如何にして隊長を尊敬している戦車道に対して真面目な黒森峰女学園機甲科生徒達は副隊長の下着を盗むようになったか   作:てきとうあき

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原作時間軸の話を黒森峰側から描いた話を思いついたので
それの前置きとなる話です



姉の異常な愛情 または如何にして西住まほは戦車道に対して意義を感じる様になったか
第一話【I did it my way】


-1-

 

セルフアレンジメント、又はマインドマップと呼ばれる表現方法がある。

紙の上に「自己」を構成する要素を書き、其処から更に派生・分離する要素を広げていき、自己を表現すると共に自己を知る発想術の事である。

自らの情報を整理し、理解する事ができ、更に発想力・想像力・直観力等々を鍛える事ができるそうだ。

これを西住まほが知った時、「己を知れば~」と伝えられるように自己研鑽の一環となればと着手してみる事にしたのだ。

しかし、念の為にと余裕を持って大きな白い紙を用意し、色分けする為に複数のペンを揃えたのだが、紙の上には大きな丸が二つ並んでいるだけであった。

 

『西住流戦車道』 『妹』

 

この二つ以外の項目をどんなに自身から捻り出そうとも出てこないのだ。

それはつまり、生涯の意義や感情、それに行動原理や欲求等々を「西住まほ」という人物はこのたった二つだけの要素によって構成されている事に他ならない。

その事実を認識した時……彼女の胸に浮かんだ観想は落胆するでも恐怖するでもなく『まぁ、そんなものだろう』という納得であった。

 

 -2-

 

西住家は現代日本では「戦車道」がやや落ち目とはいえ、伝統ある流派の内で最も由緒正しく最大規模の「西住流」の本家である。

故に、その経済規模は"裕福"という単語の上に"極めて"という形容詞がつく程であった。

そんな西住家にあってある日、二人の姉妹に小遣いが支給される事が伝えられた。

年一つ違いの姉妹同時になのだから、普通の姉妹であれば妹にも同時に小遣いが与えられる事に姉が不満を覚える事もありえただろうが、仲が良い事で評判のこの西住姉妹においてはその様な心配は杞憂であった。

その額は平均より多目であっただろうが、一般家庭の平均収入と西住家の収入の差よりは遥かに大人しく、簡潔にいえば常識的範囲内に収まった額であった。

言ってみればある種の情操教育の一環なのだろう。

母である西住しほはこの範囲内で好きな物を好きな様に買えば良いと言った。

これを受けてまほは困惑した。

好きな物…欲しい物とは一体なんだろうか?

彼女は無趣味であると評しても間違いなかった。

可愛らしい服や人形といった同年代の女子が興味を持つであろう物にもさして興味が無かった。

一応、子供らしく菓子類は好んで食べるが、それだって家に用意されている和菓子が三時と夕食後に提供されるだけで満足であり、わざわざ自分で買う程の物ではなかった。

戦車道における教本や用具が自分にとって欲しい物であったが、これらも求めれば"必要経費"として用意される物であった。

強いて言えば年不相応にチェスが趣味であると言えたが、子供の小遣いの範囲内でほしい物はないし、そもそも「指揮者として推奨されるべき趣味」とされてこれも戦車道と同様に強請れば買い与えられる物である。

故に、この渡された現金で何を買えばいいのか皆目検討もつかないのだ。

そうまほが思い悩んでいると突然右腕を引っ張られた。

 

「お姉ちゃん!一緒に何か買いに行こう!」

 

振り向くと其処には如何にも楽しいといった感情を欠片も隠すことなく披露している妹の姿があった。

姉と二人で新しい何かをしにいくという行為が嬉しくて楽しみで仕方が無いという様子であった。

 

「…ああ、そうだな」

 

まほがゆっくりと優しく妹の頭を撫でてやると、更に西住みほは破顔した。

 

 -3-

 

「それでは、お嬢様。気をつけて行ってらっしゃいませ」

 

