転生 咥え千本物語   作:オールライト

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第二話 修行と買い物と出会い

 木の葉の里にある第三演習場。

 里の多くの忍びがここで修行し、自分の精神と肉体を鍛え上げていたこの演習場に、四人の少年と一人の少女がいた。

 先ほどまで団子屋『不知火』でワイワイはしゃいでいた、アスマ、ライドウ、アオバ、ゲンマ、紅の五人である。

 五人は何やら内輪でもめているらしく、アオバは何やらライドウとゲンマに文句を言っており、アスマは腹と口を抑えており、紅に呆れたような視線を向けられていた。

 

「ひどいよ!みんなして僕の事を置いて先に行くなんて!」

「いや、別に故意に置いて行ったわけじゃないんだけどな…。」

「ああ、俺らだって好きでお前を置いて行ったわけじゃないんだ、許してくれアオバ。」

「じゃあどうして置いて行ったりしたんだよぉ!」

「「普通に忘れてた」」

「そっちのほうが傷つくんだけど!?」

 

 若干涙目になりながら抗議の声を上げて二人に詰め寄るアオバ。

 ライドウもゲンマも忘れていたことは事実のため言い訳ができない。

(そろそろ終わってくんないかなぁ)と考えながらアオバをなだめる二人は、助けを求めるように視線をアスマと紅に移した。

 

「うぅ、まだ腹が重い…。団子なんて食べなきゃよかった。」

「だから言ったじゃないの。後先考えずに動いたりするからこういうことになるのよ、まったく。」

「さ、最初は食べれると思ってたんだよ…。甘いものは別腹って言うし…。」

「結局食べれてないじゃない、ホントに情けないと言うか、バカっていうか…。」

 

 軽く屈んで腹を手で抑えながら、苦しそうにしているアスマと、彼をジト目で見つめる紅。

 先ほど団子屋で団子を十本頼んだアスマは四本ほど食べたあと、残りの六本を食べれずに残してしまったのだ。

 元々彼は四人で集まって団子屋に行く前にラーメンを食べていたため、団子が十本も入るほど腹の中があいているわけがなかったのである。

 そんな彼は、ゲンマから「残したら許さないからな、絶対に」と言われ、この世の終わりのような表情を浮かべたのだが、そこに意外な救世主が現れた。

 呆れたようにアスマを見ていた紅が仕方がないわね、と呟いて残っていたお団子をすべて平らげてしまったのである。

 おしるこもお団子もペロッと食べてしまった紅を見て、ゲンマが昼飯を食べてなかったのか聞いたが、なんとお昼に親子丼を食べてきていると言われてアスマもゲンマも思わず口をあんぐりと空けて驚いた表情を作ってしまった。

 そんな二人を見て不思議そうに首を傾げている紅を見て、やはり女は甘いものが好きなんだな、と半ば感心したようにうなずくゲンマと、なんとなく悔しい気持ちが湧き上がってくるアスマ。

 そして、何とか汚名返上をしようと意気込みも十分に演習場にゲンマ達を引き連れて向かっていったのだが、途中でお団子とラーメンによる腹の重みがピークに来てしまい、演習場に着くころにはすっかり弱ってしまったのだ。

 

「とにかく、少し動かずに休んでなさい。そうすれば少しはお腹も軽くなるだろうから。」

「いや、俺は親父に見せてもらった術をお前らにも」

「いいから!少しの間でいいから休んでること!いいわね!?」

「お、おう」

「それからアオバ!」

「え、は、はい!」

「アンタも!男のくせに小さなことを何度もグチグチ言わないの!男ならどっしり構えていなさいよ!」

「ち、小さいことなんかじゃないでしょ!自分の事を忘れられて怒らない奴なんていないよ普通!」

「アンタが影薄いのがわるいんでしょ!」

「うわ!ひど!?人が気にしてることをあっさりと…!」

「事実でしょ!?実際アオバは影が薄すぎてかくれんぼの時も見つけにくすぎるのよ!アスマとかガイとかはすぐに見つかるのに!それと遊びに誘うときもアンタを探すのに時間が掛かるし!もう少し何か目立つ方法でも考えたらどう!?」

