如何にして隊長を尊敬している戦車道に対して真面目な黒森峰女学園機甲科生徒達は副隊長の下着を盗むようになったか   作:てきとうあき

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本編
第一話【如何にして隊長を尊敬している戦車道に対して真面目な黒森峰女学院機甲科生徒達は副隊長の下着を盗むようになったか】


-1-

 

黒森峰女学院は日本戦車道を体現した象徴である!

 

 

と私は主張したいが流石にそれは誇張であるだろうと評する人間は多いであろう。

しかし、日本高校戦車道界のそれであると主張すれば、

余程の偏見持ちで無い限り心情はどうあれ、それを否定する事のできる人間はいまい。

伝統と実績、そして歴史の深さという点において他校とは比較にならない。

ましてや去年においては史上未踏覇の9連覇をなしている。

絶対王者、常勝不敗、強大無比。斯くして黒森峰女学院は天下無敵也。

 

そして、その黒森峰女学院を支配し支えているのが戦車道西住流である。

 

黒森峰を王国と喩えるならば、西住家は王家と言えるだろう。

事実、歴代の隊長・副隊長等の主要地位は西住流門下生やその関係者によって占められていた。

これで「黒森峰は実力主義」を標榜しているのだから矛盾しているのではないかと思うかもしれないが、そういった人物は殆どの場合で戦車道の名家、特に西住流の分家の出身である事が多く、即ち生まれた時から戦車道を歩む事を義務付けられ、その英才教育を余す事無く注ぎ込まれたような人物である。

強豪校であるから一般部員ですら殆どは中学にて戦車道を経験し一定以上の成績を収めた者が殆どではあるが、それでも生を受けた時から戦車道を歩いてきた彼女等に比べると、費やしてきた時間も密度も比較にすらならないのである。

故に往々にして「実力主義」と「血筋主義」という呉越の関係である要素は、黒森峰においては刎頸之交の如く密接な関係であった。

 

そして私はこの黒森峰において戦車道を歩まんとする者にとしては非常に幸運であった。

同年に生を受けた者の中に西住家の長女の西住まほがいたのだ。

それまでの分家の方々が西住家という王家から遣わされた上級貴族とすれば、西住家長女は王そのものである。

そして実際に直面すればその覇気は正しく王に相応しい物であり、凛々しく力強く、其れでありながら排他的な雰囲気を感じさせず、いっそ涼しげですらあった。

同じ高校1年とは思えない風格を漂わせていた彼女は、初日の新入生による自己紹介で堂々たる口上で終わらせ、最上級生すら飲んでいた。

最もそれも当然とも言えよう。ここは西住家による王国。

たかだか年齢が上という理由だけで諸侯が君主に不遜な態度を取る事など許されていない。

頭を垂れて、足に口づけをし、忠誠を誓うのが当然なのだ。

 

-2-

 

彼女は一度の練習試合を経て即座に隊長になった。

無論、この練習試合は彼女を隊長の椅子へと納める為のセレモニィであったのは間違いない。

しかしながら我々と彼女の名誉の為に言っておくと、それは出来レースや八百長といったものでは断じて無い。

そんな物は些少程も必要では無かったのだ。

ただ彼女の正当な実力を発揮させ、周知させる場があれば良かったのだ。

指揮をさせればその堂々たる事不動の如く、そして機を見るに敏であり、

その進軍はブリッツクリークとは之この様に行うのだと言わんばかりの物であった。

部隊指揮だけではなく車長としての戦車指揮も見事な物であった。

操縦手を通して戦車を巧みに操り、キューポラから身を乗り出しその鋭く凛々しい眼光はバロールの魔眼の様に見つめた敵戦車を確実に仕留めていった。

西住流此処に有り。上級生の隊長―――この後、直ぐに副隊長となるのだが―――が静かに「私の西住流はまだまだ紛い物であった」といったのを良く覚えている。

「私自身が西住流其れその物だ」とは良く言ったものである。

 

隊長業としても妙妙たるものであった事は驚きに値した。

いや、これは嘘である。

実際には全員がもはや其れぐらいの事はやってのけて当然と何となくではあったが感じていたのだ。

何かをさせる時は率先してやって見せ、隊員一人一人に詳細な助言をし、メンタルに問題があると感じたのならばさり気なく気遣いをする。

その組織運用と人心掌握術は凡夫の其れでは無かった。

一年生に過ぎない彼女が隊長である事に疑問を覚える者などいなかった。

それ処か彼女の旗の下で彼女の栄光の一端になれる事を光栄に思っていた。

西住まほの戦車道という覇道の一助になれる事を誇りに思っていた。

そしてそれは全国大会優勝という形で実現したのだ。

 

更に時が過ぎ学年を上げ、私と彼女は2年生となっていた。

今年度も優勝すれば前人未到の10連覇である。

最も9連覇の時点で今まで例は無かったのだから「前人未到の」と気張る必要は無いのだが、其れは別としても10というは興奮するのに中々良い数字であるのも間違いあるまい。

そして其れは西住まほによって率いられる限り約束された勝利なのも間違いないだろう。

 

-3-

 