奉公人である菊代の見送りを受けて、二人はⅡ号戦車を駆って出発した。

目指すは商店街である。

特に何が欲しいという具体的な目的は無いので、ぶらりと二人で歩きながら買いたくなる物を探す事にしたのだ。

西住流本家のお膝元であり、戦車道関係者が多い事もあって戦車での移動と駐車に関しては特に苦も無かった。

目的地に着いた二人は戦車を降りると手を繋ぎ、商店街を端から端へと歩く事にした。

西住みほにとって子供だけで買い物をするという行為はまるで未知の冒険の様に感じられ、目に付くもの全てが新鮮に思え、内なる興奮を抑えきれずにいた。

一方で、西住まほにとっては商店街を歩く事も店に陳列されている物もそれ自体に対しては、大して心を動かさせる物はなかった。

しかし、横に楽しそうにはしゃいでいる妹を眺めれる。それだけでまず間違いなくこの行為の有意義を感じさせていたのだ。

しばらく歩いていると、様々な物を見ては興奮してはいるものの、立ち止まって見たり店の中に入ろうとしなかったみほが足を止めたのだ。

 

「どうした、みほ?」

 

声をかけながら妹の視線の先に眼を向けると、其処には人形店があった。

 

「…入ってみるか?」

 

「うん!」

 

まほ自身にはやはり興味が欠片も湧かない店であったが、妹がそうでは無いのなら話は別である。

 

「わぁ~……!」

 

入店してみると確かに西洋風ビスクドールや球体間接の人形も陳列されているが、人形というよりはヌイグルミの割合の方が多くを占めており、どちらかと言うとヌイグルミ屋と言った方が正しい表現だっただろう。

恐らく同年代にとってはそれらは極自然的に嗜好するべき物なのだろうが、まほにとってみればそれらは単なる綿の詰まった毛袋以外に何物でもなく、何の創造性も実利も与えてくれぬ生産性の無い無用の長物であった。

しかし、妹にとってはそうではない様子で、店に足を踏み入れるなり目を輝かせて感嘆の声を漏らした。

いや、より正確に言えばどうやら陳列しているヌイグルミの内の一角だけを注視している様だ。

 

「ボコだぁ~!!」

 

そう言うや否やみほはその一角にむかって駆け出した。

常日頃から元気というエネルギーを発生させる核融合を行う太陽の様な快活さを見せる妹であるが、こういったはしゃぎ方はそれはそれで珍しかった。

成程、確かに妹はこのボコというキャラクターが好きだった。

まほ自身はやはり興味はないが、一緒に観賞しては腕を振り上げてモニターに向かって応援する妹を見るのは好きだし、また妹と行うボコごっこは心優しい妹が普段は絶対にしてこない暴力行為を擬似的にとはいえ味わう事が出来るのでまほ自身も好きな遊戯の一つであった。

やはりこの店に入る事を提案して良かったと思いながらまほは眺めていた。

無論の事ではあるが、眺めるのはボコのヌイグルミではなく、それらを楽しそうに見ているみほをではあるのだが。

そうしているとみほは幾つかのヌイグルミを手に取りながら何かを考えているようだ。

どうやら幾つかの候補を選出し、自分が持っている予算額のうち最適な購入パターンを模索しているようだ。

それぞれに優先度を付けて、最も自分が満足する構成を構築しようとしているのだ。

しばらく見ていると絞り込めてきたようだが、どうも痒い所に手が届かない範疇でどのパターンも予算をオーバーしているようだ。

観察しているとどのパターンも一個の大きなヌイグルミをメインとしてベースに組み込んでいるようであり、それが予算のかなりの範囲を食っているらしい。

 

……そうだ、良い使い道があるじゃないか!

 

正に天啓を得たかの様な素晴らしい思い付きであった。

 

「これをみほに買ってやろう」

 

まほはみほに近寄ってその大きなヌイグルミを優しくみほの手から取るとそう言った。

みほはそれを聞くと驚きと喜びどちらの感情をこめて口を大きく横に広げたが、直ぐに何かに気づいた様に逡巡した。

 

「気にするな。買わせてくれ」

 

「でも…お姉ちゃんのお小遣いだよ?」

 

「いいんだ。元々欲しいものも無くて使い道に困っていたからな。

 みほが喜んでくれるならそれが私にとって一番良い使い方だ」

 

心優しい妹ならこのまま会話しても納得しないだろうから強引に会話を切ってレジにヌイグルミを持っていった。

手早く会計を済ましみほに渡してやれば、もう終わった事だし納得するしかない。

 

「……うん!ありがとうお姉ちゃん!大事にするね!」

 

