如何にして隊長を尊敬している戦車道に対して真面目な黒森峰女学園機甲科生徒達は副隊長の下着を盗むようになったか   作:てきとうあき

41 / 43
大学生になって二人で住んでいるIFです


大学生編IF【天才画伯みぽりん ー前ー】

 -1-

 

 

「みほ~、帰ったわよー」

 

大学が終わり、スーパーで今晩の材料を購入してマンションに帰宅すると、玄関から私が声をかけると奥からトテテテという可愛らしい足音が聞こえてきた。

普段なら何時も一緒に帰るのだが、水曜日だけはみほが講義履修をしていないので、こうして私の帰りを待っていてくれるのだ。

足音が近づき、廊下の曲がり角から姿を現すと、みほはまるで御主人様の帰りを待ちきれない柴犬の様に満面の笑顔で飛びついてきてくれる。

 

「お帰りなさい!エリカさん!」

 

「はいはい、ただいま。みほ」

 

えへへと笑うみほの頭をゆっくりと撫でる。

その様子に私の一日の疲れが癒されるのが通例となっていた。

 

「……あら?」

 

ふと見るとみほ可愛らしい頬に何かついている。

そして僅かに匂いもする。

 

「……あなた、ここに絵の具がついたままよ。

 それも幾つも混じって」

 

「……え、本当!?

 やだ、恥ずかしいなぁ……」

 

照れながら自分の頬を拭くみほの姿は大層可愛らしかった。

 

 

 

 

-2-

 

 

高校卒業後にみほと私がまほさんの通う大学に進学する事が決定した時、まほさんから一つの提案がされた。

即ち、私に一緒に住まないか?という物である。

どういうことかと聞くと、元々みほとまほさんの二人で住む予定であったが、まほさん自身が大変多忙であり、あまり家に帰ってこれないそうだ。

さもありなん。

まほさんは既に戦車道界でも有数の選手でもあり、大学卒業後に家元襲名をする事がほぼ確実に決まっており、今から既に家元としての活動をなさっているらしい。

国内のみならず国外にも出かける事も多いとのことだ。

それ故にどれだけセキュリティの整っている高級マンションであっても、学園艦ではない陸上の地にてみほを一人にしておく事が不安なのだそうだ。

確かにこんなに可愛くて人が良くて他人の悪意に鈍そうな、それでいて可愛くて世間知らずの可愛いお嬢様を常にでなくとも一人暮らしさせるなんて誰でも不安になるのは当然だろう。

 

「エリカが一緒に住んでくれると安心なのだが」

 

「スペース的に邪魔にならないでしょうか?」

 

「部屋は余っているから問題ない」

 

まほさんに頼りにされると私としても嬉しく思い、また私自身もみほが心配なので快諾した。

実際に行ってみると想像より遥かに広く、余っている部屋も一部屋や二部屋ではなかった。

私の家も世間一般からすれば十分資産家に該当するので、大学に進学する時は両親からマンションを用意するといわれているが、それでもあくまで普通のマンションだろうし、この"高級"の上に"超"がつくようなマンションを用意する西住家と比べれば一般人の範囲内だろう。

この物件は家元が用意したらしい。

二人の娘を心配して……というよりみほを心配してセキュリティのしっかりした場所を探したとの事である。

前述したように確かにこんな隙だらけな可愛い娘が目の届かぬところで暮すとなると親として心配するだろうが……結局、普段は厳しいようであの人も過保護なのだろう。

というよりあそこの家は家元もまほさんもそして使用人の菊代という方も全員みほに対して甘やかしている気がする。

 

「此方から頼むのだから当然だが家賃の類は一切要らない。

 むしろ、幾らか礼として包みたいのだが……」

 