「く、紅ちゃんにはわからないよ!影が薄い僕の気持ちなんて!最近なんてあまりに影が薄すぎてまわりの人から油女一族の人かと思われたほどなんだよ!」

「…油女一族?何よその変な一族、どんな人達の集まりなの?」

「紅、それは油女一族の人たちに失礼だぞ。木の葉ではかなり有名な一族なんだ。アオバと一緒にされるなんて油女一族の方々も嫌だろうに…。」

「ちょっ!?それは僕に失礼でしょライドウ君!!」

「え、そうなの?私は初めて聞いた一族なんだけど…。アオバは知ってる?」

「ここで僕にきくのね…。僕も、不思議な虫を操ることくらいしか知らないんだけど…。」

「油女一族というのは、木の葉に代々伝わる秘伝忍術を使う由緒正しい一族なんだ。彼らは戦いの際に…」

 

 いつの間にかアオバと紅の言い合いからライドウによる油女一族講義が始まってしまったのを見て、思わずため息を吐くゲンマ。

 

「俺たち忍術修行しに来たんだだよな…。喧嘩したり講義したり腹痛くしたり、なんだか忍術のにの字も感じられなくなってきたなぁ…。」

 

 頭を片手でボリボリ搔きながら、目の前で行われている油女一族講義と腹をさすりながら座っているアスマとを交互に見つめるゲンマはげんなりとした表情で再度溜息を吐いた後、大きく二、三回両手をパンパンと叩いた。

 その瞬間、全員の視線がゲンマへと集中した。

 

「ん?どうした、ゲンマ?急に手なんか叩いたりして。何か疑問点でも浮かんだのか?」

「いや、そうじゃなくてな…。お前らもうここに来た目的忘れてるだろ?」

「「「あ」」」

「俺は、忘れてるわけじゃないんだが…。」

「やっぱりだ、まったく…。」

 

 やっと思い出したような表情を浮かべたアオバ達を見て、ゲンマは肩をすくめて軽く笑みを浮かべた。

 そんなゲンマを見て、ライドウたちは恥ずかしそうに頭を搔きながら軽く頭を下げた。

 

「すまないゲンマ。油女一族のことを説明するのに夢中で本来の目的を忘れていた。」

「僕も、ついライドウ君の説明に聞き入っちゃったよ。」

「ごめんなさいゲンマ。私もつい夢中になっちゃって…。なんだか今日はゲンマに謝ってばかりの日ね…。」

「いや、まぁ、知らないことを知るっていうのは大切なことだし、それはそれでためになるからいいんだけどよ。」

「よ、よくねぇよ!今日は俺が術を教えるためにお前らを呼んだんだぞ!ほかの事なんかされたら術を見せることができないじゃねぇか!」

「だったらまずは術を見せるにふさわしいコンディションを作るように心がけろって。食い過ぎで腹をこわすなんて、自分の体の管理がきちんとできてない証拠だろうに…。忍びでも何でも、まずはきちんとした体づくりが資本なんだぞ?」

「ゲンマ君の言うとおりだよね。今のアスマ君に術を見せてもらうのも、なんだか罪悪感がして気が乗らないし。」

「無理をさせてゲロでも吐かれたら、アスマに悪いしな。」

「とりあえずアスマはそこで寝てれば?その間に私たちは忍術修行させてもらうから。」

「う、うるせぇな!もう腹も痛くねえし、こんでしょんもばっちりだってぇの!」

「こんでしょんじゃなくてコンディションだけどな…。」

 

 友人たちの一部辛辣な言葉に反発するかのように勢いよく立ち上がったアスマは四人の見ている前で自慢げに話をし始めた。

 

「この術はな、親父に見せてもらったすげー術なんだよ!お前らが見たら腰抜かすと思うぜ。実際俺は腰抜かした。」

「三代目火影様がお見せした術なんだから、すげーのはなんとなく理解はできるけどな。」

「里を収めてる人の忍術がへぼかったらそれはそれで問題だと僕は思うけど…。」

「むしろアスマがやることによって、そのすごい術が残念な術にならないかが心配だわ…。」

「確かに、その可能性は大いにあり得るな。これはあまり期待しないで見た方がいいのかもしれないな。」

「お、お前らな…。ま、まぁいい。これを見たらお前らもそんな口はきけなくなるだろうからな。」

 

