如何にして隊長を尊敬している戦車道に対して真面目な黒森峰女学園機甲科生徒達は副隊長の下着を盗むようになったか   作:てきとうあき

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ふたば学園祭にて領夫されたガルパン合同誌「amasanプライム」にて寄稿した短編です。

本編では原作アニメに繋がる様に決勝敗退から大洗に転校していますが、本作品では決勝で救出に向かいながらも周りの援護もあって優勝し、既に母親である西住しほともぶつかり合って理解しあった後の云わば【黒森峰在籍IF】というものです。
時間軸では黒森峰十連覇達成後なので西住みほは一年生となっています。

此方は聖グロ編と違い一話完結型の短編となっています


IF外伝【黒森峰在籍編】
シュヴァルツヴァルトのエーデルワイス


 

 

 -1-

 

エーデルワイスとはキク科ウスユキソウ属に分類される高山植物の事である。

原語はドイツ語であり、意味は直訳すれば「高貴な白」となる。

 

 

 -2-

 

 

「どうしようかこれ…」

 

黒森峰女学院の食堂の一角のテーブルにて三人の生徒が顔を突き合わせながらうんうんと唸っていた。

三人……斑鳩とオセロと囲碁の視線の先にはテーブルの上に置かれた四枚の紙片があった。

 

「どうするよ?とりあえず此方にも伝え方に語弊があったかもしれないから余分な分は三等分で持つでいいと思うけど」

 

コーヒーの入ったカップを片手にオセロが如何にも面倒くさげな様子と少々蓮葉な口調で言った。

若干茶色の色素を含んだ明るい髪を緩やかなウェーブを描きながら背まで落としている彼女は、その整った容姿も合わせて黙っていればまるで静かなお嬢様の様な印象を抱かせるが、この様にその口からでてくる言葉はその外面の印象とはかけ離れたものであった。

尤も最初は面を食らってもある程度彼女と過ごしていればそれが何故だか似合っているように感じてくるのだが。

 

「お金の問題はそれで異議なしだけどね。肝心なのはこれの処遇についてだよ。

 まさか捨てる訳にもいかないでしょう?」

 

一方で紅茶の入ったティーカップを上品に持ち上げ、音を立てずに優雅に啜りながら囲碁が言った。

オセロとは違い完全な漆黒の髪を耳が隠れる程度に切りそろえ、フレームの細い眼鏡の奥に細く鋭い切り目を隠している彼女は印象だけで語るなら理知的な文学少女といった体であった。

まるで新海先輩の背を低くして髪を短くしたような彼女はその印象を裏切ることなく知性的で博覧強記な人間であった…………少なくとも表層の外皮はそうであった。

しかしこの三人の中で小柄な彼女はまるで身長に比例するように三人の中で最も導火線も短い人間であった。

即ち頭の回転も速ければ、足も早く、そして手が出るのも早いのだ。

基本的には理性的で大人しい人間である筈なのだが、彼女の中で越えてはいけないラインを超えた瞬間に被った羊の皮をかなぐり捨てて「シャオラッ!!」と全力で拳と脚を叩き付けにいくのだ。

実際、三人で出かける時にトラブルに巻き込まれた時……代表的なのがしつこいナンパであるが、脈なしと判断した男達が去り際に斑鳩やオセロを口汚く罵る言葉を投げかけると決まって彼女の爪先がその体にめり込むのだ。

その後は当然乱闘となり、オセロが無責任にやれ!やってしまえ!と煽り、斑鳩が何とか場を収拾つけようとするのが常であった。

この様にどこに爆破スイッチがあるか解らないので少し彼女を知っている者は恐れて近づかないのだが、斑鳩とオセロは彼女が手を出す時は決まって彼女自身ではなく友人である自分達が侮辱された時だけであるという事を知っているのだ。

 

「と言ってもなぁ……誘えるような人物に心当たりがあるか?」

 

「この艦で?このライブに?

