

「別にそんなことは!」

「いいから冷静にまわりを見てみろって。お前ら注目の的だぞ、もちろん悪い意味でな。」

 

 ゲンマにそう言われてしぶしぶまわりを見渡すと、店内にいるほとんどの人たちが自分たちに視線を向けており、皆一様に、何とも言えない苦笑いを浮かべていた。

 その表情を見て、初めて自分が一番大きな声を出していたことに気づいた紅は恥ずかしそうに頬を赤らめてから、申し訳なさそうにゲンマの方へ向き直った。

 

「ご、ごめんなさいゲンマ。アンタの言う通り少し頭に血が上りすぎてたみたい。すっごく恥ずかしいわ…。」

「恥ずかしいのはこっちだよ、まったく。お客に迷惑は掛かるし、しかも迷惑をかけてるのは俺の友人だしよ。」

「うぅ、ごめんなさい、本当にごめんなさい。」

「ま、わかってくれればそれでいいさ。ほら、おしるこ持ってきたから、これでも飲んでな。金は別にいいからよ。」

「ありがとうゲンマ…。うぅ、説教してたつもりが逆に説教されるなんて…。しかもその後の対応もものすごく大人っぽいし…。ますます自分が恥ずかしい。」

「へん!まったく情けねぇなぁ紅は。こんな人前で怒られるなんてよ。」

「お前は団子食ったらすぐに出てけ、この馬鹿猿。」

「何…だと…!」

 

 ジト目でアスマをにらむゲンマが湯飲みと団子とおしるこをお盆から長椅子の空いているスペースに移したその時、彼の後ろから若干疲れ顔のライドウが近づいてきた。

 

「おいおい二人とも、本来の目的を忘れてゲンマに迷惑をかけるなんて、何を考えてるんだ全く…。」

「返す言葉もないわね…。ライドウの言うとおりだわ。」

「あん?目的ぃ?」

 

 ライドウの言葉に、紅はますます罪悪感を感じて顔をうつむかせる。

 しかし、それとは対照的にアスマは、団子に手を伸ばしながら不思議そうに首を傾げた。

 

「目的って…何かあったか?団子食いに来たんじゃなかったっけ?」

「お前な…。」

「…ねぇゲンマ、そうして私を羽交い絞めにするのかしら?」

「やめろ紅、俺の店では暴力沙汰は禁止になってるんだ。だから、その振り上げてる拳を下ろしてくれ。」

 

 今にもアスマに襲い掛かりそうな紅を羽交い絞めで抑えているゲンマを横目に見ながら、ライドウは呆れたように溜息をついた。

 

「アスマ、お前自分がここに来る前のこと覚えていないのか?」

「?…そういえば俺たちなんでゲンマんとこの団子屋に来ることになったんだっけか?」

「アスマはその場その場の感情で動くやつだからなぁ。覚えてないのも無理はないだろ。それで?なんで俺ん家までくることになったんだ?」

 

 あきらめたように言いながら、ライドウと紅に話しかけるゲンマ。

 二人は、一瞬首を傾げながらもすぐに「ま、いいか!」と呟いてみたらし団子を食べ始めたアスマをみてがっくりと肩を落とした後、ゲンマに事情を説明し始めた。

 

「実は、俺たちが公園で遊んでた時にアスマが、三代目火影様が披露してくださった術を見せてくれると言ったんだ。」

「そこでライドウが、『どうせならみんなで忍術の修行でもしてみよう』って言い始めてね。私たちももう少しでアカデミーに入学することだし、いい予行演習になるってアオバもアスマも私も賛成したんだけど…。」

 

 そこで言葉を止めた紅は、若干見下したような視線を、団子をほおばっているアスマへとむけた。

 ライドウも同じように視線をアスマへとむけた。

 

「このバカが『どうせならゲンマも誘ってやろう』って言ったのよ。」

「あー、なるほどそれでここに…。」

 

 ゲンマは納得したような表情を浮かべた後、申し訳なさそうに頬を指で二三度搔いた。

 

