如何にして隊長を尊敬している戦車道に対して真面目な黒森峰女学園機甲科生徒達は副隊長の下着を盗むようになったか   作:てきとうあき

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しばらくの間、このシリーズは放置しておくつもりでしたが、某所にて斑鳩先輩の絵を描いてくれた人がいたので嬉しくて描きました。



sakuさん(http://www.pixiv.net/member.php?id=298168)に表紙・挿絵としてこの小説仕様の絵のを頂きました。



IF外伝【聖グロリアーナ女学園編】
【もう、私の物】


-1-

 

あの日、妹様が黒森峰から姿を消してから年度が変わる程の月日が経った。

妹様が転校した当時こそは士気も最低であり、暫くはまともな活動すら出来なかったくらいである。

特に落ち込んでいたのは隊長であり、あの人がたった一日とはいえ急病と急用以外で休むとはと全員が驚愕しつつも、

僅か一日で復帰してきた事を流石であると認識しなおしたのだ。

最も、それでも一定の期間はとてもではないが身も入らず殆ど惰性で練習を続けていたのだが、

逆に言えば心あらずであっても戦車道の活動ができるのは流石は黒森峰であると言えるのではないだろうか。

そんな私達が立ち直れたのは間違いなく逸見のおかげだっただろう。

私達が亡者の如く、或いは人形の如く、淡々と作業を行っていたのに対して、逸見は今まで以上に鬼気迫る様に集中と熱意を費やしていた。

最初は空虚となった心をただ我武者羅に行動する事によって誤魔化そうとしている様に思えたが、

その眼にはかつて練習試合で見た事があった様な、過去を踏み越える熱い意思と遠い未来を見据えた冷たい決心が秘められていた。

勿論、私達はそんな逸見に対して「一体如何したのだ」等という問いをかける事は無かった。

その眼だけで既に妹様の転校について、あの時落下した車輌に乗っていた逸見が自己の責任と自己の役割と、

そして何より如何する事が一番妹様への手向けになるのか、例え其れが自己満足であったとしても逸見本人には解っていたのだ。

少なくとも、ここで腐っている私達よりは遥かにだ。

 

年度が替わり、新海先輩達三年生が卒業して私達の学年が一つ繰り上がった。

妹様の事は忘れる筈も無く、今でも私達の心に想い出としても傷跡としても残っているが、

少なくともその癒えない傷跡には薄く皮膜が張り、見た目の上では平常に戻っているかのように見えた。

副隊長には逸見が選ばれたが、その隊長の決定は当然の選出であると文句は出なかった。

妹様の教えを一番教授されていたのは彼女であり、また姉を除けば一番近しい人物でもあったからであるし、我々が腑抜けている時に最も早く立ち直った人物であるからだ。

最も、全員―――本人ですら―――が妹様の代替品にも成り得ない事が解っていた。

妹様の一番の弟子とは言っても、結局は妹様の残滓すら受け継げなかったからだ。

しかし、それを馬鹿にしたり揶揄したりする阿呆は黒森峰にはいなかった。

妹様がいないこの状況で彼女より副隊長に相応しい人物はいないというのが共通認識であったし、

この偉大な人物の後釜を任された彼女を最上級生である三年生も含めて全員で支えてやろうと意思が統一されていたからだ。

当然ながら今年の私達の目標は優勝奪還である。

私達が妹様抜きでも立派にやれる事を見せてやり、妹様を安心して戦車道から離れる事が出来るようにしてやりたかったのだ。

・・・・・・ひょっとしたらそれを見て私達と又戦車道をしたくなるのではないかという淡い期待が無いと言えば嘘になるが・・・。

 

全国大会を視野に入れての練習が始まって暫くした時、全体集会での報告の場で隊長が練習試合の予定を告知した。

相手は聖グロリアーナ女学院。

ここ最近では優勝・準優勝の機会は無いが、抽選での運もあっての事で実力的には黒森峰を除けば間違いなくプラウダと並ぶトップクラスの強豪校である。

故に、黒森峰との練習試合の頻度はそれほど低くないので、また今年も本番に向かって走り続ける次期なのだなと実感しただけであった。

そう・・・その後の隊長の報告を聞くまでは。

 

