如何にして隊長を尊敬している戦車道に対して真面目な黒森峰女学園機甲科生徒達は副隊長の下着を盗むようになったか   作:てきとうあき

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第十一話【淑女諸君!作戦室で戦争をするな!】

-1-

 

 

「次の決勝戦の相手は大洗女子学園となる」

 

西住まほがそう伝えると、全体集会所に集まった黒森峰機甲科生徒たちの中でざわめきが起こった。

反応としてはまず「どこの学校?」と言ったように聞いた事すらもない学校の名前に戸惑いと、「プラウダではなかったのか?」という疑問が主成分であった。

 

「今大会の中で……いや、黒森峰の歴史上の中でも最も強敵と言える相手だ」

 

更に強いざわめきが全体を支配した。

殆どの生徒は一瞬だけこの隊長が珍しくも場を和ませるために冗句を発したのではないかと思ってしまったが、同時に己の隊長がこんな冗句を言う人ではないと思い直した。

では、何故?

そんな聞いた事もない学校相手にそれほどの警戒を?

その疑問に対する答えは直ぐに返された。

 

「大洗には昨年度の副隊長だった西住みほがいる」

 

先ほどまでとは比較にならない程の衝撃が全体の2/3を襲った。

それまでは一応は声を潜めてのざわめきであったのが、疑問と驚愕と真偽を確かめる声の絶叫とが雑多な協奏曲へと変貌していた。

 

「静粛に!!!」

 

まほの腹から轟きだす様な重低音の大声によって場が一気に静寂へと戻った。

それでもヒソヒソとした声は止まる事はなかったが、まほが説明を続けようとするとそれすらも止み、一字一句聞き逃さないように全員がそれに集中した。

 

「大洗はその保有戦車と人員の経験に関しては格下と表現するしかない相手だ。

 しかし、二年生以上の者は知っていると思うが私の妹のみほはその程度のハンデなど容易く覆してしまう指揮官でもある」

 

その言葉に二年生以上の生徒は無言で頷いた。

彼女達は実際にみほを相手にした事があるから解るのだ。

校内による練習試合での不利な戦車の編成、不利な地形、不利な隊員の配置。

数の上では半分以下であっても、低地で囲まれるような配置からの開始であっても、隊員が本来の役割から変更された役割に割り振られても、みほは瞬く間にその不利を覆して彼女達に勝利してきた。

 

「だが、お前達が知っている像も当てにならないと思っておけ。

 もはや、みほは黒森峰の頃のみほとは比べにならない程の強さだ。

 ……とは言っても俄に理解できないだろうからはっきり言っておく。

 私は勝つ自信がない!!」

 

いっそ耳に煩いほどの静けさが場を支配した。

 

「故に私は決勝戦までの約二週間。

 死に物狂いで行動をする!

 時間が許す限り、作戦を考案し、吟味し、修正する!

 諸君も決戦までにどうか余力を残す事無く、後にもっと何かやれたのではないかと後悔しない様にお願いしたい!」

 

そう言ってからまほは深くお辞儀をし、解散を宣言すると退室していった。

そして残された生徒達は誰一人同じ様に退室する事無く、その場に残って今しがたの隊長の言葉について様々な論議を交わしていった。

つまり、「現在の妹様は私達の知るそれよりはるかに強く、隊長ですら足元にも及ばない」という事についてだ。

様々な意見が出されたが上級生の間では自然とある結論に収束していった。

去年の妹様が隊長に比肩しうるというのは間違いない。

実際に、隊長と妹様が戦ったらどうなるかと言う議論が行われたほどだ。

一方で、今の妹様が去年の妹様とは大きく違うと言う点については想像がつかない所であった。

あれからそれほど時は経ってないし、何処かで……例えば海外に選抜選手としてキャンプに行っただとかそういう集中訓練を詰んだ訳でもない。

この短期間で比較にならない程強くなっていると言われても俄に理解しがたい事であった。

しかし、同時に彼女達は己の上に君臨している隊長についてもよく理解していた。

彼女が現実主義であり、同時に人間離れした分析・解析能力と判断能力に富んでいる事、そして物事を過大、あるいは過小に評価する事もなく、私的感情に流される事なくただ冷静に現実について結論を出せる人間だと信頼もしていた。