 いる訳が無いじゃないの!」

 

「だよなぁ……」

 

斑鳩がぼやくようにオセロに確認したが、返答はやはり予想通りのものであった。

再び三人はテーブルの上の紙片に目を落とす。

その紙片……チケットには黒地を基として派手な色が装飾する中で「The Sound of Music!!!」と赤い乱雑な字で書かれていた。

 

経緯はこうである。

三人が中学の時にお世話になった二つ年上の先輩がバンドのリーダーをしているのだ。

その先輩は高校に在学中の時から活動しており、卒業後も音楽活動で生計を立てているそうだ。

インディーズバンドで慎ましくもそれでご飯が食べられているのだからその先輩の実力と努力も推して測れるであろう。

このアクが強い三人(そう聞けば三人とも「他の二人がアクが強いのであって自分は普通だ!」と主張するだろうが)が世話になっているだけあってその先輩も一筋縄でいかない人物であるが、同時に面倒見がよく特に問題児から懐かれる様な人物でもあった。

そんな恩ある先輩の活動なのだからできる限り応援してやりたかったのが三人の共通の思いであるが、年中殆どを航海している学園艦に在籍している高校生とあっては中々そうは行かないのが現実であった。

しかし、偶然今度寄港する港の近くでその先輩のライブが行われ、しかも全国大会優勝後の長期休暇とも重なっていると言う奇跡が起きたのだ。

当然の様にライブに行く計画が提案され、それは満場一致で可決されたのだが、ここで手違いがあったのだ。

オセロはその先輩からチケットが貰えたので個人で用意する必要は無いと二人に伝えていた。

しかし、どこでどう伝達ミスが生じたのか、はたまた同じ文から複数の意味が読み取れる日本語の難解さによるものか斑鳩はチケットは個人で用意しておこうという意味合いで受け取ってしまった。

つまりオセロが持ってきた三枚と斑鳩が用意した一枚。

三人に対してチケットが四枚になってしまったのだ。

余剰分は仕方が無いのだから捨てる……という選択肢もあるのかもしれないが箱の規模が小さいからとはいえ完売してしまったチケットだ。

いらないから捨てると言うのは先輩自身にもそのファンにも無礼極まりない行動のように感じられできれば避けたい。

しかし、かといって質実剛健とはいえ古風で伝統的な戦車道を歩む生徒たちだ。

基本的には程度の差はあれどお嬢様であったり少なくとも風紀が良い者たちばかりだ。

先輩の行う些か"特殊な"音楽に誘うのは難しいだろう。

 

「…あれ?斑鳩先輩?」

 

そうチケットの処遇について悩んでいると聞きなれた声が斑鳩の耳を打った。

 

「い…副隊長!いらしてたんですか!?」

 

「もう!約束したじゃないですか!

 決勝戦で勝ったら呼び捨てで呼んでくれて敬語は使わないって」

 

そこには空の皿が乗ったトレイを持った黒森峰の副隊長である西住みほがいた。

元々可愛らしいと評判であった彼女であるが決勝戦での行動と実家に帰ってから姉と母の間で何かあったらしく、それまで何かを押さえ込んでいるようなどこか悲痛さを感じさせるものは霧散し、それまで以上に笑顔を元気を振舞うようになってから更にその魅力は増していた。

そんな彼女に頬をぷりぷりと膨らませながら詰め寄られ、斑鳩は思わずたじろぐと同時に仄かに顔が熱くなるのを実感した。

 

「いや…それはその……人がいる所では…」

 

「約束!」

 

「はい…いや、解った。み、みほ…」

 

みほの強引さに負けてつい名前で呼ぶ事と敬語を使わない事を約束させられた斑鳩であったが、何とか公の場所では「戦車道としての活動している時は、流石に役職名で呼び、指揮されるものとしてそれ相応の応対が必要でしょう」という理論によってその難を免れていた。

しかし、そうではない場所では依然としてこのやり取りが何度も繰り返される事になるのだ。

 

「えー!何それ何それ!いいなぁ斑鳩!