これには流石に私も謝絶した。

仕事や業務としてみほと住む訳ではないからだ。

それが解っていた様でまほさんもあっさりと引き下がったが、後日に家元から私の口座に引越し費用や準備費といった名目でかなりの高額が振り込まれていた。

流石に一度渡された物を突き返せば相手方にとって失礼となってしまう。

後にまほさんに聞いてみた所、私がこの件を引き受けた事を家元に報告すればこうなるのは解っていたそうだ。

だからあの時にやけにあっさりと引き下がったのだな。

すっかり退路を失われた私はありがたくこのお金を受け取り、引越しやある程度の家具に使用しながらもまだ大幅に残っているお金は少しずつみほとの遊行費にあてた。

休みができたらみほとこのお金で旅行にも行った。

何と無くではあるがこういう使い方を家元が望んでいた気もしたからだ。

折角だからこの家元から貰ったお金を旅費にみほと一緒にみほの実家にも顔を出しに行った。

家元の意外そうな驚いた様な顔は貴重な光景であったが、みほは勿論として家元も素直ではなかったが楽しそうだったので良しとしよう。

ただ問題として、かかった旅費以上の金銭を家元から交通費として押し付けられてしまった事もあるが……。

 

兎も角、そういった経緯で私とみほはこの広いマンションで一緒に暮らしているのだ。

その幾つもある部屋の一室がみほの趣味の部屋となっている。

……そう、みほ曰く「お絵かきの部屋」である。

 

 

 

 

-3-

 

 

私はみほには趣味がないと思っていた。

毎朝にするジョギングはどちらかというと毎日の義務によるトレーニングといった感じであるし、戦車道も趣味というよりは本質である。

ボコの収集癖もこの場合における"趣味"とは少し違う気がする。

そんなみほに絵を描く趣味があるという事を知ったのはごく最近の事である。

マンションに引越し、ある一室を覗くと立派な画材が置かれた部屋があったのだ。

聞くと趣味で絵を描くための部屋だそうだ。

……女子大生が住むマンションに趣味のアトリエがあるというのに中々呆れたものだ。

何時からそんな趣味を持ったのかと聞くと小さな頃から絵を描くのが好きだったとの事。

 

「……でも、あなた黒森峰の頃はそんなそぶり見せなかったわね」

 

そう、黒森峰で一年間だけとは言え一緒にいた頃はそんな兆候は一切なかった。

だからこそ私も大洗に転校してからできた趣味だと思ったのだ。

 

「……あの頃はそんな余裕がなかったからね」

 

そう少し俯きながら答えるみほの姿に私は少しだけ胸が詰まる思いだった。

……もしこれがまだ高校生の時ならば、まだ未練が残っていた時の私ならば言葉に詰まっていただろう。

だが、無限軌道杯と高校三年の最後の大会の決勝を経て、私達の間にそういった蟠りは一切ない。

だから過去の事を引きずって翳る必要は一切はないのだ。

 

「……じゃあこれからは沢山描けるじゃない。

 私もみほの絵を見てみたいわ!」

 

「……うん!そうだね!」

 

元気を取り戻し、笑顔を見せるみほに釣られて私も笑った。

 

……尤もその笑みもみほの絵を見てみるまでの間だったのだが。

 

 

 

 

-4-

 

 

みほの絵はオブラートに包めば独創的な物であった。

……率直に言えば下手であった。

もっと言えば怖かった。

 

「……これ、何なの?」

 

「ボコだよ!」

 

「……じゃあこっちの半粘性生物みたいなのは」

 

「ティーガーさん!」

 

「……こっちの冒涜的生物っぽいのは」

 

「お姉ちゃん!」

 

「……」

 

見ているだけで正気度が減りそうなその絵をみほはまるで自慢するかのように見せ付けてきた。

凄いでしょ!?と言わんばかりのその様子はかなり可愛らしかったが、一度遠まわしに何とかみほが傷つかない様に絵の技量について伝えようとした事がある。

本人が下手の横好きだと自覚して好きにしているのなら良いが、どうも本人は自分が割りと絵が上手いと思っているらしい。

その自覚のままでは将来何処かで恥をかいてしまうのではないかと危惧したからだ。

ところがその意図が全く伝わらなかったのだ。

どうやら本人には強烈な自信の根拠があるらしい。

 

「お姉ちゃんがみほは絵が上手だなって褒めてくれたの!」

 

貴女の姉は貴女の事なら全肯定するに決まっているじゃないの!