つまり、隊長が言うのだからそうなのだろうという結論に達していったのだ。

 

そう議論を終結させていく上級生達を一年生は不思議な気持ちで見ていた。

彼女達からすれば隊長の妹という人物の存在については知っている。

理由あって黒森峰を去ったが、西住流の子女であるし若くして黒森峰の副隊長を務めていたのだろうから優秀であったのも間違いないだろうとも理解していた。

それでもとてもではないが、あの大洗の戦力で精鋭中の精鋭である黒森峰が負けるなど……それも指揮を取るのがそこらの盆暗ではなくあの西住まほが勝つ自信がない等とは納得できなかった。

これは彼女達の想像力が欠如している……というよりは公平的に見れば致し方が無い、言わば当然である事であった。

みほの実力をその目で見た事がなければ、当然ながらどのような逸話を聞いても"常識"という彼女達の中の銀河系の範疇でしか観測できないのだ。

どれだけ最大限に評価と想定をし、その銀河系のめいいっぱいの淵まで膨張させたとしても、その銀河系の外の未知の宇宙……すなわち常識外の存在を想像する事は神ならぬ人間には不可能であったのだ。

 

故に、彼女達は疑問を解消するために最もシンプルで即効的な解決策を採った。

 

「妹様がどれだけ凄かったか聞きたいだって?」

 

「はい……隊長が嘘を言っているとも間違っているとも思いません。

 それでもなお信じられないんです」

 

つまり、隊長の話に納得して信じている上級生達に直接質問をするという事である。

質問された上級生たちは顔を見合わせると一年生に言った。

 

「貴方は、森林や市街地などの遮蔽物や視界の通りにくいフィールドで同じパンターで此方が三輌、相手が二十輌で勝てると思う?」

 

「不可能です!数の差が七倍なんて…勝負という前提にすらなっていません!」

 

「二十輌の指揮を取ったのが私だったわ。

 森林の中でも妹様を舐める事は無く、警戒して分散せずに一塊となってゆっくりと確実に削ろうとしていた。

 それでも何度かの場所を変えての外部からの砲撃を受けている内に私たちは気づかぬまま少しずつ皹が入ったようにバラけて行った。

 決して誘われない、釣られないと意識していたはずなのに、気づけば何輌かが見かけた敵戦車についつい深入りしていってしまった。

 そうなった所を順に撃破されていったわ。

 まるで3対1を20回繰り返されたように……」

 

「私の時はまた別だった。

 遮蔽物も何も無い草原で三十輌で妹様の十輌と戦った。

 数の差という点では3対20よりはマシだったが、フィールドは限定されていて潜む所も何もないただの平野だ。

 必然的に正面からのぶつかり合いなのだから三倍の戦力を持つ私達が負ける筈もなかった。

 しかし、実際に戦ってみるとそうはならなかった。

 一体、何が起こっているのか解らなかった。

 私の視点では特におかしい事もなく、単純に正面から打ち合い、ぶつかり合い、混じっていった様にしか見えなかった。

 あとで映像を確認しなおしても異常な点は無かった。

 なのに私達の攻撃に対して敵は異常に硬く感じられ、一方で相手の砲撃はまるで吸い込まれるように私達を撃破していった。

 私達が砲撃しようとした瞬間は常に相手はやり辛いと思う位置にいて、此方が砲撃される瞬間はここにいられるのが一番嫌だと感じる位置にいたんだ……」

 

「私の場合は局地的な戦車同士の戦闘訓練……つまりはタンクジョストね。

 と言っても一対一ではなくて一対五だったのだけれど……。

 この時の妹様の搭乗員は本来の役割ではない所を担当されていてね。

 つまり、普段は操縦手をしていた人が砲手だとか通信手をしていた人が操縦手だとかね。

 それでも此方の砲撃はするりするりと擦り抜けられて、やっと当たったと思ったら正面かまたは側面の装甲に綺麗に斜めの角度で弾かれたり……。

 それなのにあっちの砲弾は綺麗に側面や背後に当たっていくの。

 まるで捕らえようと思っても捕らえられない素早い蜂と戦っているようだったよ。

 その後で妹様の車輌に乗っていた人に色々聞きに行ったけど、妹様に言われるがままにやっていたらいつの間にかできていたと言っていたね」

 