 ね、ね!私も副隊長のことみほちゃんって呼んでいい?」

 

このオセロの発言にぎょっとしたのが斑鳩である。

斑鳩がみほの事を呼び捨てにしたり敬語を使わない事を躊躇しているのは何も照れだけの問題ではない。

この黒森峰女学院は言ってみれば西住流によって統治されている国家である。

つまり西住の次女は言わば王女であるも同然であり、その王女が一年生で年下であっても上級生達は下に置かない態度をとる。

無論、それは表面上だけではなく姉妹に対して門下生達は心から崇敬し、自分達の統治者として誇りを持って忠誠を誓っている。

当初はそれは殆ど姉にだけ注がれる物であったが、戦車道活動を通じて才気が光を放つたびに妹の方にも徐々に流れていった。

いや、全国大会の決勝戦での行動によってむしろ妹の方が強く崇拝されているとも言えるかも知れない。

三人は西住流ではあるものの月謝を納めて認可されて門下に入った訳ではないので西住流門下生ではない。

そんな三人が西住の次女の名を呼び捨てにして馴れ馴れしい態度をとっているのを門下生に見咎められたら非常に面倒な事になるであろう。

 

「…勿論です!嬉しいです!」

 

オセロも馬鹿ではない。いや、それどころか頭は回る方である。

当然そんな事は承知している。承知している上でやっているのだろう。

仮にその事を門下生に詰問されれば「友人に馴れ馴れしい態度をとってな~にが悪い!知ったことか!」とでも言いのけるだろう。

そこまで理解できたから心底嬉しそうにしているみほを見ながら斑鳩は軽く頭を抑えてため息をついた。

 

(結局、私が約束を飲んだ時と一緒だな…。

 こんなに嬉しそうにしてる妹様を見たら口出しできないじゃないか……)

 

そんな様子を笑みを浮かべながら見ていた囲碁はふと名案を思いついた様な表情をした後、肩肘をテーブルにつけて頬で顔を支えながら逆側の手の二本の指でチケットを挟みこむとヒラヒラさせながらこう言った。

 

「みほさん、今度の週末は暇かな?」

 

 

 

-3-

 

 

「みほさん、お待たせしてすいません!」

 

「いえ、私も今来たところですから!

 …それより斑鳩先輩!敬語使ってますよ!」

 

 

待ち合わせ場所は艦の退艦口付近となった。

現地近くでの待ち合わせも提案されたが、場所と時間の問題で、みほがそこに一人で行くのはよろしくないという事で廃案となった。

そしていざ合流するとその考えはまさに正しかった事が証明されたのだった。

三人の服装はラフな格好……とも表現できない服装であった。

少なくとも昼に極普通の街角にこの格好で赴けば奇異な目を向けられたであろう。

この時間にこれから赴く場所だからこそ、この黒い服装が適しているのだ。

一方でみほは白を基調とした清潔感と清楚さを感じさせるワンピースの上からカーディガンを羽織っていた。

恐らく普通なら子供っぽく感じてしまうだけだろうこの組み合わせも、みほが着ると幼げではありつつもそれを魅力として取り込んでおり、特に生まれついた物と育ちによる物として自然的な気品さも感じさせていた。

つまり、非常に似合っていた。それもとても可愛く。

それだけにこれから行く場所では異質に見えるだろう。

現地近くでの待ち合わせで彼女が一人で待っていたとしたらそれは狼の中に羊を放り込むような物ではないだろうか。

たちまち悪い狼達に連れ去られていただろう。

事前に艦での待ち合わせとしておいて本当に良かったと斑鳩は安堵したのであった。

 

「可愛い!みほちゃんすっごい可愛い!

 ねぇねぇ!写真撮っていい?撮るよ?はい!チーズ!サンドイッチ!