 ゲンマ、アオバ、紅、ライドウの言葉に肩を震わせ始めたアスマだったが、軽く一度せき込んだ後、気を取り直して術の印を結び始めた。

 アスマが印を結び始めたのを見て、今まで各々好きにしゃべっていたゲンマ達も真剣な顔つきになる。

 

「見てろよ、これが親父から教えてもらった忍術だ!」

 

 印を結び終えたアスマは一度大きく息を吸い込みその胸を膨らませた。

 数秒の間、その状態を保った後、大きく頬を膨らませた。

 

「火遁!灰積しょ…」

「…ん?」

 

 大きく頬を膨らませた後、アスマは術名を叫ぼうとして、突然口元を抑え始めた。

 いきなりのことに眉を顰めるゲンマ達。

 アスマはしばらくの間口元を押さえ続けていたのだが、ふいに口元を抑え続けていた手を離した。

 するとその瞬間

 

「うゲェッホゴッホゴホウボェッホ!!」

「うわぁ!アスマ君の口から灰が出てきたぁ!」

「なんだと!?うわっ、アッツ!?アスマが吐き出したこの灰ものすごく熱いぞ!」

「はぁ、やっぱりこうなるのね…。」

「まぁ、なんとなく予想はついてたけどなぁ…。」

 

 アスマの口から大量の灰が吐き出された。

 しかし吐き出されたといっても、火遁の術のように前方に吐き出されたのではなく、表現の仕方は悪いかもしれないが、まるで嘔吐のように真下に吐き出したのである。

 それを見て、驚きの声を上げたのはアオバとライドウ、彼らとは対照的に呆れたように溜息を吐いたのは紅とゲンマであった。

 ゲンマはげんなりとした表情を浮かべながら、いまだにせき込みながら高熱の灰を出し続けているアスマへと近づき、その背中を優しくさすってやる。

 それに続いて紅もアスマのもとへと近づいて行った。

 

「ゲホッ…。すまない、ゲンマ…。ゴッホゲホ」

「いいから、とりあえず今は呼吸を整えることに専念しとけ。」

「大丈夫、アスマ?水、持ってこようか?」

「あー、今は水は逆効果だな。とりあえず俺と一緒に背中をさすってやってくれ。」

「わかったわ。」

 

 ゲンマと紅がアスマの背中をさすり、アオバとライドウが熱い!熱い!と叫びながらアスマの吐き出した灰を片付けてから数分後。

 やっと咳がとまり落ち着いてきたアスマは申し訳なさそうな表情をして座り込んでいた。

 

「すまねぇ、皆。お前らにすごい術を見せるつもりが、唾液や胃液が混ざった熱い灰しか見せることができなくて…。」

「まぁ、気にするなよアスマ。俺たちまだアカデミーにも通ってないんだ。この中でもチャクラを練って術にできるのは俺とライドウとお前くらいなんだし。失敗するのだって当り前さ。」

「そうだよ!僕と紅なんてまだチャクラを練ることくらいしかできないんだし。これから上達していけるって!」

「こちらも、アスマが成功すると思ってみていたわけではないからな。そこまで落胆せずに済んだから大丈夫さ。」

「アンタが失敗するの前提でこっちはフォローにはいってるんだから、そんな暗い顔しなくたって大丈夫よ。誰もアンタの見せる術が成功するなんて思ってないんだし。」

「……」

 

 ゲンマとアオバの言葉に若干顔を明るくするも、その後のライドウと、特に紅の言葉で心を折られたアスマはがっくりとうなだれてしまうアスマ。

 それを見たゲンマはライドウと紅を軽く小突いて『悪ふざけが過ぎるぞ』とアイコンタクトで注意をする。

 ライドウは『すまない』と軽く頭を下げ、紅は可愛らしくペロリと舌を出した。

 ゲンマは大きくため息を吐くと、少しめんどくさそうに口を開いた。

 

「まぁ、今の術は会得難易度Bの上忍レベルの忍術だし、できなくてもしょうがないっちゃぁしょうがないんだけどな。」

 

 そう言ってアスマのフォローを入れると、そのアスマがゆっくりと顔を上げ、驚いたような表情を浮かべてゲンマに視線を向けた。

 ライドウたちも視線をゲンマに集中させていた。

 