こういった体験談を一年生たちはあちこちで上級生から聞かされた。

最初は正史から演義になって盛りに盛られた三国史の軍師だとか、またはSF戦記小説の主人公かだとか、はたまた出来の悪い素人小説の主人公だとかリボン付きか何かかみたいだと思っていたが、上級生達の躍動感があり、真実味を感じざるを得ない体験談を聞く毎にそれが正しく事実なのだと認識していった。

 

 

 

 

-2-

 

 

その日以降、少しやつれた西住まほの姿が目撃された。

普段から身嗜みを整え、"みっともない"という表現から対極とも言える彼女であったが、ここ最近は着ている服には皺が増え、髪は光沢を無くして鈍い光を放ち、その顔は薄汚れていた。

頬はこけ、目は異様なまでに充血をしていたが、その目にはギラギラと光り、強い意志を感じさせていた。

だからこそ、この小汚いとも言える格好でありながら、誰一人彼女を軽蔑する事も忌憚する事も無く、むしろそれだけ大洗が脅威なのだとより強く実感していった。

誰しもが隊長は己の発言どおり死に物狂いで行動しているのだと理解した。

実際、まほは戦車道の活動が終わるとすぐに自室に篭り、作戦を立てていた。

具体的には幾つのかの作戦をまず考案し、その内の一つのAという作戦に対して、敵の立場になりA′という対応策を考える。

次にA′に対して今度は此方側に戻り、対応策A′′を考える……という事を延々と続けてその作戦も問題点・改善点を洗い出し、更に敵の対応パターンを可能な限り予測し、それに対するまた別の対応を打ち立てる。

つまり、まほはみほに対しての回答の一つとして、単純に作戦比べをする事を諦めて、時間をかけて可能な限り戦場における全パターンの推測モデルを打ちたて、更にそこから樹形図のように派生する全パターンを考案していこうとするものであった。

無論、それが無茶であるのは間違いない。

将棋で言えば戦略的に指し方を考えるのではなく、開始時点から全てのパターンを解析しておこうという様なものだ。

8×8の升目で60手しか無いオセロですらコンピューターで全てのパターンが解析されていない。

 

だが、まほには非現実的と言えどもこれ以外に手段を考えられないのだ。

極普通に作戦を考案し立案してもみほには読まれるだろう。

だからこうした力技による努力の積み重ねしかないのだ。

これなら続けている内に何時か必ずみほを網羅する事ができる。

……時間の制約という問題点に目をつぶればの話だが……。

 

 

 

 

-3-

 

 

「隊長、シャワーを浴びて一息つきませんか?」

 

まほが何時もの様に自室に戻り、作業を続けていると扉をノックして赤星が入室してきた。

 

「……気遣ってくれる気持ちはありがたいが…」

 

「しかし、それでは何時か体を壊して倒れてしまいますよ」

 

「それでもだ。

 今の目的の前では些細な事だ」

 

まほがそう言い切ると赤星ははぁ…と溜息をついた。

 

「体を第一にしてしっかり休養をとる事こそ肝要。

 ひたすら根を詰めてもむしろ非効率。

 体を壊しては元も子もありません」

 

そういった後に赤星はにこりと笑った。

 

「……と普通ならこれが正論です。

 でもね、隊長。

 私にも解ります。

 無理は承知の上、成し遂げた後に倒れたとしても、入院したとしても、体を壊したとしても成し遂げなくてはならないと言う事が時にはあるのだと言う事を。

 適度に休憩を挟むという正論すらも超越するほど集中する事が時には常識を打ち破って最高率を叩き出すのだという事も。

 ……そしてみほさんと戦うにはそれが必要なのだと言う事も。

 だからね、隊長。

 私を信じて、一度シャワーを浴びてきてください。

 そして、その後の時間を私にください。」

 

「……」

 

赤星は笑顔のままだった。

しかし、その眼差しは真っ直ぐとまほの目を見続けていた。

 

「……解った、シャワーを浴びてくる」

 

「あれ、色々聞かないんですか?

