如何にして隊長を尊敬している戦車道に対して真面目な黒森峰女学園機甲科生徒達は副隊長の下着を盗むようになったか   作:てきとうあき

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第四話 【ACES】

 

-1-

 

 

 

敵機の撃破判定を確認すると車内は無言の歓喜によって包まれた。

無理も無い。彼女らはつい先ほどまで劣等感に苛まれていたのだ。

組み分けの時に己らの立場や価値を心の芯にまで思いしらされたのだ。

他の者は互いに必要とし合っていく。それ所か、何もせずに声をかけられ望まれる者もいた。

一方で自分達は何度も必死に声をかけても袖を振られるだけであった。

徐々に醸造が進み、周囲がワインとして出来ていく最中で、残った葡萄の搾り滓でしかない自分達はこの黒森峰では無価値であると不要であると囁かれている様にも思えただろう。

一人の友の友となる事も出来ず、心優しき戦友も出来ず、心を分かち合える者が地上にただ一人も存在しなかった彼女等は黒森峰という輪から泣く泣く立去るしか方法が無かったのだ。

しかし、一人の天使は見捨てなかった。

快楽は虫けらの様な者達にも与えられ、天使は神の前に降り立ち宣言された。

姉妹よ、自らの道を進め!英雄のように喜ばしく勝利を目指せ!

彼女達は火の様に酔いしれて、崇高な歓喜の聖所に入ったのだ。

もはや自分達は無価値ではないと彼女等は大きな成功を持って証明したのだ。

無論、鬱屈した気持ちは先程の決意表明の際に吹き飛んでおり、彼女達の心は青々とした天空の様に澄み切っていたのは間違いない。

しかし、過程を通して結果を得る為に意志を確立させる為の勇猛さと、結果を出す事によって自身の価値を証明出来た時の晴れやかさは、やはり別なのだ。

私も素直に彼女等の蛹からの羽化を喜んでいた。

其れぐらいは彼女達の事をもう気に入っていたし、好んでいた。

しかし、だからと言って呆けている訳にはいかない。

 

「喜ぶのはまだ早いです。

 砲撃音で場所が割れてしまいますので喜ぶ前にまず行動を。

 斑鳩先輩、急いで移動してください。

 ルートは先程のに戻って大丈夫です。

 赤星さん。12号車を撃破した事を座標も添えて伝えてあげてください」

 

妹様も当然の様にそう思っていられた様だ。

私は再び応と答えて戦車を動かした。

敵を先に発見する事が重要ならば、敵に先に発見される事は致命的と言っても良い。

砲撃をしておきながらその場にとどまる事は愚の骨頂でもあり、黒森峰でそんな事をしよう物ならばお叱りと罰則は免れないだろう。

彼女達もそれを聞いて気持ちを即座に切り替えたようだ。

しかも実質的に諫められたというのに萎縮はしていない。

良い傾向だ。成功と戦果に昂ぶって炎の様に燃え上がってはいるが、同時に根本的な部分は冷えており自分を律している。

次は何をするんだ?何でもやってやる!だから指示を!命令を!

薄暗い戦車の中でその目だけが爛々と浮かび上がっていた。

 

「止まってください」

 

再び木々の中を進軍しているとキューポラから身を乗り出したままの妹様が停止を命令した。

何事だろうと思いながらも停止させると、暫く時を置いてから

 

「前方ですね。砲撃音の後に走行音が聞こえてきました。

 方向を指示しますのでなるべく音を立てないように走行して下さい。

 速度より隠蔽さを重視して遠回りをしても結構です」

 

音は重要な情報手段である。

戦車長がキューポラから身を出しているのは視界の確保もあるが、騒音が響く車内より音が聞こえやすいというのもある。

良い戦車長は耳も良いとは聞くが、やはり妹様は鋭い聴覚を持っているようだ。

暫く進むとそれが直ぐに実証された。

空けた場所に白旗が出ている戦車が見つかったのだ。

土が露出しているので履帯の痕跡も残っており、当然妹様は追跡と同時に赤星に情報の提供を命じた。

 

「赤星さん。撃破された車輌の番号とH-6から東方面に移動している車輌の存在を伝えてあげてください。

 斑鳩先輩はこのまま追跡をお願いします」

 

「え、え?いいんですか?敵車輌の情報まで渡して」

 

「構いません」

 

赤星が慌てて確認するが、妹様は欠片も惜しまず頷いた。

 

「でも折角見つけたのに取られてしまうかもしれませんよ?