「ゲンマ、お前今の術のこと知ってるのか?」

「ああ、火遁・灰積焼の術だろ?昔から火遁の術が得意だった猿飛一族が考案したとされている忍術だ。」

「へぇ!詳しいんだねゲンマ君。あ、もしかしてゲンマ君その術できたりするの?」

「できるわけないだろ、俺まだ下忍にもなってないんだからよ。」

「どんな術なの?アスマは灰を口から吐き出してたけど…。」

「確か、体内のチャクラを高熱の灰に変えて口から広範囲に吐き出して奥歯に仕込んである火打石の火花で着火させて爆発させる忍術、だったっけかな?」

「なるほど…灰を多量に吐き出せば多くの敵を一気に殲滅できる広範囲忍術というわけか。」

「ま、基本は一対多で戦うときに使うのが一番いい忍術だな。」

「え、どうして?」

「一度吐き出した灰は風に乗って広範囲に広がっていくからな。自分で灰の広がる範囲を決めるのは難しい。下手をしたら味方を巻き込んでしまうかもしれないし、慣れないうちはあまり使わない方が賢明だろ。」

「なるほどね。案外扱い方が難しい術って訳。」

「ああ、それを大勢の前で見せてもけが人を出さないあたりは、さすが三代目火影様ってところだよな。」

「ぬぐぐ…。」

 

 ゲンマに術の解説までされてしまったアスマは悔しそうな声を上げて、顔をゲンマから逸らした。

 それを見た紅は、一瞬目をキランッと輝かせると、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべてアスマの肩を人さし指でちょんちょんとつついた。

 

「何むくれてんのよアスマ。もしかして悔しがってるの?まぁ、自分の注目されるはずが、ゲンマにそれを奪われちゃ悔しがるのも無理はないわよねぇ。」

「う、うるせぇな!べ、別に悔しがってるわけじゃねぇし、俺もあれくらいの事は余裕で知ってたっつーの!」

「本当かしらねぇ~。」

「うっ…」

「いや、でもアスマは結構すごいことしてたんだぜ?」

「え、そうなのか?」

 

 ゲンマの言葉に苦い顔をしていたアスマの顔が少しだけ明るくなった。

 紅も目を見開いて驚いたような表情を浮かべた。

 

「え、そうなの?でも、アスマが出したのは唾液まみれの汚い灰だけよ?普通ならあの灰は爆発するんでしょ?」

「さっきも言っただろ?灰は体内のチャクラで作るんだよ。そのチャクラで灰を作るのが難しいんだ。火遁・豪火球の術ができたら一人前と言われてるのはこれが理由だったりするんだよ。体内のチャクラで火などの物質を作り出すのが忍術の基礎であり一番難しいところでもあるんだよ。周りの水を操る水遁と、水を自分の体内のチャクラで作り出す水遁では難しさが違うのもそれが理由だな。」

「だから全く使えないものとはいえ灰を作り出したアスマはすごいってこと?」

「ま、簡単に言えばそういうことだな。」

「言われてみれば確かに、俺もチャクラを火や水に変化させることに成功したことは一度もない気がするな…。」

「そ…そうだろそうだろ!みたか紅!俺は別にそこまでセンスがないわけじゃないんだぜ!むしろセンス抜群の忍者の卵なんだ!」

「うーん、まだ忍術も使えない私やアオバにはいまいちぴんと来ないんだけど…」

「ちょっと紅ちゃん、僕まで巻き込むのはやめてよ、恥ずかしいな。」

「じゃあアオバは理解できたの?」

「できてないけど…。」

 

 首を傾げて不思議そうにしている紅とアオバにライドウがゲンマの説明を何とかわかりやすく二人に伝えようと四苦八苦しているのを尻目に鼻高々に声を張り上げるアスマ。

「俺はセンスがないわけじゃない!」とか「俺だってできる忍びなんだ」と言って胸を張ってるアスマを見ながら、ゲンマは咥えている爪楊枝を軽く上下に動かした後、ポツリと呟いた。

 

「ま、忍びにとって一番大切なものは術のセンスじゃないんだろうがな…。」

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

「えーと、小豆と砂糖は光圀さんとこ、塩にもち米は塩塀さんとこで……」

 