「んー、気持ちはとてもうれしいんだが…時間帯がなー。昼時は大体店の手伝いをやらされてるからよ…。」

「俺たちもそれはわかっているさ。だからアスマには今はやめておくよう言ったんだが。」

「このアホ猿は『大丈夫大丈夫!きっと何とかなるって!ゲンマもよろこぶだろうぜ!』って言って私たちの言葉も聞かずにゲンマのいる団子屋へと向かっていったって訳。人様のことも考えずに突っ走った挙句そのことを忘れてるなんて…。手のかかる馬鹿猿よ、まったく。」

「ま、そうやって友達の事を考えてくれるのは、アスマのいいところだろ。それ以上に相手に迷惑をかけることも多いけどな…。」

「それくらいわかってるけど…迷惑かけてるんじゃいいところも何もないでしょ、もう。」

 

 ゲンマの言葉に軽く頬を膨らませながら返事をする紅。

 話の中心にいるアスマはというと、四本目の団子を見つめながら何やら苦しそうな表情を浮かべていた。

 苦笑いをしながらアスマに視線を向けた後、ゲンマは頭をボリボリと手で搔きながら申し訳なさそうに視線をライドウと紅へと戻した。

 

「んー、話は一応理解した。けどなぁ、さっきも言ったが、俺は今店の手伝いの真っ最中だからなぁ。気持ちは有り難いし、俺も忍術修行に参加したいのはやまやまなんだが…。」

「やはりそうか。こちらも無理に誘うわけにはいかないしな…。」

「お店の事を放っておくわけにもいかないものね…。」

 

 ゲンマの返事に、少しだけ残念そうな表情をする紅とライドウ。

 そんな二人の表情を見て、なんだか悪いことをしてしまった気分になり、ばつが悪そうに顔を逸らした。

 

「いいじゃないか、忍者修行。行って来たらどうだ、ゲンマ。」

「ん?あれ、親父!なんで店に来てるんだよ。家でレンカの面倒見てくれてたんじゃないのかよ。」

 

 背中から話しかけられて、ゲンマが振り向いてみると、そこにはゲンマと顔だちが少々似ている男性が立っていた。

 彼はゲンマの父親であり、この団子屋『不知火』の店主…ではない。

 彼、不知火レンマはゲンマの母親、不知火ランカの家の入り婿であり、団子屋『不知火』の店主はゲンマの母親であるランカとなっているのだ。

 

「レンマおじさん、久しぶりね!レンカちゃんは元気?」

「レンマさん、お久しぶりです。おかわりはなさそうですね。」

「やあ、ライドウ君に紅ちゃん。ゲンマがいつも世話になってるね。アスマ君はここにはいないのかい?アオバ君はさっき、山城のおばあちゃんと店の椅子に座ってるのを見たから挨拶したんだけど…。」

「アスマならほら、あそこに。」

 

 レンマが紅の指さした方向に顔を向けると、そこには五本目の団子をもって口元を抑えているアスマがいた。

 それをみたレンマは何とも言えない苦笑を浮かべた。

 

「なんだか、いつもより元気がなさそうだね…。」

「気にしないでレンマおじさん。アスマはいつも通り元気に馬鹿な事してるだけだから。」

「ていうか、親父はなんでここに来たんだ?」

「ん?いや、特に用事はないんだ。今日はレンカも落ち着いてるし、店の様子でも見に行こうかなーっと思って。」

「はー、だからおんぶ紐なんてつけてるんだな。レンカは特に変わりはないの?」

「ああ、今日も元気いっぱいさ。ほら!」

 

 レンマはそう言ってくるりとゲンマ達に背中を見せた。

 そこには可愛らしい赤ん坊がおんぶ紐につるされていた。

 赤ん坊は目の前に現れたゲンマ達を見つめてそのくりくりな目をキョロキョロと動かした。

 そして、その動かしていた目をゲンマに向けた瞬間止まった。

 レンカはゲンマに向かって手を伸ばして口を動かした。

 

「にー!にー!」

「おおー、そーだぞー。兄ちゃんだぞぉ。相変わらずレンカはかわいいなぁ。」

 

 ゲンマは伸ばされたレンカの小さく柔らかな手を握り、優し気な笑みを浮かべた。

 ライドウも紅も、レンカを見てそれぞれ笑顔を浮かべていた。

 

「きゃあああ!レンカちゃんは相変わらず可愛いわよねぇ!ほっぺたもぷにぷにで柔らかいし!」

「うむ、やはり赤ん坊というものはかわいいな。俺も数年前にはこんな姿をしていたと思うと、不思議なものだな。」

「ジジ臭いわよライドウ。」

「レンカとお前を一緒にするなよ。お前よりレンカのほうが何倍も可愛い。」

「……」

 

