如何にして隊長を尊敬している戦車道に対して真面目な黒森峰女学園機甲科生徒達は副隊長の下着を盗むようになったか   作:てきとうあき

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【エピローグにしてある物語のプロローグ】

「なんで・・・何でですか!

 なんで妹様が戦車道を辞めなくてはならないんですか!?」

 

かつての私からは想像もつかないだろう。

私が隊長の襟首を掴んで怒鳴っているなど。

 

「あんな・・・戦車道を体現したような人を!

 戦車道をする人にとって太陽みたいな人を」

 

そう言ってのけると、隊長が私の腕を振り払い、やおら立ち上がると怒鳴り叫んだ。

 

「私が好き好んで辞めさせたと思っているのか!!」

 

それだけ叫ぶと顔を紅潮させ、息を荒くして肩を動かしていた隊長は、心底疲れたように椅子に座り込み、顔を両手で覆った。

 

「みほの戦車道の存在しない学校への転校を承認したのはお母様だ。私ではどうにもする事が出来ない・・・」

 

「何故なんですか・・・日本の戦車道の象徴ともいえるような方がなんで!・・・なんであれ程の資質のある人が戦車道から消える事を許してしまうんですか」

 

私がそう聞くと、隊長がふふふ・・・と笑った。

あの何時か聞いた自虐が混じったあの笑い方を・・・。

 

「斑鳩は何時も重要な所で抜けているな。あの時私に相談しに来たときもそうだった」

 

「誤魔化しを・・・」

 

「あれは私だけがみほを知らないと思っての事だったな」

 

「・・・・・・」

 

「では聞こう。みほの魅力は指揮されるか尊敬される事で気づく。

 端的にそして乱暴に纏めるとこういう事だな」

 

私は静かに頷いた。

 

「では、あの家元がみほに指揮される事などあるか?

 あのみほが母親に向かって混じりっ気無しの賞賛をするだろうか?」

 

・・・・・・もう私は何と表現すればいいのか、どう反応すればいいのか解らなかった。

 

「ふふふ、した事はあったさ。最もかなり昔で私もみほもまだ幼児だった頃だ。

 たった一歳しか違わない私にとっては簡単に受け入れられたが、母親からすれば・・・な」

 

つまり、これは喜劇だったのだ。

戦車道に己を費やしている者ほど妹様の魅力には抗えない筈だったが。

ところがこの日本で最も費やしているとも言って良く、そして妹様と最も近しい筈の人物が妹様の資質に気づいていなかったのだ。

 

「私達が哀れだからと言ってました。

 隊長は嘘をつきましたね」

 

「そうだ、本当は唯自慢がしたかった「其れも嘘ですね」

 

私はじっと隊長の目を見つめながら言った。

 

「隊長は妹様に負けたかったんですね」

 

変化は劇的だった。

あの決して自分を崩さなかった隊長が涙を流し始めたのだ。

 

「・・・みほが西住流ではなく自分の戦車道を手に入れて、それで楔から解き放たれて大空へと羽ばたいて、自由に戦車道をして欲しかった。

 だから・・・みほを信用して信頼して西住流ではないみほの戦車道を助けてくれる者を増やしたかった。

 私の・・・私の人生の楽しみと夢はたった一つ、みほの戦車道が見たかっただけなんだ・・・」

 

でもそれはもう見れない。

もう同じ道の上に妹様がいないからだ。

 

私は泣き崩れる隊長に何も声をかける事が出来ず、そっと静かに退室するのだった。

 

 

機甲科生の寮はまるで火を消したかの様に静かだった。

あの副隊長なのだから、友人の危機に我を無くすのはしょうがない。

それにそれこそが副隊長の魅力じゃないか・・・。

だから誰も妹様がフラッグ車を放りだして沈没した逸見達の戦車に駆け寄った事を責める者は黒森峰にはいなかった。

そして誰からも好かれていたあの妹様が戦車道を辞めるという情報は、妹様が入学すると言う情報には無かった「衝撃力」を持ち、「ブリッツクリーク」という表現が最適であったのは皮肉と言えるだろう。

それを聞かされた時、怒号が奔り、そして泣き声が場を制圧したのだ。

寮は確かに静かであったが、そこら中から悲痛な泣き声が聞こえてくるかのようだった。

自室に戻ると電気はついていなかったが、点ける気にはなれなかった。

部屋の奥の窓のカーテンの隙間から、月の明かりがちらちらと差し込んでいた。

私は窓に近づき、月明かりを浴びながら空を見上げた。ああ、今日も満月だったのか・・・。

右胸のうちポケットを探り、私のオモイデを取り出す。

結局返す機会が来なかった。そして、今ではもうこれを手放す気にはなれなかった。

関係の無い者から見れば人の下着を大切な想い出であるといえば、きっと眉を潜めるだろう。

だけれどもそれがアクセサリーだったりヌイグルミだったりすればきっと美談と感じるのだろう。

ふん、物の違いと想い出であるかどうかに何の関係があると言うのだ。

私にとって・・・私達、黒森峰女学園機甲科生にとってはこの下着が妹様の掛け替えの無い想い出が詰まった品物なのだ。

そっと妹様の下着を月光に当てる。

恐らく、皆この私と同じ様に物思いに耽っているのだろう。

この綺麗な淡い星の輝く夜空と満月の下で今この時だけ私達は同じ想いを共有しているのだ。

月の明かりは変わらないのだろうが、かつてと違い妹様の下着は輝く事も無く、眩しさも私には感じられなかった。

ただ、月明かりにぼんやりとだけ仄かに光っている様に見えるだけなのだ。

・・・・・・それもまた綺麗であった。

 

 

 

      了

 

 

 

  





これにて本当にこの話は完結です。
この話自体は何ともいえない中途半端な終わり方をしていますが、この後はTVアニメのストーリーに繋がるので、この世界線でもみほまほもエリカもそして黒森峰の生徒達もきっとハッピーエンドで終わると思います。
完結と言いましたが、ちょっとした外伝やif展開は書くかもしれません。

最後ですが長い間お付き合いしてくださってまことにありがとうございます。


P.S
ちょっとした短編も投稿しています。
この作品とは関係がないですが、もしよろしければどうぞ。

逸見エリカが西住みほを看護する話
https://novel.syosetu.org/83314/


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