 皆さんの戦果になるかもしれませんし」

 

確かにペアの戦車は存在しているが撃破スコアは共有していない以上は競争相手にしか過ぎない。

勿論、通信手にとっては流した情報で撃破してくれれば自分の功績となるので流したい所ではあるが、他の乗員にとってはそうではない。

自然的に流したい通信手とそれに命令できる車長との間の駆け引きになる。

今後の関係も考えて通信主が控えてしまうのか、戦車長が留めてしまうのか、または自分の器を見せようと許可するのか。

実はそれもまた本人達の性向を判断する為の評価基準である。

しかしながら車長からそれを指示し、通信手が其れを良いのかと確認してしまうこの状況はかなり珍しい。

それを受けてか妹様はキューポラから車内に顔を戻し、静かにしかし強くハッキリと言った、

 

「私は皆で一位になりたいんです。

 この"皆"には赤星さんも含まれています。

 だから流した情報で撃破されても赤星さんの功績になってもそれはそれでいいんです」

 

妹様は赤星の方を見ながら、今までの様に輝かしい意志を秘めている表情に少しだけ笑みを浮かべた。

 

 

 

恐ろしい。恐ろしすぎる。

今の赤星の心情は察するに余る。

アドルフヒトラーやナポレオンにチェ・ゲバラ、劉邦や豊臣秀吉もこうで在ったのだろうか。

彼らがどうであったかは私にも解らないが、少なくとも妹様は計算でしていないのだろう。

素だ。素でこれなのだ。妹様は天使か。

しかも結果的に自分達の戦果を蔑ろにされる形にとれるのに逸見も浅見も全く不満を覚えていない。

むしろ明らかに感激を感動を感じている。

・・・そして私には解る。二人が赤星に嫉妬すら覚えているのを。

 

 

 

-2-

 

 

 

「見つけました」

 

妹様が双眼鏡を構え、前方を警戒しながらある程度進むとどうやら敵機を発見したようだ。

 

「5号車・・・先輩は砲撃手ですね」

 

それを受けて浅見が「またやってやりますか!」と勢い良く声を上げたが妹様は静かに首を横に振った。

 

「あれは先輩が操縦手だったからやれました。

 けど砲撃手や装填手を先輩が担当していたらリスクが大きすぎます。

 技量が低い一年生が砲撃手を担当していたので主砲を私達の進行方向先へと置いての射撃だったのでタイミングと射撃先が読みやすかったけど、上級生ならそんな置いて待つ何て事はしません。

 常に砲塔を回転しつつ、砲弾の着弾予想位置と重なった瞬間に撃ってきます。

 また装填手が先輩なら此方の初段が外れた時に此方がまともに移動できる前に主砲が発射される可能性があります。

 其の場合は静止状態から静止目標への射撃なのでほぼ撃破される事になります」

 

私は一度経験したので上級生がどこを担当するかは重要な要素である事は知っている。

しかし、とてもではないが開始前からそんな事を推察するなどは出来なかった。

だから開始前に配られた編成表も中学時代に大きな名が知れ渡っていた者が何号車かチェックしておくに留めていたのだ。

それを妹様はルールと組み分けの説明を聞かされただけで予想し、記憶し、活用している。

 

「このまま隠れて追跡し、5号機が他の戦車と相対して戦っている所を狙います。

 とらとら作戦です」

 

奇襲だからトラ・トラ・トラから取ったのだろうか?