 おー、いい写真が撮れた!これは良い思い出になるよ!」

 

斑鳩としてもおめかしをした妹様の姿を何時までも見続けたかったが、残念ながらライブの開催までの時間にそれほど余裕が無かったので興奮しながらスマホのシャッターを落としているオセロの襟首をつかんで移動を開始した。

無論、後でデータを送るように頼む事を忘れなかったが。

 

「先輩達皆さんがお世話になった方の演奏会なんでしたよね?」

 

「そうだよ~。天内先輩っているんだけどね。

 いやぁ私達ってさ中学の時は結構やんちゃしていてね。

 学校でも戦車道の方でもまぁ跳ねっ返りしてた問題児だったんだよね」

 

「……まるで今はそんな事のない言い草だな…」

 

「斑鳩こそ自分は違うと言っているみたいだね」

 

囲碁の指摘に斑鳩はぐぅと黙らざるを得なかった。

否定はしたかったが、その言葉を口に出せるほど斑鳩は自分を偽れなかったし、厚顔でもなかったからだ。

 

「そんな私達にこう言ってくれたの

 無理に押さえ込まれて自分を偽る必要はない。

 自由にすればいい。空を行く雲のように心の赴くまま戦車道をすればいいのさ……」

 

「「「だってその方が楽しいに決まっている!!」」」

 

三人はそう揃えて唱和すると声を上げて笑った。

その様子をみほは楽しそうに見守っていた。

 

「自由に…戦車道を……良い先輩だったんですね」

 

「そうだね、天内先輩は自由な人だったけれど学校生活では優等生だったから教師受けは良くて信頼厚くてね。

 私達が何かする度によく庇ってくれたんだ…。

 本当に良い先輩だったよ…」

 

「今は戦車道をしていないんですか?」

 

「はい、先輩は高校に進学すると同時に戦車道をやめて音楽の道を歩むようになりました。

 人によっては飽きっぽいと移り気だと批判されるかもしれませんが、先輩は何時だってやると決めれば本気でした」

 

「本当に雲のように自由な方だったんですね…。

 それよりも斑鳩先輩、敬語使ってますよ」

 

そう歩きながら思い出話に花を咲かせているといつの間にか目的地についていた。

地下への階段を降りていくと薄暗い空間の中で無数の男女が立ったまま散漫としていた。

待ち合わせの場所で合流した時に、みほは自分だけ服装の傾向が違っていた事に特に疑問を感じなかったが、この場所では自分以外の全ての人間が黒を基調とした同一趣向にあったので自分だけが浮いているのが解った。

この時点で既にこの空間はみほの知る常識とはかなりかけ離れていた。

みほにとって"演奏会"とは正装をして、用意された席について静かに鑑賞するものであった。

オーケストラや吹奏楽団に合唱団によるコンサートはそうであったし、姉の趣味であるから機会も多かったオペラやオペレッタもそうであった。

ところがこの演奏会ではどうやらボックスシートは勿論の事、座席すらも見当たらないのだ。

この全く未知の世界にみほは堪らなくワクワクしている様に見えたのだった。

 

みほ自身は特に自覚していなかったが、服装だけではなく身に纏う雰囲気もこの場所においては異質であり、好奇による視線がみほに集中したがそれは特に排他的な意味合いは含まれずむしろ好感が多大に含まれていた。

彼等にはこの四人組の奇妙な組み合わせを見て、その背景を各自好き勝手に想像していたのだが、最大公約数的に共有したバックグラウンドとして「三人のファンが悪乗りして箱入りで世間知らずのお嬢様を連れてきた」というものであった。

それは要点としては正鵠を射ており、そのお嬢様が緊張しながらも初々しく周りを忙しなく見渡しては楽しそうにしているのだからどうしたって微笑ましく感じてしまうのだ。

彼等とて当然ながらこのバンドのファンであるから、見るからに自分達とは住む世界が違うような少女がこのライブに興奮しているのはファン心理として非常に喜ばしく思い、連れて来たであろう仲間である三人に良くやったと心の中でその功績を称えていたのだ。

