After the Wars   作:A_R_S

2 / 2
in 1953 winter2

 

四年。

 

そう、もう四年にもなるのだ。

 

 

 

 

祖国の空に、現在ネウロイの姿はない。

サン・トロン基地の司令として再びこの地に戻って来ることになったのは偶然ではないだろう。だが、もはやここは最前線ではない。

 

1948年、ベルリンでの作戦を終えた私は、地面に降りたのだから。

 

 

 

 

 

 

『…こちらエーリカ・ハルトマン、周囲に異常なし。これより任務交代のため、基地へ帰投します。』

 

「こちらサン・トロン基地、了解した。既に交代要員がそちらへ向かっている。…なるべく見られないように帰ってこい」

 

『えーいいじゃん別にさー、減るもんじゃないんだし』

 

「よくない!佐官クラスの者をを偵察任務に出しているなどと軍本部に知られてみろ、なんて言われるか…だいたいお前が行きたいと…」

 

『はいはい分かりましたー。だから落ち着いてトゥルーデ』

 

「…う、うむ。すまない、つい熱くなってしまった」

 

『そーそー。ま、そうやって言ってるほうがトゥルーデらしいや』

 

「なっ…お前なあ!」

 

ブチっという音を立てて、通信が切断された。

大きなため息をついて私は通信機材の前に置かれた椅子に腰をかけた。

 

 

 

随分歳をとったものだと自分でも思う。良くも悪くもあまり環境は変わらないのだが。

ネウロイの襲撃はまず無くなった。今でも週に一度ほど、ヨーロッパのどこかではぐれネウロイによるスクランブルはあるが、その脅威はもはや国の存亡を賭けたそれとは比べものにならない。

私が最後に戦闘指揮に立ったのは1950年のオラーシャ事変だ。それから先には一度だけはぐれの迎撃をエーリカにさせたぐらいで、私自身は戦闘からかなりの時間離れている。

 

 

エーリカはオラーシャ事変でもかつてと変わらない強さを見せた。対地兵器に換装してすぐに戦果を上げはじめ、一連の戦闘で戦車型ネウロイ200両を撃破した。これを讃えられ、柏葉・剣付騎士鉄十字勲章を受章したのはまだ記憶に新しいことだ。

 

彼女はどうやら魔力の減衰を起こさない、または非常に遅い体質であるらしい。私はベルリン解放戦の時点で、すでにほぼ限界に達していたのだが、エーリカは当時の私の歳をいともたやすく越えてしまった。

私と違って、エーリカは根っこからのエースだったということだ。そこに妬む気はない。むしろ自分の僚機であったことを誇りに思う。私に出来ること、彼女に出来ることは違う、というだけだ。

 

 

ミーナは去年の春に退官した。文字通り世界を救った張本人なのだ、本人は何も知らされていなかったにも関わらず、ベルリン空軍本部から空港までの道程は軍関係者やベルリン市民で埋め尽くされた。空には全軍のウィッチのほとんど全員が空を飛び回り、その偉大な英雄の勇退を祝福するために、海外からも多くのウィッチや元ウィッチが駆け付けた。

その中には扶桑から宮藤や坂本大佐、ロマーニャからルッキーニ、ガリアからペリーヌ、ブリタニアからリーネがいた。全員揃わなかった上、今も連絡の取れない仲間がいるのは残念だったが、その時はさながら同窓会のようであり、非常に楽しい時間となったことを覚えている。

 

今はウィーンで音楽の道に進んでいる。そこでサーニャと再会したと手紙に書いてあった。戦争がなければ立派な音楽家になっていたはずの二人だ、これも何かの運命なのかもしれない。

 

 

 

 

しかし、これからどうなるのだろうか。

今までは必死で、ネウロイを倒すか、そうでなければ死ぬかであった。そういう日々をずっと過ごしてきたから、ネウロイがいなくなった今、どこへ向かって進めば良いのか分からないのだ。

戦時中は過酷であったし、多くの同胞が散っていったが、進むべき道は確かに示されていた。それが今は無い。軍も今は縮小傾向にある。ジェットストライカーの配備も一定数確保され、ウィッチ自身の航続距離が大きく伸びたこともあり、基地の数も年々減っている。とりあえずは軍に残ったはいいものの、ただ無為自然と過ごしているのはあまり良い状態とは言えない。

 

飛行訓練学校の教員でもしようか?とてもじゃないが軍縮のこの時期に、新しく教員を増やすとも考えにくい。

こんな堅物を受け入れてくれる場所なんて、果たして存在するのだろうか?