そうして頭を撫でててやれば、みほはもはやそういった事は気にするのはやめて、満面の笑みを浮かべた。

みほも"自分の分"の会計を済まして店を出て、片手にヌイグルミが入った袋を持ち、空いた手をしっかりと繋げて夕暮れで赤くなった商店街の道を大きく影を伸ばしながら歩いた。

妹が喜んでくれて、そして自分に感謝を示してくれる。

今までの人生でまほが"楽しい"や"嬉しい"といった感情を一番強く大きく感じた時であった。

……最もまほにとってそういう感情を感じるのは妹に関する事だけなのだが。

 

 -4-

 

まほの人生を構成する要素に『妹』が生成されたのは何も劇的な出来事があった訳ではない。

無色で灰色な『西住流戦車道』という単一によって全てを占めている事に心の自浄作用等といった何らかの防衛機構が働いたのか半ば無理やりに、そして"人工的"にその灰色の中にぽつんと『妹』が生成されたのだ。

それはある意味では原初の海において原始的なアミノ酸によって構成された生物が突如発生したかの様であった。

そしてそれが複雑な構造に進化していったように、発生時は単純かつ小さな物であった『妹』は瞬く間にまほの中で重要かつ多大な要素へと変貌していった。

『西住流戦車道』に関しては義務的な物以外は何も感じていなかったが、まほの中に生じる人間らしい感情は全て『妹』に起因する様になっていったのだ。

 

現金を娘自身に管理させるという教育は姉妹二人とも小遣いの節約・管理・貯金といった事を通して金銭の重要性を理解していったのだから西住しほの目論見通りの成果を挙げたと言っても良い。

ただ、世間一般の常識からすると自身の事に関して一切使おうとせず、全てを妹のために使おうとする姉の運用に関しては疑問に残る事だろう。

しかし、まほ自身に言わせれば老人が年金の使い道として孫に小遣いをやる事が一番の使い道と感じている様に、これが自分にとって最も自分が喜ぶ使い方なのだ。

実際に月に一度の小遣いが支給される日やお年玉といった事は普通の子供の様に楽しみにしているのだ。

渡された小遣いを持って、妹と買い物に行くのは何よりの楽しみでもあるのだから。

貯金に関してもそうだった。

余りに節操なしに"無駄遣い"をしていると大きな買い物が出来ないという事をまほは重々理解していた。

だから、彼女も小遣い等を少しずつ貯めて、ここぞという時に高価な物を買えるようにしていた。

それは同年代の計画性のある子供と殆ど変わらない事ではあるが、その使用用途が自分の為ではなく妹の誕生日やクリスマスのプレゼントの為であるという点が大きな相違であった。

 

その事に関して多少…いや、かなり世間の感性とずれている両親も当初は幾らかは問題視していたが、まほが年相応の感情を見せる様になった事もあってむしろ歓迎する気持ちの方が大きくなっていた。

一旦許容してしまえば元々他の家庭を触れる機会も殆ど無いのだから徐々に慣れていき、西住家にとってそれは「仲の良い姉妹」として極普通の光景として定着していった。

また、小遣いに関する事だけではなく様々な事柄に関してもまほはみほを第一に考える様になった。

例えば休日にどこか行きたい所があるかという希望を聞かれれば全てみほの希望に合わせていた。

それもみほが行きたい所を挙げて同調するのではなく、先にみほが行きたいであろう所を予想して提案するといった形でだ。

その他にも夕食の献立や用意される菓子の種類といった事も、仮にまほにだけ聞かれる事があっても"みほが希望する物"を予想して返答していた。

 

かくして、まほの人生は『妹』と『西住流戦車道』を中心に回る事となった。

人生という太陽系の中心に位置するこの二つの恒星は確かにまほを二分していたが、その性質と傾向は大きく違うものであった。

まほにとって『西住流戦車道』には何の楽しみも嬉しさも感じないが、かといって苦痛も倦怠も感じなかった。

言ってみればそれはまほが生活する上で必要な"仕事"だったのだ。

年齢上の聡さを持つまほは自分の生活水準が一般のそれに比べて遥かに豊かである事を理解していた。

そしてそれには責任と義務というものが付属しているのも承知していた。

故に、自分が『西住流戦車道』に従事する事は当然の事だと受け入れていた。

一方で、この"労働"を妹にさせる気は一切無かった。

この様な雑事をみほにさせる必要など欠片も無い。みほには楽しい事だけをしてもらいたかったからだ。

 