そしてできればライブをこの可憐なお嬢様が楽しんでもらえるなら…と期待していたのだ。

 

 

-4-

 

 

アンコールが終わり全ての演目が終了した。

まだ興奮の熱の余韻が冷め切らぬこの会場にて私も妹様も例外では無いようだった。

 

「みほさん、楽しかったですか?」

 

「楽しいです!私、こんな演奏会は初めてです!」

 

見れば頬を高潮させ如何にも興奮したようにぴょんと跳ねながら妹様が答えた。

どうやら私の敬語にも気づかないくらい楽しんでもらえたようだ。

それを私は何と言えば良いのか……こう言えば不敬かもしれないが母や姉が娘や妹を見守るような気持ちで見ていたのだ。

こんな風に遊びに誘って妹様がこんなにも笑顔を浮かべている様をついこの間までは想像もできなかっただろう。

今の妹様は重い悩みもかつて背負っていた物も顔に落としていた暗い影も全て消え去っていたのだ。

 

「みほちゃん、この後で天内先輩に会いに楽屋裏行くんだけど一緒に行く?」

 

「はい!是非!」

 

そっかそっかとオセロが笑いながら妹様の左手を取ってエスコートする様に引っ張った。

それに妹様は一瞬だけ驚いた様だが、すぐにあのふんわりとした笑顔を浮かべて引っ張られるに体を任せた。

こういう事が何気なくできるのがオセロであり、私はそれが少し羨ましくなった。

同じ様な事は私の性格では到底できないだろう…。

 

そう考えているとふと左手に何かの感触を感じた。

視線をよこすとそこには私の手を握っている囲碁がいた。

 

「さぁ私たちも行こうか。

 私がエスコートしてあげるよ」

 

にやりと笑いながら此方を見上げてくる囲碁はそういうと私の反応を待たずに妹様とオセロの後を追う様に駆け出した。

私はそれを何処か苦笑しながら大人しく引っ張られたのだ。

なんとなく空いた手でオセロの頭を撫でてやりたくなったが、そうしたのならば彼女は怒るだろうか?

いや、案外笑いながら受け入れるのかもしれない……。

 

 

-5-

 

 

「いやー!久しぶりだね!良く来てくれたよ!」

 

楽屋に入室し会うなり先輩は私たち三人を代わる代わる抱きしめ、乱雑に頭をくしゃくしゃと撫でた。

全く変わっていないものだ。

先輩にとって私たちは何時までも手のかかる可愛い問題児なのだ……だからこそ何時までたっても私たちはこの先輩に頭が上がらないのだろう。

 

「所で……その子、紹介してくれるよね!?」

 

「あ、はい!此方は…」

 

突然の事に目を白黒させていた妹様を私達が通っている学校の戦車道の副隊長と簡単に紹介した。

少し逡巡したが西住流の次女だということも添えた。

以前ならそう紹介されるのは妹様にとっては重荷でしかなかったであろう。

しかし、今の妹様ならそれはむしろ誇りに感じているだろうからだ。

 

「はーあの西住流のねぇ……お嬢様っぽいと思ってたけどまさか本当のお嬢様だとはね…

 ね!どうだった私達のライブは?白いお姫様にも楽しんでもらえたかな?」

 

「はい!とても楽しかったです!

 私……こういう音楽って聴いた事なくて…だからどこがどう良かったのかとかそういう事は上手く説明できません。

 立ったまま聴いて、演奏中に皆で声を出して動いたりするというのも驚きました。

 でも…それがとても楽しかったんです!

 天内さんの演奏が皆さんが本当に好きだと感じれて、それを天内さん達も受け取ってより感情を込めていって…

 場が一体になるを感じれて私もそこに加われているように思えて…それで気づいたら私も天内さんの演奏が好きになっていました!