いや、二虎競食の計か。投げ込まれる餌は互い自身ではあるが。

戦いは始まる前から決まっているとは誰の言葉だったか。

殆どの選手がせいぜい戦車の立ち回りについて意識を割いているだけに対して、妹様は始まる前から準備して構想して活用している。

本来なら戦術レベルの駆け引きしかできない遭遇戦しかない様な個人の乱戦で一人だけ戦略的に動いている。

組み分けの時に小石と大きな石と表現し、妹様を小石に含めていたがとんでもない事であった。

小石 大きな石 どれでもない。石ですら無い石のような物体。それが妹様だった。

しばらく妹様の指示するポイントを通りつつ追跡していると遂に他の戦車と遭遇したようだ。

なおこの間もリアルタイムで情報を発信し続けていたのだが、遂に向こうから「これは追跡しているのではないか?撃破してもいいのか?」と返ってきたようだ。

其れに対して赤星は「これは西住みほ戦車長の指示です。西住みほ戦車長は時期が来てこちらが攻撃する前に其方が撃破したとしても構わないとの事です」と殊更妹様の名前を強調していた事を付け足しておく。

今、眼前では2頭の虎―――いや、豹と言うべきだろうか―――が互いを喰らおうと闘争していた。

我々は其れに横合いから思い切り殴りつけるために、主砲を後から見つかった―――上級生が装填手を担当していた―――17号車に常に狙いをつけていた。

逸見はただ引き絞った矢の様に、はたまた薬室に弾丸が装填された銃の様に・・・いや、多分これが最も表現として正しいのだろう、獲物を前に主人の指示を待つ猟犬のようだった。

 

「撃て!」

 

妹様から命令が、いや「良し」と解禁の指示が下されたと同時に待ちに待ったぞと言わんばかりに主砲が発射された。

それは目標の背面に着弾し白旗をださせたが、その神がかりなタイミングの良さを証明するようにその一瞬後に5号車の砲弾が着弾した。

5号車を後にしたのはこの為である。

装填手を上級生が担当する17号車を残した場合、発射後であっても装填し撃って来るまでの猶予が短い。

一方で如何に上級生が砲手を担当していても装填していなければ主砲もただの筒に過ぎない。

予め指定されていたように撃つと同時に戦車を全速前進させてブッシュから飛び出す。

急な発進にも手元をぶれさずに浅見が装填し、逸見も砲塔を調整する。

5号車は目の前の戦車を撃破出来ると思った瞬間に横合いから撃たれ、意識外から別戦車が飛び出してくるという不意の事態に慌てているのか微動だにしない。

これが操縦手が上級生であったのならば、または戦車長が経験豊富であったのならば咄嗟に戦車を移動させていただろう。

装填完了を告げる声が上がり、再度撃ての命令が下されると白旗は二つに増えていた。

 

「いいんだろうかな。名門の方たちから私達がこんなに撃破数を稼いで」

 

全体に聞こえるように浅見が呟いた。

内容は卑下している様だが口調と表情が一致していない。

ニヤリと笑った顔はむしろ誇っているようで、これは単に会話のキャッチボールを楽しみたいのだろう。

こういうのは嫌いじゃないので私は乗ってやることにした

 

「下座もなく上座もなく、条件は皆同じ 中学の実績も家柄も関係ない ただ己の戦車道を競って向き合う場所。

 『生き残れ』 それが唯一の交戦規定だ」

 

私の返し方に満足したのか浅見はニィとだけ笑った。

その後、移動している最中に指定されたポジションに浅見が偵察に行くよう指示された。

 

「潜伏するならこの地点が待ち構えているのに向いています。

 もし敵戦車が存在したら何号車であるかとどの方向を向いているのかをお願いします」

 

「了解!行ってきます!」

 