 -5-

 

「お姉ちゃんの試合を見てみたい!」

 

年が経過し、ある程度成長して戦車道の活動の範囲も広まってきた。

基礎練習以外の面であくまで訓練の範疇だが試合を行う事も増えてきたのだ。

西住流門下生を相手にしての指導戦が大半であったが、中には同年代を相手にした実戦的な試合も組まれた。

流石に大人の門下生に混じっては勝利とはいかないが、それでもこの年にして既に非凡な才能を周囲に見せつけ、小学生にして「周囲には流石に劣る」程度の立ち位置を確保していた。

アマで活躍しており中にはプロすらも混じる門下生の集団の中でそれなのだから同年代相手などは文字通り赤子の手を捻る様であった。

そんな中ある日、妹に突然こう言われてまほは珍しくもきょとんとした。

活動的な妹はまほと違い、重厚さと力強さを兼ね備えた戦車という鋼鉄の塊を好んでいた。

よく二人でⅡ号戦車に乗って野を駆けては遊びに行く事もあるし、最近知り合った同じ年頃の少女も乗せる事もあった。

普段は車長をしているまほは操縦士になってみほが車長となるのだ。

自分達の物にする為に、二人で密かに座席の裏に彫刻刀で"薔薇の蕾"と彫って名付けたこの戦車は姉妹にとってこの時期を象徴する物であっただろう。

この時のみほはまほにとって最も優秀な車長となる。

何せ西住まほが喜んで命令を聞くただ一人の車長なのだから。

そして普段は絶対にしないだろう、みほがまほに命令をして指示の為にまほを蹴るという行為が行われるこの状況をまほも非常に好きであった。

しかし、西住流戦車道としてはみほはまだ基礎の段階である。

西住流のというよりは戦車の基本的な扱い方を練習しているだけに過ぎない。

故に、自分の試合を見てみたいと言われて不意をつかれた様になったのだ。

 

「…ああ、いいぞ。私もみほに見られると嬉しい」

 

一瞬だけ考えたが、みほが望んでいる事には基本的には反対しないし全て叶えてやりたいと思うのが姉である。

ましてや妹に自分の勇姿を見せてやれるというまほにとっても良い機会であった。

母に相談と了承を取りにいったが、事前の予想通り戦車道に対する意欲として歓迎され、良い経験になるからとそれは容易く許可された。

その事を伝えるとみほは大いに喜んではしゃぎ、「お姉ちゃん頑張って!」「私、応援するから!」と姉に向かって両手を広げて声をかけ、無意味に胸の中に飛び込んできたのだ。

抱きついてくる妹にまほは天にも昇る気持ちであった。

 

試合は同年代の西住流の生徒達と行われた。

無論、小学生である彼女達に装填といった役割が試合中にこなせる訳が無い。

よってこういう試合では車長を担当し、他の役割は門下生が担当する。

そして門下生は自身の意見や助言は一切行わず、車長の指示に忠実に従うのだ

王者である西住流として行き着く先は最も重要な車長である。

他の役割も当然練習し経験を詰むがそれは全て車長に必要な過程でしかない。

故に、西住流としての本領を発揮すると言う意味で車長を担当しての試合が行われるのだ。

 

この試合の内容は…まほの相手をした少女達には少々同情に値するものであった。

まほにとって義務以外に何物で無かった戦車道あったが、それにこの世に生を受けて初めて積極的な意欲を持って望んだからである。

意義も意味も感じなく、意欲も熱意も無く、それでも天性の才によって周囲と隔絶した実力を見せ付けていた天才が、集中しモチベーションを最大まで高めるとどうなるのか。

それを残酷なまでに周囲に見せ付けたのだ。

尤も、まほにとっては対戦相手の心情など一欠片の興味も無かった。

その集中力は試合に向けられていたが、興味は今も見ているだろう妹に向けられていたからだ。

一方的な完全勝利を収めるとまほは逸る気持ちを抑えて試合終了後の礼を終わらせた。

頭を下げ、見事な残心をみせてからすうっと静かに頭を上げる様子は見る者をほうっと溜息をつかせる程に凛々しく見事な礼だった。

しかし、終わりの合図が出るや否や、それまでの静の雰囲気をかなぐり捨てて妹の下へと走っていったのだ。

だが、其処にはまほの想像し、期待していた物とは違ったものがあった。

 