 だから本当に楽しかったです!!」

 

私はそう妹様が語るのを聞くと胸の奥がざわついてしまった。

妹様の言う事は私にも良く解る。

それがライブの楽しさなのだと。

だからこそ妹様が社交辞令でもなんでもなく本心から言っているのだと理解できた。

それが故に私は散々お世話になっていた多大な恩がある先輩に嫉妬を感じていたのだ。

かつて隊長が私に言っていた「みほに見上げられて褒められる事」を思い出しながら……。

 

「ッッ~~~~!!あー可愛いなこの子!!!

 こんな後輩欲しかったなぁ!!」

 

「え?ふわぁ!?」

 

そう言いながら天内先輩は妹様を力いっぱい抱きしめた。

そうしたくなる気持ちも私には良く解る。

妹様自身が言ったように、妹様にはこの系統の音楽の知識は皆無である。

そうであるから褒め言葉も具体性を欠いて理論だった内容ではなかった。

しかし、拙いからこそ心が十全に篭っている事が傍で聞いてる私にも解るのだ。

その上でつまりそういったジャンルに興味がなかった人間にも評価されたという事は自分の演奏単体に生じる内容そのものに価値を感じてもらい賞賛され評価されたという事だ。

ミュージシャン冥利に尽きるだろう。

それに可愛いし。

 

「おや?私たちは可愛い後輩ではなかったかな?」

 

「いいや、君達も私の可愛い後輩さ!」

 

囲碁が何時ものように揶揄する形で言えば天内先輩はさらりとそれでいて真剣さを感じさせる口調で言ってのけると、珍しくも囲碁がぐぅと唸り顔をそらした。

本人はその少しだけ紅潮した顔を隠したかったのだろうが無駄な努力だっただろう。

 

「でも実は感想を聞かなくても君が私たちのライブを楽しんでもらえた事は解っていたんだ。

 ステージの上からでも君の事はよく見えたからね」

 

「え!?そうなんですか?」

 

「そりゃ君は目立つからね。

 薄暗い空間の中で黒い観客の中で白い君は光って見えたよ。

 あ、これ別に服の色だけのはなしじゃなくてね。

 最初は場の雰囲気に戸惑っていて初々しい様に周囲にあわせていたけど、演目が進む度に君が楽しんでいってもらえるのがハッキリと解ったよ。

 途中の休憩時間でも君の事は私達の中で話題になっていたんだ。

 白い可愛いお客さんがいるってね!」

 

そう言いながら天内先輩は片目を閉じて可愛らしくウィンクを飛ばした。

それを聞いた妹様はライブの最後の方ではぴょんぴょん跳ねながら周りに負けないような勢いで合いの手をいれていた事を思い出したのか、恥ずかしそうに下を向いた。可愛い。

 

「ええっと…ごめんなさい。

 やっぱり私の格好は場違いでしたよね……」

 

妹様にとってドレスコードの遵守は当然のマナーでもあり、それを破るのは妹様にとって非常に無礼な行為なのだろう。

それは確かに必要な場所ではそうなのだろうが、ここはそんな大層な事を気にする必要がある場ではない。

第一、妹様にどんな場所かと聞かれて「曲を聞く場所である」といった回答をしたのは私だ。

であるから妹様は自身の常識に従って、妹様にとって"演奏会"に相応しい格好をして来たに過ぎない。

そう私がフォローしようとした時であった。

 

「そんな事ないよ。

 君の格好はむしろあの会場で一番相応しい格好をしていたよ。

 これは私が保証するよ!」

 

「私が…一番?」

 

「そうさ!私たちのバンド名を思い出してごらん!」

 

これには妹様も私達も頭を捻った。

どうも妹様を慰めるために適当な事を言っているのではなく何かしらの意味があるようだが私達にはそれの意味が解らなかったのだ。

 

「……うん、そうだ!