と言いたかったが姉に褒められた事を誇らしげに語るみほに私は何も言えなかった。

姉の方は可愛い妹がする事は何でも凄いと褒め、妹は尊敬する大好きな姉が言うのだから間違いないと信じてしまう。

こういう妙な西住スパイラルがこの姉妹間に存在するので度々周囲を巻き込む騒動になったりするのだ。

まほさんはみほに対しては盲目であるから、案外この自分だと描かれた冒涜的生物っぽい絵も本心から喜んで褒めたのかもしれない。

つくづくまほさんはみほに甘いのだと実感させられる。

やはり、せめて私が厳しくしていかなければ。

 

 

 

 

-5-

 

 

『ご飯できたわよー』

 

何時もの様に晩御飯の仕度が出来ると、私は内線を通じて「お絵かきの部屋」にいるみほを呼ぶ。

 

『はーい、今行きまーす』

 

内線を通じてみほの快活な返事が返ってくる。

最初は各部屋に内線が通っている事に驚いたが、これだけ広い物件ならば確かに有用だ。

同じ家に住んでいるのに部屋から部屋に声をかけに行くのにも一苦労なのだから何処からでも連絡ができるのは正直助かる。

 

『早く来ないと先に食べてしまうからね』

 

『わわわ、待って!今行くから!』

 

全く、返事だけは元気がいいんだから。

最近、みほは前にも増して「お絵かきの部屋」に篭っている様だ。

正直、距離の問題よりもあの部屋に呼びに行かなくて済む事のほうが内線の価値が高い。

以前に興味本位であの部屋に入ったところ、周囲を埋め尽くしている大量のみほの絵を一気に見てしまい、その後に動悸、息切れ、嘔気、眩暈、立ちくらみ等を軽く起こしてしまい、その夜はみほの絵の中の世界に入り込んでしまった夢を見てしまったものだ。

 

「お待たせ!エリカさん!」

 

「はいはい、じゃあ食べましょうね」

 

「またハンバーグ?」

 

「そうだけど……嫌なの?」

 

「ううん!エリカさんの作るハンバーグって凄く美味しいから飽きないよ!

 ……あの時に作ってくれたハンバーグも凄く嬉しかったし……私、エリカさんのハンバーグ大好きだよ!」

 

こ、こいつ……世辞でもなんでもなく本心から言っているわね……。

こういう事を臆面も無く言ってのけるから色々勘違いしたりする人が後を立たないのよ。

女子ばかりだった学園艦とは違うのに大学でもそうだし、本当にこの子は危機感が足りないわね!

毎日、私がどれだけハラハラしていると思っているのかしら。

これだから私の講義が入ってない日もみほを一人だけ大学に行かせられないのよ!

……それはそうと"エリカさん""大好き"はずるいわね…。

 

兎も角、そんな事を言っても私は甘やかさないわ。

今日も来るのが遅ければ先に食べるわよと毅然とした態度を取れたし、これからも厳しく行くわよ。

洗濯物も直ぐに出してもらうし、朝も起こしに行ったら絶対に直ぐ起きてもらうわ!

 

「……ところで、最近やけに熱心にあの部屋に篭っているけれど」

 

そう、確かにみほは絵を描くのが好きで度々あの部屋に篭っては絵を描いているが、ここ最近は特にその兆候が強い。

私はそういった創作的な趣味を持たないので詳しくは解らないが、唐突に何か描きたいモチーフでもあって意欲に溢れているとかそういう事なのだろうか?

 

「うん!今度、絵画のコンテストがあって応募するの!」

 

「……は?」

 

 

 

 

 




続きます

https://syosetu.org/novel/133089/
此方の短編集にも投稿しました
よければ評価の程よろしくお願いします

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。