 -6-

 

「凄い!お姉ちゃん!」

 

みほはそういうなり私に飛びついてきた。

驚いた私は慌てて転ばないように下肢に力を入れて踏ん張りみほを受け止め様とした。

しかし、想像以上に勢いが強く何時かの時の様に二人纏めて倒れてしまった。

 

「凄い!凄い!お姉ちゃん凄かった!」

 

背中に走る衝撃に目を白黒させている私にそんな事もお構いなしにみほは続ける。

喜んでくれるとは思っていたが、こんなにも勢い良く今までに見た事が無いくらいにはしゃいでくれるとは予想外だった。

 

「…そうか、凄かったか」

 

「うん!格好良かった!」

 

「そうか、格好良かったか!」

 

「うん!もっとお姉ちゃんが戦車道で活躍するところみたい!」

 

「そうか!じゃあもっともっと活躍しないとな!」

 

「うん!私、ずっと応援する!」

 

私が鸚鵡返しの様な返事をする度に勢い良く首を振るう妹に愛しさを感じて、地面に転がっている事も忘れて頭を撫でてやった。

この時、私の中で何かが強烈な化学反応を起し、脳内置いて強烈な閃光を奔らせた。

今まで私を構成していた『西住流戦車道』は灰色で何の輝きも無い要素であった。

一方で『妹』の方は万色を持ち、虹色の輝きを放っていた。

今までこの二つはそれぞれ独立した単独の要素であった。

しかし、今日この瞬間に二つの要素は連結性を見せた。

『妹』から連結パイプが伸ばされ、『西住流戦車道』にその色彩と輝きを補給するのだ。

両者の間のパイプは数を増やし見る見る内にその境にあった空白は埋め尽くされ、二つは有機的な結合を図ったのだ。

例えるなら惰性で創作活動を続けていた者が得がたいファンを獲得し熱意を持った様に、

医者が自分の患者からの感謝を生きがいと感じる様に、弁護士が依頼人を助けたいという意欲を持ったように……。

今まで何の意味も意義も見出せなかった『西住流戦車道』にまほは初めて意味と意義を感じたのだ。

義務でしかなかった『西住流戦車道』に間接的ではあるものの楽しさと遣り甲斐を覚えたのだ。

この時からまほは自分の人生の「生き甲斐」というのをそれまでの二倍感じるようになった。

全てはこの可愛い妹から向けられる尊敬と敬慕と憧れの為だけに……。

 

「それと…」

 

「ん?」

 

「それと、お姉ちゃんと一緒に戦車道をする為に私も頑張る!」

 

「……っ!!」

 

それは先程の「天啓」すらも打ち砕くような提案だった。

その一瞬だけで私の脳裏には幾重もの想像が広がった。

一緒の車輌に乗る二人。

それぞれの戦車を指揮して姉妹のコンビネーションを発揮する二人。

互いの連携によって有機的に部隊を指揮する二人。

それらは想像するだけで絶頂してしまうかと思う程に甘美なものであった。

 

「…私もそれを楽しみにするよ。

 一緒に戦車道を頑張るか……!」

 

「うん!お姉ちゃんを私が支えるんだ!」

 

「ははは、そうか。それは頼もしいな…

 お前が私を助けてくれるなら……」

 

そうだ、みほが私を支えてくれるなら…いや、一緒にいてくれるなら。

ただ傍にいてくれるならばどんな困難も苦難も乗り越えれるだろう。

 

何時もの様に"薔薇の蕾"に二人で乗り込み帰路に着く。

車内にある古い音楽プレイヤーから父の趣味である古いが有名な名曲が流れる。

フランク・シナトラのMy Wayを鳴り響かせながら夕焼けの中をシルエットになった少女二人を乗せた"薔薇の蕾"が走る。

 

"I did it my way" 心の赴くままに自分の道を歩んできた。

きっと私達も私達の戦車道を歩む事ができるだろう。

 

"Yes, it was my way" そう、それが私の道なんだ。

きっと私達も最後にはそう納得できている。

 

 

……その時は私はそう信じていたし、またそうであって欲しいと願っていた。

 

 

 

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『I did it my way』

(「自分の道を生きてきたんだ」)

 

Frank Sinatra の「My Way」(1969)より

 

 





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