ある意味使い走りとも言える任務では在るが、浅見は一切の不満を見せずにむしろ嬉々として偵察に向かっていった。

まるで、いやハッキリと妹様に指示されそれをこなせるのが嬉しいといった相好である。

それは帰ってきた時にお帰りなさいと笑顔で迎えられ、そして敵戦車の発見の報と先程指示された情報に加えて、

戦車長がキューポラから身を出して双眼鏡で前方を大きく左右に捜索している事を付け足すと、

指示された事以外にも自分で考えて判断した事を褒められた事に見えない尻尾を振っていた事で確信した。

逸見がシベリアンハスキーだとするとこっちはゴールデンレトリバーだろうか。

ちなみに敵戦車は即堕ちした。

 

 

 

-3-

 

 

 

つまみ食いの様に潜んでいた戦車を見つけて狩ったが此れを続ける気は妹様に無いようだ。

もう開始から暫くたってある程度戦車の数も減り、餌待ちしていた狩人も自らの足で探し出す頃だろうということだ。

戻って指定されたルートをなぞりながら偵察しているとまたもや戦車を発見した。

 

「1号車 通信手が上級生ですね」

 

「じゃあまた追跡して泳がせるんですね!」

 

と浅見が元気良く言うが、以外にも妹様は首を横に振った。

 

「いいえ、最も警戒するべき相手です。

 悠長な事はしていないでこの好機を即座に活かすべきです」

 

全員が驚いた。

明らかに実力が高い上級生には操縦手か砲撃手を、次いで装填手を担当してもらうのが良いというのが編成時の取り決めを聞かされた時の全員の共通した考えであった。

実際に、組み分けの時に有力な生徒達が組んで行った時も操縦手か砲撃手は空枠として、通信手の所に運が良い小石を納めたりしていたのだ。

だいたい今までの行動も敵戦車の上級生が操縦手か砲撃手かを念頭に置きながら組まれていたではないか。

その疑問を見透かしているかの様に妹様が私に質問した。

 

「斑鳩先輩。

 上級生の方々が操縦手や砲撃手についている時にこの練習試合の最中に経験則や勘等で何か思いついた時に、それを戦車長に進言しますか?

 又は戦車長の指示や考え方に異論を唱えたり助言したりしますか?」

 

「・・・しません」

 

そうだ。これは新入生達の実力を見る為の選別だ。

上級生はその役割に徹する事が求められる。

枠分を超えてしゃしゃり出る事は厳禁とされている。

操縦手なら何かで気づいていても確保されている前方視界外の事は報告しないぐらいだ。

私が開始前に決意していた事はあくまで例外であり、大事の前の小事だったからこそだ。

頭に染込むようにある答えが浮かんでくる。

確かに・・・確かにそうだ。今まで考えもしていなかったが。

 

「では通信手だったらどうでしょうか?」

 

「・・・人によるかもしれませんが時には提案する事すらもあり得るかもしれません」

 

そうだ。通信手は情報を管理して纏めて取捨選択をし報告する事も役割だ。

他が体を動かして何かをするのに対して、通信手は頭を働かせるのが役割だ。

口に出せる制約も他よりはずっと緩く曖昧だ。

 

「仮に私達が追跡したとして気づいた上級生が他の役割なら其れを口には出さないでしょう。

 しかし、通信手なら戦車長に伝えたとしてもおかしくありません。

 故にここで即座に行動に移します」

 

なんだ。この人には何が見えているのだ。

誰だこの人を姫ちゃんって呼んだのは。

誰だこの人を向いていないのに家の方針でやらされている可哀想なお嬢様と言ったのは。

とんでもない話だ。的外れもいいところだ。

この優しく穏やかな少女の薄皮一枚剥いだその下は・・・魔物なのだから・・・。

ちなみに敵戦車は即堕ちした。

 

 

 

-4-

 

 

 

また元の指定されたルートを進んでいると何かが聞こえてきたのか、妹様が停止を指示して耳を潜ませていた。

 

「この地点に向かってください」

 