 お昼時も過ぎ、あとは日が沈んでいくだけとなったとある日の午後。

 頭にバンダナを巻いて、楊枝を口にくわえている少年、不知火ゲンマはメモを片手に商店通りを歩いていた。

 彼が今何をしているかというと、一言でいえば買い物である。

 先ほどまで店で団子を焼いていたゲンマだが、店で使う小豆やら砂糖やらが少なくなってきたため、母親に理由を告げて買い物に出かけてきたのだ。

 今は母親、ランカが少ない材料を使って団子屋を切り盛りしてる状態である。

 いくら店の物を買いに行くとはいっても、いつもお世話になっている店がどこなのかもわかってるため、そこまで時間はかからない。

 一通り買う物に目を通したゲンマは、ふと感慨深そうに目の前のメモを見つめ始めた。

 

「それにしても、団子屋をしたり、アスマ達と遊んだり忍術修行したり、前とはかなり違った人生歩いてるなぁ。」

 

 前世では高校を卒業してすぐに介護施設に就職していたゲンマ。

 その後、ずっと介護福祉士として現場で介護をし続けてきた彼は、二十歳で一人暮らしを始めた。

 そして、そこから四十年近く介護福祉士として働き、無事定年退職をして六十九歳で生涯を終えた前世の人生。

 その前世では飲食店等で働いたことはないが、前世の時の料理の知識などを生かして店の手伝いをしているゲンマ。(ちなみに彼は料理は自分で行っていた)

 前世では体験したことがないものばかりの今の人生に前世の時とはまた違った楽しみを覚えてはいるものの、やはりふとした瞬間に前世のことを思い出してしまうのも事実である。

 前世に未練がない…と言えば嘘になる。

 

(時折…本当に時折だが、あいつに会いたくなるな…)

 

 思わず首を上にあげて空を見るゲンマ。

 あの空の向こうに、もしかしたらあいつがいるのかもしれない

 そんな幻想も、本当に時々だがふとした瞬間に抱いてしまう。

 

「ま、仮に戻ったとしてもあいつはいないし、あのご老人と約束もしちまったしな…。男が一度した約束を違えるのは義にもとる。今はこの新しい人生をアスマ達や親父たちと楽しむことにするか。」

 

 そう言って軽く笑った後、空を見上げるため上にあげていた首を元に戻して、前を向いた。

 そしてまずは小豆と砂糖を買いに行こうと、光圀さんのお店へと歩を進めようとしたその時、とある人物が目に飛び込んできた。

 彼の目に留まったの人物は、自分と同じくらいの年齢であろう黒髪の少女だった。

 肩にぎりぎりかからない短めの髪をしたその少女は、別にゲンマの知り合いだとか友人であるというわけではない。

 ゲンマはこの商店通りとその近辺の地域では顔も広く、知り合いも数多くいるのだがその少女は彼も見たことがない。

 恐らくはこの通りに食事等をしにここまで来たのだろう。

 あるいはその帰りだろうか。

 どちらにしても、そこまで予想ができたのなら、彼がその少女に目を留める必要はないだろう。

 ならなぜ、ゲンマの目にその少女が留まったのだろうか。

 理由は彼女が一人で通りを歩いていたからである。

 中身が六十九歳の爺さんであるゲンマならまだしも、普通彼の今の年頃の子供であれば普通は出かけたり、食事処に行ったりするときはほとんど親と一緒に来ているはずである。

 ところがその少女のまわりには親または保護者らしき大人がいるようには見えないのだ。

 どの大人もその少女に目もくれずに通り過ぎていくだけである。

 よく見ると少女はしきりにキョロキョロと辺りを見渡しており、アタフタと落ち着きなく動いていた。

 時折まわりを行きかっている大人にぶつかって、その大人に慌てたように頭を下げている姿も見られる。

 少女のその動きからして、相当焦っていることがうかがえる。

 ゲンマはしばらくの間、立ち止まってじーっとその少女を顎に手を当てながら見つめ続けた。

 

(まわりに保護者もいるような様子でもないし、見たところ結構慌ててるようだし、もしやあの子…迷子か?)