西住家の次女が来る。

この報は「ブリッツクリーク」の如く瞬く間に黒森峰中を蹂躙したが、

速度はともかく驚愕という意味では「電撃」どころか静電気にすらもならなかった。

隊長に一つ年下の妹がいることは周知の事実であったからだ。

西住家の女児ならば当然戦車道を嗜んでいる筈である。であれば黒森峰に入学してくる事は当然の帰結である。

そして、同時に隊長がその妹を溺愛している事も公然と知れ渡っていた。

時折来る手紙を読んでは、同封されている写真を見ては、その頬は俄かに色づき、真横一文字を保持していた口元は曲線を描き、凛々しいと称されていた表情は静かな笑顔へと変貌していた。

そして、それを気になった者が尋ねれば、普段は口静かな隊長とは思えぬほど早口になり、心優しく姉思いの可愛い妹が手紙を送ってれただの写真を送ってくれただの自慢をしてくるのだ。

普段は凛々しい隊長の可愛い一面が見れると言うのと妹の自慢が出来るという利点が一致したのか、この光景はよく見られたものであり、故に西住家の次女の存在は広まったのだ。

 

 

新入生と対面し、実際に西住妹様を見る機会が訪れた。

顔の造詣や髪型は確かに隊長に良く似ていたが、目は大きく丸くおっとりとしており、眉は垂れ下がり気弱な雰囲気を感じさせる風貌をしている。

姉が凛々しくて格好良いと称するならば、妹は穏やかで可愛いという所だろう。

 

西住まほが西住家の王ならば、西住みほは姫である。

 

これが新入生一同の中に混じった西住妹様を見た時の我々の共通した感想であった。

そしてそれは彼女に自己紹介の番が回ってきた時にはより一層強くなっていた。

自己紹介は左から順にする様に指示され、各々が名前と行っていた役割を大きな声で発し、最後に「よろしくお願いします!」と結んで順が移っていった。

西住妹様の左の生徒が終わらせて順番が回ると、新入生から上級生までの視線が一気に彼女に集中した。

その物理的な圧力までも帯びてそうな視線の束を向けられて、彼女は小さく「ひぃっ!」と悲鳴を上げて体を縮こませ、その後でおずおずと「に、西住みほです」とだけ言うと黙ってしまった。

しばらく間が空き妙な空気が漂ったところで、本人は何か失敗してしまったかと不安そうに顔をきょろきょろさせていると、

見るに見かねたのか左にいた先ほど自己紹介していたセミロングでクリーム色の銀髪の子が右肘で突いてやり、

それで思い出したかのように「あ、しゃ、車長をやってました!よ、よろしくお願いします!」と自己紹介を終わらせた。

薄っすらと涙目になっていた。

 

視線の圧力などなんのその、堂々と自己紹介をした隊長に比べると些か…いや、正直に言おう!かなり拍子抜けであった。

隊長とは正反対に見るからに気弱で頼りなさそうで、とてもではないが武芸の一種である戦車道に期待は持てなさそうであった。

おどおどとして自信がなさそうなその性格は、優秀な姉を持って常に比較されていたのだろうか。

ある種の伝統がある名家に生まれると本人にその才が有るか無いか、望んでいるかいないか等は関係なくその道を歩く事を強いられるのであろう。

きっとそれは不幸な事なのだろう。同情に値するのだろう。

時折学園にきては自ら指導してくれるこの姉妹の母である総師範の気性を思い出す。

戦車道の先達者としては間違いなく尊敬できるのだが、決して不和の無い一般家庭に育った自分としては親としては確かに御免蒙りたい。

 

ここで隊長ともども擁立しようとしていた方針を破棄し、このか弱き西住家のお嬢様を守る方向で行くつもりであった。

何たって隊長が溺愛しているお方である。悲しませたり傷つけたりすれば隊長が悲しむに決まっているのだ。

車長というのには不安を覚えるが逆に考えればある意味一番マシかもしれない。

少なくともこの頼りなさとか弱さでは装填手や操縦手をやらせるよりは安全面では遥かにいいだろう。

彼女が車長をする戦車は戦力にはならないだろうから、後方を守らせたり適当な場所へ偵察に行かせたりすればいい。

実質的に戦力減ではあるが隊長ならばこれぐらいはハンデにすらなりはしないだろう。

とりあえず名だけはある適当な役職につかせて「働いた」と充足感がある仕事を割り振ればいいだろう。

なんなら隊長補佐という役職でも作って隊長の傍に置いてもいい。きっと隊長も喜ぶだろう。

実力の無い者を車長や役職に就けるのは「実力主義」の黒森峰の指針とは少し離れるが、なぁに隊長がなさった貢献!圧倒的貢献!からすればむしろこれ位の権力の行使は当然である。

さしあたっての問題は直ぐに有るであろう一年生の実力を見る練習試合だ。

これで隊長はその実力を証明したのだが…「姫ちゃん」が無様な真似を見せて自責の念に駆られたり怪我したりしない事を祈りたいものだ。

活躍はしなくていいので、どうか隊長の面目が保たれる程度であって欲しい。

 

 





副隊長の下着がまた一枚・・・

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