 

 

「トゥルーデは難しく考えすぎなんだよなあ」

 

ふと、頭上から声が響いた。

 

「エーリカ・ハルトマン、只今帰投しました。…コーヒー入れてきたよ、飲む?」

 

「…ああ、気が利くなハルトマン。任務、ご苦労様だった」

 

コーヒーカップ二つを握り、先ほどまで哨戒任務に就いていたエーリカ・ハルトマンその人の姿が、そこにはあった。

 

 

熱々のコーヒーから白い湯気が立つ。

少し疲れているのかもしれない。私の顔を覗き込むエーリカの顔に心配の色が浮かんでいることに気づき、なんでもないと首を振る。

 

「で?なんのこと考えてたの?またクリスの事?」

 

「いや、そうじゃない。もう姉に心配されるような歳でもないしな」

 

「ふうん。んじゃ、どうしたの?」

 

机の上に整然と並べられた書類の山に目を向ける。

そこには基地予算削減の通達があった。

軍縮の波はもはやそこまで来ている。机上であれこれと言っている時期は終わってしまったのだ。

 

「…なあ、エーリカ」

 

「ん?どしたの」

 

「…これから自由になったら、お前はどうしたい?」

 

 

少し長い沈黙の後に、エーリカが口を開く。

 

「え、トゥルーデ軍辞めるの」

 

「別にそういう訳じゃないぞ、私はこの世界からネウロイが消えるまで軍にいるつもりだ。…まあ、居場所があれば、だがな」

 

「ふーん…わたしはねえ、そーだなー」

 

何かピンと来たのか、ニヤリ、と彼女は笑う。

 

「―――世界旅行、かな」

 

 

私には、その意図が掴めなかった。

 

「…そりゃまたどうして」

 

「どうしてって、501のみんなに会いに行くに決まってんじゃん。…今はどっか行っちゃってるけど、エイラのことも見つけてさ。仲間のこと忘れちゃったの?つめたいなあトゥルーデは」

 

「べ、別にそうとは言ってないだろ!―――世界旅行か…私も行ってみたいものだな」

 

「じゃあトゥルーデも一緒に行こうよ!まずはウィーンでしょ、それからガリアでしょ、それから―――…」

 

 

そこで私はふと気がついた。

軍にどうやって残るか、そのことばかりを考えていた私は、無意識の内に『軍を外れる』という選択肢を外していたのだ。

私はどうやら根っこからの軍人らしい。

だが考えてみれば、別におかしな事じゃない。軍を抜けるウィッチは少なくないし、そういったウィッチの多くは贅沢は出来ないが暮らしていけるだけの貯蓄だってある。

 

では私はどうだ。

貯蓄も少ないが、ある。

 

 

だが私は沢山の人間を守ることが出来なかったのだ。

 

 

そんな私に、自由に生きる権利なんてあるのか―――?

 

 

「ね、トゥルーデもさ、一緒に行こうよ」

 

思考から揺り戻される。目の前に、エーリカの顔があった。

その顔は、彼女らしい笑顔で溢れていた。

 

「自由に生きるんだよ。ね?私もそれまで頑張るからさ」

 

 

 

 

 

 

「―――ああ、そうだな。そいつはきっと素晴らしい…すばら…しい…世界…だ…な…!」

 

 

 

 

 

―――世界が私を認めなかったとしても、お前が認めてくれるなら。

―――世界が私を拒んだとしても、お前が受け入れてくれるなら。

 

 

私は、最高の友人とともに、新しい世の中に羽ばたいていけるだろう。

 

 

 

四年。

 

もう四年にもなるのだ。

 

 

 

新しい一歩は慎重に。次の一歩は大胆に。

 

歩き出すなら今だよと、教えてくれたお前に。

 

 

 

ありがとう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

1957年。

 

ゲルトルート・バルクホルン少将、およびエーリカ・ハルトマン中佐、退官。

二人を最後に、501統合戦闘航空団に所属していた全てのウィッチは現役を退いた。

 

 

「トゥルーデ!!!おいてくよー!!!」

 

「あ、こら待てハルトマン!!!」

 

 

 

―――その日、心地よいプロペラの音を立て、二人のエースはその役割を終えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。