と地図を見せられたのだがそこは崖の手前であった。

不思議に思いながら向かうと戦車の移動音と砲撃音が聞こえてきた。

なるほど、また美味しい所をいただくのか。しかし、崖上に来て如何するのだろうかと思いながら着きましたがと答えると極自然な様子で一言指示が飛んできた。

 

「では此処を降りてください」

 

・・・え?と思いながらゆっくりと振り返る。

 

「心理的奇襲もかねて意識外から襲います」

 

いやいやいや、出来る訳がない。

今度ばかりは流石の私も妹様に抗弁した。

 

「いいえ、できます。

 崖と言っても勾配はそれ程ではありません。

 戦車なら十分出来る角度です」

 

「で、でもそんな事が出来るのは一流の人たちです。

 私には「いいえ」」

 

私の必死の言い分を遮る形でハッキリと妹様は否定した。

そして・・・

 

「斑鳩先輩なら絶対に出来ます」

 

私を見つめながら同じ様にハッキリと肯定した。

 

「斑鳩先輩だけではありません。

 不安定な姿勢で砲弾を維持する事を浅見さんはできます。

 急な動作から落ち着いて射撃する事を逸見さんはできます。

 不可能じゃありません」

 

その僅かにも揺れない眼差しと欠片もブレない断言する口調を聞いてそれを本気で言っているのが解った。

林檎が下に落ちる様に 日が東から昇るように世界の物理法則の一端に属している事実なのだと。

気休めや勇気付ける為の鼓舞等ではなく、単に揺るがない事実を言っているだけなのだ。

いや、何時だって妹様は本気だった。

思い返せば今日の行動と指示には不可解な点があった。

徐々に指示は不必要な難易度と遠まわしな行動を帯びて行った。

通信手である赤星にも報告される情報の報告の仕方 情報の纏め方 此方から提供する情報の出し方など事細かに指示が増えていっていた。

今思えば此れは私達の技量を探っていたのだろう。

少しずつハードルを増していく命令に私達は確実に答えていった。

それらを省みて妹様は私達に 私にそれが出来るのだと認識したのだ。

ふっと妹様が目を離した。

 

「ごめんなさい、とんでもない事を言いました。

 そうですよね。危険ですし無理する必要もないですよね。

 ・・・ごめんなさい 中学生の時もこうで良く西住門下の方を困らせていました・・・

 もう止めよう気をつけようと思っていたのに・・・」

 

私から逸らされた其の目が悲哀を帯びているのに気づいた時私は叫んでいた。

 

「やります!出来ます!」

 

悲しませたくない?違う、私はこの人に失望されたくないのだ。

所詮はお前も他の凡人と一緒なのだなと西住の方に思われたくないのだ。

捨てられたくないのだ。見放されたくないのだ。

凡人であるのは重々承知の上だが、それでも凡人は凡人成りにこの人の影くらいは追える存在になりたいのだ。

他の者からも同じ様に声が上がる。

我々の蒸気機関には大量の石炭が放り込まれ、ディーゼルエンジンはピストン駆動で火花を上げ、核融合炉では光子のエネルギーが増大を始めて超新星爆発の様な広がりと温度を持っていた。

 

(やってやる!やってやる!やってやるぞ!)

 

崖の間際に位置し、深呼吸をする。

少し間をおいて妹様よりパンツァー・フォーの号令がかかった。

戦車が傾き前方に重力を感じる。

 

(行くぞパンター!お前に魂があるのなら・・・答えて見せろ!)