 君を見ていると次の曲を思いついたよ。

 いや、本当は曲名自体はずっと前から考えていたんだけどね。

 私達にとって特別な意味を持つ曲名だから生半可には作れなかったんだ」

 

「そんな大事な曲を私なんかを切欠に作っていいんですか?」

 

それに対して天内先輩は再び笑顔を浮かべてウィンクしながら言った。

 

「勿論!私達の新しい可愛いファンなんだからね!」

 

 

 -6-

 

その後、感想を言い合いながら四人は帰路の道に着いた。

一つ年上の友人達と遊びに行くという行為の他に、初めて経験するライブを楽しんだみほが一番口早く感想を述べている様子は控えめに言って微笑ましい物であった。

ただし、寮に帰って斑鳩がみほを部屋まで送ると同室の逸見エリカに帰りが遅すぎる!心配しましたよ!と二人揃って叱られる事になったのだが。

 

 

 

 

 

そして数週間後―――

 

 

「みほ、貴女に荷物が届いたって斑鳩先輩がダンボール持ってきてたわよ」

 

みほが自室に帰ると部屋でパソコンをカチカチと弄っていたエリカがテーブルの上に乗ってある小さなダンボール箱を指差した。。

何だろうとカッターを使って丁寧にテープを切り、あけてみると中には白い無地の上に何か書かれたCDと手紙が一通入っていた。

手紙を開くとそこには短くこう記されていた

 

   シュヴァルツヴァルトのヴァイスプリンツェッスィンに宛てる

               余はこの曲を君に贈る              

                                  』

 

ヴァイスプリンツェッスィンという文字を見てこれが誰からの贈り物かみほには解った。

CDを見てみるとそこにはマジックで「Edelweis」と書かれいていたのであった…。

これであの時に天内が言った『一番相応しい格好をしていた』という事に合点がいった。

同時に恥ずかしさも感じていたがどこか嬉しさも感じていた。

それもそうだろう、みほはたった一回だけの機会であったが、その一回で天内の言う様にファンになったのだろうから。

 

「……ね、エリカさん!これ二人で聴いてみない?」

 

 

    -了-

 

 

 





Weiß(ヴァイス):白

Prinzessin(プリンツェッシン):姫




・登場人物紹介

【斑鳩】
本作品の主人公。狂言回し。モブ。西住みほの一つ上の学年で本編では二年生。
黒森峰生徒が入学してまず行わされる一年生の個人演習において西住みほの車輌の操縦士を勤めた。
この個人演習で自分の技量を極限まで引き出してくれる指示によって初めて戦車に乗った頃の「戦車道は楽しい」という気持ちを高密度で再燃させられた事によって彼女を信望していく。
この時に同時に見てしまった西住みほの下着にその時の思いを関連付けて刷り込みしてしまった事により、後にその時の記憶をリフレインさせる為に彼女の下着を盗む。
本編では返却する前に転校してしまったが本作品では縛られた記憶から開放されている返却している。
性格は男前な所もあるがへたれな部分はへたれ。実は下級生から密かに人気がある。
心の中ではみほの事を「妹様」と呼んでいた。
好きなFly Me To The MoonはTony Bennett。
好きなパーティーはデュラン ケヴィン シャルロット


【オセロ】
斑鳩の親友の一人。
初対面の時に斑鳩の名前を聞いて「オセロみたいな名前!おもしろーい!」と言った事から逆にオセロというあだ名が定着した。
見た目は深窓のお嬢様といった風であるが中身は相当軽い。
好きなStand By Meはオアシス。これから解るように実は捻くれもの。
好きなパーティーはフェイ リコ マリア


【囲碁】
斑鳩の親友の一人。
初対面の時に斑鳩の名前を聞いて「まるで囲碁みたいな名前だね」と言った事から逆に囲碁というあだ名が定着した。
一見すれば小柄な文学少女で発言内容も知性的であるが、実は三人の中で最も導火線が短い核弾頭。
好きなパーティーはクロノ マール カエル。


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https://syosetu.org/novel/133747/
此方にも久々に最新話を投稿しましたのでもしよければ





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