 ライドウの講義するような視線を無視してレンカと戯れるゲンマと紅。

 レンカもきゃっきゃっとはしゃぎながら二人の指をつかんでいた。

 レンマはしばらくその光景を微笑みながら見守っていたが、ゲンマの口元に目をやると、少し眉をひそめた。

 

「ゲンマ、まだ爪楊枝を咥えていたのか?できればそれはやめてほしいんだけど…」

「うっ…。すまない親父。俺も癖になっちまってるからさ…。」

「仕方がないな…。気をつけてよ、のどにつまりでもしたら大変なんだから。」

「わかってるって。」

 

 ゲンマのこの咥え楊枝はいわゆる彼のトレードマークなのだが、これは理由がある。

 元々彼は前世ではかなりのヘビースモーカーであり、一日に何本ものタバコを吸う男性であった。

 自分は死ぬとしたら肺がんだろうな、と自分で思っていたほどである。

 しかし、転生して子供としている現在ではタバコを吸うわけにもいかず、その代わりが何かないかと探した結果、口元に何かを咥えるようになっていったのだ。

 

「それはそうと、さっきの忍術修行、皆と一緒に行って来たらどうだい?店の手伝いはいいからさ」

「何言ってるんだよ親父。親父はそんなこと言えるような身分じゃねぇだろ。このお店は親父のじゃなくてお袋の物なんだし。」

「……」

「じょ、冗談だよ親父。そんなにしょげないでくれよ。子供の軽い冗談だろ。」

「相手の弱点を的確に射抜いてる分、たちが悪い冗談だな。」

「ちょっとだまってろライドウ。」

「ぱー!ぱー!!」

 

 思わず地面に両手をつけて『ず~ん』と効果音が付きそうなほど落ち込むレンマをみて慌てるゲンマとレンマの背中で楽しそうに笑うレンカ。

 しかし、レンマは「大丈夫、大丈夫」と自分に言い聞かせて気力を持ち直した後、ゆっくりと立ち上がった。

 

「と、ともかくさ、いつもいつも店の手伝いばかりでろくにみんなと遊んでないだろ?せっかくなんだし、今日はみんなと一緒に遊びに行ってきな。」

「だけど、店をほっとくわけには…。」

「ゲンマ。」

 

 レンマはゲンマの背に合わせて屈むと、彼の顔をじーっと見つめ始めた。

 

「君はすこし働き過ぎだよ。たまには自分のために行動してみたらどうだい?」

「親父…」

「君は忍びになりたいんだろう?ならそのためにも、今やれるべきことを精一杯やらないと。」

「けど…」

「いいから、今日はみんなと」

「俺が出かけたらお袋がきっと怒るぞ?」

「……」

「……」

「ぼ、僕が何とか説得するから、大丈夫だよ。」

「声が震えてちゃ説得力ないぞ、親父。」

「うっ…」

 

 顔を顰めて、何やらぶつぶつと独り言を言い始めるレンマ。

 時折「大丈夫だろ?」とか「地に伏して頼めば何とか…」などと聞こえてくるのを耳にして、思わずゲンマは笑ってしまう。

 

「…ありがとな、親父。それじゃ、俺は親父の言葉に甘えてみんなと修行してくるわ。」

「え?あ、うん。行ってきな、ゲンマ。母さんのことは父さんに任せといて。立派な忍びになれるように、皆と頑張ってくるんだよ。」

「それってさ、普通アカデミーに入学するときとかに言わないか?今言うようなセリフじゃない気がするんだけど…」

「え、そ、そうかな?」

 

 そう言って頭を片手で搔いて、照れたように笑う父親を見て、思わず一緒に笑ってしまうゲンマ。

 しばらく二人は一緒に笑いあった後、軽く拳と拳を合わせた。

 

「それじゃ、俺行ってくるわ。あ、これよろしく。」

「うん、行ってらっしゃい。気を付けていってくるんだよ。」

「レンカー。兄ちゃん行ってくるなー。」

「にー!いっらー!」

 