 何があるのだとか、何を考えているんだとか」

 

「……いや、その必要は無い」

 

洗面室に扉をかけながらまほは言った。

 

「みほに関する事で赤星が間違った事を言う筈がないからな」

 

そう言い残して洗面室に入っていくまほを赤星は(単に私を信じているからとかシンプルに言ってくれませんかねぇ)と苦笑しながら見送った。

 

 

 

 

-4-

 

 

シャワーを浴び、気分がすっきりしたまほは赤星が用意していた洗濯したての清潔な衣服に着替えた。

浴びる前は色々言っていたが、なるほど確かに一息入れてこうして綺麗な衣服に腕を通すとすこし頭に思考力が戻ってきた気がする。

 

そうした後には赤星はまほをある一室の前につれてきた。

 

「……第三会議室?」

 

そこは全体集会所程ではないが、結構な人数を収容できる会議室であった。

まほが一体こんなところに連れてきてどうするのかと思っていると、赤星が扉を開けた……。

 

「コピー機、あと二台要請してきて!」

 

「そこの机!もうちょっと横に伸ばす形で配置して!

 そう!長方形の形になるように!」

 

「現時点での資料のコピー終わりました!

 手のあいている人はホッチキス留め手伝ってください!」

 

「プロジェクター運んできました!

 スクリーンの方は後ほど別の者が持ってきます!」

 

「人数分のノートPC用意できました!

 必要なソフトは全てインストール済みです!」

 

扉を開けると一気に騒音が廊下に流れ出した。

室内に目をやるとそこには数十人の機甲科の生徒たちが忙しそうに動き回っていた。

そして何故か部屋の隅にはスピーカーが置かれ、一定リズムのドラムの音を流し続けていた。

 

「……赤星、これは何だ?」

 

「何だって……会議の準備です。

 いえ、会議というよりは作戦室ですかね?」

 

確かに用意されている機材に机や椅子、そして中央に置かれた決勝戦の舞台となる富士演習場の地図とその上におかれた駒……兵棋演習を見ると作戦室の様であった。

 

「いや、それは見て解るが……なぜこんな事を」

 

「今までの黒森峰では無かった事ですね。

 何時も、作戦を立てるのは隊長の役目で、私達の役目はそれを忠実に遂行する事でしたから。

 でも、隊長は言ったでしょう?

 私も死に物狂いでやるから諸君もそうしろと」

 

確かにまほはそう言ったが、それは訓練の意気込みや気構えのつもりで言っていたのだ。

こういった事は完全に予想外であった。

……そう、予想外であったのだ。

 

「私達も全力でみほさんと戦ってみたいんです。

 それを隊長だけ独り占めするなんて許せません。

 私達にもお手伝いさせてください。

 ……黒森峰一丸となって、大洗と……みほさんと戦いましょう!」

 

……そうか私は知らなかったのか。

いや、気づかなかっただけなのかもしれない。

私は世界の全てが予想の範疇だと思っていた。

だが、それはとんでもない視野狭窄だったのだろう……。

こんな身近にも"予想外"があるじゃないか……。

 

「小梅!今の時点で用意できるものと必要な機材は揃ったわ!

 隊長!何時でも大丈夫です!」

 

何人からか作業完了の報告を聞き、全ての準備が終わった事を確認した逸見エリカが二人の下へ最終報告にきた。

 

それを受けてまほはゆっくりと部屋の前方中央に移動し、二人がその左右について来た。

他の生徒たちは所定の席に着き、それを厳かに見守っていた。

そうして全員が静かに、それでいて熱意を持って見守る中で、まほが宣言した

 

「これより会議を始める!

 本日の議題は大洗との決勝戦についてだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

              -了-

 

 

 

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『 Gentlemen, you can't fight in here! This is the War Room!』

 (「紳士諸君、作戦室で戦争は困る!」)

 

    映画「Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb

   (邦題:博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか)」(1963)より

 

 

 

 

 

 

 




>「これより黒森峰会議を始める!
> 本日の議題は○○についてだ!!」

この小説は実は、某所においてこのテンプレートで良く立っていたスレから派生した物でした。
基本的にはみほの無自覚パンチラのイラスト共に立ち、「本日の議題は大洗から送られてきた元副隊長の写真についてだ!」だとかの議題になって黒森峰生徒が「…ううぅ、みほさんみほさん……」とかやっていくスレでしたね。
一年以上たってついにその元ネタのセリフが入れれました。



【挿絵表示】

役場あきさんから斑鳩の絵を描いてもらいました!
ありがとうございました!


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