 

 そこまで思考した後、顎にやっていた手を離して、胸の前で腕を組み始めたゲンマ。

 彼としても、今は買い物の途中であり、店の材料も足りてない状況である。

 もし材料を買うのが遅くなれば、ほぼ確実に母に怒られてしまうだろう。

 ゲンマとしても、それはなるべくなら避けていきたいところである。

 彼にとって母、ランカは今のところ絶対に怒らせたくない人間NO1なのである。

 十数秒ほどそのままの状態で何やら考えていたゲンマは、組んでいた腕をほどき、ゆっくりと息を吐いた。

 

(とりあえず困ってるみたいだし、一応声でもかけてみるか…。)

 

 困っている人がいたら必ず手を差し伸べるように、と前世の時にきつく言われて育ってきた彼に、少女を無視して買い物を優先させるという選択ができるはずもなく。

 結局ゲンマは片手で頭を搔いた後、相変わらずキョロキョロと慌てた様子で辺りを見渡している少女に向かって歩いて行った。

 

「ど、どうしよう、ここにもいない…。もー、一体どこにいるのぉ…。」

「おい、アンタ」

「あひぃ!!」

「うおっとぉ!?」

 

 ゲンマが声をかけた瞬間、ビクッと肩を上げ、かなり独特な悲鳴を上げた後勢、勢いよく後ろを振り返る少女。

 そのあまりの驚きようと声の大きさに声をかけたゲンマも思わず素っ頓狂な声を上げて驚いてしまう。

 

「悪い、驚かせちまったか?」

「え!あ、べ、別にそんなことは…」

「そうか?思いっきり驚いてたみたいだが…」

 

 申し訳なさそうな表情をして、頬を指で搔くゲンマ。

 少女はポリポリと頬を搔いているゲンマに視線を向けた。

 上から下まで流れるようにじーっと見つめていた少女は恐る恐るといった様子でゲンマに話しかけた。

 どことなく警戒の色も見られる。

 

「あの…あなたは一体…?」

「ん?ああ、そうだよな。いきなり知らないやつに話かけられたら普通は警戒するよな。」

 

 そうだそうだ、と納得したようにうなずいているゲンマを、警戒しつつも不思議そうに見つめている少女。

 しばらくうんうんと頷いていたゲンマは、ふいに顔を上げて少女の方に向き直った。

 それを見た少女はビクッと肩を軽く上げて、少しだけ身構えた。

 

「俺の名前はゲンマっていうんだ。ここら辺の近くにあるしがない団子屋のせがれさ。アンタの名前は?」

「え!?わ、私の名前は…シズネだけど。」

「そうか、シズネっていうのか。」

「……」

 

 今度はそうかそうか、と呟いて頷くゲンマを首を傾げながら無言で見つめていたシズネという少女はしばらく彼を見つめ続けた後、意を決したように彼に声をかけた。

 

「あの…」

「ん?」

「そのぉ、もしかして私に何か用事でも…?」

「あ、いや違う違う。」

 

 シズネの問に手を顔の前で横に振り否定をするゲンマ。

 そんな彼の反応にシズネは益々不思議そうに首を傾げた。

 それをみたゲンマは、軽く頭を搔いた後、ばつが悪そうに声を出した。

 

「えっと、シズネっていったっけ?アンタさ、何か困ってることでもあんの?」

「へ…?」

 

 彼の返事が予想の範囲外だったのか、一瞬呆けた顔をするシズネ。

 そんな彼女を一瞥した後、ゲンマは頭に手を置いたまま話をつづけた。

 

「アンタ、随分と落ち着きなくあっちこっち見まわしてたろ?もしかして迷子にでもなったのかと思ってさ、声を掛けさせてもらったんだ。」

「えっと…その」

 

 そう言いながら咥えている爪楊枝を上下に揺らすゲンマ。

 彼の言葉を聞いたシズネは少しばかり呆然とした後、視線を下にやり何かを思案し始めた。

 どうやら、何かを言おうかどうか迷っているようだ。

 話そうかどうか迷っている様子のシズネをしばらく見ていたゲンマは、再び言葉をつづけた。

 

「お前さん、住んでる所はここらへんじゃないだろ?俺はこの地域では顔は広いし、地理にも詳しい。迷子にしろ探し物にしろ、何か力になれるはずだ。よかったら何に困ってるのか話してくれないか。」

「……」

 