それは正に青天の霹靂であった。

あの妹様が聖グロリアーナ女学院にいるというのだ。

私達は妹様が転校して、もう戦車道に携わらないとだけ聞いていたのだが、どこの学校へ行かれるのかは一切聞かされていなかった。

故に、まさか戦車道の強豪校として有名な聖グロリアーナ女学院に在籍しているとは思わなかったのだ。

二年生以上がざわめく中で一年生だけが「妹さん?」「誰?」と不思議そうな表情をしていた。

 

その後、特に妹様と親しかった者、つまり私や逸見達が隊長の元に押しかけ事情を聞こうと詰め寄った。

隊長曰く、隊長自身も妹様と家元から転校先は聞かされていなかったが、つい最近になってやっと聖グロリアーナ女学院である事を知ったらしい。

そこで、聖グロリアーナ女学院と練習試合という名目で様子が見たいとの事だ。

隊長は私情で動くなど隊長失格だな・・・と自嘲していたが、黒森峰が聖グロリアーナ女学院と練習試合を行うのは例年の事であるし、

ましてや妹様の事であれば黒森峰機甲科全体に関わる事なのだから私情では決して無い筈だ!

ひょっとしたら妹様に会えるかもしれないと皆が楽しみにしていた。

練習試合が終わった後も反省会や意見交換等の交流の場もある。

戦車道関係者以外の人物と接触するのは少々難しいが、きっと妹様ならこの機会に顔を出してくれる筈だ。

 

-2-

 

妹様とは確かに出会えた。

しかし、それは期待していたような再会ではなく、最悪のものであった。

試合開始前の一同整列しての挨拶にて、妹様は聖グロリアーナの隊長の横に立っていたのだ。

黒森峰の黒を基調として赤を配置したあの見慣れたパンツァージャケットではなく、

赤を基調として黒が配置された聖グロリアーナのパンツァージャケットに身を包んでだ。

まるで、黒森峰の其れに対してアンチテーゼとも言えるカラーを纏った妹様の姿は、

無言で「もうお前達の仲間ではない。私の居場所はここだ」という現実を私達に突きつけている様であった。

妹様自身は私達と顔を合わせるのは気まずいらしく、あの最初の自己紹介の時のように挙動不審となりながらも此方をちらちらと見ていた。

その姿に周囲の人物が―――そう、私たちじゃない―――心配そうに声をかけていた。

特にピンクの髪をした―――確かローズヒップといった―――少女は心の其処から妹様を慕っているらしく、

まるで主人を心配する子犬のようであり、其れに対して浅見は彼女を睨み殺す様な視線を送っていた。

逸見に至って肌から血の気が無くなり、まるで死体のような土気色になって、今にも倒れそうなほど衝撃を受けている。

 

 

私は、妹様に・・・・・初めて暗い感情を抱いた。

どうして此方を向いてくれないのだ。

そんなに伺う様に覗き見るのだ。

何故、笑顔を向けてくれないのだ。

・・・・・・なんで戦車道をそんな所で続けているんだ。

黒森峰""私達""では駄目だったのか。そんなに聖グロリアーナ""其処""がいいのか。

 

 

そんな視線に気づいたのか、相手の隊長のダージリンが妹様に優しく笑いかけ、声をかけた。

 

「みほさん、お辛いのなら無理しなくていいのよ」

 

「い、いえ!やります!少しでもダージリン様に恩を返したいんです!」

 

私は全身の毛穴という毛穴が開いたの未だかつて無いほどの激情が奔ったのを感じた。

様だと・・・!?妹様に様と呼ばせているのか!

 

「そう、みほさんは本当に良い子ね」

 

私は視線で射殺さんとばかりに睨みつけたが、そんな視線に気づいた様子も無く、

あの女は妹様の腰を左手で抱え寄せ、右手で頭を撫でた。

 

 

 

そして、

彼女は僅かに此方に顔を向け、

細めた眼で流し目を送ってきた。

此方に面している口元は微妙に口角が上がっており、

その眼は口以上に雄弁に語っていた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

  『もう、私の物』

 

      了

 

 

 

 


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