 

酷い衝撃が連続して襲うが私は必死に堪えて車体を安定させる。

一つ間違えればひっくり返って横転する事は間違いない。

繊細さと大胆さを求められる作業をそれほど長くない時の間、それでも私からすると人生で一番長く感じていた間必死に行っていた。

無心でありながら全神経を集中させるという相反する操作を終えると、無事に戦車は平衡を取り戻した。

 

「逸見!」

 

私が叫ぶと口癖が移ったのか応!と答えて主砲を発射し命中させて一台の戦車に白旗を揚げさせる。

 

「浅見!」

 

合点承知の助!と答えながらも崖を下っている間の衝撃の最中も我が子の様に抱えて落とすまいとしていた砲弾を篭める。

これが勝利の鍵だぁ!と叫びながら拳を作って勢い良く押し込めた。。

 

「撃て!」

 

今度は妹様の命令が飛び、逸見が応えて再び発射する。

仰天していたのだろう。口を大きく丸く開けて何が起こっているのか解らないといった姿をキューポラから見せている。

その戦車に吸い込まれるように砲弾が命中した。

ここに2台の戦車が何がなんだか解らぬ内に即堕ちしたのだった。

 

 

 

-5-

 

 

 

 

興奮していた。自分が為した事に。

一流にしか出来ない事をやり遂げた自分に。

駆け巡る脳内物質。

今まで嘗て無い程の達成感を感じていた。

初めて鉄棒で逆上がりが出来た時。プールで25m泳げた時。テストで満点を取った時。ある日突然それまで壊せなかった物体を拳で壊せるようになった時。

自分の能力を感じた時に感じるあの達成感。

それを間違いなく今までの人生で一番極大なまでに感じていた。

まず間違いなく人生で最良の瞬間なのだと。

今後この瞬間は脳裏に刻まれ、忘れる事は無いだろう。

 

「みほさん!」

 

それを感じさせてくれた妹様に感謝しようと振り返るとそこには、

キューポラから身を乗り出していた為に、操縦席との高さの関係上で必然的に見えるものがあった。

妹様の純白に輝いていた下着が目に飛び込んで刻まれていったのだ。

 

 

 

 

 

練習試合は終わった。

その後も妹様の指示は困難を極めたが、私達はそれに見事応えていった。

成長と上達感を感じていたが実際には元々備わっていた潜在能力に過ぎない。

それを出来ないと思い込んでいただけであり、私は其れをちょっと呼び起こしただけだとは妹様の談だ。最長老様すぎる。

結果を見れば合計で9輌を撃破していた。

5輌以上撃破したのでそれぞれエースと呼ばれる事になった。

逸見はエース・ガンナーの称号を 浅見はエース・ローダーの称号を、

赤星もペア機に流した情報で貢献大とされる撃破と貢献小とされる撃破を一つずつ行い、エース・オペレーターの称号を問題なく授かった。

当然ながら妹様もエース・コマンダーと称えられた。

そして・・・本来なら関係が無いはずの上級生である私も超難易度の走行を見せた事でエース・ドライバーと呼ばれた。

夜になって私は寮の自室からベランダにでて星空を見上げていた。

終わってもまだ余熱は消えなかった。

体と心はまだあの熱さを覚えている。

その火照りを少しでも冷却させようと夜の冷たい空気を肺に取り込もうと試みたのだが、エンジンの暑さに対して空冷は無力に過ぎなかった。

寝床に入っても思い出すのだ。

あの時の興奮と感動を。

そして刷り込まれたのか・・・妹様の綺麗な眩い純白な下着が閉じた瞼に写るのだ・・・。

 

 

 

 

 




次回予告!

個人乱戦の次に行われる部隊同士の練習試合。
来た!見た!勝った!
ここでも妹様は5行程度の描写終わらせるという圧倒的な指揮能力を見せた!
まるで白金で出来た輝かんとばかりの天使の妹様の味方は決して敗北せず、敵は決して勝利しなかった。
練習試合が一通り終わると即座に妹様は副隊長に就任する。
一方で別学年が故に妹様の指揮する戦車に乗る機会が訪れなくなった斑鳩は
あの時の興奮を忘れることが無く疼く体を抑える。
渇きと飢えを心はあの時の味わった馳走を際限なく要求してくる。
そんな斑鳩が代替手段として採った行動は・・・

次回「禁断の果実」

副隊長の下着がまた一枚・・・

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