 少女はしばらくの間ゲンマの事をじーっと見つめ、逡巡したようなそぶりをみせた。

 しばらく、ゲンマを見つめ続けていたシズネは、一度大きく頷いた後「あのぉ、実は…」と申し訳なさそうに事情を説明し始めた。

 彼女はゲンマの予想通りこの地域の近くに住んでいるわけではなく、ここより少し遠くの地域に住んでいるらしい。

 シズネがここに来たのは、彼女の叔父とこの商店街のある店で待ち合わせをしていたかららしい。

 彼女の叔父は忍びであり、現在の時間の少し前に任務が終わる予定だった。

 そこで、木の葉の入口から近いこの商店街の店で待ち合わせをすることにしたらしい。

 しかし、いざシズネが店にたどり着いてみるとまだ叔父は店に来てはおらず、叔父が来るまでここで待つことにしたのだが…。

 少しシズネが目を離した隙に、彼女が連れてきた忍豚(名前をトントンというらしい。)がどこかへ消えてしまったのだ。

 店の近くで名前を呼んでみるも全く現れる様子はなく、どこか違う場所に行って、迷ってしまったのではないかと考え、商店街を散策することにしたらしい。

 

「んで、そのトントンとかいう忍豚を探すためにこの通りのあちこちを歩いていたら、自分自身も迷子になってしまった…と?」

「その、恥ずかしいですけどその通りです…。」

 

 ゲンマの問いに恥ずかしそうに頬を赤くして答えるシズネ。

 それを聞いたゲンマは顎に手を当てて、うーんと唸り声をあげて首を傾げた。

 

「ここら辺は、この時間帯になると人通りも多くなるからなぁ。見つけるのは結構難しいかもしれないな…。」

「うっ…。やっぱりそうですよね…。うう、どこに行っちゃたのよぉトント~ン。」

「ま、とりあえずはその最初にいたっていう店の近くまで行ってみるか。案外店の近くでとことこ歩いてるなんてこともあるだろうし、そこならその忍豚を見たっていう人もいるかもしれないからな。この人の多さを逆に利用すれば見つけられるかもしれん。」

「へ?一緒に探してくれるんですか?」

 

 思わず目を見開いてゲンマの方へ視線を向けるシズネ。

 それをちらりと見たゲンマは、軽く口元の爪楊枝を揺らすと顎に当てていた手を頭へと移動させた。

 

「さっきも言ったろ?何か困ってるんだったら力になるって。ペット探しだったらここら辺の事をよく知ってる俺がいた方が早く見つけられそうだろ?ていうか、仮にその忍豚が見つかったとしても、土地勘がないアンタじゃその待ち合わせの店に戻るのに時間が掛かっちまうだろ?」

「た、確かに…」

「な?ここは二人でそのトントンっていう豚をさがそうぜ。一人よりも二人の方が効率は上がるからな。」

 

 そう言ってにやりと笑ってシズネの方に顔を向けるゲンマ。

 シズネはしばらくの間、驚いたようにゲンマを見続けた後、嬉しそうに顔をほころばせた。

 

「す、すみません!それではその…よろしくお願いします!えっと、ゲンマ…君?」

「こっちこそよろしくな、シズネ。てか君付けなんてしないで、普通にゲンマでいいって。敬語も別にしなくていい。たぶんだけど俺ら歳は同じくらいだろ?」

「…!う、うん、よろしくねゲンマ!」

「おう、んじゃ早速お前のいた店に向かうとするか。その店は一体なんていう名前の店なんだ?」

「へ!?え、えっと…」

 

 ゲンマのその問いを聞いたシズネはしばらく顔を下に向けて思考をした後、視線を焦ったようにキョロキョロと動かし始めた。

 シズネの挙動不審なその態度にピンと来たゲンマは、大きくため息を吐いた後、げんなりとした表情を浮かべた。

 

「シズネ…お前、まさか」

「ご、ごめん、ど忘れしちゃったみたい…」

「……」

 

 アハハ、と気まずそうに笑うシズネを見て、思わず手でおでこを抑えて顔を下に向けてしまうゲンマ。

 ゲンマとシズネのトントン探しは先行きが不安になるスタートを切ったのだった。

 




や、やべぇ
忍術修行の後半なに言ってるんだか全くわからねぇ…!(震え)
特に最後のゲンマの一言が意味不明過ぎる…。
そして、シズネがもはや誰それ状態である。
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