 レンマに頭に巻いていたバンダナを渡し、レンカに手を振った後、にやにやと笑みを浮かべている紅とこれまた口角を釣り上げて笑っているライドウの所へ歩いて行った。

 

「ふふ、よかったじゃな~い。優しいお父さんで」

「随分と仲がいいみたいだなぁ、ゲンマ?」

「ああ、俺の自慢の親父だよ。最高の親父さ。」

((思っていた反応と違う気がする…))

 

 からかうつもりがまじめにいい言葉で返されてしまい、釈然としない表情をする紅とライドウ。

 しかし、すぐに気持ちを切り替えて普段通りの表情へと戻っていった。

 紅とライドウとゲンマ、三人で団子屋を出ると、ゲンマは腕を伸ばして軽く首を動かした。

 

「しかし、お前らとこんなに早くから遊ぶのは随分と久しぶりだな。」

「そうだな、お前は店の手伝いが終わってから俺たちと合流することがほとんどだったからな。」

「なら、今日は目いっぱいみんなで遊びましょうよ!せっかく全員集まって遊べるまたとない機会なんだからさ。」

「当たり前だ。久しぶりにのびのび羽を伸ばせる機会が来たんだ。この機会を逃したらこの先いつまたお前らと長くいられる時間を作れるかわからないからな。」

 

 ワイワイ話をしながら歩いていくゲンマたちの背中を感慨深そうに見つめているレンマに、彼の妻、ランカが意味深な笑みを浮かべながら話しかけた。

 

「珍しく父親らしいとこ見せたじゃないのよ?これは明日は雨が降るかも。」

「し、失礼だな。僕だってたまには、息子の夢を応援するときだってあるさ。」

「ゲンマの夢ね…。確か、大切なものを救える忍者になりたいんだっけ?」

「そうそう、君は店の手伝いをさせて、ゆくゆくは団子屋を継がせたいのかもしれないけどさ…。ゲンマにもなりたいものがあるんだし、彼の夢は尊重してあげようよ。」

「…あたしは、ゲンマには危ない目には合ってほしくないんだけどね。」

「大丈夫だよ、なんたって君の息子なんだから。」

「そこは私とアンタの子なんだからっていうとこじゃないのかい、あぁ?」

「ご、ゴメン」

 

 鬼のような顔で詰め寄るランカに思わず後ずさりしてしまうレンマ。

 そんな彼をみて呆れたように溜息を吐いたランカは、歩いている我が子の背中と目の前にいる頼りなさげなレンマを見て、優し気な笑みを浮かべた。

 

「優しいところは、アンタ譲りかね…。父親の良いところだけ受け継いだみたいだね」

「ん?何か言ったかい?」

「別に何も言ってないよ!それより、そんなところでぼさっと立ってないで、さっさと厨房に入んなさいよ!」

「え」

「ゲンマがいない分は、アンタに働いてもらうからね!ゲンマより手早く、そしてなによりうまく焼かなきゃ承知しないからね!」

「えぇー!ぼ、僕レンカを背中でおんぶしてるんだけど…」

「男がつべこべ言わない!さっさと準備するの!息子と娘にかっこいい姿の一つでもみせなさいっての!」

「ぱー!ぱー!」

「ほら!レンカも早くしろって言ってるよ!」

「ゲ、ゲンマー!か、カムバァァック!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっくし!」

「どうしたゲンマ。風邪か?」

「いや、たぶん誰かが噂してんだろ。それかお袋が親父に怒ってるかのどっちかだ。」

「前半の内容はともかく、後半の内容は地味に現実的であり得そうだな。」

「あ」

「ん?どうしたんだよ、紅。」

「アオバとアスマ、忘れてきちゃった。」

「「…あ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ、もう食えねぇ、十本も団子頼むんじゃなかった。」

 

「ゲンマ君、遅いなぁ。まだお団子焼いてるのかな?」

「ゲンマちゃんならさっき紅ちゃんとライドウ君と一緒に店の外に歩いて行ったよ?」

「ええぇ!!なんでばあちゃん言ってくれないんだよぉ!!」

 

 

 




グダグダで長すぎ!本当に申し訳ありません!

それにしても、カカシの同期のアカデミー入学式って色々と無理がありますよね年齢設定的に。
とくにハヤテさん。
ちなみにこの作品は作者のご都合主義で押し通す予定です。
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